2017年6月11日日曜日

誰がJASRACをカスと呼ばせるのか?〜状況整理と幾つかの提言

 音楽教室からの著作権使用料徴収問題が世間を騒がせている。AbemaTVなどのメディアからもコメントを求められることが多くなってきた。以前、本ブログで「JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理」という記事を書いたけれど、その後もあまりにも内向きで、後ろ向きの議論が多く感じている。多少の提言を含めて、改めて本件について言及したいと思う。




●JASRACのガバナンス不全という問題 



 ネット上では、「カスラック」と呼ばれることも少なくない。JASRACへの批判や不満は、誤解や無知によるものも多いのだけれど、JASARACが説明責任を果たそうとしないので、どんどん誤解が広がるという側面もある。昨今、ここまで自らのブランディングができていない団体は珍しいのでは無いだろうか?
 改めて言うけれど、JASARACは、日本の音楽業界に大きな貢献を果たしてきている団体だ。日本での音楽著作権の徴収分配は世界的に高い水準で行われてきた。過去10年以上約1100億円の著作権料を徴収し、作詞作曲家に分配し続けている。
 ただ、歴史が古いということは、ルールを決めた時期が古いということで、そのルールのアップデートがインターネットとデジタルの時代に追いついてないことは事実だ。一言で言えば、透明性が足りない。そこが批判の一番の原因だろう。そこから「悪の権化」のようなJASRACのイメージが拡散されている。実態は、JASRACの事務方は、正義を持って、真面目に仕事に取り組んでいると思う。ただ、その「正義」がもうカビが生えていて、その自覚が薄いことが問題なのだ。

 今回の騒動でも、僕は「JASRACが全音楽教室にセンサーを取り付けて全データを集めて徴収分配するという姿勢なら、断固支持する」と何度も言っている。実際は分配コストが高すぎで難しいのはわかるけれど、その位の姿勢じゃないと世の中からは認められないという認識をJASRACに持って欲しい。

 認識が甘い理由は何か?理事会が機能不全なのだと僕は思う。役人が国会議員や大臣の方を見て仕事をするように、JASRACの職員も理事を見て仕事をするのは止むを得ない、というか当然だ。彼らは職業的良心に則って真面目に仕事をしてくれていると思う。理事会に、音楽家から信頼され、ユーザーから支持されないとJASRACという団体は存在できないという意識が足らず、既得権益のように思ってしまっているのではないか?デジタル時代は、全量報告で完全透明な徴収分配が技術的に可能なのだから、透明性を担保しないと社会的に許されないという認識を持つべきだ。おそらくJASRACの理事会にその理解は無い。
 JASRACの理事の2/3は作詞家作曲家の代表で、会員作家からの選挙で選ばれている。個々人の方はよく存じ上げない。もちろん見識のある方もいらっしゃるのだろうけれど、僕に見えてくるのは悲惨な有様だ。デジタルに対する理解も、日本社会、産業界への貢献という意識も感じられない。
 政府も、音楽教室からの著作権徴収を認めるような見解を出す前に、JASRACのガバナンスを改善する要望を出すべきだと思う。理事会の2/3が作詞家作曲家という組織の構造が音楽ユーザーから意識が離れる元凶になっている。理事選任の方法から考え直すべきだろう。
 選出方法を変えるのに時間がかかると言うのなら、すぐにできることがいくつかある。まずは情報公開だ。JASRACの内部で語られたことや、使用者団体との交渉経緯をしっかり公開するのだ。ニコ生で生中継しろとまでは言わないが、きちんと議事録公開をすることがユーザーからの理解を得る一番の方法だろう。そもそもJASRACは密談的な交渉が好きなカルチャーがある。事業会社と本音と建前をぶつけ合いながら、お互いの落とし所を探っていき、公開されている使用料規程とは別に細則、補則をつくって対応し、そこは非公開にしておく、みたいなやり方の良さも日本人的な感覚で理解はできるけれど、さすがにもう時代に合わない。

 理事長か会長の直轄で諮問委員会みたいな組織をつくるのも一案だ。事業社やユーザーに近い立場の人から定期的に提言を受けるような形だ。例えば、津田大介君に、3ヶ月に1回意見を聞いて、その経緯を公開すれば、世間からの印象は大きく変わるはずだ。
 音楽業界村の中だけで通用する感覚で運営する時代ではないし、それが許されないくらJASRACの存在は日本の中で大き過ぎると知るべきだ。

●音楽教室業界への提言 


 今回は心情的に音楽教室に肩入れする人が多いようだけれど、彼らのロジックも相当、貧弱に感じる。YAMAHAやKAWAIなどがやっている音楽教室は、どこから見ても商売で、少なくも保護を主張するような業態ではない。
 ただもし、JASRACから著作権使用料の支払を求められた時に、 こんな切り返しがあったらなら、尊敬できる。
 「JASRACの管理楽曲の楽譜を全てクラウド上で管理するシステムを作って、それに基づいて著作権使用料を払いたい。ユーザーの利便性も上がって、音楽全体が活性化するはずなので、その開発費の半分をJASRACで出してくれないか?」

著作権支分権一覧
引用元:http://www.jasrac.or.jp/copyright/outline/index.html#anc05

 音楽教室から著作権を取る根拠に、演奏権のルールを当てはめているのは、個人的に「筋が悪い」と感じている。楽譜出版の支分権準拠にして、クラウド上の楽譜使用のアクセス権型に読み替えて、著作権使用料を取る方式が、音楽教室というビジネスの利用実態に近い。著作権法の運用という意味でもスマートなやり方だと僕は思う。
 音楽教室に通うユーザーも、タブレットや家のTVで楽譜が自由に見ることができるのなら、レッスン受講料が少しくらい上がっても納得してくれるかもしれないし、そもそも別料金で楽譜使用に関する著作権使用料を徴収することも可能だろう。
 このような音楽市場を活性化する発想をそれぞれの立場から出し合って欲しい。著作権を払う払わないだけの話は醜悪だし、後ろ向きだ。 時代に即した新サービスをスタートアップと組んでやる位のフットワークの軽さと発想の柔軟さを持っていたい。

 他にも、おさえておくべきポイントを2つ加えたい。

●NexToneの存在が貴重


 日本の第2JASRAC法人二社が昨年合併してNexToneという会社になった。この会社は、前述の透明な分配の重要性を理解しているし、デジタルサービスを研究し、海外事情にも精通した経営陣による会社だ。
 JASRACを批判していて、NexToneを知らない人は、是非、ウォッチして欲しい。いわゆる第2JASRACと言われる会社の存在があることで、これまでJASRACの改革が進んできたし、今後、NexToneの影響力が増すことが、日本にとってプラスだと僕は思っている。

●そして最後は、ブロックチェーンの時代になるんだよ。

アーティストへの適正なロイヤリティ支払いのため、Spotifyがブロックチェーン開発のMediachainを買収 (「TechCrunch Japan」より)

 Spotifyがブロックチェーンの会社を買収して話題になっている。いずれにしても近い将来、音楽著作権の分配の仕組みにブロックチェーンが使われるようになることは間違いないと言っていいだろう。インターネットの世界は様々な分野を「民主化」してきたけれど、音楽著作権の民主化を担うのがブロックチェーンだ。普及するには10年以上かかるだろうけれど、クリエイティブ・コモンズで提唱された音楽家主導の音楽流通が商業化できる時代がきている。ルールが曖昧なことが障害になっているリミックスや二次創作も活性化されるだろう。
 そして、ブロックチェーン到来の時代は、著作権の集中管理の有効性そのものが問われる時代だ。そういう意味で今のJASRACは2周遅れを走っているランナーのような状態なのだ。組織としてもっと危機感が必要だ。

 こんな環境下で今やるべきことは、大きく変わった市場環境に対して、新しいテクノロジーを使って、新たな産業を創出、市場を活性化することだ。今あるパイの取り合いにエネルギーを使っているのは無駄で無益なことだ。そんな余裕は今の日本の音楽業界には無いはずだ。JASRACも音楽教室側も日本政府も未来志向で考えて欲しいと心底、願っている。

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