2019年4月16日火曜日

AWAの聴き放題ARTISTプラン270円が安すぎる件について

 久々の投稿ですが、今後はnoteに移行しようと思います。使い勝手や拡散性などがnoteの方が良いのかなと言うことで。今回は全文掲載しますが、この機会にnoteのブックマークをお願いします!
https://note.mu/yamabug



 AWAが新しいアーティスト単位で聴き放題になる「ARTISTプラン」を始めました。浜崎あゆみ、AAA、倖田來未といったエイベックスの主要なアーティストが参加していますし、非常に可能性のあるサービスだと思います。AWA自体もユーザー数では伸び悩んでいるようですが、良質のサービスです。プレイリストが作りやすく、アプリもサクサク動きます。おそらくはサイバーエージェントの開発ノウハウが注ぎ込まれてるのでしょう。プロダクトとしてのクオリティは高いと、リリース当初から注目していました。
 そう思いながら詳しく見てみたら、月額270円という安すぎる料金に驚き、落胆しました。何故、アーティストの価値の毀損に繋がりかねない安い値付けをするのでしょうか?

 ●AWAが“1アーティスト聴き放題”の新プランを公開 浜崎あゆみ、AAA、倖田來未などでライブ優先予約や限定メッセージ配信なども

 そもそも、日本でのストリーミングサービスの月額金額は安すぎます。Spotifyがサービスを開始する時に、世界一のシェアを持つレーベル、ユニバーサルミュージックと話し合って定めた基準は、iTunes StoreのeAlbum1枚分の金額を月額料金にするというルールだったと言われています。
 各国でこの基準で欧米では、9.9ドル/ポンドが月額料金になっています。この基準で言うと、日本では1500円前後の値頃が目安になります。実際、Spotifyは月額1480円にするつもりでサービスを準備していました。ところがレコード会社側が、高すぎるとの意見で、980円になっています。

 もちろん、日本はCDが高すぎるという見方はできると思います。アルバムが3000円に対して、アメリカでは9〜12ドルですから、2.5倍以上の金額になっています。せっかくの、そういう市場の価格をレコード会社側が自ら壊す理由はどこにあるのでしょうか?
 そもそもサブスクリプションビジネスにおいて、pricing(値付け)は最も難しく、かつ重要なマーケティングの要素です。権利者側に発言力があり、配信事業者が一方的に値付けできない音楽ビジネスのメリットを活かしてないことが残念でなりません。

 間違った判断をしてしまう理由について、僕は2つのことが透けて見えます。

 1,i-mode公式サービスの成功の呪縛
 スマホの前のガラケー時代は、NTTやKDDIなどの通信会社がその内容を担保してユーザーに提供する、公式サービスが全盛でした。ジョブスは、i-modeとソニーのウォークマンから今のアップルの音楽サービスを考案したと言われるほど、よくできた仕組みでした。類似サービスの乱発は認めず、ユーザーはTOP画面からディレクトリー型でサービスを選びます。着うたという音楽配信サービスが大きな市場となり、レコード会社が主導した「レコチョク」というサービスがシェアの7割以上を占めて高い収益率を誇りました。YouTubeのMusicVIdeoと着うたの組み合わせで、新しいタイプのヒット曲も生まれました。
 この時が月額料金は300円〜500円だったのは、キャリア会社の基準でした、i-modeはファンクラブなど他のサービスも行い、低い手数料(10%以下)で、債権回収までキャリアが受け持ってくれる権利者にとっては夢のような生態系でした。(老獪なジョブズは低い料率だけは真似せずに、アップル手数料は30%でコンテンツ事業者を苦しめているのはご存知の通りです)
 この経験が、「日本のユーザーの月額課金は300円程度が適切」という根拠のない確信を呼んでしまっている気がします。imodeはあくまでNTTの通信網の中に閉じられた仕組みです。インターネットに開かれたスマホサービスと料金の基準が同じではありません。適切な料金設定について、音楽業界側がもっと敏感かつ巧妙であるべきでしょう。

 2. レコード会社が音楽ファンを信じていない

 「音楽は無料ではない」と、違法ダウンロード撲滅を訴え、法律における罰則化まで音楽業界は求めて、実現しました。僕はこの法律自体は賛成です。議員の方にお会いする機会があれば、音楽業界人の一人として立法実現のお礼を言うようにしています。ただ、罰則を強化しても売上は増えません。業界のエネルギーの方向としては、立法化が一番の方法とは当時から思っていませんでした。
 僕が問題だと思うのは、デジタル化が進んでいる中で、レコード会社が音楽ファンを信じていないというメッセージがでてしまっていることです。思い出したくない「コピーコントロールCD」導入もありました。業界をあげてレコードから転換したCompactDiscの規格をはみ出してノイズデータをいれてコピーをガードしようという、しかも全然ガードは不完全、という悪夢のような出来事でした。
 音楽が人生の一部に、生活の中で無くてはないものになっている人を音楽業界は大切にしなければいけません。CDバブル(今となってはバブルと言うべきでしょう)の時代に、TVCMやドラマの主題歌で聴いた曲を、音楽ライトユーザーが購入して何百万枚とCDが売れました。その成功体験がレコード会社の呪縛になっているような気がします。まさにエイベックスはミリオンセールスの象徴でしたからやむを得ないとも思います。

 しかし、今こそ音楽業界は、i-mode公式とCDバブル、2つの成功体験の呪縛から解き放たれるべきです。

 アーティストがベースに居る音楽ビジネスでは、ユーザーとのエンゲージメントが最も重要です。このエンゲージメントの濃さを活かすして、企業とのコラボなどをSNSで展開していくのがこれからの音楽ビジネスの柱の1つです。音楽ファンを信じず、音楽の値付けを下げていくレコード会社は、アーティストにとってどんな存在意義があるのでしょうか?
 
 音楽業界の発展は音楽ファンと共にしかありえない、ということを改めて考えていただきたいです。そして若い起業家たちは、ここにビジネスチャンスがあると思ってほしいです。
オトナたちがつくった仕組みは、時代とずれてしまい、新しいサービスが待望されています。 昨年11月に設立したエンターテックをテーマにしたスタートアップスタジオVERSUSは、エンタメ分野で起業を志す人達と一緒に新しいサービスを作っていく場です。興味のある人は、ご連絡ください

VERSUS公式サイト

2019年1月1日火曜日

独断的音楽ビジネス予測2019:やっと動き始めた日本デジタル音楽シーン。アジア市場で数値目標を!

 新年あけましておめでとうございます。

 去年は投稿数5と過去最低だった本ブログ、メルマガ[週刊・無料:音楽プロデューサー山口哲一のエンターテックニュースキュレーション]は毎週頑張っているから、許してね(^^)と言いつつ(まだの人は読書登録をお願いします!)、2012年から始めた元旦ブログは今年も書こうと思う。


 から1年たった。2012年から毎年予測と検証をしているけれど、今年はその必要もないくらい「ずっと前から言ったとおりでしょ?」となっているはずだ。興味がある人は見てみて欲しい。
「デジタルコンテンツ白書2018」から
 ただ、実は、去年の春辺りから音楽業界の内部の「空気」はずいぶん変わったと感じた。一言で言うと、デジタルに対するネガティブなムードが無くなった。「変わっているんだよね」「もうそうなるよね」という風に誰もが思うようになった。「空気」っていう言い方もファジーで申し訳ないけれど、「ムラ」的な社会である「業界」では、集合意識的なものがあって、それによって、促進されたり、ブレーキが掛かったりする。日本的な特徴なのだろうけれど、去年までは、僕ら(敢えて言うなら「改革派」の人たち)が海外事例やロジックを尽くして、どんなに説明しても。「とは言っても日本はむにゃむにゃむにゃ」「いろいろなことが絡んで難しいよね。だってさ、、、、。」みたいな非論理的な抵抗を感じることが多かった。1年前のブログのサブタイトルに「メゲずに吠えるぜ」ってなっているのは、自分を鼓舞してたんだと思う。それが変わった。こういうのが空気なんだと思う。

 空気が変わるのにも理由はある。一つは日本のデジタル市場が一定の規模になってきたこと。2017年の数字は約940億円。そして2018年1月〜3月の下半期ではストリーミングがDL市場を抜いたとの情報もでた。パッケージは頑張って、CD と音楽 DVD を合わせで2,964億円 前年比94%だけど、長期低落は免れないから、デジタルを重視しなきゃねということになったようだ。詳細は知らないけれど、2011年設立のTuneCoreJapan社長の野田君が「音楽関係者の僕らへの態度が明らかに変わって、逆に提案をいただけるようになりました」と言っていた。音楽配信サービスへのアグリゲーション機能をきぞんのかい者を使わずに、誰でもできるようにソリューションとして提供するTuneCoreは既存の音楽ビジネスの仕組みは、大まかに言えば"破壊者側"の仕組みだ。そこに対してポジティブになったというのは大きな変化だ。海外配信サービスに対しての利便性と情報源として有益なことがわかったのだろう。
世界のレコード産業売上推移(IFPIデータ)
 グローバルメジャーレーベル経由で海外市場の情報が届いてることも大きいと思う。欧米ではストリーミングサービスが牽引して音楽市場全体が上昇するというトレンドが完全に定着したし、まだしばらくは続くと見られている。ドラスティックに変化するアメリカ市場は3/4がストリーミングだし、日本に近いと言われて、パッケージ比率が高かったドイツでもデジタル市場が過半となった。ユニバーサルやワーナーというグローバルメジャーは、正確な情報とマーケティングプランを持っている。日本法人には、早くストリーミング市場を拡大しろとプレッシャーを掛けているはずだ。(彼らも数年前までは「日本をCD売れてて素晴らしいね」って言ってたらしいけどねwww)

2018年上四半期米市場(RIAA)
 ユニバーサルミュージックジャパンの藤倉社長が契約社員330人を正社員にしたというニュースには驚かされたけれど、おそらく彼は本社からの情報で、日本市場で自社のシェアを伸ばして、収益増を図る戦略に自信が持てたのだと思う。スマートスピーカーの普及など新しい市場もできていている。(勝手な推測だけれどおそらくは5年くらいの長期契約を結んで、正社員にしたスタッフを鼓舞して、腰を据えて収益増に取り組まれるのだと思う。注目だ。)

 なので、2020年が過ぎるまでは、変革ができないかなと思っていたデジタル音楽市場には、少なくとも「空気」は変わったので、やりやすくなっている。各事務所やITサービスは、レーベルの変化を活かして欲しい。もう邪魔されることはないと思う。TikTokなんて、普通なら権利侵害の権化になりそうなサービスだけれど、ユニバーサル、ワーナー、エイベックスはいち早く原盤も含めて包括許諾しているようだ。これまで原盤権クリアで二の足を踏んでいたITサービスはTikTokという前例をうまく活用しよう。(「中国の動画共有サービスに許諾出してるんだから、日本のスタートアップにももちろんお願いしますよ」みたいなロジックでね(^_-))
 
 さて数年前から指摘している3つの課題
 ●マーケティングに活用できるオープン型の楽曲及びアーティストデータベースの構築
 ●グローバルプラットフォーマーとの向き合い
 ●中国市場への本格的な取り組み 
  については、正直、進捗は遅い。意識を変えることが難しいようだ。

 そこで一つ年頭に提言したい。一気に状況を変えていくために、経産省と業界団体が旗を振って、数値目標決めるのはどうだろう?

 例えば、2025年にアジアの音楽市場で日本の楽曲のシェアを20%にする。

 2025年だとアジアの音楽(レコード産業)市場は1兆円超が期待できる。北米以上の規模になるだろう。ここで2割を取れれば、単純計算で2000億円。日本のレコード市場が倍近くなるイメージだ。しかも今後も上昇が期待できるマーケットでこの数字は大きい。アジアの音楽市場は、ニアイコールでオンデマンド型ストリーミング市場で、売上以外にもライブや越境ECによるMD(アーティストグッズ)など様々な広がりが期待できる。ファンクラブというビジネスモデルは日本特有のようだけれど、アーティストファンのエンゲージメントを軸にやれるマネタイズ方法はこれから増えていくだろう。
 どの国もその国の言語でその国のアーティストが行ういわゆるドメスティック(内国)音楽が市場の5割〜6割を占め、残り4〜5割を洋楽とK-POPとその他アジアの国の音楽が争うことが予測される。その中でアジア市場であれば、J-POP(+アニソン)が一位になっても全くおかしくない。現状は残念ながら2〜3%位だろう。完全に韓国の後塵を拝している。K-POPは若い世代に届くカッコイイポップスを高いクオリティでになった。サムソンや現代といった企業とも連携、政府も後押しする「オール韓国体制」でマーケティング施策も素晴らしい。ただ、多様性という意味ではまだ日本にかなりのアドバンテージが残っている。アジア人に共通する「郷愁感」みたいなのは日本人音楽家が得意とするところだし、幅広い音楽的な情報とレベルの高い消費者を長年持っている日本のポップスの奥行きは世界レベルで見ても洗練されて、深みがある。アニメという日本発のキラーコンテンツとも連携できる。これまでもアジアの各国で日本の曲がカバーされて広まっている事例はいくつもある。「昴」「恋人」などスタンダード化した楽曲も多い。ただ、これまでは偶然でラッキーなことが多かったように思う。現地のアーティストへのカバー施策を戦略的に仕掛けていくのも有効だろう。ストリーミング再生のデータを元に声を掛けることができるので効率的な時代だ。
 これらを上手に活かして戦えば、アジア市場で20%というのは十分可能な数字のはずだ。観光立国になっていく日本の産業振興の視点でも重要だ。インバウンド活性化にエンターテイメントが果たすべき役割を役割は大きい。リピーター増、滞在期間増には、エンタメが貢献できるはずだ。
 関係各位に検討をお願いしたい。

 さて、「テクノロジーとエンターテインメントの幸せな結びつきは新たなカルチャーを創る」というのは鈴木貴歩さんからの受け売りだけれど、AI、VR/AR、IoT、BlockChainと行ったテクノロジーの急速な進展ですべての産業や生活が再定義されるxtech(クロステック)の時代にエンターテイメント分野が果たすべき役割は大きいと思う。時代の気分を醸造し、技術の普及を牽引する役回りだ。そこにスタートアップへの期待が出てくる。

 最後に僕自身の話をしたい。4年間続けていたエンタメ系のスタートアップを支援するプロジェクト、START ME UP AWARDSは去年は行わなかった。理由は実行委員長の僕が単発のピッチイベントに限界を感じたからだ。始めた頃は、エンタメ✕起業というテーマを掲げているものなど何もなかったから存在だけで意義があったけれど、エンタメ関連のピッチコンテストやアクセラレータープログラムが増えてきた中で、もっと踏み込んでスタートアップ育成に関わりたいと思った。
 そんな時にちょうど1年くらい前に世界で「スタートアップスタジオ」という仕組みが世界的に広がっていることを知った。スタジオという由来はハリウッドで、ハリウッドのスタジオがたくさんの映画を作るように、スタートアップを同時多発的に育てていくというコンセプトに惹かれた。コミュニティ形成という僕が近年取り組んでいる方法論と親和性も感じた。
 去年1年掛けて動く中で、エンターテインメント✕スタートアップにフォーカスして、0〜1のところをハンズオンで育成するスタートアップスタジオをやらせてもらえることになった。会社名は株式会社VERSUS(Visionary, Evangelistic, Revolutionary Start-Up Studio)で11月に設立済みだ。エンターテインメントは広く捉えて、食も美容もファッションも対象にする。詳細は1月中には発表するのでそれを楽しみに待って欲しい。エンタメ関連で起業を考えている人は、発表を待たずに連絡ください

 レコード産業を始めとして、既存の仕組みが有効性を失っているエンタメ分野の業界は多い。仕組み自体を作り直すのは既存のプレイヤーだけででは難しい。スタートアップに好き勝手に頑張ってもらって、既存の仕組みのパーツで有効なものはモジュール的にハメていく。そのバランスを取るのが僕の役目だと思っている。
 
 その時に、忘れてはいけないのは、日本はすでにアジアでのIT後進国になっているという現実だ。一例を言えば「銀行ATMが充実して偽札の心配がないから日本は電子マネーの普及が遅れる」いわゆる「イノベーションのジレンマ」だ。日本はこれまで便利だったことの代償に次のステップへの変化が遅れてしまっている。アメリカだけでなく、中国も先を走っている。おそらく次のイノベーションについてはもう追いつかないだろう。ただ、イノベーションのジレンマはサイクルでやってくる。中国でスマホ決済が広っているので、ユーザー利便性が理想的ではないとQRコードに留まるかもしれない。諦めて何もしないという訳ではないけれど、次の勝負での負けはもう決まっているので、次の次のイノベーションを日本発で起こしていく、概念的にはそんなことだろうと思っている。今からSpotifyには追いつけない(もちろんスタートアップ的にはSpotify生態系を活かしたヤドカリ的な周辺ビジネスにもチャンスはあると思うけれど)から音楽消費のプラットフォームを作るなら、その次の音楽体験は何なのかを考えることだろう。
 デジタルが主役になって時代の変化は驚くほど早い。1年後にどんな独断的予測を書くことになるか楽しみにしながら、2019年を頑張ろうと思う。

 今年もよろしくおねがいしますっ!

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