2017年6月11日日曜日

誰がJASRACをカスと呼ばせるのか?〜状況整理と幾つかの提言

 音楽教室からの著作権使用料徴収問題が世間を騒がせている。AbemaTVなどのメディアからもコメントを求められることが多くなってきた。以前、本ブログで「JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理」という記事を書いたけれど、その後もあまりにも内向きで、後ろ向きの議論が多く感じている。多少の提言を含めて、改めて本件について言及したいと思う。




●JASRACのガバナンス不全という問題 



 ネット上では、「カスラック」と呼ばれることも少なくない。JASRACへの批判や不満は、誤解や無知によるものも多いのだけれど、JASARACが説明責任を果たそうとしないので、どんどん誤解が広がるという側面もある。昨今、ここまで自らのブランディングができていない団体は珍しいのでは無いだろうか?
 改めて言うけれど、JASARACは、日本の音楽業界に大きな貢献を果たしてきている団体だ。日本での音楽著作権の徴収分配は世界的に高い水準で行われてきた。過去10年以上約1100億円の著作権料を徴収し、作詞作曲家に分配し続けている。
 ただ、歴史が古いということは、ルールを決めた時期が古いということで、そのルールのアップデートがインターネットとデジタルの時代に追いついてないことは事実だ。一言で言えば、透明性が足りない。そこが批判の一番の原因だろう。そこから「悪の権化」のようなJASRACのイメージが拡散されている。実態は、JASRACの事務方は、正義を持って、真面目に仕事に取り組んでいると思う。ただ、その「正義」がもうカビが生えていて、その自覚が薄いことが問題なのだ。

 今回の騒動でも、僕は「JASRACが全音楽教室にセンサーを取り付けて全データを集めて徴収分配するという姿勢なら、断固支持する」と何度も言っている。実際は分配コストが高すぎで難しいのはわかるけれど、その位の姿勢じゃないと世の中からは認められないという認識をJASRACに持って欲しい。

 認識が甘い理由は何か?理事会が機能不全なのだと僕は思う。役人が国会議員や大臣の方を見て仕事をするように、JASRACの職員も理事を見て仕事をするのは止むを得ない、というか当然だ。彼らは職業的良心に則って真面目に仕事をしてくれていると思う。理事会に、音楽家から信頼され、ユーザーから支持されないとJASRACという団体は存在できないという意識が足らず、既得権益のように思ってしまっているのではないか?デジタル時代は、全量報告で完全透明な徴収分配が技術的に可能なのだから、透明性を担保しないと社会的に許されないという認識を持つべきだ。おそらくJASRACの理事会にその理解は無い。
 JASRACの理事の2/3は作詞家作曲家の代表で、会員作家からの選挙で選ばれている。個々人の方はよく存じ上げない。もちろん見識のある方もいらっしゃるのだろうけれど、僕に見えてくるのは悲惨な有様だ。デジタルに対する理解も、日本社会、産業界への貢献という意識も感じられない。
 政府も、音楽教室からの著作権徴収を認めるような見解を出す前に、JASRACのガバナンスを改善する要望を出すべきだと思う。理事会の2/3が作詞家作曲家という組織の構造が音楽ユーザーから意識が離れる元凶になっている。理事選任の方法から考え直すべきだろう。
 選出方法を変えるのに時間がかかると言うのなら、すぐにできることがいくつかある。まずは情報公開だ。JASRACの内部で語られたことや、使用者団体との交渉経緯をしっかり公開するのだ。ニコ生で生中継しろとまでは言わないが、きちんと議事録公開をすることがユーザーからの理解を得る一番の方法だろう。そもそもJASRACは密談的な交渉が好きなカルチャーがある。事業会社と本音と建前をぶつけ合いながら、お互いの落とし所を探っていき、公開されている使用料規程とは別に細則、補則をつくって対応し、そこは非公開にしておく、みたいなやり方の良さも日本人的な感覚で理解はできるけれど、さすがにもう時代に合わない。

 理事長か会長の直轄で諮問委員会みたいな組織をつくるのも一案だ。事業社やユーザーに近い立場の人から定期的に提言を受けるような形だ。例えば、津田大介君に、3ヶ月に1回意見を聞いて、その経緯を公開すれば、世間からの印象は大きく変わるはずだ。
 音楽業界村の中だけで通用する感覚で運営する時代ではないし、それが許されないくらJASRACの存在は日本の中で大き過ぎると知るべきだ。

●音楽教室業界への提言 


 今回は心情的に音楽教室に肩入れする人が多いようだけれど、彼らのロジックも相当、貧弱に感じる。YAMAHAやKAWAIなどがやっている音楽教室は、どこから見ても商売で、少なくも保護を主張するような業態ではない。
 ただもし、JASRACから著作権使用料の支払を求められた時に、 こんな切り返しがあったらなら、尊敬できる。
 「JASRACの管理楽曲の楽譜を全てクラウド上で管理するシステムを作って、それに基づいて著作権使用料を払いたい。ユーザーの利便性も上がって、音楽全体が活性化するはずなので、その開発費の半分をJASRACで出してくれないか?」

著作権支分権一覧
引用元:http://www.jasrac.or.jp/copyright/outline/index.html#anc05

 音楽教室から著作権を取る根拠に、演奏権のルールを当てはめているのは、個人的に「筋が悪い」と感じている。楽譜出版の支分権準拠にして、クラウド上の楽譜使用のアクセス権型に読み替えて、著作権使用料を取る方式が、音楽教室というビジネスの利用実態に近い。著作権法の運用という意味でもスマートなやり方だと僕は思う。
 音楽教室に通うユーザーも、タブレットや家のTVで楽譜が自由に見ることができるのなら、レッスン受講料が少しくらい上がっても納得してくれるかもしれないし、そもそも別料金で楽譜使用に関する著作権使用料を徴収することも可能だろう。
 このような音楽市場を活性化する発想をそれぞれの立場から出し合って欲しい。著作権を払う払わないだけの話は醜悪だし、後ろ向きだ。 時代に即した新サービスをスタートアップと組んでやる位のフットワークの軽さと発想の柔軟さを持っていたい。

 他にも、おさえておくべきポイントを2つ加えたい。

●NexToneの存在が貴重


 日本の第2JASRAC法人二社が昨年合併してNexToneという会社になった。この会社は、前述の透明な分配の重要性を理解しているし、デジタルサービスを研究し、海外事情にも精通した経営陣による会社だ。
 JASRACを批判していて、NexToneを知らない人は、是非、ウォッチして欲しい。いわゆる第2JASRACと言われる会社の存在があることで、これまでJASRACの改革が進んできたし、今後、NexToneの影響力が増すことが、日本にとってプラスだと僕は思っている。

●そして最後は、ブロックチェーンの時代になるんだよ。

アーティストへの適正なロイヤリティ支払いのため、Spotifyがブロックチェーン開発のMediachainを買収 (「TechCrunch Japan」より)

 Spotifyがブロックチェーンの会社を買収して話題になっている。いずれにしても近い将来、音楽著作権の分配の仕組みにブロックチェーンが使われるようになることは間違いないと言っていいだろう。インターネットの世界は様々な分野を「民主化」してきたけれど、音楽著作権の民主化を担うのがブロックチェーンだ。普及するには10年以上かかるだろうけれど、クリエイティブ・コモンズで提唱された音楽家主導の音楽流通が商業化できる時代がきている。ルールが曖昧なことが障害になっているリミックスや二次創作も活性化されるだろう。
 そして、ブロックチェーン到来の時代は、著作権の集中管理の有効性そのものが問われる時代だ。そういう意味で今のJASRACは2周遅れを走っているランナーのような状態なのだ。組織としてもっと危機感が必要だ。

 こんな環境下で今やるべきことは、大きく変わった市場環境に対して、新しいテクノロジーを使って、新たな産業を創出、市場を活性化することだ。今あるパイの取り合いにエネルギーを使っているのは無駄で無益なことだ。そんな余裕は今の日本の音楽業界には無いはずだ。JASRACも音楽教室側も日本政府も未来志向で考えて欲しいと心底、願っている。

関連投稿
●「JASRAC音楽教室から著作権徴収」に関する論点整理

●日本の音楽ビジネスを進化させる、JASRACの対抗軸、NexTone設立の期待

●JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配

2017年5月5日金曜日

コンテンツ&エンタメビジネスを考えるための必読書紹介

 GWは真鶴町でコーライティングキャンプに参加しつつ、ニューミドルマン養成講座第6期の開講に向けて、資料をブラッシュアップしている。推薦図書をまとめて紹介するのはブログにもアップしようと思いついた。

 前回のブログでも書いたけれど、ニューミドルマンラボの目的は、
時代の変化に合った(できれば先取りした)、
次世代の音楽ビジネス(という領域自体を疑いつつ)を
再構築する方法を考え、実践していくこと。
 なので、そんな問題意識がある人にオススメしたい本だ。

 まずは、基本中の基本の拙著。日本で音楽ビジネスに関わる際に知っておくべきことを、2021年までの間に起きることの予見も含めて、総論的にまとめている。僕としては、「一旦、書き切った」という気持ちだ。大学や専門学校の教科書としても使われるようになっているそうで、とても嬉しい。重版が決まった。電子書籍でも読まれているらしい。まだ人は是非、読んでみて欲しい。


 実は、必ず読んで欲しい一冊だ。この10年間に起きている時代の変化を、ビジネスパーソン向けに、平易まとめている。扱う分野も、音楽、映像、放送、新聞、出版、自動車、IoT、UGMと章があり、幅広く横断的に捉え、デジタル化による大きな潮流の変化がわかるはずだ。僕が自動車やテレビについて語るようになるとは思わなかった。まさにそれが変化の証左なのだろう。



 音楽制作、レコーディングについて興味がある人は、一読しておいて欲しい。この本が後押して、日本でもコーライテイングが広まっていった。この延長線上に業界でのプロの音楽の作り方とシステムが変わる予兆がある。5年後に起きるだろうクリエイター主導の音楽制作について、この続編をそろそろ書きたいと思っている。

 起業を視野に入れている人にはオススメしたい。1980年代生まれの起業が10人のインタビュー集。3年前に書いた本だけれど、すでに何人かは「EXIT」し始めている。この10人に今の活躍ぶりを見ると、僕の審美眼やアクセラーレーターとしてのスキルがあることが証明できるなと、鼻が高い。

以上は、拙著。
ここからは、推薦書籍。
 いろんなところで紹介しているけれど、この本は傑作だ。ビルボード1位をとった「SUKIYAKI」誰もが知っている「上を向いて歩こう」の誕生からヒットの様子を丁寧にまとめたノンフィクション。戦後すぐの日本の芸能界の草創期の様子がよくわかる。著者は尊敬する業界の先輩だ。THE BOOM「島唄」やiTunesでUS一位になった由紀さおりさんのジャズアルバムなどをプロデュースされている。その後も、執筆活動を意欲的にやられているので楽しみにしている。



 関西電通時代にradikoを生み、今は関西大学教授の三浦さんは、時折、情報交換をさせ
ていただいている。以前ニューミドルマン講座の講師もお願いしたこともある。日本、韓国、アメリカの音楽業界事情を、ビジネス論と文化論を上手に交えながら分析している。
 業界側の人が音楽ビジネスについて書くと、浅薄になり、認識の間違いがあるケースが多いんだけど、この本は見事に的を射ている。


『儲けたいなら科学なんじゃないの?』 堀江貴文  (著), 成毛 眞  (著)
 この本は一読を薦めたい。Technologyが時代を先導している昨今、科学について俯瞰した視点と、常識を持つことは重要な事がよくわかる。僕も刺激を受けた本だ。
 著書が多い、ホリエモン本の中でも格段に意義のある本だと思う。
元マイクロソフト日本代表の成毛さんは、時代に即した見識を持っている。彼らの話を聞いて理解できるように、自分のアンテナをチューン・アップしておく必要がある。

『超整理法』などの実用的なベストセラーと、先駆的な経済学者の2つの顔を持つ筆者の両面が活かされた名著だと思う。カリフォルニアの150年前のゴールドラッシュと、近年のシリコンバレーの隆盛を重ね合わせている。読み物としても面白い。
 歴史が教えてくれる事象のエッセンスを学ぶための方法というのがわかるようになる。


 著作権の基本を学ぶ本として、一冊上げておきたい。筆者は知財の弁護士で、ポジションは中道左派的。リベラルだけれどバランスがとれた主張をする人だと思う。リットーミュージ行くから出ているロングセラーの『よくわかる音楽著作権ビジネス』シリーズは、音楽家側の立場に寄りすぎていて、権利ばかりで、義務、責任に関する目配りが無いので、薦めない。これを若い音楽家が真に受けると、勘違いして損をすると心配だ。

 オタキングこと岡田斗司夫さんは、著作権に関しては、極左的過激派だ。僕ら権利ベースのビジネスをする職業から見ると、明らかに「敵」だけれど、その論理には見るべきものがある。インターネットが主流になった時代の本質を付いている。この本を読んだ時に、『だからコンテンツにカネを払うのさ』という本を前期のニューミドルマンラボの講師をお願いした知財とスポーツの専門弁護士FieldRの山崎卓也さんと組んで書きたいと思って、内容を考えているのだけれど、まだ企画書がまとめられていない。クラウド上のアクセス権がビジネスのメインになり、複製権ベースの著作権が有効性を失っている時代の著作権の在り方については、しっかりまとめないといけないと思っている。

『ルポ風営法改正 踊れる国のつくりかた』神庭亮介
 朝日新聞記者による、クラブ摘発問題〜風営法改正に関するルポ。クラブカルチャー側の人々の立場に立って書かれているが、正確な記述でためになる。知己の名前がたくさんでてきているけれど、本当にみんな頑張ってくれて感謝だ。日本の音楽文化にとって大きな貢献をした皆さんだと思う。市民運動的に始まったものが実効性を持つことが少ない日本では、今回の風営法改正は偉業と言えると思う。
 ニューミドルマン講座第一期受講生の齋藤貴弘弁護士の活躍ぶりもよくわかる本。彼の存在はニューミドルマンラボの誇りだ。

次世代のエンタメ・音楽ビジネスを育てる講座の名前を「ニューミドルマン」にしたのは、田坂さんの著書&講演がきっかけだ。
 従来型のビジネススキーム、発想なら不要だけれど、音楽ユーザーとアーティストの間に仕事はあるということを、田坂さんは俯瞰した一般論として論破されていて、膝をたたきまくった記憶がある。感動して「俺ってニューミドルマンだったんだ」と思った時の衝撃が大きく、名乗らせてもらった。前述の『新時代ミュージックビジネス最終講義』では、対談もしていただいて、めちゃめちゃ嬉しかった。凄い方だった。後付だけれど、「ニューミドルマンラボ」を名乗るご許可もいただいた。田坂さんの本はどれも素晴らしいけれど、「社会は螺旋状に発展する」という視点は本当に卓見だと思う。是非、読んでみて欲しい。

 さて、以下は、今回のゲスト講師の著書。


『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)柴那典
 大ヒットになっているようだ。音楽界の現状を業界街の人や音楽ファンに伝えた功績は大きい。音楽編集者から音楽ライターという経歴で音楽が詳しく、大好きな柴さんが脚光を浴びるのは嬉しい。今回の講座では、受講生参加型の仕組みをやりたいと意欲的に考えてくれているようで楽しみだ。
 ヒットの意味や在り方が変わった今、音楽でビジネスをする際に、知っておくべきこと、示唆してくれるだろう。


 国際的に活躍するクリエイターであると同時に、実は優秀なビジネスパーソンという顔があるのを知っているので、今回の講座では「お金の稼ぎ方」について話してもらうつもりだ。貴重な機会になると思う。
 ちなみに、彼の、『DJ選曲術 何を考えながらDJは曲を選びそしてつないでいるのか? 』 という本は、音楽とは何か?という本質について考える機会になる名著だ。DJが曲を選ぶhow toの深さが凄い。


 きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカが所属する音楽事務所「アソビシステム」社長の著書。外国人は入場無料のマルチカルチャーなイベント「もしもしにっぽん!」を主催するなど、クールジャパンカルチャーを牽引する旗手である中川悠介さんは、世界における日本人のポジションと今後の展望を語るべき言葉を持っている人だ。


 さて、5月11日から始めるニューミドルマン養成講座第5期「音楽を広める、稼ぐ、その先へ〜日本の音楽ビジネス生態系の再構築を目指して」。まだ申し込みが間に合います。
こちらからどうぞ。

第1回 2017年5月11日(木)山口哲一「新時代ミュージックビジネスを識るための地図」
第2回 2017年5月18日(木)沖野修也+山口哲一「沖野流音楽マネタイズ術」
第3回 2017年5月25日(木)柴那典+山口哲一「ヒットの崩壊の次にやってくること」
第4回 2017年6月1日(木)矢島由佳子+鳴田麻未+山口哲一 キャンプファイヤー「アーティストとクラウドファンドの最適解」
第5回 2017年6月8日(木)ジェイ・コウガミ+山口哲一「2017年音楽地図」
第6回 2017年6月29日(木)中川悠介+山口哲一「原宿から世界へKawaiiの先へ」
第7回 2017年7月6日(木)梶望+山口哲一「宇多田ヒカルPRの秘訣」
第8回 2017年7月13日(木)山口哲一「重要性を増すニューミドルマンの役割」

蛇足:
以前は、読書メモを残していた。最近電子書籍で読むことも増えて、Kindle内のメモで済ますようになってしまったけれど、過去の読書歴をまとめているので、興味のある人はここで僕の乱読がチェックできる。

2017年4月28日金曜日

「ニューミドルマン・ラボ」で僕が伝えたいこと、出逢いたい人〜2021年に向けてvol.1

 未来は不確定と言うけれど、今から5年先くらいまで、音楽ビジネスがどうなるかというのは、概ね確定している。わかっている人には自明のことで、あまり語られていないのは、わかっている人の中に、音楽愛が強い人が少ないからだと僕は思っている。
 僕は大学をほとんど行かずに、自分で音楽事務所をつくって、ずーーっと音楽に携わる仕事をしてきている。当たり前のように僕の人生と音楽は不可分な存在だ。業界団体の理事をやらせていただいた経験もあり、日本の音楽ビジネスに対する危機感の強さは誰にも負けないつもりだ。ただ、簡単に変われない理由もわかっているので、業界外の人たちと連携して改革しようというのが2011年頃からの僕の活動だ。

 「日本の音楽ビジネス生態系を再構築して、魅力的なものする」

 僕のすべての活動はそこに集約されている。スタートアップを支援するアワード(START ME UPAWARDS)も、作曲家を育成するセミナー(山口ゼミ/CWF)も、大企業の新規事業やベンチャーへのアドバイザー業も、エンターテックのイベントやメディアの企画(TECHS)も、SXSWでのJAPAN HOUSEも、全てそのベクトルでやっている。その中心にあるのが、「ニューミドルマン・ラボ」だ。


ニューミドルマン・ラボの目的は、

時代の変化に合った(できれば先取りした)、
次世代の音楽ビジネス(という領域自体を疑いつつ)を
再構築する方法を考え、実践していくこと。

 冒頭に書いた、自明となっている近未来については、2015年秋に出した『新時代ミュージックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!』(リットーミュージック刊)で書ききっているので、興味がある人は読んでみて欲
しい。そして、そこから1年半経っても、事態は緩やかに進んでいるだけで、想定外のことは何もない。「ニューミドルマン」を最初に提唱した田坂広志さんは「未来は予測はできないが予見はできる」とおしゃっている。ストリーミングサービスでどの会社が勝つかは予測できないけれど、音楽消費の主流がオンデマンド型ストリーミングサービスになること、そのプラットフォームはグローバルサービスであることは確定的、というのが予見で、概ね外れることは無いグローバルな流れだ。


 ここに日本の特殊性が加わる。2020年までは変化せず、2021年に大変動が起きる、という予見も、まあよほどの天変地異でも無い限り外れないと思う。このことは、元旦のブログ「独断的音楽ビジネス予測2017で詳しく書いたので、興味のある人はそちらを読んでほしいけれど、大まかに言うと、有効性を失いつつある既存の仕組みが、五輪景気で温存されて、その分の反動が2021年に起きるということだ。これは日本の多くの産業に当てはまることだけれど、特にエンタメビジネスには顕著に起きるだろう。
 インターネット以降に社会と文化と産業に起きている変化は、本質的で不可逆的なものだ、それを認めたくない、見たくない人と、ポジティブに対応する人で全く違う未来が見えているのが今の時代だ。

 その変化を音楽ビジネス関連でまとめれば、

・クラウド化=アクセス権型ビジネスの伸張(複製権ベースの著作権法の限界)
SNSのインフラ化=ユーザー間コミュニケーションの可視化
・市場のグローバル化=国内型モデルの限界
IoT化=人工知能、ロボティクスがコミュニケーションの中心になる

 というようなことだ。


 そして、この変化に伴いビジネスルールは全面的な改訂が必要だけど、音楽そのものの価値は、むしろ高まると僕は信じている。コミュニケーションを促進し、時に強い熱狂を、時に人生を変えるほどの内省を呼び、多くの人と言葉やグルーブや空気を共有する体験は、SNSなデジタル時代にその価値が上がる。
但、もちろん音楽の中身も変容する。電化(トランジスタ)によってロックミュージックが生まれたように、テクノロジーの進化が表現にも大きな影響を与える。例えば、今はVRARと呼ばれている分野の一部は近い将来、音楽と融合すると僕は睨んでいる。「音楽」と呼ばれる事象が拡大していくのだ。

 ここまで読んで共感してくれた人とは、確認したいことが一つある。何が目標で、誰が仮想敵かということだ。
 僕らの目標は、21世紀の日本人が持つ優位性を理解して、日本の文化に根付いたクリエイティビティを活かして、グローバル化した市場で勝つことだ。今、きちんとやらないと、10年後日本の音楽そのものが保護対象の伝統工芸品になってしまう。
 グローバル市場で「人気者」になること(これはコンテンツ輸出とニアイコールだ)と、インバウンド促進で国に貢献することが、今、日本で音楽ビジネスに携わる者が目指すべきことだ。

 仮想敵としてベンチマークすべきは、旧既得権の日本企業ではなく、アマゾン、グーグル、アップルなどの音楽をツールとしてプラットフォームを広げているグローバル企業だ。そしてこの仮想敵への対抗には世界中の音楽家、様々なクリエイター、音楽ファン、
起業家などと共闘が可能だ。
 ただ、あくまで「仮想」敵であって、退治しようとするのではなく、自覚的に対峙するべき対象だ。「敵かもしれない」くらいの警戒心が必要だというのが僕の本意だ。

 ニューミドルンラボでは、既に自明である現状分析、近未来の予見を総論的に共有した上で、各論を議論していきたい。
 そして、各人がやるべきことを見つけて、連携していきたい。2021年まで時間はある、とも言えるし、時間は無いとも思う。
  3年前に始めた「ニューミドルン・ラボ」養成講座第6512日から始める。この講座のモットーは、

・インタラクティブ (一方的に受け取って何かを教わるのでは無く、一緒に考えていく)
・クリエイティブ (ビジネス構造の変化を本質的に見抜いて、新しい方法を考える)
・プラクティカル (机上の空論では無く、行動していく)

 の3つだ。

 今回は、世界的DJの沖野修也にお金の稼ぎ方を訊き、ベストセラー「ヒットの崩壊」の柴那典と崩壊後のことを話し合い、カワイイカルチャー旗手のASOBISYSTEM中川悠介とクールジャパンの真相をえぐり、8年ぶりの宇多田ヒカルの作品を大ヒットさせた梶望に、2017年のプロモーションの秘訣を教わり、All Digital Musicのジェイコウガミに世界の音楽サービズの現状を教わり、CAMPFIREを支える二人の女性(矢島由佳子+鳴田麻未)と音楽とクラウドファンドの未来を考えるという内容だ。もちろんこんな講座、どこにもない。 
 ファーストコールのゲスト講師から全員OKをもらえて、ものすごく感謝しているし、僕自身、とても楽しみにしている。
 是非、この場に参加して欲しい。新たな出逢いを楽しみに待っている。


2017年2月6日月曜日

JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理

JASRACが音楽教室から著作権を徴収するというニュースが出て、ネット上で話題になっている。 


 アーティストやクリエイターから反対の声も上がっている。



 作詞家作曲家や音楽出版社からJASRACに管理が信託されている楽曲については、アーティストの個別の希望を反映することは制度的にできないけれど、アーティストやクリエイターの発言には影響力がある。

 一方で、JASRAC関係者からも発言もあったようだ。

 いつものことながら著作権のことになると誤解や思い込みによる言説も多いので、僕なりにポイント整理したい。JASRACはネット界隈でパブリックイメージが悪すぎて、正当に評価されていない部分もあり、擁護したい部分もある。

 僕なりにまとめた論点は以下だ。

1)少人数、しばしば1対1の音楽教室で「演奏権」を適用するのが適切か?

 狭く捉えれば、この件のポイントはここになる。ただ法律論になると思うので、弁護士などの専門家の見解を待ちたい。個人的には、無理筋な印象を持っている。

2)音楽教室の音楽ビジネス生態系の効用を認識しているのか?

 当たり前のことだけれど、音楽はファンがいてはじめて成り立つビジネスだ。楽器の演奏を習っているユーザーは、音楽好きが多いだろう。その世界に制約を課すことが音楽ビジネス生態系を俯瞰して見た時に本当にプラスなのか?
 また、例えば音楽教室の先生がJASRAC管理外楽曲を選んで指導することになった場合のJASRAC会員へのマイナスなどへの想像力はあるのか?
 このまま強行すると、クラシックなどの著作権切れの楽曲と、JASRACに預けてない楽曲を選んで音楽教室が行われることもあり得る。縛りすぎると、使われなくなるという構造は理解しておくべきだろう。

3)演奏権の徴収分配がJASRAC独占で、高い手数料が放置されている。

 実業者としては、これを一番強調したい。カラオケとコンサートをセットにしてか信託できず、JASRACが独占状態で高い手数料(23%)が据え置かれているのは大問題だ。JASRACの論理は、田舎のレーザーディスクカラオケの事業社からまで徴収しようとしてコストが掛かっているみたいな話なんだけれど、それなら、通信カラオケ事業社(もう第一興商とエクシングの2社しか無い)の案件の徴収だけに絞るとか、コンサートは自己管理するとかいう「メニュー」を用意するべきだ。
 昨年合併してできたNexToneがまもなく演奏権も取り扱い始めるだろうから、そうすれば解決する方向にいくだろう。JASRACが今の著作権使用料規定を続けるなら、まともな音楽事務所は、演奏権をJASRACの管理から外すことを選ぶはずだ。
 演奏権に関しては、それほど多額になるとは思えない「音楽教室に手を付ける前にやることあるよね?」というのが、一般的な音楽業界人の感覚だろう。

4)JASRACは21世紀のビジョンがあるのか?

 音楽著作権は、既に国際競争が始まっている。音楽視聴がAppleSpotify、グーグル、アマゾンなどのグローバルプラットフォーマーが中心になっていて、おれまでの国ごとの著作権徴収分配という仕組みが、時代遅れになり始めている。有料ストリーミングサービス、ネットラジオ、YouTubeなどサービスの形態ごとに、著作権と著作隣接権(レコード会社やアーティストの権利)の料率が違うこともあって、パワーゲームでの戦いが実は既に始まっている。そんな中で、日本人の音楽をきちんとビジネスするために、海外でも稼げるためにやるべき課題は大きい。シュリンクする国内市場で「新商品」を無理くり作ろうとするJASRACの姿勢は、「経営的な」視野の狭さを感じて残念だ。

5)著作権信託とは「信じて託されている」という意味

 前述の外部理事の方も、発言自体は正しいけれど、全体的なトンマナに大きな欠如を感じる。それは、JASRACは著作権を「信託」されているという事実だ。信託とは、「信じて託する」という意味で、JASRACに預ければ、正しく徴収し、分配するという信頼があったから、これまで多くの音楽家は楽曲管理を託し、事業社は使用料を支払ってきた。3年に一度(※注)しか変更できないけれど、JASRACから管理を外すことはできる。音楽家と音楽ファンから信頼を得ないと、作詞作曲から信じて託されることがなくなる(管理楽曲が減る)ことを知るべきだろう。今回の騒動は、現在のJASRACの方針にそういうリスクがあることを示したと思う。
 そもそもJASRACの理事会は、2/3が作詞家作曲家が務める(1/3は音楽出版社)高齢作家の方が多く、意思決定が保守的になりがちな構造を持っている。1939年設立だから、インタネットなど関係ない時代に作られたルールが積み重ねられている。著作権徴収分配を「取れるところからできるだけ沢山とって、アンフェアにならない程度に大体で分ける」というカルチャーを持つようになった理由は理解できるが、もう時代が許さない。全曲報告で完全透明な分配ができないなら徴収しないくらいの姿勢(合併前のJRCは実際そういう方針だった。)がないと、今の時代は支持をされないだろう。JASRACのネットユーザーの不信の根っこには、分配が完全透明でないことに起因している。

 JASRACには歴史的に大きな功績があるし、力が弱くなることは日本の音楽家、音楽ファン、音楽ビジネスに携わる者にみんなにとってマイナスだ。時代にアップデートした戦略的視点を持たないと自らが衰退するという危機感をJASRAC関係者は持ってほしい。

●ニューミドルマンラボ
 最後は告知。次世代の音楽ビジネスの活性化と人材育成のために、僕が継続して取り組んでいるいるのがニューミドルマンラボだ。4月1日には、ジェイコウガミ(音楽ブロガー / All Digital Music)、柴那典(音楽ライター / 「ヒットの崩壊」著者)、梶望(ユニバーサルミュージック / 宇多田ヒカル、AI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデューサー)の3氏を迎えた座談会を予定しているので、興味のある人は足を運んで欲しい。間もなく情報公開予定なので、このサイトでチェックしてください!


追記(2017年2月8日):JASRACからの管理変更は3年に一度に変更になっているとの指摘があったので、訂正します。
また、演奏権の手数料に関してもご指摘ありましたが、規定では26%ですが、実効料率は23%と記憶していたので(こういうわかりづらさもJASRACのよくないところですね)書いています。正確な情報をお持ちの方がいたら教えて下さい。

2017年1月2日月曜日

2016年のエンターテックニュースTOP20+α

 ブログはできなかったけれど、毎週月曜日の無料メールマガジン「音楽プロデューサー山口哲一のエンターテックニュースキュレーション」は、おおむね毎週発行できた。
 2016年のエンターテック関連のニュースから1年間の極私的TOP20+αを紹介した、よければまぐまぐから発行しているメールマガジンも読者登録をお願いします!

<第1位>
●ノーベル文学賞にボブ・ディラン氏 

 ニュースが多かった今年ですが、今年のNO.1は、何と言ってもこれでしょう。歴史に残る大事件ですね。文学というカテゴリーでポップミュージックのシンガーソングライターが最高の栄誉を得たことになります。びっくりですね。

 日本の純文学界の系譜と無縁だった村上春樹が取るのも日本の芸術史的に事件ですが、ボブ・ディランは世界史レベルですね。この後も表彰式を欠席するなど話題を振りまきました。ノーベル賞授賞式より優先される「先約」って何なのでしょうか?知りたいですね。
 そして、こんなニュースもありました。ストリーミングサービスでの楽曲の再生回数が、注目度に関する新たな指標になっています。再生回数がオープンなのもSpotifyの良いところです。
・ボブ・ディランのSpotify再生回数が500%アップ。ノーベル文学賞受賞を受けて

<第2位>
●音楽配信のSpotifyが日本参入。広告付き無料版と月額980円の有料プラン

 苦節4年という感じですか、やっと真打登場です。素晴らしいプロダクトなので、必ずや日本の音楽市場を活性化に貢献してくれると思います。 関係者の皆さん、まずはおめでと
うございます!!
 Spotifyの登場でやっと日本の音楽サービスも世界標準になります。日本の音楽市場を活性化してくれることは間違いないです。

<第3位>
●ピコ太郎「PPAP」が米ビルボード77位 松田聖子以来26年ぶりの日本人トップ100入り

 驚きました。YouTubeの破壊力ですね。ただ、今回も様々な形の「カバー」が伝搬力になりました。時代性を感じます。
 YouTubeの再生回数だけでは広告収入の分配があるだけですから、これからピコ太郎がどんな活動をしていくのか注目です。アメリカの地上波TVに進出とかなら面白いですね。
・ユーチューブ:PPAP年間世界2位 日本人歌手で初
 素晴らしい!ですが、 過剰評価せずに、このラッキーな現象をピコ太郎がどんな風に戦略的に活かしていくか、注目したいです。

<第4位>
●クラブ終夜営業 23日からOK 

 偉大なる一歩。関係各位の努力に最大限の賛辞と感謝を捧げたいです、日本のカルチャーを救った皆さんです。女性が接客するお店とDJが新しい音楽を提供するお店の区別が法律的にできたことには意義があります。
 クラブは、萌芽する前の様々なカルチャーがクロスして新しいムーブメントを産むインキュベーション装置です。都市の魅力を高める観光業とにとっても重要です。日本が観光&文化立国するためにあと10歩位進めないといけませんね。

<第5位>
●BABYMETAL、新アルバムが米配信チャートで一時3位

 アメリカでは日本と違って、ストリーミングに押され始めているとはいえ、iTunes Storeは、デファクト的な存在で、メジャーなサービスですから、この総合チャート3位は本当に立派ですね。
 BABY METALの成功は、2つの文脈をまとめたことにあると思っています。一つは、いわゆるクールジャパン。日本のポップカルチャーの一つであるアイドルという流れ。もう一つは、メタルロックの流れです。
マイナージャンルは、グローバルに繋がりを持っています。そのグローバルニッチな音楽ジャンルのファンからもBABY METALは支持されて、大きなロックフェスにも招聘されています。プロデューサー陣の「メタル愛」が本場のマニアにも刺さったということなのでしょう。
 2つの文脈を掛けあわせることで、「現象」となりますし、メディアも取り上げやすくなります。ビジュアル系のバンドが海外進出が多いのも同じ理由です。
 日本人アーティストの海外進出の成功方程式として、ブローバルニッチジャンル×クールジャパンというのは意識していきたいですね。

<第6位>
●米スナップチャットが非公開ベースでIPO申請-関係者 

 おそらくsnapの経営陣が見ているのは、「スマホの次」のコミュニケーションプラットフォームでしょう。写真が消えるという発想は斬新でも、snapchatだけなら、ラッキーパンチと言えます。でもメガネにカメラ仕込んだSpectclesは面白い、これが当たれば、見晴らしが悪いウェアラブルの分野で抜きん出る可能性があります。
プロダクト開発センスは抜群なので、期待しています
・Snapchat、Spectclesメガネの自販機をグランドキャニオンに設置 
 これもイケてる施策。
・Snapchat、Twitterをデイリーアクティブユーザー数で超える、Bloomberg報道
 Snapchatの勢いを感じさせると同時に、Twitterの停滞感を示すニュースですね。
 写真やメッセージが自動消滅するのが特徴のSnapchatはアメリカで若者を中心に大人気で、日本でも広まり始めていますね。

<第7位>
●Google翻訳,ニューラルネットワークが導入されて精度が大幅上昇 

 びっくりしました。久々に技術の進歩に痺れた気がします。英語力が足らない人にとって、少なくとも英語の勉強の仕方が変わりますね。
 ワープロが普及した時に、漢字の書き方を覚えなくても読めれば大丈夫になった、というのと似ている気がします。翻訳しやすさを意識ながら日本語を書いて、出てきた英語をチェックするというやり方で、英文メールはほとんど問題無さそうです。単語のニュアンスとか英語の言い回しはある程度知見が必要ですが、英作文的な勉強はだいぶすっ飛ばせる印象です。
 英語のメールがストレスだった僕にはめちゃめちゃ朗報です。そのうち、カンファレンスの同時通訳もgoogleになりそうですね。マジで、久々に痺れる技術の進歩です。しかも超助かります。

<第8位>
●HTCは自社のVR技術とハードウェアを2017年までにアジアの“数千の”ゲームセンターで展開する
●HTC、巨大VRアーケード「Viveland」を台湾にオープン

 VRは中華圏で広がっていきそうな様子です。派手好きで新しもの好きで、資金が潤沢な中国人たちがVRを牽引しそうです。コンテンツ力、企画力を活かしつつ、プラットフォームを牛耳られないように、日本企業も頑張って欲しいです。
 ゲームの分野、特に家庭向けではプレステVRが優位な展開はするはずなので、そこを活かしたいですね。HTCの動きも、スペックの高さを活かして、家庭内ではなく、街中を主戦場にしようとしているように見受けられます。アーケードゲーム系の企業には脅威ですね。

<第9位>
●radiko、過去番組のタイムフリー聴取とシェアラジオの実験を開始へ

 あまり話題になっていませんが、素晴らしいニュースです。時代にあったテクノロジー活用の体験を提供してくれますね。
 Radikoの伸長は、だめになったのはラジオ受信機による聴取という行動であって、コンテンツとしての番組は価値があるということを証明してくれていますね。

<第10位>
●世界の最重要「音楽フェスティバル」 3位にフジロックが選出 

 嬉しいニュースですね。フジロックは本当に素晴らしいフェスティバルだと思います。インバウンドにも、もっと活用したいです。

<第11位>
●売上はすでに約1億円以上か!?『ポケモンGo』、米国アプリランキングで1位獲得 
●「Pokemon GO」、iOSで平均使用時間が「Facebook」や「Twitter」を上回る

 アメリカでポケモン旋風が吹き荒れています。このゲームの大人気がAR(拡張現実)を一般化するのでしょう。日本のキャラクターの強さとGoogleのネットワーク技術力の融合ということでしょうか?
 もしかしたら日本のコンテンツがグローバルに勝つ時のパターンとして捉えるべきのか?そんなことを考えています。個人的にはPokemon GOの画像を観ると6年前のセカイカメラを思い出します。

<第12位>
●逃げ恥「恋ダンス」の踊ってみた動画、YouTube上のアップが公式OKに

 このニュースを「ビクターの英断素晴らしい!」と一瞬でも思ってしまうのは、日本の音楽業界に毒されているのだと反省します。グローバル基準では、ユーザー動画を誘発しつつ、話題とともに広告収入を得るのは当然のことですね。
 ドラマの終了後も星野源のアーティストPRのために、許諾を継続することを望みます。

<第13位>
●ゴールデンタイムでNHKが視聴率1位。テレビは新しい局面を迎えている。

 これはびっくりしました。けれど、ここから読み取るべきなのは、「世帯視聴率」、「ゴールデンタイム」という概念が既に指標としてあまり意味がない、少なくともTV局の編成や制作を決めるための最大のポイントではなくなっているということを関係者が認識するべきことだと思います。
 大企業の宣伝部、広告代理店、TV局の営業、編成、経営陣などが、時代に即したビジネススキームにむけて真摯に再構築することが、必要なのでしょう。
 それにしてもフジテレビ黄金時代の視聴者としては、落ち込みの激しさに驚きます。

<第14位>
●世界で最も魅力的都市は?1位東京、2位京都 米旅行誌
●都市総合力 パリ抜き東京3位  

 都市ランキングには様々な指標がありますが、東京の評価は高いですね。東京五輪までは放って置いても注目はあがっていくでしょうから、問題はその後ですね。
 2020年までに日本人のマインドや、決済や外国語での説明や、その他様々な仕組みを「観光立国」モードにすることが必須です。

<第15位>
●自動運転タクシー 2020年までに実用化へ

 国際水準で見て、スピード感のある判断ですね。良いと思います。東京五輪に間に合わせましょう。渋滞解消やWifi環境整備などもセットでやる必要が出てきます。国際都市としてTOKYOのデジタルインフラ環境が良くすることは大切ですし、都市のブランドとしても、自動運転タクシーをいち早く実現することは意味があります。
 既存の運転手の雇用は問題になるでしょうが、日本の発展のためには、既得権を守る方向にいってはいけません。ロボティクス(ロボット工学)とデータ分析(人工知能)が進化した時に、人間がやるべきことは何なのか、社会全体で考えるべき時代になっています。日本は移民の代わりがロボットという国になるのかもしれませんね。

<第16位>
●人工知能作品に「著作権」 音楽や小説など、政府知財本部方針 

 まだ産業規模も商品形態もわからない状況ですが、この段階で政府が方針を出したことを高く評価したいです。
 僕もAI作曲のプロジェクトに関わってみたいと思っています。

<第17位>
●サイバーエージェント、AbemaTVが1日1000万視聴、WAU100万超と好スタート! 藤田社長「事業化に確かな手応え」

 UGM型ではない、「ユーザー受身形」の動画サービスとして、「LINE LIVE」と「Abema TV」の対決という様相になっていますね。スマホ世代を取り込めると地上波テレビ以上の影響力を持つようになるかもしれません。大注目です。
 スマホ時代のUI/UX設計については、他のIT企業と比べて、サイバーエージェントが優れている印象があります。藤田社長が若手社員への権限委譲をしているのが功を奏しているのでしょうか。

<第18位>
●ドコモiモードケータイ出荷終了に思いを馳せる〜3分で振り返るケータイ文化〜

 Appleがグローバルに築き上げた、iTunes、AppStoreの生態系は故ジョブズがiモードをベンチマークして考案したと言われています。スマートフォン時代のプラットフォームの勝者です。NTTドコモにもチャンスがあったはずと考えると郷愁だけでは終わらせられないですね。

<第19位>
●アマゾン読み放題、人気本消える 利用者多すぎが原因?

 ひどい話ですね。権利者も読者も無視したプラットフォーマーの横暴です。新しいサービスを始める際にサービス事業者が守るべき最低限の信義に反しています。
 同時に、収益のほとんどを投資に充てて、赤字を厭わない経営方針のAmazonが、こういう動きをするということは、電子書籍読み放題サービスの優先順位や期待度は低いのかなと思いました。
 ちなみに、拙著も6冊ほど読み放題サービスに出ていたのですが、このタイミングで4冊が取り下げられていました。一応、人気本のカテゴリーに入ったのかって、何も得はないのに、ちょっと嬉しくなってしまいました。複雑なクリエイターの気持ちが少しだけわかった気がしました。

<第20位>
●安倍マリオ、海外の人たちが大喜び「こんなすごい光景見たことない」【リオオリンピック】 

 2020年の期待を高める演出でしたね。違和感を表明する人も居ましたが、賛否両論でも話題になる方がメリットがあるのがSNS時代です。業界人視点だと、正直「電通色」を感じてしまう部分はありますが、ポップカルチャーを全面に出して、日本をアピールする姿勢はとても良いと思いました。

<And More>  
●ハイスタ16年半ぶり新作ゲリラ発売 事前プロモ一切なしで配信時代に対抗

 話題になっていましたね。ストリーミング配信やSNSの活用に注目が集まる時代に、敢えて事前プロモーション無しで店頭にCDを置くことから始めるというのは面白いやり方です。
 もちろんご本人たちの思想の表現でもあると思いますが、僕が感じたのは強運です。時代の流れは感じられても、Spotifyの日本開始日を予測するのは不可能ですから、この絶妙のタイミングは、話題性として効果抜群です。
 成功するアーティストは「思想性×強運」が必要だし、持っているのだなと改めて思いました。

●Google脱税容疑 パリ支店捜索 

 グローバルにビジネスを展開していると、税金をどの国に払うかは、収益を残して再投資に充てためのテクニックになりますね。
 善悪論というよりは、アメリカ系グローバル企業対EU各国の戦いという見立てで分析して、日本も参考にするべきだと思います。

●Uber China と Didi Chuxing が統合される: それはタオルを投げ入れることに等しい? 

 共産党政府との関係性が重要になる中国でのインフラサービスですが、Uberは中国の同種サービスの会社と合併というのは、中国らしいできごとですね。中国人がしたたかなのか、Uberが賢いのか、「狐と狸の化かし合い」という感じもします。同床異夢でも儲かれば良いということなのでしょう。
 日本も対岸の火事ではありません。欧米系プラットフォームとのタフなつきあい方は中国から学ぶこともありますし、中国でのビジネスチャンスを逃さない姿勢も重要ですから。

<社会編>
●総人口初の減少 15年国勢調査 

 随分前から言われていましたが、実際のデータが遂に出ましたね。日本人の人口が減り始めたのです。これは大事件です。
 科学の進歩で平均寿命は伸びていくので、出生率向上が政治的には日本最大の課題ですね。移民の問題は置いておくとして、エンタメ、コンテンツ業界的には、日本市場だけ向いていられる時代は終わったことをシビアに確認するべきですね。

●EU離脱、イギリスはどうなる? 数日後、数カ月後、数年後のシナリオ

 エンターテックの話ではないですが、先週は文句無しにこれですね。ベルリンの壁崩壊以来の世界史的な出来事ではないでしょうか?イギリス国民の今回の判断の是非は歴史に委ねるしかありませんが、目先のボンド安円高などではなくロングスパンで捉えるべきですね。 スコットランドはUKを離れてEU加盟を目指すしょうし、ポンドとユーロの影響力源など、広範囲で、長期的に大きな影響が予想されます。
 日本人として、為替や株価など経済的なことだけではなく、自分たちの問題として捉えるべきと思っています。英国と日本の相違点ではなくて、共通点から考えてみることです。例えば、中国かシンガポールが経済の覇権を握って、ASEANまで取り込んだ、元(ないしシンガポールドル)経済圏を作る動きが出た時に、日本はどうあるべきなのでしょう?アジア経済圏を活性化しながら、日本の存在感を上げていくべきと僕は思いますが、今回の英国民の判断が正しいなら、違うことになりますね。沖縄問題とスコットランド離脱の相似性など、日本人にとっても他人事にはできない事件です。
⇒この件については、ブログも書きました。こちらもご覧ください。
イギリスのEU離脱は、日本人にとっても他人事じゃないよね


●トランプ氏が当選確実、クリントン氏を破る

 単純に投票数を足すとクリントンの方が多かったというデータも出ていて、選挙制度自体の問題も感じられる出来事でした。
 政治経験の無いトランプ大統領がどんな政策をとるかはまったく不明で、極端な悲観論も、安易な楽観論も禁物だと思いますが、国際社会全体がきな臭くなっているのは間違いないと思います。
 2016年僕が感じたのは、自分が生きている間に日本という国が戦争する可能性があるということ、裏返せば、これまで無自覚に戦争の可能性が無いと思っていたことに、気づきました。有識者によると、今の国際情勢は第一次世界大戦前に似ているそうです。

<残念編第1位>
●DeNAが健康情報サイト「WELQ」の広告販売を停止 
 
 がっかりする記事でした。上場企業の危機管理としても非常に稚拙だったと思います。プロ野球チームの経営まで成功させて、携帯ゲーム会社という狭いカテゴリーから脱出した経営力が評価されている会社だけに本当に残念です。DeNAにはIT企業の機動力、世の中を見る目と大企業の公共性を両立させてほしかったです。
 もう一つ思うのは、PV(ページビュー)至上主義の問題点です。極端な低コストでコピペ的な記事を投稿さえて、SEOだけ充実させて、PVを稼ぐという手法は自らのメディア価値を下げていく負のスパイラルで自殺行為だと思います。
 世帯視聴率至上主義で影響力を失っていった地上波テレビの二の舞いにならないように、ユーザーとのエンゲージメントを重視したウエブメディアを作って欲しいと思います。 
  今回の不祥事は、上場廃止になりかれない危機だという認識が必要でしょう。

<残念編第2位>
SMAP解散は「極めて残念」 菅官房長官がコメント 「特別なオンリーワン」と活躍期待

 アイドルグループの不合理な解散について、政治家が発言するのは、気分悪いです。SMAP事件は、「40代の意思決定を80代がOKしないと通せないのが日本」だというのが僕の総括です。憂鬱な気分になるはなしばかりでした 。
 個人的には、素晴らしいJポップであるSMAPのアルバムがもう作られないことがとても残念です。

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2017年1月1日日曜日

独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜

 新年明けましておめでとうございます!
 
 見事なくらい更新が少なかった本ブログ。メールマガジン「音楽プロデューサー山口哲一のエンターテック・ニュース・キュレーションは、ほぼ毎週出したし、3月から11月までは、TokyoTech Street」というネットラジオ番組もレギュラーでやったから、情報発信はできたつもりだけれど、なかなかブログまでは手が回らなかった。ごめんなさい。

 毎年続けてきた元旦の「独断予測」は今年もやります。まずはいつものように、昨年の答え合わせから。

(予測1)
サブスクリプション型ストリーミングサービスの有料会員は200万人超へ

⇒オンデマンド型のストリーミングサービスは、日本では、Apple MusicGoogle Play MusicLINE musicAWAKKBOX、そして12月からやっと始まったSpotifyと6社ある。どこも日本での有料会員数は発表していないので正確にはわからないけれど、各所からの情報を集まると、おそらく150万人を超えたくらいかなと思う。Spotifyが夏に始まってくれれば200万人超えていたと思うけれど、当たらずとも遠からずという予測結果になっていると思う。

(予測2
●Spotify いよいよ日本サービス開始

⇒御存知の通り、これは正解。僕の読みよりは4〜5ヶ月くらい遅かったけれど、日本法人を作ってから4年と随分待たされたけれど、やっとSpotifyが日本でもサービスを始めた。欧米とは多少設定が違うけれど、フリーミアムモデル。無料でも一定のサービスが楽しめる形だ。使ってみればすぐに感じると思うけれど、音楽オリエンテッドでとても良くできているサービスだ。やっと日本の音楽消費が世界水準になって、ホッとした。Spotifyの存在を前提にした様々な音楽サービスも出てくるだろう。日本のスタートアップに期待したいし、できることがあれば積極的に応援したい。
 アメリカで老舗のNapster、フランス発で世界3位のDeezerの大手2社も日本でのサービス開始を準備中で、2017年には始まる可能性が高いと聞いている。オンデマンド型ストリーミングサービスの百家争鳴という感じだけれど、同時に、合従連衡も始まっていくと思う。

(予測3)
インターネットラジオが一般化する

⇒これは当たったかどうか、半々というところだろうか。楽天がネットラジオのプラットフォームとしてRakutenFMを開始し、TOKYO FMidioと連携するなど注目は集めたけれど、一気に普及とまでは言っていない。
 ただ、radikoが始めたシェアラジオは注目だ。放送エリア外のラジオ番組が聞ける有料会員も着実に増えているし、放送後に誰かがシェアしたら番組が聞けるというのは、魅力的だ。ラジオ受信機の価値は落ちても、コンテンツとしてのラジオ番組にはユーザーの支持があることを証明している。

(予測4)
●VR映像とライブエンターテインメントの融合が本格的に始まる

VRについては、やはりまずはゲームに注目が集まっている、おそらくアダルト映像、エロの分野が売上的にはとても大きくなるだろう。でも、ゲームセンターがVR化している現状は、エンタメ分野にも大きなチャンスだ。実際、昨年は、宇多田ヒカル、きゃりーぱみゅぱみゅなどが、360度映像の配信を行った。この予想も概ね外れないと言わせて欲しい。
 個人的には、2016年はポケモンGOの大ヒットがARを一般化した記念するべき年だ。プロデュサーとしての仕掛けところが「早すぎる」と業界で言われることが多い僕だけれど、大注目だった「セカイカメラ」と組んでアーティスト&楽曲PRをした渋谷で恋するメッセージ―AR恋文横丁―」企画は、2010年の1月に発表しているので、6年以上、早過たということになる(汗
 思い出して検索してみたら、ソフトバンクからのプレスリリースが見つかって、感無量だった。こんなことやってたということで、見てみて下さい!

 さて、答え合わせが終わったところで2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、

1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。

2)   パッケージは微減しながらも健在

3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく

といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 ざっくり言うと、レコード売上については、2020年までには、デジタル配信とパッケージの比率が半々くらいになるだろう。配信のほとんどはサブスクリプション売上になる。売上総額が3000億円位まで落ち込むか、5000億円位まで伸ばせるか、その間というのが僕の感覚だ。
 コンサート市場も日本人だけが対象だとそろそろ頭打ちになるところだけれど、訪日外国人観光客が2000万人を超え4000万人になるというインパクトは大きい。全体の20%位まで訪日外国人比率を上げられれば5000億円も夢ではない。
 お正月ということで楽観的に語らせてもらえば、併せて1兆円が音楽産業の国内市場で、あとは輸出がどのくらいできるかというのが概観だ。2017年はそのプロセスということになるだろう。

 昨年も書いたけれど、2020年までの日本の経済の流れは概ね上向きに進むと思う。安倍政権も続きそうだし、首相が代わることになっても、政策的に大きな変更は無さそうだ。
 但し、これには功罪ある。オリンピック景気で、2020年までは従来型の仕組みが維持される。象徴的に言うと、地上波テレビは世帯視聴率を基準に大企業の宣伝費を電通が制御して番組が作られるだろうし、レコード会社もおそらく1社も潰れないだろう。本来、行われるべきな構造的な変化は、全て2020年までは先送りされる。
 ついでに言うと、日本の芸能界の構造も維持される。大騒動となったSMAPの解散を一言で総括するなら、「40代の意思決定に対して80代が認めないと通らないのが日本」ということだ。政治家まで残念とか言っていて意味がわからない。本当に憂鬱なニュースだった。
(個人的には、音楽的クオリティが高い良質のJポップがつくられるSMAPのアルバムがもう制作されないことが、凄く残念だ。)

 日本の大きな病巣の一つは、70代以上の重鎮にデジタル社会に対する見識がある方がほとんどいらっしゃらないことだ。特に芸能界、メディア業界は悲惨だ。日本の芸能界、メディア業界、音楽業界などの仕組みは、今の70代以上のみなさんが戦後に苦労して作られたもので、僕らはその土俵の上でやらせてもらっている。なので、先達への尊敬と感謝は、日本人的なマインドも含めて、決して忘れてはいけないと常々思っている。ただ問題は、重要なところで意思決定をする立場の人が、デジタル化、クラウド化、SNS化、人工知能の進化、ビッグデータ解析等々、社会の本質的で不可逆的な変化に対して、無知で不勉強なことだ。そして、おそらく2020年東京五輪までは現役でいたいと思っていらっしゃるだろう。それは誰も止められない。でもいつか引退の時はくる。
 この2つの意味で、2021年は大きな節目になる。

 それまでの4年間でやっておくべきことは多い。大きく3つ

●データベース構築

 日本の音楽に関するデータベースは内側に閉じてしまっている。著作権などの分配のためのデータベースは精緻に整理されている。ところが、それを例えばITサービス側に提供して、音楽に関する情報を活性化させようという発想は無い。レコード業界は、楽曲データは自分たちのものという感覚で、存在感が低下することを怖れて、極力閉じておこうとしている。コンサートに関しても悲惨だ。コンサート会場に関する共通データベースはない。いまやどんなコンサートがいつ行われたかということ記録に、文化的な価値がある時代なのにもかかわらず、共通データベースは存在しない。5年くらい前に調べた時に、チケットサービス事業社が個々に付番しているコンサート番号は、9ヶ月程度で元に戻ると聞いて、暗澹たる気持ちになった。誰もアーカイブを作ろうという発想が持てていない。記録をまとめて「コンサートミュージアム」があれば観光名所になるだろうに。
 大きな会場が同時に改修してコンサート会場が不足するという問題も、コンサートが日本にとって必要な文化の一部だという社会的なコンセンサスが不足しているから起きていることだ。自分達の記録も残せないようで、社会における価値を胸を張って主張ができるだろうか?
 このままだと、ここでも外資、例えばSongkickが日本のコンサート情報を一番持っているというようなことになりかねない。火急の課題なのだ。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

 著作権に関する法律は、それぞれの国ごとで決まるということもあり、言葉や文化の違いや、主たるメディアがドメスティックであったことなどが理由で、音楽ビジネスはドメスティックな産業だった。インターネットの普及でこの状況は変わってしまっている。SpotifyAppleGoogleなどすべて、グローバルサービスで、契約もグローバルに行うことになる。日本のアーティストが海外で稼ぐためにも、これらグローバルプラットフォーマーと交渉力を持つことと、グロバールになっている流通で戦略的なマーケティングができることは、これからの日本の音楽業界にとって、死活的に重要だ。
 海外市場での著作権徴収については、昨年できたNexToneに期待したい。グローバルエージェントと伍する存在になって欲しい。

●中国市場への本格的な取り組み

 僕は2007年にタイでシンガーオーディションを行って、16歳の美少女と日本人と組合せてSweetVacationというグループをデビューさせた。これもまた「早すぎ」だったのかもしれないけれど、アジアでの取り組みはいち早くやってきたつもりだ。インドネシア人シンガーAiu Ratna日本に何度も呼んだ。ただ、その時のテーマは、「without China」だった。
 著作権遵守の意識が無く、共産党政府の恣意的な政治で物事が決まる、法治ではなく、「人治」社会の中国でのビジネスはリスクが大きすぎて、避けるべきだと言い続けてきた。
 その時代も終わったようだ。象徴的なのは、中国の巨大IT企業テンセントが有料のストリーミングサービスを成功させていることだ。海賊版すら買わないと言われていた中国人が定額サービスの有料会員になるとは驚きだ。
 隣りにある巨大なマーケット。政府の反日誘導などカントリーリスクは相変わらず大きいが、もう音楽ビジネスにとっても避けては通れない状況になっている。訪日外国人観光客も一番多いのは中国人だ。

 これらの状況を踏まえて、音楽ビジネスの生態系を作り直す必要がある。新人開発は日本型クラウドファンディングの普及が鍵だろうし、ファンクラブもソシャゲーの様なオープン型に移行するべきだろう。この辺の処方箋は、拙著『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック刊)にまとめているので興味のある人は読んでみて下さい。
 僕が育った音楽業界には素晴らしいところがたくさんある。パーツとして見れば今でも有益だ。イマドキの言い方で言うと、モジュールとして捉えて、的確に再構築すれば、音楽ビジネスの生態系は息を吹き返すと思う。オールドとニューの融合が肝要だと僕は思っている。

 2021年の大変革に向けて、やるべきことは山積だけれど、まだ4年あるので、しっかり備えていきたい。そんな元旦の抱負にしたい。

 2014年から始めた「ニューミドルマンラボ」は、旬のゲスト講師と共に考える「養成講座」とサロン&ゼミ的に個々の目標を達成するためのフォローアップをする「インキュベーションプログラム」の二軸で続けて、成果が出始めている。今年も継続していくので、コンテンツビジネスについて学びたい人や、起業および転就職を考えている人は、受講を検討して下さい。
 まもなく情報解禁のイベントをフライングで告知しておく。『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)著者でお額ライターの柴那典さん、宇多田ヒカルのヒットで大活躍した宣伝プロデューサーの梶望さん、ALL DIGITAL MUSICでお馴染みの音楽ブロガージェイコウガミさんの3人を招いて、座談会をやります。日程は4月1日の午後帯。ニューミドルマン養成講座第6期のプレイベントしてやるのだけれど、この3人には、第6期のゲスト講師もお願いする予定。詳細は、東京コンテンツプロデューサーズラボのサイトを見て下さい。まもなく情報解禁のはず。


 それから、「テクノロジーで音楽を拡張する」をテーマに始めた、ライブイベント&メディア「TECHS」を今年は強化していきたい。ライブイベントのためにハッカソンを開催するなんて、これまで無かった試みと思う。プログラマー、デザイナー、映像クリエイターなどと同じ目線で、一緒に新しい音楽シーンを作っていきたい。
 TECHS2@六本木SuperDeluxeは214日に行いますでの、ぜひぜひご来場下さい。

 おまけとして、過去の元旦ブログはこちら。同じこと言ってるなとか、日本の動きはおせーなとか思いながら、読んでみて欲しい。





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