反原発とヒロシマモナムールと静岡県 〜『ヒロシマモナムール』『小谷元彦展/幽体の知覚』
先月、静岡県立劇場の芸術公演で行われた演劇『ヒロシマ・モナムール』を観てきた。静岡県は、「静岡パフォーイングアーツセンター(SPAC)」という劇場とスタッフと俳優養成の仕組みを持っていて、友人の宮城聰さんが芸術監督を務めている。そんな縁もあって、劇場には何度か訪れた事はあるのだけれど、舞台芸術公園は始めて行った。新幹線の静岡駅の隣の東静岡駅から車で5分くらい坂を登ったところにある公園は、茶畑や森があって、素晴らしい景観だった。「楕円堂」というホールはその名の通り、楕円形をしていて、木造の古いお寺のような建物。天井も高くて、中に居るだけで、芸術的な雰囲気がする。
『ヒロシマ・モナムール』は、フランスの女流作家マルグリット・デュラスが、1958年に書いた映画用の戯曲。もちろん、原爆後の広島を舞台にしていて、映画撮影のために広島を訪れたフランス人女優が、日本人の建築家と恋に落ちるという話。官能的な内容だ。フランスで舞台化されたのをSPACが招聘したようだ。
原発事故は想定外だった筈だが、こんな時に公演された事も印象深い。外国人の耳には「ヒロシマ(仏語だとイロシマ)」と「フクシマ」は韻を踏んでいるような、似た響きになる。フランスの主催者は来日を渋ったが、出演者が強く望んでくれて実現したそうだ。ベッドシーンは全裸に近い状態で、照明も暗く、フランス語の台詞を字幕で追いながらの観劇は、集中力が必要だったけど、深みのある戯曲がよく消化されていて、深い感銘を受けた。ものすごく遠回りで、わかりやすい手法ではないけれど、アンチ原発を訴えているんだよね。
映画はDVD化もされている。終演後のアーティストトークで主演女優のヴァレリーが、『二十四時間の情事』という邦題なっているのは残念と、言っていたのが印象的だった。公開当時は日本では、現代のままの公開は難しかったらしい。舞台はなかなか観られないだろうから、興味を持った方はこちらをどうぞ。
せっかくだったので、静岡県立美術館の小谷元彦展にも足を伸ばした。森美術館でやっていたのを見逃していたから。美術館のロケーションも素晴らしかった。常設がロダンの美術館も、館内にも余裕があって、ゆったりと観られる。
展覧会の内容も、すごぶる良かった。彼の作風を「身体感覚を揺さぶる」みたいな説明があったけれど、まさにそんな感じ。水が流れている映像に囲まれた箱みたいななっていて床は鏡。時間の滝を上下するような体験。ほかにも、髪の毛で編まれた衣服とか、僕らの常識を揺り動かしてくるのだけれど、どれも美しさがある。72年生まれだけど、どんな奇才だろう思ったら、作品風景を紹介している映像があって、結構、まともな人な感じだった。もちろん脳みその中の狂気はわからないけどね。
市場原理では成立しないだろう、劇場と美術館。きちんとした企画と運営で続けている静岡県は、本当に偉いな。芸術を自治体が支援するのは欧州型と言えるけど、中途半端に日和見しないで、ポリシーを貫いて欲しい。情報公開と明確な哲学があれば、納税者も支持すると思う。
静岡県のSPACは国際的な視野で、様々な作品を上演しているので、興味のありそうな時は、是非行ってみてください。渋谷から無料バスを出したりもしているらしいよ。
宮城さん(仲の良い人たちは、「みやちゃん」と呼びます)は、クナウカという劇団を始める前に「ミヤギサトシショー」というソロ企画のプロデュースを4年くらいご一緒したけど、誇るべき友人の一人です。
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