2018年5月31日木曜日

「コライトやろうぜ!」と呼びかける理由〜クリエイターが主役の時代に〜タワークリエイティブアカデミーへの期待

 「音楽業界の感覚を持ち込んだ超実践的なプロ作曲家育成」というテーマで山口ゼミを始めたのは、2013年1月だからもう5年半になる。今は第21期生で受講生はのべで378人だ。女性比率は3割強、年齢も職業も住んでいるところも本当に多種多様な人たちが集まり、それが強いコミュニティになっているのに驚いている。受講生が仲良くなるのは、副塾長伊藤涼の厳しい指導に耐える「仲間意識」とともに、コーライティングを提唱し、上級コース「山口ゼミexntended」でコーライティングで良い作品を創るためのマインドセットと方法を伝えているのも理由なのだろう。

 山口ゼミを始めて僕が一番感じだのは、「音楽を作ることが孤独な作業になってしまっ
ている」ことだ。デジタル化が進んで、機材が安く小さくなり、パーソナルな表現ができるようになったのは、基本的には良いことだけれど、弊害もあるのだと知った。
 コーライティングの大きなメリットの一つが、創作現場でコミュニケーションが復活することだ。創作は孤独に耐えて行うという考え方もあるけれど、同時に「楽しくつくる」というのも音楽の基本だ。複数の人が集まって、そのチームならではの「化学反応」を期待しながら創作していくというのは、とても本質的な音楽の創り方だと思う。

 コーライティングのスキルを武器とする山口ゼミ卒業生によるクリエイター集団CoWritingFarmは110人を超え、作品力も非常に向上している。ノウハウが集合知的に高まっていくのがコミュニティパワーなのだろう。コミュニティが自走し始めている実感がある。2年位前から、コンペを待つだけではなく、自分たちからアーティストに作品を持ち込む「提案型」の制作活動を始めている。安室奈美恵✕ワンピースOp曲「Hope」は、その提案型による成果だ。

 様々な分野のクリエイターが良い環境で創造するというテーマで4年目となった「クリエイターズキャンプ真鶴2018では、ソニーミュージックが行っているSonic Academy Salonと全面的に連携して、コーライティングのワークショップと、アーティストと作家によるコーライティングキャンプを行った。新人ないしデビュー準備中の新人アーティストとプロ作曲家2名が組んで3人1組で約28時間で1曲を0からつくる。アーティストにはライブ形式での披露を依頼したので、プレッシャーは大きかったと思う。結果は素晴らしかった。8人のアーティストの新曲は、明確な個性と高いクオリティがあった。これから世の中に出ていくことだろう。
 アメリカではアーティストが参加するコーライティングが音楽制作の主流になっているというけれど、日本にも「アーティストインコーライト」の波は確実に来るなと確信した。

 一般的な視点で見ると、山口ゼミとソニアカはコンペティターに見えるかもしれないけれど、僕はそんな風に捉えたことはない。日本の音楽シーンを活性化して、クオリティを上げていくという目的は同じだと思うので、お互いの良さを生かして連携していきたい。ソニアカの言い出しっぺの灰野(一平)君とは、一緒にバンドもやったことがあるwww、古い知己で、音楽に真摯に向き合う素晴らしいミュージックマンだ。相互の会員の
CC真鶴2018の参加音楽家の記念撮影
割引などもやっている。今回のCC真鶴は初の共同企画だったけれど、成功だったと思う。

 日本の音楽業界は、洗練された仕組みや美風と言える慣習など素晴らしいところもたくさんあるのだけれど、デジタル化による時代の変化に遅れているという致命的な弱点がある。
 パッケージ(CD)とマスメディア(テレビ・ラジオ)での時代から、スマホでストリーミングで音楽を聴く時代に、そしてスマートスピーカーの普及と急速に変わっていることに既存の音楽業界は対応できていない。ユーザー体験としてのIT活用が、アジアの中でも際立って遅れた国になってしまっていることに強い危機感がある。ただ、本稿で語りたいのは、クリエイションにおけるデジタル化の話だ。

 テクノロジーの変化は表現にも大きな影響を与えるはず。PCとDAWで手軽にパーソナルに音楽をつくれる時代だからこそ、音楽家同士がコミュニケーションをとって共作することの重要性は増している。音楽家と映像制作会社のマッチングコマースAudioStockの売上急増で注目されているクレオフーガとは、オンラインでのコーライティングが円滑にいくツールとしてCoWritingStudioを共同開発している。今年中には、グローバルな作曲家SNSとしてバージョンアップする予定なので、期待してほしい。CWSで音楽家同士が出逢っていく場をつくれると思う。

 さて、前置きがめちゃめちゃ長くなったけれど、そんな問題意識と僕らがやってきたことの延長線上で、タワークリエイティブアカデミーへの期待がある。「未来型クリエイター育成」をテーマにタワーレコードが始めた新規事業だ。アドバイザーとして新規事業全体にも関わったけれど、「タワアカ」では講座のオーガナイザーをやらせてもらっている。
 タワーレコードは、CD店として日本で一番のブランドだ。元々はアメリカの会社で、会社が倒れてニューヨークの二店が無くなったときにはショックだったけれど、日本ではNTTドコモの子会社となって、音楽ファンのリアルな接点になっている。

 これまでのコーライティングは、プロの作曲家という目線でやってきたけれど、今回は、タワレコらしく、インディーズを中心としたアーティスト、シンガーソングライター、DJトラックメイカー、バンドマン、DTMerといった人たちを対象に、自分たちの表現の幅を広げ、作品力を高めるために、コーライティングの手法を活用するというテーマにしたいと思っている。同時に、定期的に継続していきながら音楽家同士が出逢っていく場としても育てていきたい。
 タワーレコードは、自社のインディーズレーベルや発信力のあるショップバイヤーのチカラで数多くのアーティストを世に送り出してきた。参加者にとってもコーライティングの優秀作を世に広める時に、タワレコがいることは心強いだろう。同時に始めるTouchDesingerの講座では映像やビジュアルの若いクリエイターが集まるだろうから、ジャンルを超えたクリエイターコラボもやっていきたいとタワレコの人たちと相談している。

 日本のNO.1レーベルであるソニーミュージック。NO,1リテールであるタワーレコード。トップ企業が変わるインパクトは大きい。日本の音楽家のクリエイティブがもっともっと活かされ、チャンスの場が増えていくように活動していきたいと思う。
 コーライティングが初めての人は、『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』(リットーミュージック刊)が参考になるだろう。


 今回のアーティストを対象にしたタワアカのコーライティングワークショップに向けて伊藤涼が寄せてくれたコメントが素晴らしいので、ちょっと長いけれど、最後に引用する。コーライティングがだいぶ広まって、テレビなどでも紹介されることがでてきたけれど、何故、そういう時に伊藤涼を呼ばないのか不思議だ。日本のコーライティグブームのきっかけを作った男だし、実績も経験も図抜けている。コーライトしかしないソングライターであり、ディレクターでもある。このまま日本の「マックス・マーティン」になってほしいなと個人的には思っている。

 今の日本の音楽シーンにおけるコーライティングの意義は強調してもしすぎることは無い。立場、テーマ、目指すことは、それぞれ違うと思うけれど、自分の音楽活動を充実させるために、このムーブメントを活用して欲しい。もちろんプロのソングライター、編曲家を目指す人は「山口ゼミ」で待ってます。


<伊藤涼からのメッセージ>
 作曲家たちが共作するコーライティングはすでに日本でもブームとなっていますが、アメリカのビルボードのトップチャートを賑わすポップミュージックも当然のようにコーライティングによるものが多いです。皆さんもご存じのジャスティン・ビーバー、ケイティ・ペリー、アリアナ・グランデなどの楽曲のほとんどがコーライティングによるものです。そして、そのコーライティングの流れから生まれてきたスターが、ブルーノ・マーズ、メーガン・トレイラーのようにソングライターとして楽曲を提供しながら、自らもアーティストとして大成功を収めた人たち。彼らはコーライティングという環境を上手く使って、自分の作品をアーティストに提供しながら、自身のアーティスト・シンガーソングライターとしてのプロモーションにも成功したと言えます。そして、いまL.Aに行くと世界中からそのチャンスを掴もうとソングライター・トラックメイカー・DJ・プロデューサーが集まってきています。その中でも特に目立つがシンガーソングライターです。彼らはトップライナー、作詞家、デモシンガーとして、その才能をコーライティングに生かし、虎視眈々とアーティストとしての成功を狙っています。もちろん、そこで培った人脈を生かして、フーチャリングシンガーなどで大成功したシンガーたちも多い。もちろんDJやプロデューサーにとっても、才能あるシンガーと出会うことが成功の鍵なのです。今や、音楽は人とのつながりで生まれ、そして広がっていっています。
 では日本のシンガーたちはどうでしょうか?見渡してみても、まだまだ世界の波になっているとは言えません。なぜなら、どうにかひとりで成し遂げようとしているからではないでしょうか?自分で作って、自分でパフォーマンスして、レコード会社が見つけてくれるのを待っている。自分ですべての作業をすること、レコード会社からのデビューがきっかけになること、もちろん悪いことではありません。ただ、今求められるものは2年も3年も育成期間の要するアーティストではありません。既にクオリティが高い楽曲とそのデモ音源をもち、完成されたアーティスト像をもってライブをできていることです。アメリカのクリエイターたちが実践していることからわかるように、それらを作るために必要なのがコーライティングなのです。制作環境、ハイクオリティな音源、ケミストリー、出逢い、客観的な視点、コネクション。そしてコーライティングこそ、それぞれのクリエイティビティを成長させる最高の方法だと、今までの経験から言えます。

 自分の夢のために、ぜひコーライティングを活用する。その一歩を踏み出してください。お待ちしています!

タワークリエイティブアカデミー公式サイト

◆タワアカ・コーライティングワークショップ申込みページ 

◆プロ作曲家育成「山口ゼミ」

<関連記事>
クリエイターズキャンプ真鶴2018開催記念座談会「作曲家の今とこれから
◆クリエイターズキャプ真鶴公式サイト
◆作曲家育成セミナー「山口ゼミ」を続けている理由

2018年2月7日水曜日

そろそろ2020年代の音楽の姿をCarve outしなくちゃね〜MUSIC HACK DAY TOKYO2018で感じたこと

 日本では3年ぶりとなったMUSIC HACK DAY TOKYO2018をオーガナイズした。音楽好きのエンジニア、デザイナー、そしてテクノロジーに敏感な音楽家などから定員を大きく超える応募があって、申し訳なかったけれど、抽選で絞らざるを得なかった。
MHDTokyo2018発表会の様子
 2月2日金曜日の前夜祭は、海外事情に精通した鈴木貴歩さんにエンターテックの最新状況をセミナーしてもらった後、DJ付きでの懇親会。
 3日朝からはレコチョクと朝日新聞メディアラボの2会場を使って、音楽のリデザインをテーマにして20組の作品がつくられた。4日の16時からの発表会は3時間を超えるものになった、その後はみんなで懇親会。
 今回のMHDTのテーマは「音楽・エンタメのリデザイン」。熱量が高い場で、僕自身が大きな刺激となった。

 メインパートナーのレコチョクは、レコチョクラボを作って、新規サービスのトライアルをされている。VRやクラウドファンディングなど信金サービスに意欲的な取り組み。僕は不勉強で知らなかったけれど50人ほどの社員プログラマーがいるそうだ。ハッカソンにも参加してくれていて面白いプロダクトを作っていた。
 レコチョクは、元はガラケー向けサービス「着うた」のために大手レコード会社が共同で作った会社で、現在の筆頭株主はNTTドコモ。日本の音楽業界デジタル分野の正統派本流だ。 
 着うた全盛の頃は日本の市場シェアの約
15%をレコチョクが持っていた。今はdヒッツの売上がメインになってしまっているようだけれど、今回MHDのメインパートナーになっていただいて、若いやる気にあるエンジニア社員がたくさんいることを肌で感じて、心強く思った。音楽業界にとって大きな財産だと思う。今度も連携していきたい。

チームビルドのためのアイデア出し風景
 テクニカルパートナーの各社も意欲的で嬉しかった。富士通はMuFoというサービスのソースコードを期間限定で公開してくれた。音楽分析系の面白い技術をたくさん持っている産総研(産業技術総合研究所)は、スタッフがハッキングタイムにしっかり張り付いてフォローしてくれた。NTTドコモAPIも魅力的だった。音楽系だとSpotifyGoogleなどのAPIがITの人には一般的だけれど、国産で協業の可能性があるドコモのAPI活用はとても有益だと思う。今後も使っていきたい。他にも協力してくださったパートナーの皆さんには深く感謝したい。

 SNSのインフラ化&影響力増、センサー開発技術の低廉化、人工知能のディープラーニングの進展など、テクノロジーが加速度的に進化していく時代の中で、エンターテインメントが目指すべき方向は明確だ。海外に対して周回遅れ、それも2周位遅れて、最近は中国IT企業にも送れを取っている日本の音楽業界は本格的な再構築が死活的に必要だ。
 再編が起きるX年は2021年と判断しているけれど、そろそろ具体的な像を造形しようと思う。エンターテック・エベンジェリストと名乗る僕としては、クエリエーション(創造)、マネタイズ(ビジネス)、コミュニケーション(プロモーション)の3つの面で、新たなあり方、仕組みをCarve Outする使命感を持って取り組んでいきたい。0から創ると言うよりは、彫刻家が石や材木の中に潜んでいる形を掘り起こす作業に近いような気がしていて、Carve outって言葉がしっくりくる。

参加者全員で記念撮影。笑顔が印象的だ
 今回、MHD Tokyo 2018をオーガナイズしたのは、できたてホヤホヤの会社EnterTech Lab Inc.だ。僕が言い出しっぺで、Co-Founderとして関わっている。残りの2人の創業メンバーの本業はプログラマー。僕が2014年に始めたミュージシャンズハッカソンに当時、福井在住なのに、参加してくれて以来の付き合いだ。  Mashup Awardsを率いてきた伴野智樹さんや、TECHS、ミュージシャンズハッカソンを一緒にやってきた浅田祐介さんと一緒に、今回セミナーで登壇した鈴木貴歩さん、審査員をお願いしたクリプトン伊藤さん、斉藤迅さん、ジェイコウガミさん、アソビシステム中川さんといった面々とも連携していきたい。
 EnterTech Labは、音楽に限らず、日本のエンターテインメントの未来を切り開く、クリエイターやプロデューサーや起業家のレバレッジをする役割を果たしていきたい。初仕事だったMHDTは素晴らしいネットワークとプロトタイプができて、上々のスタートだったと思う。

 人材育成という意味では、未来のエンタメに携わる「ニューミドルマン」を生み出すことにも注力したい。
 ニューミドルマンラボはオンライン+MeetUpのコミュニティーをベースによりネットワーク力を強めたいと思っている。 2014年10月のプレ講座から受講経験者は100人を超えている。時代の音楽ビジネスを志向するという共通認識は持てているはずだから、それぞれのフィールドで蓄えているであろう力を結集することができれば、日本の音楽ビジネスを良い方向に持っていけるかもしれない。
 1月からオンラコインコミュニティを始めている。3月まで無料でテスト運用しているので、是非、参加してみてください。外には出せない情報の共有や、メルマガでPick Upしたニュースを踏み込んだ解説や議論も展開していくつもりだ。



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2018年1月3日水曜日

Z世代に捧げる!2021年以降の日本人サバイバル術〜デジタル音痴なオトナに騙されないで!

 作秋は自分が主宰するセミナー以外に依頼された講座が7つあった。テーマは音楽ビジネスに関するものだったので、自分の中の引き出し、これまで用意した資料のアレンジで対応するつもりだった。著書の出版以来、「講演の依頼は原則的に全部引き受ける」と決めている今の僕は、スケジュールが大丈夫なら、詳細は考えずにお受けしている。2週間位前から、資料作りをはじめるのだけれど、一つだけ困った講座があった。順天高校のGlobal Weekだ。 
これまでの僕は、既存の音楽ビジネスで頭が固くなった人をほぐすような話をする場面が多かった。大学生に対しても音楽業界の現状から話を始める。

 ところが、高校生となると2000年代生まれ、アメリカ社会学者的に言うとGeneration Zだ。2013年に『世界を変える80年代生まれの起業家』というインタビュー集を刊行している僕は80年代、90年代生まれののY世代とは起業家、音楽家を中心に、日常的にコミュニケーションがあるけれど、Z世代は未体験ゾーンだ。一般的な高校生に今の日本音楽ビジネスについて語って何か意味があるのだろうか?
 クラウド化してパッケージではなく、スマホでストリーミングで聴くって話をしても「はい。知ってます」で、何の驚きも発見も無いだろう。
 デジタル環境の変化とコンテンツ消費の方法については、ジェネレーションギャップが大きい。60代と10代では常識が全く違うのが今の時代だ。
 2000年代生まれの高校生に対して僕が語るべきことってあるのだろうか?真剣に考えたら見つかった。「オトナに騙されるな。奴らはデジタルがわかってないから、たいていの場合、判断を間違っている」ということを伝えようと思った。大きなテーマで、消化不良だったかもしれない。改めて年始にこのテーマをブログにまとめておきたい。
 題して、「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル術」 だ

 その前に、今日のテーマとも関連がある、前回の「独断的音楽ビジネス予測2018」に書き落とした中国、アジア市場の話をしたい。2015年12月中国政府の国家計画の発表以来、それまで違法サイト天国だった中国に音楽市場が「出現」したことは前回書いた。中国の「IT財閥」テンセントが運営するQQmusicはSpotifyと同種のフリーミアムモデル、オンデマンド型のストリーミングサービスだが、月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人超したと言われている。寸年で日本市場を規模で凌ぐだろう。

さて、有料音楽ストリーミングサービスが中国で広まっていることで、起きていることがもう一つある。御存知の通り、中国はスマートフォンの普及率が高く、決済などもすべてスマホで完結する仕組みができあがっている。中国の音楽ファンは、QQmusicで聴いた楽曲がきっかけでアーティストが好きになると、そのアーティストの詳細を知り、コンサートに行きたいと思えば、電子チケットを買い、コンサート会場に行き、SNSで感想を述べつつ、感動した勢いでアーティストグッズを買う。これが全部、自分のスマホ内で完結する。おそらく多くの中国人にとっては、自然な行動だろう。

 でも、もし日本人のアーティストが好きになったらどうだろうか?コンサート情報が日本語以外で得られることはめったにない。スマホ決済もできないので、コンサートチケットが買えない。コンビニ受け取りって言われても。それでも数々の障壁を超えて、コンサートを観た後に思うだろう「日本ってなんてITの遅れた国なんだろう」。音楽を聴いたり、アーティストの情報を得るのに障害が多過ぎる。正月に、ウエブ上にジャニーズ事務所のタレントの写真がアップされたことを驚きとともに伝えるニュースがあったけれど、いくらなんでも時代にズレすぎだ。

 一方で、日本人の普通の感覚として、ITサービスで、中国やASEAN諸国に大きく遅れを取っているという認識はないのではないか?少なくとも音楽ビジネスにおいては、日本はアジアで最も遅れた国になってしまっているかもしれない。僕は音楽業界人の端くれとして、そのことが心の底から恥ずかしいし、悔しい。これは、「このままだとそうなってしまうから警笛を鳴らす!」という近未来の話ではない。まだ顕在化されてないだけで、2018年1月現在「既にそうなってしまっている」事態だ。
 僕が主張しているように、インバウンドの分野でコンサートが貢献できるとしたら、この問題をクリアにしなければならない。ユーザー向けのITサービスの後進国日本、そんな時代に僕らは生きている。
そして、ついでにいうと、日本は中国市場を無視してビジネスすることがあり得ない時代だというのも常識と言ってよいだろう。
 ネット言論に多い、無知と偏見に満ちた「嫌韓論」は、反吐が出るほど大嫌いだけれど、クールに考えれば、韓国とは付きあわないという選択肢はあり得ると思う。市場も小さいし、経済的な補完関係もあまり大きくない。文化的、政治的に摩擦があるなら、避けて通ってもそれほど大きな損失があるとは思わない。でも、中国は違う。
 世界最大の消費市場が、すぐ近くに存在していて、その国とは文化的な共通項も多く、日本のポップカルチャーに魅力を感じる若い世代もたくさんいる。日本が培ってきた、西洋型のルールやカルチャーを東洋流に昇華している、いわゆる「和魂洋才」なやり方は、アジア各国に参考になるはずだ。著作権ルールや新しいポップスの創り方など、日本流がリファレンスとしてアジアで貢献できることは多い。中国と連携できたらメリットは計り知れない。
 
 さて、今日のテーマはZ世代の日本人サバイバル術だ。 僕が2000年代生まれの彼らと向き合って伝えたかったことは、以下の通りだ。当日の投影資料を並べてみよう。

 テーマ1「オトナ達はわかってないことを知る」

 ・情報のデジタル化、インターネットの発展、IoT、人工知能(AI)など、近年に起きている社会、産業の変化は、本質的かつ不可逆的な人類史上でも稀にみる大きなものである。
 ・ところが、(特に日本の)大人達は、気づいてなかったり、認めたくなかったりする。
 ・企業もメディアも(学校も)そんな大人達が制御しているので(特に年功序列型の日本においては)これまで起きてきた過去が未来も続くという前提の言説が広まっている


自分達の当たり前が、大人には驚異的変化だと知っておこう。


 彼らの親や教師や働き始めた時の上司で、デジタル化に対して適切な言説を持っている人は日本では少数派だろう。素直な子だと、オトナの多数派の意見を正しいと思ってしまうかもしれないと心配になった。


テーマ2:未来は予測できないが、予見はできる

・半導体やコンピューター、センサリング、人工知能などの発展は、20年位先までは、どんな方向に世の中が進むことは予見できる時代になっている
・世界各国の人口構成や産業規模も20年位先までは、予見可能だ。自分の頭で考えて、きちんと未来を見通そう


未来を予見して、行動を決めることが重要な時代になっている


 これは僕の持論で、今は未来予見が可能な時代だ。20年はちょっと言いすぎかもしれない。10年位の世の中の流れは自明なことが多い。


実例:エンタメ産業視点で今起きている3つの変化

 •クラウド化 ⇒「所有」から「利用」にユーザー行動が変化
 モノのオンライン化(IoT)⇒ リアルとネットが繋がり、一体化
 ソーシャルメディアの発展 ⇒ すべてのユーザー行動が可視化

 この3つの変化によって、
あらゆるエンタメ・コンテンツ産業が、自らの役割や社会における意義を「再定義」し、ビジネススキームやノウハウを「再構築」する必要に迫られている。

これはいつも言っていることだ。Z世代向けに付け加えたのは以下だ。


今日のテーマ3:旧世代の価値観を理解し、受け入れる

 •クラウド化 ⇒ エンタメコンテンツはパッケージメディアで楽しみたい。そこに思い入れ、深み、記憶、愛情を感じる
 •モノのオンライン化(IoT)⇒ なんでもネットでやることに抵抗感がある。物をネットで動かすことがピンとこない 
 •ソーシャルメディアの発展 ⇒ オンラインだけの人間関係は偽物だ

できれば変化を忌避したい、一時の流行だと思いたい。少なくとも自分は関係なく生きていたい

 こういう価値観、行動原理になっている日本人ビジネスパーソンをたくさん見る。日本の病巣と言ってもよい。僕らは必要に応じて、説明したり、説得したり、無視して進めたりできるけれど、若者たちはどうだろう?理解不能で、すごいストレスを感じるのではないだろうか?
 パッケージを愛好することは嗜好だから良い。(音楽プロデューサー的に言うなら、とてもありがたいことだ。)でも、そこに過剰な意味を求めて、音楽を愛好することを宗教の宗派のようにすることは間違っている。多様なエンタメの楽しみ方を許容するべきだし、そこに新たな可能性を感じるべきだ。

 ちなみにプロジェクター資料には書かなかったけれど、口頭では、「君らの年齢なら、日本を離れて仕事するという選択肢はあるよ。サンフランシスコでもニューヨークでも、シンガポールでも、ベルリンでも、その選択肢も持って良いと思う。でも日本に生まれた日本人なら、今日の話は意味がある。そして日本社会で仕事をするなら、知っていた方が良いと思う、と。

 その後に、自動車がエンジンにハンドルとシートが付いた乗り物から、OSでコントロールされる乗り物に変わるという話や、ブロックチェーンの可能性などを実例として挙げた。

 その上で、

今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜国際的に見た日本社会の特徴は?

 •コンセンサス積み上げ型の社会⇒「みんなで話し合って、良き落とし所を見つけましょう」な仕組み
 •性善説の考え方、仕組みが好き
 •年功序列で、目上の人を敬うという東洋的文化がある
 •同質性が高く、島国であることと、言語の壁があることで国際競争から守られている(ように見える)
 •社会的インフラが整備され、勤勉でマナーがよく清潔で安全な国。

 必ずしも悪いことばかりとは思わないけれど、過剰に同質性を求める日本社会の功罪は客観的視点で理解しておいた方がよいだろうと思う。例えば、学校での「いじめ問題」には個人的にはあまり興味無いけれど、根っこには同じものを感じる。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜確実に訪れる日本の危機は?チャンスは?

 •少子高齢化社社会で、人口が減る、消費市場と労働人口は下落していく
 •なのに、制度的にもマインド的にも、移民受入れの準備ができていない
 •日本の強みだった、従来型の製造業では勝ち目がない
 イノベーションのジレンマを知る(Apple 対 Spotify、中国のスマホ向けサービスの方が日本より便利)
 •1500年以上の歴史と伝統が世界中(のインテリ層)から尊敬されている

 観光立国を意識して、食やファッションも含めた文化を売り物にする〜消費者(ユーザー)の質が高いことを如何に活用するか(UGM、二次創作等)が重要だ。


 人口が減り、従来型の産業構造のままでは国際競争に敗れて、プレゼンスが下がっていくこと。カルチャーとインバウンドが日本の武器になっていくことは理解して欲しい。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜Z世代に必要なマインドセットは?

 •組織依存しない、インディペンデントに自分の価値を磨く
 •就職と起業を同列で検討する。スタートアップ生態系が日本でも経済構造の(重要な)一部を占めるようになってきている
 •海外市場の視点と、そこにおける日本人としての優位性を意識する

 •英語はマストスキル。必ずしも英語ネイティブスピーカーになる必要はない。翻訳技術は臆さずに活用する
 インターネットとデジタル技術による「民主化」という概念を知る

 おそらく彼らの親世代は、今でも大企業への就職が安全という固定概念から抜けられない人が多いだろう。人生観は自由だし、公務員になれば、安全かもしれない。(彼らの世代だとそれすら怪しいとも思う。)でも、30年前とは様々な前提が変わっていること、親世代はその変化に自分の価値観をアップデイトできてない場合が多い。きちんと自分の頭で判断して欲しい。
 英語はできるにこしたことないけれど、Google翻訳もどんどん便利になっているので、技術も活用してコミュニケーションすることが大事だ。

 推薦図書として、池上彰、佐藤優、野口悠紀雄の3人の名前を上げた。気になるテーマについて書かれている入門書的な本の時に、きちんと本質を書く信頼できる書き手だからだ。
 40人くらいの高校生が僕のメッセージをどんな風に受け止めたかはわからない。でも話していて手応えはあった。5年後くらいに、何人かの役に少しでも立てたら嬉しい。

 そして、僕が最終的に語りたいのは世代論ではない。70代でもデジタルの変化をわかっている方はいるし、20代でも鈍感な人もいる。日本のピンチとチャンスを共有して、グローバル化したコンテンツ市場で、サバイブしていく仲間を増やしていきたい。
 実はZ世代だけの課題ではない。人生100年のライフシフト時代と言われている中、すべての日本人がグローバル化した世界でどのようにサバイブしていくのか?切実な問題として、引き続き考えていきたい。

 2月から始まるニューミドルマン養成講座のテーマは「超実践アーティストマネージメント篇」だけれど、基本姿勢としての中国市場への向き合い、日本のデジタル化の遅れによる課題はしっかり話し合いたいと思っている。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

2018年1月1日月曜日

独断的音楽ビジネス予測2018:犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

 全然勤勉ではないこのブログだけれど、2012年から毎年元旦に、音楽ビジネスの予測を書いてきた。毎年PVも高く、ご意見なども伺うので、励みになって続けている。
 昨年は、1年間の予測は意味が無いと書いた。世界的に音楽、エンタメビジネスのトレンドは7年くらい先までは明確で、周回遅れで走っている感じの日本は、五輪景気に甘えて、構造的な変化が遅れるけれど、方向は同じ。世界のトレンドの後を、ゆっくり追いかけていくことになると思ったからだ。この予測については1年経って、確信を深めるばかりだ。
 昨年の元旦のブログではこんなこと書いている。

 2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、
1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。
2)   パッケージは微減しながらも健在
3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく
といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 上記の1と2はまったくそうなっている。3については補足説明が必要だ。2016年のコンサート入場料売上は10年ぶりに微減した。「2016年問題」の影響でコンサート入場料収入が微減したことだ。「2016年問題」とは2020年の東京五輪の余波でコンサートに使える大型スタジアムやホールが同時期に改修に入ってしまい、コンサート会場が不足するという問題だ。音楽業界団体は問題提起をしたものの、その声は届かなかったようだ。

 正直を言うと僕は、各社の創意工夫でなんとかやりくりし、コンサート売上が減りはしないのではないと思っていたが、甘かったようだ。スタジアム運営側は、スポーツ最優先で、「空いている時にコンサートも使っていいよ」くらいの認識なのだろう。コンサートが日本の産業文化にとって大きな価値があるということを日本社会全体に認識してもらう必要がある。音楽業界側もその努力が足らなかったように思う。2017年の国内重大ニュースの1位に上げた「チケット二次流通問題」で、業界が一団結して、ユーザー、行政、警察、司法をきちんと動かすことができた。風営法改正からナイトエンターテイメントへの関心を高める運動も進展している。大規模コンサート会場の運営者の意識変革を図ることもできるのではないか?

 さて、1年前に僕が本コラムで問題提起した2021年までやっておくべきこと3つについては、残念ながらほとんど進展はない。暗澹たる気持だけれど、確認しよう。

●データベース構築
 音楽に関するあらゆるデータ、楽曲、原盤、アーティスト、コンサートなどを一元管理および多言語化して、事業者に従量課金で使用を自由に認めれば、素晴らしい音楽関連情報サービスはたくさん競い合ってくれるだろう。音楽事情の活性化に必ずつながる。僕は10年位前から叫んでいるのだけれど進んでいない。音制連、音事協、MPAで始めた海外向けのアーティスト情報プラットフォームSync Music JapanがCiP協議会に移管されて、Artist Commonsという動きにまとめられているけれど、too much slowだ。まだ実業レベルで稼働していない。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

●中国市場への本格的な取り組み
 については、まだ手付かずの状態だ。ビジネスの主戦場を海外に向けるという意識改革ができてない。

 残念ながらという前置きをつけたいけれど、僕が2015年9月に出版した新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』は、2018年になった今読み直しても、全く古びてない。それは僕が著者として素晴らしかったのではなく、日本の変化が遅すぎるからだ。音楽ビジネスの現状と未来に興味のある人で未読の方は、是非、読んでみてください。「残念ながら」まだ有益な本です(笑)。
 一番の問題は2021年に先送りしたツケが全部噴出だろうことで、そろそろ底に向かって準備をしておかないと、本当に日本の音楽業界が壊滅的なことになるなと危機感を持っている。そんな愚痴ばかり言っても仕方ないので、少しは読者に有益と思える未来予測を書こうと思う。

 作秋は様々なところからセミナーのお声がけを頂いて、7つほど講演を行った。

韓国のBupyeong Music Conference
大阪電気通信大学 総合情報学部
大阪工業大学 知的財産学部
順天高校 Global Week
電機連合組合
コンテンツビジネスラボ
知的財産技能士会

 新しい出逢いがあり、刺激をいただく場で感謝している。2011年に初めて著書を刊行して以来、講演などの依頼は原則断らないという方針を続けているけれど、書籍やウエブで僕の存在を知って、呼んでくださるのはありがたい。自分が主宰するセミナーもあって、本業もある中でお受けしているので、正直時間的には厳しいこともあるけれど、エネルギーをいただいて、疲れが吹っ飛ぶ。
 その経験も踏まえて、今後の音楽ビジネスについて、年頭にポイントをまとめておきたい。キーワードはX-techだ。
 X-techとは、IT技術の活用で産業が再定義、再構築されていくことだ。背景にあるのは、以下のような時代の変化だ。

・コンピューターの処理能力の飛躍的な進化
・センサー技術進化による、軽量化、コモデティ化
・AI(人工知能)、機械学習の飛躍的向上
・SNS普及によるユーザー行動の可視化(いわゆるビッグデータ分析)

 ポイントは、本質的で不可逆的な変化であることだ。人間は、昨日まで自分がやってきたことが明日以降も続くと思いたい。それが10年、20年とやってきた仕事であれば尚更だ。「一時的な流行にすぎない」「自分には直接関係ない」ということにしたくてたまらない。日本の音楽業界、メディア業界はまさにその典型で、レコード会社の経営者は、自分の定年まで大枠を維持する「逃げ切り」作戦に終止している。これが結果として業界全体、ひいては日本の国力を下げているのだ。
 僕がエンターテック・エバンジェリストと名乗り始めたのも、社会が変わる一番重要ポイントで、そこを自分のアイデンティティにすべきと思ったからだ。
 ちょっとシニカルな言い方をさせてもらえば、日本の業界の多数派が、「見ないふり」をしているので、「きちんと未来を見据えて予見」すれば優位性を持って、先回りできるとも言える。 
 本ブログの読者には、そんな発想で、先回りできる5つの視点を共有したい


●ストリーミングサービスが音楽消費の中心になると起きる変化は?


 ビジネスとして一番大きいのは、新譜旧譜の比率の変化だろう。従来の原盤ビジネスは売上の9割が1年以内に発売された新譜だった。だから小プレーションアルバムとかベスト
盤とか、過去作を「新譜」扱いにする必要があったのだけれど、これが大きく変わるおそらく新譜は5割以下の比率に鳴るだろう。これは良い作品をつくれば長期間収益があるということであると同時に初期投資の回収に時間がかかるということでも。功罪はあるだろうけれど、対応スべき変化だ。
 併せて、ユーザー行動が可視化されて、蓄積されることに寄って、レコメンデーションの精度が上がっていく。5年くらい前から海外のサービスのテーマは「ディスカバリー」だ。ユーザーと新しいアーティスト、楽曲の幸せな出逢いを作ることに注力している。これは主にアルゴリズムだけれど、属人的なリコメンデーションがプレイリストだ。人気ラジオ番組でパーソナリティが思い入れを持って薦めることヒットしたみたいなことがストリーミングサービス内でどんどん起きている。従来に比べれば、政治力、宣伝資金力などの入る余地が少なくなり、楽曲の力が求められるようになるので、アーティストにとっては大まかには良い変化と思うべきだろう。
 そして、パッケージは音楽聴取の主力ではなくなるけれど、アーティストの証を示す「記念品」、コレクションの喜びを満たす役割を果たすようになっていく。現にアメリカでは、CDは落ち続ける中、アナログレコードの売上が伸び続け、パッケージ市場の3割を占めるようになっている。日本は今のところCDがまだまだ元気だけれど、似たような傾向に向かうことになるだろう。

●VR/AR/MRと音楽ビジネス


 エンタメ全体で言えば、VR/AR/MRの存在感は傑出している。軍事技術との関連もあって、多額の資金がつぎ込まれて開発されてきた分野だ。現状はビジネス的にはゲームとエ
ロの分野が牽引しているけれど、音楽ビジネスでの存在感は大きくなっていく。
 みんな忘れがちだけれど、Music Videoというのは80年代のMTVの隆盛とともに広がったフォーマットだ。表現はメディア環境で変化していく。ハードの進化や普及、プラットフォームが整備されていく中で、MVの進化系、インタラクティブ性のある作品を楽曲に合わせて制作する流れは増えてくるだろう。
 Bjorkが2016年にVR型のMVをつくって日本科学未来館で展示した時の名言が忘れられない。「テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているの。」VR演出自体は、彼女の楽曲力を大きく拡張するところまではできてなかったと思うけれど、パイオニアが切り拓いた道があることで、表現は進化していく。
 ライブビューイング的な活用もどんどん増えるだろう。東京五輪に向けでスポーツのリアルな中継に皆さんご執心だけれど、コンサートへの応用も間違いなく広がっていく。収益性がポイントになるけれど、通信規格が5Gになり、通信会社がこの企画を活かしたコンテンツを積極的に求めるという追い風もある。
 既にリアルとバーチャルは対立概念ではない。東京ドームの2階席でプロジェクターに映し出されたパフォーマンスを観るのがリアルで、目の前に立体的に再現されているアーティストを他の観客と一緒に見て盛り上がる体験がバーチャルだという区別は、おそらく意味がなくなっていく。ユーザー体験としてどちらが楽しいかがポイントになる。
 いずれにしても、音楽家や音楽プロデューサーにとって、VR/AR/MRは必修科目と捉えるべきだ。


●アジア市場とインバウンド


 違法ダウンロードサイト天国で海賊版も作られなくなったと言われていた中国に音楽市場が「出現」したのは驚異だ。正直言って、僕が現役の音楽プロデューサーの間にあるのかどうかと思っていた。2015年12月の国家計画の発表から2年でQQ Musicの月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人などという数字が聞こえてくる。信頼できる知人たちの意見を総合して考えると、控えめに言っても3年以内に日本の3000億円を中国は抜くだろう。僕のイメージでは、5年後位に、朝鮮半島からミャンマーまでの東アジアの音楽市場は日本の5倍位になっていると思う。そして成長余地はまだある。この場合のポイントは、この地域ではJポップ、アニソンに競争力があることだ。
 その国も自国語のドメスティックポップスが市場の5割は占めるものだ。残り5割あるとして、そこを洋楽とJポップとKポップが争う図式になる。アニソン含めたJポップが一番人気になる潜在的な力はあるはずなのだが、今のままだとKポップの後塵を拝する可能性は高い。ストリーミングサービスはいわゆるロングテールが長く、多様性と蓄積のある日本に本来はアドバンテージがある。僕らがよく言う「歌謡曲な大衆性」は東アジアでは共通する感覚だ。個人的にはアジア各国は「渋谷系前夜」みたいな状況だと思う。様々なジャンルの音楽を取り込んだJポップライクなポップスが広く受けいられる土壌はできている。経産省などが旗を振って、アジアのストリーミングサービスにおけるJポップシェアを2割にするという目標を立てたいところだ。やり方は簡単だ。メタデータをつけて、過去の全カタログをアジアのストリーミングサービスに許諾すればよい。半年から1年様子を見て、反応のある楽曲をその国の影響力のあるアーティストにカバーを促す。それだけでヒット曲が生まれる可能性があるのだから挑戦するべきだ。5年後にベトナムで松田聖子の楽曲が大人気みたいなことは全然あり得ることだと僕は思っている。
 ストリーミングサービスが生まれたことで、音楽ビジネスのマネタイズポイントを多様化できることも大きなメリットだ。これまで中国は、いわば出稼ぎ的に、現地で入場料を稼いで、グッズを売って、以上という商売になっていた。ストリーミングサービスがあることでライブの前後で楽曲が流れで、それも売上になり、越境ECふくめた幅広いチャネルでのマーチャンダイジングが期待できる。そして、本当に好きになってくれたら、日本まで「本場のコンサート」を観に来てくれるかもしれない。日本のインバウンドのこれからの課題は、リピーターと滞在日数の延長のはずだけれど、そこに音楽業界が果たす役割は大きい。
 単純計算だけれど、5倍のマーケットで2割取れたら、日本の音楽市場は二倍になるということだ。このチャンスを逃してはいけない。

●ポストスマホのコンテンツプラットフォームは?


 現在、世界中でコンテンツプラットフォームの主戦場がスマートフォンであることに異
論がある人はいないだろう。これから発展途上国を含めて、まだまだスマホ普及率は伸びるから、普及率が100%に近づいていくことの社会的インパクトも大きいと思うけれど、未来を見据える人たちの興味は、既にポストスマホのプラットフォームだ。ひと頃はウェアラブルデバイスだと目されていただけれど、グーグルグラスのようなメガネ型も、アップルウォッチのような腕時計型も広まる様子は見えていない。2018年1月現在、ポストスマホの本命はスマートスピーカーだ。
 2017年は各社の商品が出始め、お手並み拝見という状況になっている。音楽業界にとっては、リビングルームにある「世の中との窓口」がスピーカーであるというのは大きなチャンスだ。音楽が流れることが自然で、接点が増えるはずだから。
 個人的にはこのままポストスマホがスマートスピーカーになるかどうはか微妙なところだと思っている。IoTということでいえば、鏡がついているクローゼットがスマート化して、洗濯機や冷蔵庫ともつながり、買うべき服やレシピもレコメンドされる。スマートクローゼットも例えば有力だと思ったりする。次のフェーズで来る在宅型ロボットの普及が本命ということになるかもしれない。
 現状では。音声認識+クラウド上のAIというのがポストスマホの第一候補になったということを理解して、推移を見守っていきたい。一番大事なことは、スマホのときのように、外資系グロバール企業にこのプラットフォームを完全に牛耳られて、日本のコンテンツホルダーがゲームのルール設定に参加できないような事態にならないことだ。そういう意味でも、LINEやSONYも頑張って欲しい。日本語音声認識はNTTが世界一の技術を持っているはずだ。しっかり戦略を持って対峙したい。

●ブロックチェーンの衝撃。音楽への応用は?


 分散型台帳技術、ブロックチェーンは、インターネットが広まった時に勝るとも劣らない大きな変化を社会にもたらすそうなので、音楽だけでどうこういう話ではない。契約のあり方、取引における信用担保の構造を根本からひっくり返すような技術だ。あまりにも大きな変化すぎて予測が難しい。20年後は、今のブロックチェーン技術の思想をベースにした世界になっていることは、ほぼ間違いないのだけれど、それまでの過程は予測不能だ。
 音楽に関してだけ言えば、著作権、原盤権の徴収分配の仕組みが今の国ごとの集中管理というやり方から変わることは間違いないだろう。10年位はかかると思う。
 僕が個人的に一番関心があるのは、リミックス、二次創作への応用だ。初めてブロックチェーンの存在を知ったときから、「クリエイティブ・コモンズ」の考えかたがビジネスに持ち込める機会がやっときたのだと感じた。一般的になっているようで、リミックス、サンプリング、二次創作には、きちんとしたルールはシステムが無く、個別の相対でやるしかないのが現状だ。原則OKのオプトアウト型のルールが広まれば、新しい表現と市場が大きく伸びることが期待できる。今年は本格的にこの可能性を探る年にしたいと思う。

 ニューミドルマンも3年経って、よいネットワークになっている実感がある。今年からコミュニティ化を図りたい。ニューミドルマン養成講座と並行してオンライン+OFF会のサロンもやっていこうと思うので、興味のある人は是非、参加して欲しい。このブログを読んで面白いと感じる人には意味のある場になっていると思う。
 音楽ビジネスに興味のある人は、まずは2月の「超実践アーティストマネージメント篇」の受講からどうぞ!

 元旦から長くなってしまったので、この辺で終わりにしたい。
 次回は作秋、高校生に話すために考えた「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル〜オトナに騙されるな」をテーマに書こうと思います。お楽しみに。

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