2011年7月23日土曜日

「同人音楽」は「Do it yourself」なのか? 〜私論の試論ですが、、、

 『HOMEMADE MUSIC』という本をブルースインターアクションズさんから献本していただいた。素晴らしい本だった。よい書籍をつくるのに、編集者の役割が重要なのは、知ってるつもりだけれど、こんなに編集者の思い入れがストレートに感じられるのは珍しい。江森丈晃さんという方の精魂込めた感じが伝わってきた。

サブタイトルに「宅録~D.I.Y.ミュージック・ディスク・ガイド」とあるように、宅録(=自宅録音)というテーマでまとめられた本だ。山本精一や曽我部恵一という企画にぴったりのアーティストのインタビューも非常に興味深い。彼らの生き方が産み出す音楽と同じくらい魅力がある。そして、たくさんのディスクレビューが、宅録というテーマでまとめられている。改めて「俺の知らないアルバムってたくさんあるんだなぁ」と不勉強を反省したし、同時に嬉しくもなった。まだまだ聴く音楽がたくさんあるんだね、当たり前だけど。

僕自身の宅録初経験は、中学生の頃に友達が持っていたカセットMTRだったと思う。高校時代にバンドやってた頃、先輩が買ったTEACの4チャンネル・オープンリールレコーダーを見て、興奮したのを覚えている。その頃は、まだ「宅録」とは、言わなかったような気がするけれど、録音をするという行為の高揚と緊張は、他では味わえないものだった。親と交渉してリビングに機材を広げ、近所に気をつけながらの、特別な行為だった。この本を読みながら、あの頃の興奮の記憶が蘇ってきた。

実は、この本をいただいたのは、フェイスブックがきっかけだった。経産省の「デジタルコンテンツ白書2011」の音楽部分を書かせていただくことになり、今の日本の音楽事情を語るなら「同人音楽の隆盛」は、外せないと思って、資料を探したのだが、データが無い。数値を載せるのはあきらめて、定性的な情報を中心にまとめることにした。そんなことをつぶやいていたら、参考にと送っていただけたのだ。P-VINは、大好きなレーベルで、他では出さないような本やCDがたくさんあり、若い頃から勉強させてもらっていた会社だったから、すごく嬉しかった。
そして、逆説ではなく、ポジティブな意味で「同人音楽」現象と「宅録〜D.I.Y.」の違いについて考える機会になった。

D.I.Y.(=Do it yourself)という言葉が、広まったのはいつ頃からか、覚えてないが、アメリカ西海岸発だったようなイメージがある(詳しい方がいたら教えてください!)。大量生産の工業製品的な音楽に対するアンチテーゼが、そこには含まれている。
宅録という言葉には、秘められた行為というニュアンスがある。孤独と向き合うことともセットだ。
いずれにしても「わざわざ自覚的に選んで行う」のが、宅録〜D.I.Y.なのだ。社会に対する一定の距離感、自己責任、みたいなことはセットになっている。

 一方、同人音楽に、そういう緊張感は無い。ほとんどは、パソコンで完結するDTM(デスクトップミュージック)として作られる。「ニコニコ動画」という共通のコミュニケーションプラットフォームがあり、リアクションをもらうことができる。バンドを組むのは人間関係が面倒だけど、パソコンで初音ミクを使えば、楽だ。同じ一人での作業でも、その気分は、「宅録」とは、ずいぶん違う気がする。その代わりに、ユーザーと同じ目線を持っているのが彼らの強みだ。時代環境と言ってしまえば、それまでだけれど、様々な意味で僕にとって示唆的だ。

 オタクキングこと岡田斗司夫さんの著作に『オタクはすでに死んでいる』(新潮新書)がある。オタクの元祖ともいえる岡田さんが、若い世代を見て「オタクの矜持が崩壊した」との主旨を書かれていたけれど、似た構図を感じる。以前は、オタクであることはプライドだったし、同時に社会的に迫害されるような、白い目で見られる存在だった。だから、アニメのコレクションをしているオタクも鉄道のこともある程度知っていた。「オタクの一般教養」みたいなものがあったというのだ。
昔の「オタク」はもう死んでしまい、一般化して薄まったオタク的な人たちがたくさんいる現状を、良い悪いではなく、岡田さんは静かに受け止めているようだ。
(自分に刺さった部分を古い記憶で書いているので、書籍の主旨とずれていたらごめんなさい。とても勉強になった本でした。今、本棚で見つからないので近いうちに、読み直しておきます。)

特別な人間(と自分で勝手に思っているだけかもだけれど)の秘められた楽しみであった宅録は、デジタル化で手軽に安価になったことで、たくさんの人に広がった。「同人音楽」として、独自の文化圏をつくりだし、新たな経済圏もつくり始めている。この先はどうなっていくのだろう?

D.I.Y.を標榜する思想性も、宅録好きの暗さも、オタクの矜持も無い「同人音楽」の担い手であるクリエイター達に、注目していきたいし、音楽プロデューサーとして彼らと、しっかり関わっていきたいと思っている。多少の違和感は抱えたままだけれど、それが、僕が「時代と付き合う」ということだ。そんな気がしている。

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