2016年4月25日月曜日

みんな誤解しないでね。SXSWの本質は勉強会だよ。〜それでもSXSWが発展を続ける理由

 SXSWに初めて行ったのは13年前だったと思う。オースティンは本当に田舎町でステーキとアメリカンフードしかなかったし、今やおしゃれ&グルメスポットになっているイーストエリアは危ないから行くなと言われていた。メインは音楽祭で、映画祭もやっている
JAPAN HOUSE外観
んだねという感じだった。インタラクティブ部門もあるにはあったけれど、存在感はほとんど無かった。その頃から、トークセッションはたくさん行われていた。
1986年に始めたのは地元のマネージャー(とローカルメディア編集者)で、自分のアーティストを音楽業界に売り込むためのカンファレンスとショーケースライブという内容だったらしい。そもそも南南西(South By South West)というネーミングは、映画「北北西に進路を取れ」に因んで、当時音楽業界の中心だったNYから見て南南西に位置するから付けられたらしい。

 大きく変わったのは2007年に始まったばかりのTwitterが、SXSWをきっかけいに世界的なブレイクをしてからだ。狭いエリアにリテラシーの高い人たちが集まっていたから、Twitterの即時性と爆発的な情報伝達力が活きたのだろう。以来、ITサービス事業者
トレードショーから
は、SXSWを意識して新サービスを発表するようになっていった。投資家と起業家が相乗効果で集まるようになり、ITサービスとスタートアップのイベントの様相を呈していった。
 ところが日本のIT業界からは全くノーマークで、JAPAN REPの麻田浩さんたちから相談されて、当時、セカイカメラで注目を集めていた井口尊仁さんを推薦した。「SAMURAI1000」というキャッチフレーズで、日本人スタートアップにSXSWの存在が広まっていった。
 この数年、日本からの参加者は急増した。今年はトレードショーに日本のスタートアップが普通にブースを出すようになっていて、良いことだなと思う。あのトテツモナイ情報量とエネルギッシュな場で自分たちのサービスをアピールする経験は貴重だろう。

 ただ、有名になったことでSXSWに過大な期待をしたり、勘違いしている人も出てきてるような気がする。「CES(全米家電見本市)のブースの方が活気があった」と発言している人が居て驚いた。SXSWはトレードショーイベントではない。カンファレンスとネッ
音楽×テック感あるヘッドフォン
トワーキングが核心だ。世界中から旬な人が集まって、近未来のテーマについて意見交換をする、そこに集まる人達がつながっていくところに本質的な価値がある。REP麻田浩さんの言葉を借りれば、「SXSWは勉強会」なのだ。

 音楽から始まって、映画、ITサービスと守備範囲を広げたSXSWの近年のホットなテーマは、ロボット工学、人工知能、医療技術(Med-Tech)VR/AR(仮想現実/拡張現実)だ。社会の課題を解決させ、世界を発展させるイノベーションに関する「これからのテーマ」が話し合われている。ドローンの話は一昨年くらいに一旦「済んだ」印象。ストリーミングサービスの是非や効用にについて話していたのは6年位前だから、今頃「ストリーミングサービスが根づくか?」みたいな話をしている日本はいくらなんでも世界の潮流に遅れ過ぎだね()

 デジタル技術の圧倒的な進化で起きる様々な軋轢や課題について一番最初に、深く広く、そして自由に話をされる場になっている。テキサスは独立国だったこともあってアメリカの中での反骨気質がある。アンチ・ハリウッド、アンチ・ワシントン、アンチ・シリ
テキサス州の形の看板
コンバレーという空気が自由な議論をするのに適しているのだろう。

 僕も自分がプロデュースするアーティストを連れて行ったり、SXSWにはずっと関わってきた。2012年からはトレードショーの中でJAPAN PAVILIONをつくり、昨年からは街中にも拠点を持つJAPAN HOUSEを始めた。他国が積極的にやっているのに日本だけ置いてきぼりなのが悔しいと思って、大声での言い出しっぺ的役をやっただけで、プロデューサーといえるほどの仕事はできてないけれど、今年のJAPAN HOUSEは意義深かったと自負している。

 日本ではマツコロイドのTV番組とTVCMで一般的に知られている石黒浩大阪大学教授は、ロボット工学の分野で世界的に評価されている研究者。神戸大学の杉本医師も最先端
技術の外科医療への導入の先駆者の1人だ。この二人をSXSWが主宰する公式セッションで登壇できるように後押しをした。特に石黒先生は1700本あるセッションの内の選りすぐりのTOP50、「フィーチャードセッション」に選ばれ、アンドロイドと人間の英語での雑
石黒ロイドと話すアメリカ人
談実験などをステージ上で行い、最後はスタンディングオベーションだった。アメリカで一番部数が多い大衆新聞USATodayのトップページを飾るという大きなオマケも付いた。

 JAPAN HOUSEはオースティン最大の繁華街6番街のライブハウスを2日間借り切って、これらの公式セッションの受け皿として、フォローアップのトークイベント、関連するブース展示、ミートアップイベントなどを行った。2日間で4000人以上の来場者。他にも、NEDOが推薦する技術系スタートアップのピッチイベントや、NTT研究所の技術を取り入れたYun*chiのライブ・ショーなど充実した内容で、JAPANの技術やコンテンツへの興味を喚起することができたと思う。インタラクティブ部門のディレクターHugh Forrestにも登壇してもらったが、彼もJAPAN HOUSEを高く評価してくれていた。運営自体はバタバタで課題がたくさんあったけれど、「勉強会+ネットワーキング」というSXSWを活用するフォーマットとしては、これまでに、日本はもちろん、他国でもやれてない成功モデルを見せることができた。

 先日AOI Pro本社で行った報告会には、120名程の熱心な参加者がメモを取りながら聞いてくれていた。前半はAOIproの研修チームによるSXSW2016総括もあって充実した内容
ホテルからオースティンを望む
だったので、みなさん満足して下さったようだった。
 その時にも申し上げたけれど、日本のテクノロジーとコンテンツの進化のためにSXSWを活用する動きは今後も広げていきたい。

 オースティンがコンテンツ活用の地方創生の、世界一の成功モデルだというのは去年もブログに書いたから、ここでは繰り返さないけれど、不動産価格の上昇率が全米一らしいオースティンの開発はますます進んでいるようだ。SXSW20174つのトレンドの一つは「Smart CityIoT homeと次世代交通」だから、ますます地方創生視点での重要度が高まる。やる気のある自治体をオースティンとつなぐ役割もやっていきたい。ちなみに、残りの3つは「AI&ロボティクスドリブンな未来」「VE/ARの更なる進化」「政治とテクノロジーコミュニティ」だ。

 音楽と映画の祭典から、ITサービスが加わり、近年は世界のイノベーションを牽引するイベントへと進化している。SXSWをウォッチすることは、世界のイノベーションの最先端を知ることに繋がる。

 「SXSWも変質したよね」という声も聞く。まあ成功すると僻みも含めてディスられるのは世の常だし、JAPAN HOUSEを運営すると、近年は「ゼニゲバ」ぶりを感じて、鼻白む気分になる時もあるけれど、SXSWの存在感は落ちるどころか、ますます大きくなっていくだろう。

トヨタiROAD
 そして、一言言っておきたい言いたいのは、SXSWは音楽祭から始まって、今も音楽をリスペクトしたイベントで、期間中はオースティンの街に音楽が溢れていること。そのことがSXSWの魅力を高めていることは間違いない。音楽とテクノロジーの美しい関係がここにはあるんだ。

 僕がエンタメ系スタートアップのアワードとしてのSTART ME UP AWARDSを有志の実行委員会で立ち上げ時も、関連イベントとした神奈川県真鶴町でクリエイターズキャンプ真鶴を始めた時も、頭の片隅ではSXSWを意識しているし、あの空気を吸ってきたから企画できたという思いも強い。
CommUを踊らせる

 SMUA2016のキックオフイベントを5/11にやるので、エンターテインメントとテクノロジーとスタートアップに興味のある人は、是非来て欲しい。

 THE BIG PARADECo-Founder鈴木貴歩さんがユニバーサルミュージックから独立してエンタテック・アクセラレーターを始めた。「エンタテックenter-tech」という言葉を広めようというに賛同して、僕も最近使うようにしている。同じような問題意識でニューミドルマン・ラボもやっている。第4期に集まったメンバー多様で、意識が高くて早速、刺激をもらっている。時代の変革期には、新しいエネルギッシュな人材が必要だ。日本のエンタテックシーンを活性化していきたい。
 
 SXSWTwitterが登場するのに20年かかった。SMUACC真鶴がSXSWのような影響力を持つのには、20年位は必要なのかもしれない。その頃に日本社会は、世界はどうなっているのか?不安もあるけれど、ポジティブ思考で、イノベーションの行末に、きちんと関わっていけるように頑張りたい。