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2019年1月1日火曜日

独断的音楽ビジネス予測2019:やっと動き始めた日本デジタル音楽シーン。アジア市場で数値目標を!

 新年あけましておめでとうございます。

 去年は投稿数5と過去最低だった本ブログ、メルマガ[週刊・無料:音楽プロデューサー山口哲一のエンターテックニュースキュレーション]は毎週頑張っているから、許してね(^^)と言いつつ(まだの人は読書登録をお願いします!)、2012年から始めた元旦ブログは今年も書こうと思う。


 から1年たった。2012年から毎年予測と検証をしているけれど、今年はその必要もないくらい「ずっと前から言ったとおりでしょ?」となっているはずだ。興味がある人は見てみて欲しい。
「デジタルコンテンツ白書2018」から
 ただ、実は、去年の春辺りから音楽業界の内部の「空気」はずいぶん変わったと感じた。一言で言うと、デジタルに対するネガティブなムードが無くなった。「変わっているんだよね」「もうそうなるよね」という風に誰もが思うようになった。「空気」っていう言い方もファジーで申し訳ないけれど、「ムラ」的な社会である「業界」では、集合意識的なものがあって、それによって、促進されたり、ブレーキが掛かったりする。日本的な特徴なのだろうけれど、去年までは、僕ら(敢えて言うなら「改革派」の人たち)が海外事例やロジックを尽くして、どんなに説明しても。「とは言っても日本はむにゃむにゃむにゃ」「いろいろなことが絡んで難しいよね。だってさ、、、、。」みたいな非論理的な抵抗を感じることが多かった。1年前のブログのサブタイトルに「メゲずに吠えるぜ」ってなっているのは、自分を鼓舞してたんだと思う。それが変わった。こういうのが空気なんだと思う。

 空気が変わるのにも理由はある。一つは日本のデジタル市場が一定の規模になってきたこと。2017年の数字は約940億円。そして2018年1月〜3月の下半期ではストリーミングがDL市場を抜いたとの情報もでた。パッケージは頑張って、CD と音楽 DVD を合わせで2,964億円 前年比94%だけど、長期低落は免れないから、デジタルを重視しなきゃねということになったようだ。詳細は知らないけれど、2011年設立のTuneCoreJapan社長の野田君が「音楽関係者の僕らへの態度が明らかに変わって、逆に提案をいただけるようになりました」と言っていた。音楽配信サービスへのアグリゲーション機能をきぞんのかい者を使わずに、誰でもできるようにソリューションとして提供するTuneCoreは既存の音楽ビジネスの仕組みは、大まかに言えば"破壊者側"の仕組みだ。そこに対してポジティブになったというのは大きな変化だ。海外配信サービスに対しての利便性と情報源として有益なことがわかったのだろう。
世界のレコード産業売上推移(IFPIデータ)
 グローバルメジャーレーベル経由で海外市場の情報が届いてることも大きいと思う。欧米ではストリーミングサービスが牽引して音楽市場全体が上昇するというトレンドが完全に定着したし、まだしばらくは続くと見られている。ドラスティックに変化するアメリカ市場は3/4がストリーミングだし、日本に近いと言われて、パッケージ比率が高かったドイツでもデジタル市場が過半となった。ユニバーサルやワーナーというグローバルメジャーは、正確な情報とマーケティングプランを持っている。日本法人には、早くストリーミング市場を拡大しろとプレッシャーを掛けているはずだ。(彼らも数年前までは「日本をCD売れてて素晴らしいね」って言ってたらしいけどねwww)

2018年上四半期米市場(RIAA)
 ユニバーサルミュージックジャパンの藤倉社長が契約社員330人を正社員にしたというニュースには驚かされたけれど、おそらく彼は本社からの情報で、日本市場で自社のシェアを伸ばして、収益増を図る戦略に自信が持てたのだと思う。スマートスピーカーの普及など新しい市場もできていている。(勝手な推測だけれどおそらくは5年くらいの長期契約を結んで、正社員にしたスタッフを鼓舞して、腰を据えて収益増に取り組まれるのだと思う。注目だ。)

 なので、2020年が過ぎるまでは、変革ができないかなと思っていたデジタル音楽市場には、少なくとも「空気」は変わったので、やりやすくなっている。各事務所やITサービスは、レーベルの変化を活かして欲しい。もう邪魔されることはないと思う。TikTokなんて、普通なら権利侵害の権化になりそうなサービスだけれど、ユニバーサル、ワーナー、エイベックスはいち早く原盤も含めて包括許諾しているようだ。これまで原盤権クリアで二の足を踏んでいたITサービスはTikTokという前例をうまく活用しよう。(「中国の動画共有サービスに許諾出してるんだから、日本のスタートアップにももちろんお願いしますよ」みたいなロジックでね(^_-))
 
 さて数年前から指摘している3つの課題
 ●マーケティングに活用できるオープン型の楽曲及びアーティストデータベースの構築
 ●グローバルプラットフォーマーとの向き合い
 ●中国市場への本格的な取り組み 
  については、正直、進捗は遅い。意識を変えることが難しいようだ。

 そこで一つ年頭に提言したい。一気に状況を変えていくために、経産省と業界団体が旗を振って、数値目標決めるのはどうだろう?

 例えば、2025年にアジアの音楽市場で日本の楽曲のシェアを20%にする。

 2025年だとアジアの音楽(レコード産業)市場は1兆円超が期待できる。北米以上の規模になるだろう。ここで2割を取れれば、単純計算で2000億円。日本のレコード市場が倍近くなるイメージだ。しかも今後も上昇が期待できるマーケットでこの数字は大きい。アジアの音楽市場は、ニアイコールでオンデマンド型ストリーミング市場で、売上以外にもライブや越境ECによるMD(アーティストグッズ)など様々な広がりが期待できる。ファンクラブというビジネスモデルは日本特有のようだけれど、アーティストファンのエンゲージメントを軸にやれるマネタイズ方法はこれから増えていくだろう。
 どの国もその国の言語でその国のアーティストが行ういわゆるドメスティック(内国)音楽が市場の5割〜6割を占め、残り4〜5割を洋楽とK-POPとその他アジアの国の音楽が争うことが予測される。その中でアジア市場であれば、J-POP(+アニソン)が一位になっても全くおかしくない。現状は残念ながら2〜3%位だろう。完全に韓国の後塵を拝している。K-POPは若い世代に届くカッコイイポップスを高いクオリティでになった。サムソンや現代といった企業とも連携、政府も後押しする「オール韓国体制」でマーケティング施策も素晴らしい。ただ、多様性という意味ではまだ日本にかなりのアドバンテージが残っている。アジア人に共通する「郷愁感」みたいなのは日本人音楽家が得意とするところだし、幅広い音楽的な情報とレベルの高い消費者を長年持っている日本のポップスの奥行きは世界レベルで見ても洗練されて、深みがある。アニメという日本発のキラーコンテンツとも連携できる。これまでもアジアの各国で日本の曲がカバーされて広まっている事例はいくつもある。「昴」「恋人」などスタンダード化した楽曲も多い。ただ、これまでは偶然でラッキーなことが多かったように思う。現地のアーティストへのカバー施策を戦略的に仕掛けていくのも有効だろう。ストリーミング再生のデータを元に声を掛けることができるので効率的な時代だ。
 これらを上手に活かして戦えば、アジア市場で20%というのは十分可能な数字のはずだ。観光立国になっていく日本の産業振興の視点でも重要だ。インバウンド活性化にエンターテイメントが果たすべき役割を役割は大きい。リピーター増、滞在期間増には、エンタメが貢献できるはずだ。
 関係各位に検討をお願いしたい。

 さて、「テクノロジーとエンターテインメントの幸せな結びつきは新たなカルチャーを創る」というのは鈴木貴歩さんからの受け売りだけれど、AI、VR/AR、IoT、BlockChainと行ったテクノロジーの急速な進展ですべての産業や生活が再定義されるxtech(クロステック)の時代にエンターテイメント分野が果たすべき役割は大きいと思う。時代の気分を醸造し、技術の普及を牽引する役回りだ。そこにスタートアップへの期待が出てくる。

 最後に僕自身の話をしたい。4年間続けていたエンタメ系のスタートアップを支援するプロジェクト、START ME UP AWARDSは去年は行わなかった。理由は実行委員長の僕が単発のピッチイベントに限界を感じたからだ。始めた頃は、エンタメ✕起業というテーマを掲げているものなど何もなかったから存在だけで意義があったけれど、エンタメ関連のピッチコンテストやアクセラレータープログラムが増えてきた中で、もっと踏み込んでスタートアップ育成に関わりたいと思った。
 そんな時にちょうど1年くらい前に世界で「スタートアップスタジオ」という仕組みが世界的に広がっていることを知った。スタジオという由来はハリウッドで、ハリウッドのスタジオがたくさんの映画を作るように、スタートアップを同時多発的に育てていくというコンセプトに惹かれた。コミュニティ形成という僕が近年取り組んでいる方法論と親和性も感じた。
 去年1年掛けて動く中で、エンターテインメント✕スタートアップにフォーカスして、0〜1のところをハンズオンで育成するスタートアップスタジオをやらせてもらえることになった。会社名は株式会社VERSUS(Visionary, Evangelistic, Revolutionary Start-Up Studio)で11月に設立済みだ。エンターテインメントは広く捉えて、食も美容もファッションも対象にする。詳細は1月中には発表するのでそれを楽しみに待って欲しい。エンタメ関連で起業を考えている人は、発表を待たずに連絡ください。

 レコード産業を始めとして、既存の仕組みが有効性を失っているエンタメ分野の業界は多い。仕組み自体を作り直すのは既存のプレイヤーだけででは難しい。スタートアップに好き勝手に頑張ってもらって、既存の仕組みのパーツで有効なものはモジュール的にハメていく。そのバランスを取るのが僕の役目だと思っている。
 
 その時に、忘れてはいけないのは、日本はすでにアジアでのIT後進国になっているという現実だ。一例を言えば「銀行ATMが充実して偽札の心配がないから日本は電子マネーの普及が遅れる」いわゆる「イノベーションのジレンマ」だ。日本はこれまで便利だったことの代償に次のステップへの変化が遅れてしまっている。アメリカだけでなく、中国も先を走っている。おそらく次のイノベーションについてはもう追いつかないだろう。ただ、イノベーションのジレンマはサイクルでやってくる。中国でスマホ決済が広っているので、ユーザー利便性が理想的ではないとQRコードに留まるかもしれない。諦めて何もしないという訳ではないけれど、次の勝負での負けはもう決まっているので、次の次のイノベーションを日本発で起こしていく、概念的にはそんなことだろうと思っている。今からSpotifyには追いつけない(もちろんスタートアップ的にはSpotify生態系を活かしたヤドカリ的な周辺ビジネスにもチャンスはあると思うけれど)から音楽消費のプラットフォームを作るなら、その次の音楽体験は何なのかを考えることだろう。
 デジタルが主役になって時代の変化は驚くほど早い。1年後にどんな独断的予測を書くことになるか楽しみにしながら、2019年を頑張ろうと思う。

 今年もよろしくおねがいしますっ!

●独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
●独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
●独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
●独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜 
●独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜 
●独断的音楽ビジネス予測2018〜犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

2018年1月1日月曜日

独断的音楽ビジネス予測2018:犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

 全然勤勉ではないこのブログだけれど、2012年から毎年元旦に、音楽ビジネスの予測を書いてきた。毎年PVも高く、ご意見なども伺うので、励みになって続けている。
 昨年は、1年間の予測は意味が無いと書いた。世界的に音楽、エンタメビジネスのトレンドは7年くらい先までは明確で、周回遅れで走っている感じの日本は、五輪景気に甘えて、構造的な変化が遅れるけれど、方向は同じ。世界のトレンドの後を、ゆっくり追いかけていくことになると思ったからだ。この予測については1年経って、確信を深めるばかりだ。
 昨年の元旦のブログではこんなこと書いている。

 2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、
1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。
2)   パッケージは微減しながらも健在
3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく
といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 上記の1と2はまったくそうなっている。3については補足説明が必要だ。2016年のコンサート入場料売上は10年ぶりに微減した。「2016年問題」の影響でコンサート入場料収入が微減したことだ。「2016年問題」とは2020年の東京五輪の余波でコンサートに使える大型スタジアムやホールが同時期に改修に入ってしまい、コンサート会場が不足するという問題だ。音楽業界団体は問題提起をしたものの、その声は届かなかったようだ。

 正直を言うと僕は、各社の創意工夫でなんとかやりくりし、コンサート売上が減りはしないのではないと思っていたが、甘かったようだ。スタジアム運営側は、スポーツ最優先で、「空いている時にコンサートも使っていいよ」くらいの認識なのだろう。コンサートが日本の産業文化にとって大きな価値があるということを日本社会全体に認識してもらう必要がある。音楽業界側もその努力が足らなかったように思う。2017年の国内重大ニュースの1位に上げた「チケット二次流通問題」で、業界が一団結して、ユーザー、行政、警察、司法をきちんと動かすことができた。風営法改正からナイトエンターテイメントへの関心を高める運動も進展している。大規模コンサート会場の運営者の意識変革を図ることもできるのではないか?

 さて、1年前に僕が本コラムで問題提起した2021年までやっておくべきこと3つについては、残念ながらほとんど進展はない。暗澹たる気持だけれど、確認しよう。

●データベース構築
 音楽に関するあらゆるデータ、楽曲、原盤、アーティスト、コンサートなどを一元管理および多言語化して、事業者に従量課金で使用を自由に認めれば、素晴らしい音楽関連情報サービスはたくさん競い合ってくれるだろう。音楽事情の活性化に必ずつながる。僕は10年位前から叫んでいるのだけれど進んでいない。音制連、音事協、MPAで始めた海外向けのアーティスト情報プラットフォームSync Music JapanがCiP協議会に移管されて、Artist Commonsという動きにまとめられているけれど、too much slowだ。まだ実業レベルで稼働していない。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

●中国市場への本格的な取り組み
 については、まだ手付かずの状態だ。ビジネスの主戦場を海外に向けるという意識改革ができてない。

 残念ながらという前置きをつけたいけれど、僕が2015年9月に出版した『新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』は、2018年になった今読み直しても、全く古びてない。それは僕が著者として素晴らしかったのではなく、日本の変化が遅すぎるからだ。音楽ビジネスの現状と未来に興味のある人で未読の方は、是非、読んでみてください。「残念ながら」まだ有益な本です(笑)。
 一番の問題は2021年に先送りしたツケが全部噴出だろうことで、そろそろ底に向かって準備をしておかないと、本当に日本の音楽業界が壊滅的なことになるなと危機感を持っている。そんな愚痴ばかり言っても仕方ないので、少しは読者に有益と思える未来予測を書こうと思う。

 作秋は様々なところからセミナーのお声がけを頂いて、7つほど講演を行った。

韓国のBupyeong Music Conference
大阪電気通信大学 総合情報学部
大阪工業大学 知的財産学部
順天高校 Global Week
電機連合組合
コンテンツビジネスラボ
知的財産技能士会

 新しい出逢いがあり、刺激をいただく場で感謝している。2011年に初めて著書を刊行して以来、講演などの依頼は原則断らないという方針を続けているけれど、書籍やウエブで僕の存在を知って、呼んでくださるのはありがたい。自分が主宰するセミナーもあって、本業もある中でお受けしているので、正直時間的には厳しいこともあるけれど、エネルギーをいただいて、疲れが吹っ飛ぶ。
 その経験も踏まえて、今後の音楽ビジネスについて、年頭にポイントをまとめておきたい。キーワードはX-techだ。
 X-techとは、IT技術の活用で産業が再定義、再構築されていくことだ。背景にあるのは、以下のような時代の変化だ。

・コンピューターの処理能力の飛躍的な進化
・センサー技術進化による、軽量化、コモデティ化
・AI(人工知能)、機械学習の飛躍的向上
・SNS普及によるユーザー行動の可視化(いわゆるビッグデータ分析)

 ポイントは、本質的で不可逆的な変化であることだ。人間は、昨日まで自分がやってきたことが明日以降も続くと思いたい。それが10年、20年とやってきた仕事であれば尚更だ。「一時的な流行にすぎない」「自分には直接関係ない」ということにしたくてたまらない。日本の音楽業界、メディア業界はまさにその典型で、レコード会社の経営者は、自分の定年まで大枠を維持する「逃げ切り」作戦に終止している。これが結果として業界全体、ひいては日本の国力を下げているのだ。
 僕がエンターテック・エバンジェリストと名乗り始めたのも、社会が変わる一番重要ポイントで、そこを自分のアイデンティティにすべきと思ったからだ。
 ちょっとシニカルな言い方をさせてもらえば、日本の業界の多数派が、「見ないふり」をしているので、「きちんと未来を見据えて予見」すれば優位性を持って、先回りできるとも言える。 
 本ブログの読者には、そんな発想で、先回りできる5つの視点を共有したい


●ストリーミングサービスが音楽消費の中心になると起きる変化は?


 ビジネスとして一番大きいのは、新譜旧譜の比率の変化だろう。従来の原盤ビジネスは売上の9割が1年以内に発売された新譜だった。だから小プレーションアルバムとかベスト
盤とか、過去作を「新譜」扱いにする必要があったのだけれど、これが大きく変わるおそらく新譜は5割以下の比率に鳴るだろう。これは良い作品をつくれば長期間収益があるということであると同時に初期投資の回収に時間がかかるということでも。功罪はあるだろうけれど、対応スべき変化だ。
 併せて、ユーザー行動が可視化されて、蓄積されることに寄って、レコメンデーションの精度が上がっていく。5年くらい前から海外のサービスのテーマは「ディスカバリー」だ。ユーザーと新しいアーティスト、楽曲の幸せな出逢いを作ることに注力している。これは主にアルゴリズムだけれど、属人的なリコメンデーションがプレイリストだ。人気ラジオ番組でパーソナリティが思い入れを持って薦めることヒットしたみたいなことがストリーミングサービス内でどんどん起きている。従来に比べれば、政治力、宣伝資金力などの入る余地が少なくなり、楽曲の力が求められるようになるので、アーティストにとっては大まかには良い変化と思うべきだろう。
 そして、パッケージは音楽聴取の主力ではなくなるけれど、アーティストの証を示す「記念品」、コレクションの喜びを満たす役割を果たすようになっていく。現にアメリカでは、CDは落ち続ける中、アナログレコードの売上が伸び続け、パッケージ市場の3割を占めるようになっている。日本は今のところCDがまだまだ元気だけれど、似たような傾向に向かうことになるだろう。

●VR/AR/MRと音楽ビジネス


 エンタメ全体で言えば、VR/AR/MRの存在感は傑出している。軍事技術との関連もあって、多額の資金がつぎ込まれて開発されてきた分野だ。現状はビジネス的にはゲームとエ
ロの分野が牽引しているけれど、音楽ビジネスでの存在感は大きくなっていく。
 みんな忘れがちだけれど、Music Videoというのは80年代のMTVの隆盛とともに広がったフォーマットだ。表現はメディア環境で変化していく。ハードの進化や普及、プラットフォームが整備されていく中で、MVの進化系、インタラクティブ性のある作品を楽曲に合わせて制作する流れは増えてくるだろう。
 Bjorkが2016年にVR型のMVをつくって日本科学未来館で展示した時の名言が忘れられない。「テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているの。」VR演出自体は、彼女の楽曲力を大きく拡張するところまではできてなかったと思うけれど、パイオニアが切り拓いた道があることで、表現は進化していく。
 ライブビューイング的な活用もどんどん増えるだろう。東京五輪に向けでスポーツのリアルな中継に皆さんご執心だけれど、コンサートへの応用も間違いなく広がっていく。収益性がポイントになるけれど、通信規格が5Gになり、通信会社がこの企画を活かしたコンテンツを積極的に求めるという追い風もある。
 既にリアルとバーチャルは対立概念ではない。東京ドームの2階席でプロジェクターに映し出されたパフォーマンスを観るのがリアルで、目の前に立体的に再現されているアーティストを他の観客と一緒に見て盛り上がる体験がバーチャルだという区別は、おそらく意味がなくなっていく。ユーザー体験としてどちらが楽しいかがポイントになる。
 いずれにしても、音楽家や音楽プロデューサーにとって、VR/AR/MRは必修科目と捉えるべきだ。


●アジア市場とインバウンド


 違法ダウンロードサイト天国で海賊版も作られなくなったと言われていた中国に音楽市場が「出現」したのは驚異だ。正直言って、僕が現役の音楽プロデューサーの間にあるのかどうかと思っていた。2015年12月の国家計画の発表から2年でQQ Musicの月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人などという数字が聞こえてくる。信頼できる知人たちの意見を総合して考えると、控えめに言っても3年以内に日本の3000億円を中国は抜くだろう。僕のイメージでは、5年後位に、朝鮮半島からミャンマーまでの東アジアの音楽市場は日本の5倍位になっていると思う。そして成長余地はまだある。この場合のポイントは、この地域ではJポップ、アニソンに競争力があることだ。
 その国も自国語のドメスティックポップスが市場の5割は占めるものだ。残り5割あるとして、そこを洋楽とJポップとKポップが争う図式になる。アニソン含めたJポップが一番人気になる潜在的な力はあるはずなのだが、今のままだとKポップの後塵を拝する可能性は高い。ストリーミングサービスはいわゆるロングテールが長く、多様性と蓄積のある日本に本来はアドバンテージがある。僕らがよく言う「歌謡曲な大衆性」は東アジアでは共通する感覚だ。個人的にはアジア各国は「渋谷系前夜」みたいな状況だと思う。様々なジャンルの音楽を取り込んだJポップライクなポップスが広く受けいられる土壌はできている。経産省などが旗を振って、アジアのストリーミングサービスにおけるJポップシェアを2割にするという目標を立てたいところだ。やり方は簡単だ。メタデータをつけて、過去の全カタログをアジアのストリーミングサービスに許諾すればよい。半年から1年様子を見て、反応のある楽曲をその国の影響力のあるアーティストにカバーを促す。それだけでヒット曲が生まれる可能性があるのだから挑戦するべきだ。5年後にベトナムで松田聖子の楽曲が大人気みたいなことは全然あり得ることだと僕は思っている。
 ストリーミングサービスが生まれたことで、音楽ビジネスのマネタイズポイントを多様化できることも大きなメリットだ。これまで中国は、いわば出稼ぎ的に、現地で入場料を稼いで、グッズを売って、以上という商売になっていた。ストリーミングサービスがあることでライブの前後で楽曲が流れで、それも売上になり、越境ECふくめた幅広いチャネルでのマーチャンダイジングが期待できる。そして、本当に好きになってくれたら、日本まで「本場のコンサート」を観に来てくれるかもしれない。日本のインバウンドのこれからの課題は、リピーターと滞在日数の延長のはずだけれど、そこに音楽業界が果たす役割は大きい。
 単純計算だけれど、5倍のマーケットで2割取れたら、日本の音楽市場は二倍になるということだ。このチャンスを逃してはいけない。

●ポストスマホのコンテンツプラットフォームは?


 現在、世界中でコンテンツプラットフォームの主戦場がスマートフォンであることに異
論がある人はいないだろう。これから発展途上国を含めて、まだまだスマホ普及率は伸びるから、普及率が100%に近づいていくことの社会的インパクトも大きいと思うけれど、未来を見据える人たちの興味は、既にポストスマホのプラットフォームだ。ひと頃はウェアラブルデバイスだと目されていただけれど、グーグルグラスのようなメガネ型も、アップルウォッチのような腕時計型も広まる様子は見えていない。2018年1月現在、ポストスマホの本命はスマートスピーカーだ。
 2017年は各社の商品が出始め、お手並み拝見という状況になっている。音楽業界にとっては、リビングルームにある「世の中との窓口」がスピーカーであるというのは大きなチャンスだ。音楽が流れることが自然で、接点が増えるはずだから。
 個人的にはこのままポストスマホがスマートスピーカーになるかどうはか微妙なところだと思っている。IoTということでいえば、鏡がついているクローゼットがスマート化して、洗濯機や冷蔵庫ともつながり、買うべき服やレシピもレコメンドされる。スマートクローゼットも例えば有力だと思ったりする。次のフェーズで来る在宅型ロボットの普及が本命ということになるかもしれない。
 現状では。音声認識+クラウド上のAIというのがポストスマホの第一候補になったということを理解して、推移を見守っていきたい。一番大事なことは、スマホのときのように、外資系グロバール企業にこのプラットフォームを完全に牛耳られて、日本のコンテンツホルダーがゲームのルール設定に参加できないような事態にならないことだ。そういう意味でも、LINEやSONYも頑張って欲しい。日本語音声認識はNTTが世界一の技術を持っているはずだ。しっかり戦略を持って対峙したい。

●ブロックチェーンの衝撃。音楽への応用は?


 分散型台帳技術、ブロックチェーンは、インターネットが広まった時に勝るとも劣らない大きな変化を社会にもたらすそうなので、音楽だけでどうこういう話ではない。契約のあり方、取引における信用担保の構造を根本からひっくり返すような技術だ。あまりにも大きな変化すぎて予測が難しい。20年後は、今のブロックチェーン技術の思想をベースにした世界になっていることは、ほぼ間違いないのだけれど、それまでの過程は予測不能だ。
 音楽に関してだけ言えば、著作権、原盤権の徴収分配の仕組みが今の国ごとの集中管理というやり方から変わることは間違いないだろう。10年位はかかると思う。
 僕が個人的に一番関心があるのは、リミックス、二次創作への応用だ。初めてブロックチェーンの存在を知ったときから、「クリエイティブ・コモンズ」の考えかたがビジネスに持ち込める機会がやっときたのだと感じた。一般的になっているようで、リミックス、サンプリング、二次創作には、きちんとしたルールはシステムが無く、個別の相対でやるしかないのが現状だ。原則OKのオプトアウト型のルールが広まれば、新しい表現と市場が大きく伸びることが期待できる。今年は本格的にこの可能性を探る年にしたいと思う。

 ニューミドルマンも3年経って、よいネットワークになっている実感がある。今年からコミュニティ化を図りたい。ニューミドルマン養成講座と並行してオンライン+OFF会のサロンもやっていこうと思うので、興味のある人は是非、参加して欲しい。このブログを読んで面白いと感じる人には意味のある場になっていると思う。
 音楽ビジネスに興味のある人は、まずは2月の「超実践アーティストマネージメント篇」の受講からどうぞ!

 元旦から長くなってしまったので、この辺で終わりにしたい。
 次回は作秋、高校生に話すために考えた「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル〜オトナに騙されるな」をテーマに書こうと思います。お楽しみに。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

●独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
●独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
●独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
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●独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜 

2017年12月26日火曜日

2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇〜

<2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇>
第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」
第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。
第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞
第4位)スマートスピーカー各社発売
第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場でテロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ
圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ


山口:2017年の重大ニュース。前編は日本の音楽業界ということでやってみて、多くの方に読んでいただけたようです。後編はグローバル+エンターテック分野でやってみましょう。最初は1回にまとめてやろうと思ったんだけど、なんか焦点距離があまりに違うというか、話がずれる気がして、前後編にジャンルでわけることにしました。海外市場ってなった瞬間に、エンターテックな話になるし、エンターテックにフォーカスすると話がグローバルになるよね。

脇田:音楽は国境を超えるといいますから、国外にも目を向けたいですね。特に新しいテクノロジーによって音楽ビジネスはすごいスピードで変化していってますから。


第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場で自爆テロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ

山口:米ソの冷戦が終わって世界が平和になるかと思ったら逆で、様々な要因が重なって以前より不安定になってるよね。イスラム過激派のテロも世界中で起きている。人がたくさん集まるところが狙われているという意味では、コンサートも標的になるリスクがあるのだろうね。今回の会場はイギリス・マンチェスターでした。ワッキーがこのニュースで注目したポイントはどこ?

脇田:アリアナ・グランデのコンサート会場でのテロは、本当にショックなニュースでした。10代の若い子たち等多くの人が犠牲に遭いました。しかし、それから僅か2週間後にスタジアムで、世界的なスーパースターを集結させて追悼コンサートを開いたわけです。仕掛け人のスクーター・ブラウン(アリアナやジャスティン・ビーバーのマネージャーでもある)に注目したいですね。PSYの「江南スタイル」にも関わった彼は、SNSと既存メディアを巧みにミックスするスキルを持った“ニューミドルマン”です。まさに“ニューミドルマン”である彼の、一世一代の大イベントだったと思います。多くのスーパースターが出演するフェスを、テロという危険の中この短期間で実現させ、メディアを使って発信し、収益の寄付なども行なう。それを成功させたことにとても驚きました。もちろん発信するメッセージも熱く、考えさせるものに満ちていました。

山口:音楽の価値、社会におけるアーティストの役割がわかっている行動だよね。ファンへの感謝、社会への貢献を行なうと同時に、アーティストとしてのブランドを上げることにもつながったと?

脇田:そうですね。ティーン・スターのアリアナが世界に影響を与える「アーティスト」へと階段を上がったんじゃないか?と思い、来日公演も観に行きました。そこは、カリスマというより、普通の(?)一級のプロフェッショナルなエンタテイナーという感じのショーでしたが(笑)。


第4位)スマートスピーカー各社発売

山口:2000年以降、コンテンツ流通の主戦場はスマートフォンになり、ウエブサービスもPCから「スマホシフト」が上手にできるかどうかで、隆盛が決まる時代だよね? ニコニコ動画の影響力が落ちているのも、スマホシフトの失敗といえると思う。一方で、「ポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームが何か?」というのが投資家や事業家の間で
は議論されていて、一時期はウエアラブルだったんだけれど、ここに来て、音声認識技術+クラウドAI(人工知能)とセットのスマートスピーカーが本命っぽい感じになっているね。

脇田:ネットのエンタメにおいて、PCからスマホへのシフト(ガラケーからスマホも)は明暗を分ける変化でしたね。IoTやVRは、一般利用者にとって無くても困らないですが、徐々に影響を与えて行っている。
そして、次に来るのがスマートスピーカーだ! というトレンドが煽られて、自分としては驚きと喜びを感じました。スマホでイヤフォン、ヘッドフォンでのリスニングが主流になっていて、世の中から家で音楽を流すオーディオ装置が消えてしまっていました。このスマートスピーカーが、音楽の復権につながるんじゃないかという期待をしてしまいます。

山口:そうだね。ヘッドフォンでしか音楽聴かない若者も多くなっていると思うんだけれど、リビングルームにスピーカーが鎮座しているということは、音楽の接点は間違いなく増えるものね。ただ、心配なのは、今回も騒がれているのは、Amazon Echo、Google Home、そしてApple。LINE Cloverには頑張って欲しいし、SONYも計画しているらしいけれど、アメリカ系グローバル企業にポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームを牛耳られるのは、日本のコンテンツ産業としては由々しき事態だよ。スマホ時代の今はゲームのルールは、AppleとGoogleに一方的に決められてしまっていて、異議申立の方法が無い。例えば、iPhoneアプリをリリースしようとして、却下されて、理由がわからず、英文メール以外問合せ方法が無く、困っている日本のスタートアップとかは惨めな思いをさせられているよ。スタートアップでスマホアプリが3ヶ月遅れるって、下手すると会社潰れかねないからね。生殺剥奪権をグローバルプラットフォーマーに握られるのは最悪の事態。スマートスピーカーは音声での言語認識技術が重要で、日本語については日系企業にアドバンテージがあるはず、NTTが世界最高の技術を持っているので、せめてそこだけでも押さえて欲しいよ。

脇田:同感です。着うた時代でも、世界同一性を求めるiTunesに比べて、レコチョクはかゆいところに手が届く細やかな対応をしてくれてました。なんでもかんでもグローバルでいいはずはないです。

山口:ジョブズは、ウォークマンとiモードから、iTunes Music StoreとiPodを考案したと言われているけれど、多分本当だと思う。日本の良さを活かしながら、グローバルサービスのプラットフォームを意識するような流れは欲しいよね。日本のスタートアップに期待しています。オープンイノベーションスタイルで大企業と組めたらチャンスあるはずなんだ。

圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ

山口:第3位に行く前に、ワッキーが取り上げていたこの話題を

脇田:今年は「EDM」の音楽的な流行が終わったと言われました。アッパーなEDMチューンはヒットチャートに登場しなくなり、同様のエレクロニックなジャンルでは「トロピカル」だったり、レゲエ調? のダウンな曲調が増えたように思います。カルヴィン・ハリスの最新アルバムがファンクなアルバムだったことも、話題になりました。問題は、日本はこれからのジャンルなのに、海外では終わってしまった事です。
おそらく2010年ぐらいからずっと流行り続けているEDMが日本で火が付いたのはこの1、2年だったので、最近EDMにハマった日本のパリピ的なファンにとっては、あのアゲな刺激が新曲という形で味わえなくなってしまいましたね。今のエレクトロニック系のヒットソングは「まったり」してます。あとラテンが流行ったり、ついていけないですよね。アリアナのライブでも、ZEDDと共演した「Break Free」というアッパーEDMチューンが、ダウンなアレンジされていて、その時の会場の残念な感じも印象的でした。あれこそが、世界のトレンドと日本のリスナーとのズレの象徴的な場面なんでしょう。

山口:先を見るクリエイターは4年くらい前から、ポストEDMサウンドを探しているよね。「トラップ」だったり、「フューチャーベース」だったり、いろんなジャンルが注目されたけれど、「トロピカル」は本格的に盛り上がっている感じはするね。ただ、EDMって、踊らせる音楽と言うか、マネタイズポイントはフェス型イベントでしょ? そこはどうなんだうね?

脇田:むしろフェスや現場は、多様なトレンドに対応できてる気がします。メインストリームなPOPSとしてのEDMと現場が離れてきたように思います。逆にポストEDMサウンドを探してきたJ-POPクリエイターは、今から「ドEDM」やってみるとおもしろい。過去にもJ-POPでは、海外で流行りが終わったスタイルで大ブレイクを果すアーティストが多くいますから。


第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞

脇田:アメリカ、シカゴのラッパー「チャンス・ザ・ラッパー」がグラミー賞を受賞。楽曲を販売したことが無いアーティストとして、初の受賞が話題になりました。2016年5月にリリースされた自身名義の3作目となるミックステープ『Coloring Book』が、ストリーミングのみのリリース作品として初めてのグラミー賞を受賞ですね。これまでは楽曲を販
売しないとノミネートされないルールでしたが、この作品によってルール変更されました。
 彼は、ミックステープと呼ばれる無料ダウンロードサイトからスタートし、ストリーミングのみで配信するという作品発表のスタイルで数々の記録を作り時代の寵児となりました。過去には、無料ダウンロードのデータを勝手にiTunesにアップされビルボードランクインするという「事件」で名を上げました。今回のグラミーも、型破りなノミネート~受賞を達成したわけです。

山口:デジタル時代の申し子だね。同時に、ニューヨークやLAではなく、シカゴというのにも注目だ。10月に韓国の音楽ビジネスカンファレンスに呼ばれて、パネルディスカッションに出たんだけれど、その時のテーマが「都市と音楽」。ベルリンのクラブ関係者、スウェーデンの音楽業界の取り組みと共に、シカゴのHIDEHOUTという有名なライブハウスのオーナーがパネラーで、シカゴは小中学校とミュージシャンが連携して、音楽に触れるようなシステムを長く続けている。町のアイデンティとして音楽を捉えていて、「チャンスが出てきたのは偶然ではないんね?」といったら、嬉しそうに頷いていたよ。ちなみに僕は、主催者からのオーダーで恥ずかしながら「渋谷系」の説明を拙い英語でしてきました。

脇田:山口さんの活動もインターナショナルになっていますね。このチャンス・ザ・ラッパーもそうですが、多くのアーティストが、ミックステープという仕組みで無名から名を上げてブレイクしている。既存曲をリミックスしたり、収録したりする。違法行為に当てはまるケースも多いですが、そこは日本と違いルールに対してゆるいところがあるアメリカですし、ヒップホップやレゲエは、このスタイルが文化として定着していることもあり、プロモーションにもなるので黙認されているようです。
アナログ時代からのヒップホップ系の伝統は、デジタル時代とマッチして威力を発揮しています。ストリーミングが台頭したタイミングでのグラミー賞ノミネート~受賞は、時代を捕えた感はありますよね。

山口:本当だね。そして、チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞は色んな意味でエポックメイキングだと思うんだ。アメリカのミュージシャンにとってのロールモデルがJAY-Zからチャンスに変わるというのはすごく大きくて、日本の音楽シーンにも少しずつ影響が出てくる気がする。「メイクマネー」が一番だった黒人ミュージシャン文化が、お金や名声よりも地元の友人を大事にするという価値観へ変化したのが面白いと思った。結果的には、お金もたくさん入っているんだけれどね。

脇田:ヒップホップ系の「メイクマネー」は基本変わらないでしょう。文化系ヒップホップがサードウェイブみたいな、ここ数年のトレンドとくっついて、アナログなイメージとデジタルな発信を合体させている。それが何年かかけて、遂にオーバーグラウンドで認められたというシンボリックな出来事だと思います。

山口:日本のヒップホップシーンも知っている脇田さんはクールな解釈ですね(笑)。でも、真面目な話、ライブハウス(CLUB ASIA)をルーツに持って、現場感を大切にしながら、グローバル視点を持っているのがワッキーの武器だよね。9月に出版した『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務〜答えはマネジメント現場にある!』にも、そういう脇田らしさを感じたよ。


第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。

山口:海外は完全にストリーミングサービス全盛なんだけれど、各サービスに対して、どんな印象ですか?

脇田:何の記事で見たか忘れましたが、SpotifyのCEOダニエル・エクさんの「SpotifyはIT企業ではない、ITを使った音楽企業だ」みたいな発言が印象深いです。実際にプライベートでも仕事でも使っていますが、この考え方がサービスの隅々まで浸透しているように感じます。「音楽」を重要視している思想のようなものを感じるんですよね。エンジニアと
かの方は音楽の現場に触れる事は無いかもしれないですが、会社の姿勢「音楽会社だ」という考えは一人一人に影響を与えてるんじゃないでしょうか。甘い夢を見ていられるような時代ではないですが、ギリギリのところで「音楽第一」と言いたいですよね。国内のサービスで同じように好感を持てるのはAWAです。

山口:ジョブズがミュージシャンとお友達っていうのは、まあイメージ操作で策略だったと思うけれど(笑)、ダニエルには音楽愛を僕も感じる。そのSpotifyが今年は積極的に動いた年だったね。分配の透明化を図って、ブロックチェーン会社を買収したのは機敏だった。AppleがSHAZAMを買ったのは驚いたけれど、4年前くらいにSHAZAMの役員から聞いた情報によると、その時点でSHAZAM経由で年間1億回くらいiTunesでダウンロードされていたらしいから、ユーザーへの影響力がわかっていたんだろうね。SHAZAMで知って、Apple Musicで即聴かせるという誘導は良い方法だよね。

脇田:SpotifyとAppleが音楽プラットフォームのトップを狙って、しのぎを削ってる。しかし、Appleにとって、音楽はコンテンツの一つなんだろうなと思います。ジミー・アイオヴィンやドクター・ドレーが入って始まったApple Musicですが、音楽愛よりは企業としてのApple愛が優先されている印象があります。GoogleやAmazonもそうですが、「コンテンツ」や「データ」ではなく、「音楽」を扱うサービスを期待します。

山口:まあAmazonやGoogleは、one of communication toolsとしてしか音楽を捉えないよ。だからこそ音楽家側が賢く対処しないとね。あと、Spotifyが中国の巨大なIT財閥テンセントや運営するQQmusicと提携を発表したのも驚いたな。報道によると、最初テンセントがSpotifyを買収しようとして拒否されて、提携になったらしい。おそらく、中国はQQmusicで、それ以外の国はSpotifyでという住み分け戦略なんだと思う。

脇田:ストリーミングサービスの先駆者Spotify、まだまだ注目です。


第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」

山口:僕にとっては、この10年くらいで最もインパクトのあったニュースです。違法サイト天国で、海賊盤すら誰も買わないと言われた中国に音楽市場が忽然と「出現」しました。2015年12月、ちょうど2年前に中国政府が国家計画で、自国の音楽産業を2020年までに3000億元(約5兆6000億円)にすると発表。日本の10倍以上だからね。大法螺かとも思ったけれど、ああいう国は政府が旗を振ると動くんだね。巨大なIT財閥テンセントがやっているQQmusicが伸びて、月額約170円の有料会員が3000万人いて増え続けている。3年後には日本の音楽市場を追い抜くという分析が一般的だね。

脇田:アジア圏に巨大なマーケットが生れるという明るいニュースですね。国内だけ見とけばいいという、日本の音楽ビジネスの発想が遂に終わりそうな話です。

山口:どの国にも自国語のポップスがあって、それが5割位のシェアを持つのが一般的。残りの5割を洋楽とK-POPとJ-POPが争う構図になるんだけれど、潜在的には日本のポップスが洋楽とK-POPを上回って全然おかしくない。日本政府も「アジアのストリーミング市場における日本のシェアを25%にする」とか目標立てて旗を振って欲しいな。5年後には、朝鮮半島からミャンマーまでの間の音楽市場が日本の5倍〜10倍になる可能性が高い。単純計算で5倍のマーケットの2割がとれたら、日本の音楽市場が二倍になるということになる。これは凄いことだよ。

脇田: 新しいアジア市場でJ-POPが洋楽やK-POPを上回るのは大変そうですね。

山口:このままの状態では全然ダメだろうね。でも潜在的にはJ-POPが一番だと思っている。理由はアジア人とは感覚的に共通する部分があり、その上で多様性と文化的な奥行きがあるから。ストリーミングサービスって、いわゆるロングテールが長い、多様な音楽が存在できるサービスだから、日本のポップスの歴史と多様性が活きるんだよ。世界的に見ても日本の歌謡曲〜J-POPの歴史は豊富で多様な過去作品もある。文化大革命で切れてしまい、政府の介入も強い中国とは大きな差があるのは間違いない。この優位性はいつまでもは続かないだろうけれど、今は日本に大きなアドバンテージがある。K−POPは特定ジャンルでは優れた作品力があるけれど、多様性には欠けるからね。あとアジアには、感傷的なメロディや「歌謡感」みたいな共通性もあるから、ストリーミングサービスがきっかけで、ミャンマーで山口百恵の曲が大人気みたいなことが起きても不思議はない。

脇田:懐メロのカタログビジネスを海外展開するわけですね。

山口:日本のレコード会社は、ともかく全カタログにメタデータを付番して、全サービスに許諾することを最優先でやるべきだよ。そして1年間位再生データを追いかけて、人気の出そうな曲を、その国の歌手にカバーしてもらうように働きかける。それだけで大きく儲かる可能性が十分にあるんだから。
 これまではレコード会社は宣伝資金力も含めた、新曲のマーケティング力がシェアを決めてきたけれど、これからは旧譜も含めたカタログ力がレーベルの優劣を決めるようになるかもしれないね。

脇田:才能と資金が集まった20世紀のJ-POPの遺産を活用して世界に出よう、と。夢があるような無いような。。たしかにストリーミングは多様な趣味趣向に対応できますので、渋谷系の時代にマニアックなレコードを掘ってコンピが作られたようなニッチな現象がJ-POPで起こることはあるのかもしれませんね。

山口:僕はアジア各国の文化的な状況は「渋谷系前夜」って感じだと睨んでる。もう少しで、洗練されて様々な音楽ジャンルを包括した都市型ポップスが各国で生まれる可能性を感じるんだよね。そうなると日本人クリエイターの活躍のチャンスが広がると思う。
 ただ、実は一つ衝撃的な事実があるんだ。中国はコンサートチケットも含めて、全てのサービスがスマホで完結できるはず。ストリーミングサービスで好きになった楽曲のアーティストのコンサート情報を調べて、チケットを決済して、コンサート会場にスムーズに入場して、ライブの感想をSNSに投稿するみたいなことが、ノーストレスで自分のスマホでできる。でも、日本人アーティストのコンサートを観たいと彼らが思っても、外国語の情報はない、決済できない、電子チケットも遅れている、会場などの情報も平準化されていない、、、、。日本はアジアの中で図抜けて、不便で遅れた国になっているという現実があるんだ。これは「このままだとそうなっちゃうよね」ではなく、まだ顕在化してないだけで、「既に今そうなっている」アジアの中で少なくとも音楽分野においては、ITが一番遅れた国になっているのが、現実なんだよ。メチャメチャ悔しい。
 そんな状況でワッキーは、中国市場でどういう勝負をしようと思う?

脇田:K-POPは、インターネット以降のグローバルな展開が可能な時代に、ヒップホップベースの世界主流の音楽スタイルでネットを駆使して、日本をはじめ国外の市場を攻略した。それは得意な特定ジャンルというより、世界の主流フォーマットで勝負したんだと思います。スウェーデンのポップスも同じ。中国のような海外市場で洋楽、K-POPと競うというのは、この主流フォーマットに挑戦し、もがいていくことなのかなと思います。
 ここ数年、いくつか中国の音楽ビジネス関係者と会ったりして、実際管理楽曲がレコーディングされ中国のレーベルからリリースされたりと、仕事が実現したこともありました。彼らが日本に求めるのは、機材やエンジニアの技術の高さやサウンドクオリティでした。音楽的には歌謡曲はダメ、ループするダンスミュージック前提。これはJ-POPとはズレがある。ではどう勝負するかというと、高い技術とクオリティを持って、世界フォーマットに乗せて、オリジナリティを発揮することでしょう。ぜひ、そういうアーティストを発信していきたいです。

山口:僕は、2006年にタイのバンコクでオーディションして16歳の美少女ボーカリストを選んで日本人と組ませてデビューさせたり(Sweet Vacation)、インドネシアのロックシンガーAiu Ratnaを日本で活動させたり、アジア市場を意識したプロデュースを先駆的に挑戦してきたつもりだけれど、今、中国、アジア市場を視野に入れてアーティストをデビューさせるのは、自信が無いのが正直なところ。成功させる方法論は見いだせるとは思うだけれど、それを達成し切るまでの資金を集める自信が無いんだ。日本の音楽業界の資金調達システムがヘタリ過ぎているからね。
 音楽業界の内側では「ともかくアジア市場開拓です。それ以外やることないでしょ?」と啓蒙活動しているけれど、「音楽プロデューサーとしての山口哲一はどんな風に何を取り組むんだ?」と1年くらい悩んできた。2017年末現在の僕の結論は、「Jポップ流の音楽クリエイター育成法をアジアに持ち込んで、日本人作家とのネットワークも作って、アジア音楽シーンを席巻する」なんだ。5年間取り組んで結果が出始めているプロ作曲家育成の山口ゼミの仕組みを中国、台湾に持ち込んで、日本人作家とコーライティングさせて、アジア中の音楽市場を攻めるという取り組みを2〜3年かけてやろうと思っている。中国企業との協業はリスクが高いけれど、人間同士の信頼関係がちゃんと作れれば中国人は頼りになるというのもあるしね。来秋に山口ゼミ上海校、台北校をつくるべく動き始めたところ。3月には既に活躍している中国、台湾のプロ作曲家を呼んで、真鶴でコーライテイングキャンプをやる予定なんだ。


総評)時代はおもしろくなってる

脇田;振り返ってみると、時代はおもしろくなってる気がしますね。すごいスピードで変化する中国とアジア市場にアンテナをはっておかないと。ダイナミックな時代の到来を期待したいです。

山口:前著『新時代ミュージックビジネス最終講義』にも書いたけれど、今は「ITサービスがわからないと音楽ビジネスができない時代」になっている。15年前までとくらべて、一番変わったことって、マネージャーやプロデューサーが「マネタイズポイント」まで考えなければいけなくなったこと。以前はCDなどパッケージを幹にした生態系がよく出来ていたから、「良い曲作って、多くの人に広める」ということだけ考えておけば、お金は自然に入ってきて、回っていったけれど、今は、ITベンチャーが、無料アプリユーザー100万人いても倒産することがあるのに似て、ちゃんとマネタイズのタイミングと方法まで自分たちで考えなければいけない。そう思わない?

脇田:同感です。一方、いくらマネタイズのノウハウを持っていても、曲のヒットとアーティストのブレイク無しでは儲からないのは昔と同じ。新時代のネットやITのノウハウもマストだし、伝統的なマネージメントや育成のノウハウ、も知るべき。両方必要。

山口:テクノロジー活用は、マネタイズとプロモーション(ユーザーとのコミュニケーション)に加えて、テクノロジーを活用して表現そのものも変わらないといけない。去年から始めたTECHSは、クレイジーなくらい大変なイベントだけれど、プログラマーとアーティストが真剣に向き合ってライブステージを作っていて、熱量はすごく高い。大変だけれど「TECHS」も続けようね。

脇田:ニューミドルマン養成講座の有志がTECHSのWEB SITE「TECHS.media」を盛り上げてくれたり、私たちの取り組みに賛同してくれる人も増えてきています。この記事に興味を持った方や、音楽の仕事でおもしろい事やろうと思ってる方は、ぜひ、講座に参加してほしいです。

山口:それからミュージシャンズハッカソンをやってきたチームで、世界的な音楽ハッカソン「Music Hack Day Tokyo 2018」を2月にやります。日本でMHDやるのは3年ぶり。プログラマー、デザイナー、ディレクターは是非、参加してください。

●ニューミドルマン養成講座公式サイト

●TECHS.media
●TECHS3@SuperDeluxeダイジェスト動画

●Music Hack Day Tokyo 2018 公式ページ

2017年12月19日火曜日

2017年音楽業界 重大ニュース振返り

<2017年重大ニュース〜日本の音楽業界篇>
第1位)チケット二次流通問題、音楽業界の主張が認められる
第2位)SMAP解散、ジャニーズ脱退メンバーの活躍
第3位)安室奈美恵引退+初週ミリオン達成
第4位)逃げ恥・恋ダンス現象
第5位)AbemaTVが注目される
圏外)JASRACが音楽教室から著作権料徴収で物議を醸す
圏外)avexがブルーノ・マーズと契約 

 今年もブログはたまにしか書けずに、年末になってしまった。1年間の振り返りを、9月に僕が監修して、初の著作『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』(リットーミュージック)を出版したワッキーこと脇田敬くんとの対談型で、やってみようと思う。

山口:ワッキーにとって今年は初の著作が出版されてエポックな年だったと思うけれど、何か変化はありましたか?

脇田敬
脇田:裏方である自分が、著作という形で人前に出るというのはちょっとした覚悟が要りました。これからもいいアーティストや作品を世に出すために仕事し続けると同時に音楽ビジネスの基礎をオープンに知ってもらうことで、もっともっと音楽を元気にしたい、世の中を明るくしたいと強く思いました。

山口:ワッキーの性格がよく出ていて、微に入り細に入り、音楽ビジネスの実務について、「痒いところに手が届く」本だと思うよ。これからの音楽業界のバイブルになると思う。
 では、ニュースを順に解説していきましょう

第5位)Abema TVが注目される

山口:ワッキーが推したニュース。サイバーエージェント✕テレビ朝日のインターネットテレビ局だね。

脇田:フリースタイルのヒップホップバトルの番組「フリースタイル・ダンジョン」のヒットに続き、亀田興毅に挑戦する企画もバズったAbema TVが元SMAPの3人の72時間番組を発表、ヒットを連発したのには驚きました。ネットと地上波テレビが手を組んで番組を発信する成功例が生れつつあるわけですね。

山口:サイバーエージェントの藤田社長が、赤字でも投資を続けると宣言して
話題になってたね。サイバーエージェントという会社はIT企業の中で特別の存在で、素敵だと思う。

脇田:女性社員が綺麗だからですか?(笑)

山口:俺もう合コンとか行かないから、それはよくわからないんだけれど(笑)。若手への権限委譲が進んでいて、AWAも30歳前半の小野さんが責任感を持って仕切っている。スマートフォンにおけるUI(ユーザーインターフェース)が優れているサービスがサイバーエージェントの特徴だと思うだけれど、何より若手社員が明るくてポジティブだよね。

脇田:IT企業がヒットコンテンツを連発するという点で画期的かと思います。

第4位)「逃げ恥・恋ダンス」現象

山口:TBSの人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で、主演男優でもあった星野
源の主題歌「恋」を使ったYouTubeでのユーザー巻き込み型PR。番組のエンディングで俳優陣がダンスをしていて、その真似をユーザーにさせることで、番組や楽曲のプロモーションにもなったという現象だね。あくまで期間限定の許諾ということで、その後、ビクターが削除要請を出したという事件。

脇田:テレビ番組側のユーザー参加動画でバスらせたい!という企画に協力したんでしょうね。結果、その動画に広告を付けるユーザーとか野放しにしてしまった。

山口:まあ、そうだけれど、星野源という、小劇場演劇の俳優でもあった、カウンターカルチャーの人が、地上波テレビの連続ドラマで今をときめく新垣結衣の恋人役をやり、主題歌をやり、どちらも大当たりしたというめでたく、素晴らしい話じゃない?

脇田:星野源というアーティスト、「逃げ恥」というドラマが売れた、という点ではよかったということなんでしょう。ただ、最初からHPで期間限定だと言ってましたので、有言実行、騙したわけではないよ、という言い分なのだと思います。

山口:それが間違っているよね?

脇田:間違っているのか、わかりませんが、「英断」みたいに言うのは、ちょっと、、。

山口:実際の舞台裏は知らないんだけれど、まあ、アーティスト側にメリットが大きい結果を産んで、レコード会社の姿勢が変わることを期待したんだけどね。だってこのまま黙認してもいいじゃない?

脇田:今までYouTubeでの楽曲使用についてはしっかりブロックしていたのを、この曲に関しては解放したわけですよ。特に説明もなく。そうすると、巷に公式音源を無許可で使用したダンス動画が溢れるわけですよね。それで、今まで楽曲の二次使用は悪いことだと思って従ってきたユーザーが騒ぐわけです。「動画に勝手に音源使ってる人がいます!」と。それを見てビクターがHPに声明を出したわけです。「期間限定で許可します」、みたいな。で、番組が終わり、DVDやブルーレイが発売されたタイミングで、プロモーション期間も終わったので、「楽曲使用許可は終了ですよ、削除してください」、という流れなのかなと思います。

山口:変な前例を作りたく無いという、その考え方がおかしいと思うんだよね。僕の指摘したいポイントは2つ。まず、ファンとアーティストのエンゲージメントに水をさしたこと。この番組で星野源を知って、好きになった人もたくさんいると思うんだ。嬉しくて踊った自分の動画を削除しろって言われるって、気分悪いでしょ?ファンの星野源との幸せな出逢いを不愉快にさせるのは、一番やってはいけないことだと思う。

脇田:ドラマのエンディングのダンスを見て、動画をアップした人もそうですが、今までアーティストや原盤者の権利を守るために二次使用はしてはいけないと、ネットで自由に音楽を楽しむことを我慢してきた人とのエンゲージメントも大事にしたいですね。

山口:本当だよね。2つ目のポイントはコンテンツホルダーとしてもっと胸を張って、上手に権利行使をして欲しいということ。威張ってちゃいけないけれど、「本来は弊社の音源を使って、YouTubeに上げることは著作権的にNGです。ただ「恋」については、出来事として素晴らしいので、特別に許諾します」っていう態度で良いと思うんだよね。メリットしか無いでしょ? 今だにYouTubeに音源があったら、CD売れないみたいに思っているとしたら、時代錯誤過ぎるよ。科学的に証明されていることを信じない迷信な感じ。

脇田:コンテンツID登録をすれば、ブロックできる、または使用を許可し、音源を使用した再生には広告がつき、収入となる。ビクター音源は、基本、前者を行なっている。しかし、「恋」は、このどちらも行なわなかった。山口さんが言うように、YouTubeに音源があればCDが売れないという考えもあるかもしれないし、もう一方で、YouTubeのやり方や掛け率にも不満があり、納得できない、そこには乗りたくないという考えもあるのでしょう。以前、ロックバンドのくるりの英詞動画が、アメリカ等の国で再生されなったことがあります。これは、ビクターがYouTubeの有料動画再生「RED」への動画提供を拒否したことで起こりました。一方、YouTubeに積極的なavexは、海外アーティストが行なうようにコンテンツID登録を行ない、二次使用を許可し、使用動画の広告収入を得ている。

山口:「PPAP」(ピコ太郎)を当てたavexとは根本的にスタンス違うと?

脇田:両社の立場の違いはおもしろいですね。どっちが正しいとは言えませんが、avexは進んでいる。そして立場が明らか。ビクターは説明がわかりにくいというか、立場の取り方がわかりにくかったというべきか、、。星野源作品の音源、画像、映像など、すごく素敵ですばらしいし、そこになんだかわからないWEB CMを付けたくないみたいな心理もあるのかもしれませんけどね。

山口:YouTubeというサービス上でたくさん音楽が使われているのに、アーティスト側への分配率が低すぎるという、いわゆる「Value gap」問題があるのはわかります。むしろYouTubeは使わないというポリシーでやるアーティストがいても良いと思う。けれど、日本のレコード会社が、YouTubeには渋々動画を出して、Spotifyでは配信しないとかは、論理的に破綻しているなと思うんだ。

脇田:そこは強く言いたいですね! YouTubeに屈しないビクター、繊細な作品性にこだわるビクターには、音楽に理解ある姿勢を明らかにしていて、分配もYouTubeより遥かに多いSpotifyにアップしてほしい(最近、サカナクションやくるりは配信された)。
この辺りのYouTubeの分配の話、Value gap問題は、今度ニューミドルマン養成講座にゲストで来て頂く、NexToneの荒川(祐二)さんにも聞いて勉強してみたいです。さらにもっと言えば、ビクターの話も聞いてみたいです。今回の星野源の案件では、いろんな事情があったのだろうと思いますが、もっと深く考えられてると思うんですよね。

山口:荒川さんは合併前のJRC社長時代からITサービスはきちんと研究されてました。実は、僕にSpotifyのサービスを教えてくれたのは荒川さんだからね。ニューミドルマン養成講座では何度か講師をお願いしているけれど、今回はYouTubeとの向き合いについて掘り下げて訊きましょう。

脇田:こういうキーパーソンのお話を直接聞けるのは、めちゃめちゃ楽しみです。

山口:さて、第3位に行く前に2つほど。

圏外)avexがブルーノ・マーズと契約

脇田:avexがブルーノ・マーズと全世界での音楽出版契約を結んだと発表されました。前年のピコ太郎のヒット、NexToneのYouTube再生数に応じた分配の発表などに続いて、大きなニュースでした。新社屋も完成したavexグループが何を仕掛けるか注目です。

山口:avexという会社は、日本の音楽業界を変えていく存在で素晴らしいと思うんだ。決してお行儀が良い会社では無いけれど、新しいことに挑戦していく姿勢で業界が引っ張られていく感じがする。ワッキーはマネージメントの立場でavexと仕事した経験あるよね? どんな印象?

脇田:一言で言えませんが好きな会社です。mu-moや映画事業、フェス事業、海外進出、いろんなチャレンジが今のavexを作っている。その時は「何やってるんだろう?」と思いましたが、ここ数年、不可能だと思われていたことを可能にしていく姿を見て、ああいったチャレンジが今に繋がっているんだなと感心します。

山口:なるほど。ただ、今回のブルーノ・マーズは、本当に投資に見合う回収があるのかは疑問で、心配だな。アメリカ音楽業界にどんな戦略で切り込んでいくのか、訊いてみたいと思ってる。

脇田:そういう社風なんでしょうね。『レッドクリフ』や「a-nation」、数々の新人アーティストの売り出しとか、回収できてない投資は過去にも沢山あったでしょうから。そういえば、アジア副社長高橋俊太さんはニューミドルマン養成講座を受講された方だし、講師で来てくださった伊東宏晃さん(エイベックスマネジメント前社長)など、ゆかりの方は多い会社ですよね。テクノロジーにも積極的です。

山口:僕らが3年やってきたニューミドルマンラボの活動も面白いネットワークになってきているよね。これからが楽しみ。

圏外)JASRACが音楽教室から著作権料徴収で物議を醸す

山口:かなり話題になったニュースなんだけれど、あまりにも非生産的な話なのであくまで圏外扱いかなと。ワッキーはどういう印象?

脇田:困りますよね。音楽ビジネスの柱である、著作権管理の最大手団体、JASRACの存在によりミュージシャンはメシが食える。そのJASRACが、世の中を敵にまわすような誤解の種をバラまいている。「『カスラック』とか言ってる奴音楽聴くな!」ぐらい言って擁護したいところですが、当のJASRACに世の中を味方に付けようという意志が感じられないです。

山口:70年の歴史があるということは、インターネットはおろか音楽がデジタルになる前から著作権の徴収分配をしているということ。様々なルールやノウハウを積み重ねてきているから、それがネットに簡単に適応できないのは、仕方ない部分もあるよね。ただ、今の時代はテクノロジーを使えば100%に近い透明な分配ができる時代だから、そこに鈍感なのはよくないと思う。「これからは音楽教室から著作権料徴収します」という時に、明快で透明な分配方法を明示できなければ、ユーザーも事業者も納得しないのは、当然。でも、問題は事務局じゃなくて、JASRACの理事会なんだ。
選挙で選ばれる理事の2/3が作詞家・作曲家で、この方々がどれだけネット時代を理解していて、透明性やユーザーからの支持を得ることの重要性を理解しているか? ここがJASRAC改革の本丸です。カスラックとか言っているユーザーは、JASRACの理事にメンション飛ばして欲しい。まあTwitterやってない方が多そうだけれど(笑)。真面目な話、理事会の意識が変われば、JASRACは変わります。事務局のスタッフはちゃんと勉強しているし、時代の変化を理解している人が多いよ。

脇田:音楽教室側にも問題がありそうです。

山口:そもそも音楽教室もビジネスなので、正義の味方みたいに振る舞って、著作権料を支払いたくないというスタンスはおかしいよね。挙句の果てに、どうみても勝ち目のない訴訟を自分から仕掛けているって、顧問弁護士もセンス悪いよね。例えば、以前ブログにも書いたけれど、音楽教室の著作権料で、JASRAC管理楽曲の楽譜をクラウド管理して、ユーザに使ってもらって、それで使用料いただくみたいな発想で連携すればよいのに。縮むパイを奪い合うのではなく、市場そのものを活性化して大きくする発想が大事だよ。

脇田;海外映画の楽曲使用料の徴収方法を変える問題も軽く物議を呼びました。今年はJASRAC側からの発信も以前より増えましたし、表に出る事によって議論も起こるのはいいことだなと感じました。

第3位)安室奈美恵引退+初週ミリオン達成

山口:安室ちゃん引退は、ワッキー的にはどうですか?

脇田:一言では語れないドラマを持ったアーティストですよね。日本を代表する国民的ビッグアーティストともなると、ファンはもちろん、関係会社、業界、社会全体に対して、必要としている、いろんな人のためにコンスタントな活動を行なっていくという人生を歩まれていく方が多い。しかしある時期からの安室さんは、そういう考え方とは違う道を歩まれてますね。テレビに出ない、ライブでMCしない、ということで。
あと、この件に関して、もう一つ。2017年を代表するワードを強く印象付けました。それは「引退」です。ハロプロの「ももち」、乃木坂46の「橋本奈々未」、そして安室ちゃんと、「脱退」「卒業」「活動休止」ではない新しいワード「引退」がエンタメ業界を席巻しました。

山口:確かに、アーティストが「引退」って言葉を使うのは久しぶりに聞いた気がする。僕はなにより、ワンピースとのタイアップ曲「Hope」の作詞・作曲・編曲が僕の弟子たちなので、とても喜んでいます。

脇田:CWFですね?

山口:プロ作曲家育成「山口ゼミ」の卒業生によるクリエイター集団「Co Writing Farm」は、最近は、送られてくるコンペをこなすだけでなく、デモを作ってこちらからアーティストに提案するという活動をしているんだ。これからは日本でもこのやり方が主流になると思っている。担当を調べて、A&Rに持っていくと、喜んで聴いてくれるしね。今回も、一期生の安楽謙一が安室奈美恵って言い出して2年位かかったけれど、とても大きな成果があった。

脇田:すごいですね。おめでとうございます。

第2位)SMAP解散、ジャニーズ脱退メンバーの活躍

山口:SMAPの解散は2つの意味でバッドなニュースだったと思っている。40代の成功した男たちの意思決定を80代が覆すという、日本の悪い面の縮図だと僕には見えるんだけれど、それを美談みたいにメディアや政治家が語っているのが醜悪だった。

脇田:SMAP解散に関しての顛末は興味深かったですが、それよりインパクトがあったのが、3人での「新しい地図」と、「世界に一つだけの花」の購買運動ですね。ネットに舞台を移して新しい活動を華々しくスタートさせたこと、ファンがオリコンを舞台に、CDを買うことで意思表示し続けている、興味深いです。

山口:ファンパワーが凄いよね。。だからこそなんだけれど、残念なことのもう一つはSMAPという器があることで成立していた、最高峰にクリエイティブレベルが高いJ−POPが作られなくなってしまうこと。最後にアルバム1枚作って欲しかったけれどね。

脇田:いい作品を沢山生みましたよね。

山口:あと、辞めたマネージャーの方を被害者みたいに言うのも違和感あるんだよね。彼女は、ジャニーズ事務所の中で最もジャニーズ的な強権を使う仕事の仕方が評判の人でしたからね。これからどうするのかお手並み拝見だね。

脇田:SMAP、安室ちゃんの件で、90年代、平成に花開いた国民的エンタテイメントの一つの時代の終わりを感じますが、テクノロジーの進化がもたらす新しい時代に彼らや彼女が生み出せるものは沢山あると思います。


第1位)チケット二次流通問題、音楽業界の主張が認められる

 山口:僕の知る限り音楽業界が、提案した社会的な事象が、支持され「勝った」のって初めてなんだよね。素晴らしいと思う。国会も司法も味方にすることができた。びっくりした。私的録音補償金のiPod認定も古くはレコードの貸与権も、コンテンツ制作者側の主張は軽んじられてきました。今回は満点の出来です。

脇田:話が平行線なら、戦うしかないですからね。私たち音楽関係者が大事にしている事について、ああいった会社から理解されなかったのは残念でしたよね。負けられない戦いでした。

山口:チケット二次流通の会社のロジックは、大まかに言うと「アメリカでは普通に行なわれている」「市場主義でチケットも取引するやるべき」という2つだったと思うけど、日本の音楽ファンには馴染まない考え方だったね。
僕が思うのは、アメリカで「ファンに申し訳ないから、あまりチケット代を高くしたくない」って考えるアーティストってまずいないと思うんだ。ビジネスライクな判断をしていると思う。でも、日本のアーティストは、「ファンのために」という考え方をすることが多い。マネージメントってアーティストの考えに寄り添って、それを実現させるって思う仕事だからね。今回もヒップランドの野村達矢さんが先頭に立って汗をかかれていて、素晴らしかった。日本では「コンサートはファンとアーティストの最大のエンゲージメントの場なので、単純な市場主義はそぐわない」という音楽業界側の主張が日本全体から支持されたなと感じているよ。

脇田:「ファンは高いお金を出してでもチケットを入手したいと思っている、だからこういうサービスを行なっているんだ、ファンのためだ」、みたいな論理もありましたね。「ファンのために」みたいな音楽文化への愛情や敬意が少しでもあるなら、もっと解決策を対話できたんじゃないかと思います。これからも、敬意のない乱暴なサービスや企業が現れるでしょう。敬意をもって、理解し合いたいものです。

山口:あと、チケット二次流通会社は、ネットダフ屋撲滅への姿勢も中途半端で、二枚舌な印象を持たれたよね。

脇田:ネットダフ屋を取り締まる法整備が無いのをいいことに、利益を優先して悪に加担したと思われても仕方ないと思います。

山口:個人的にはmixiの経営陣に猛省を促したいな。音楽業界ともつながりの深い中村伊知哉さんは社外取締役を辞任してまで、チケット二次流通サービスについて諫言したのに無視。上場企業が儲かれば良いって考えでサービスやってはだめでしょう?
以前は、mixiのファンコミュニティが機能していて、コンサートにいけなくなるとコミュ内で定価ベースでやりとりしていた。マネージャーはそれを黙認していたって歴史があるじゃない? まあ牧歌的な時代と言ってしまえばそれまでだけれど、そのmixiの伝統にも泥を塗ったと思うよ。

脇田:これも残念なことです。

総評)2017年を振り返って

脇田:振り返ってみると2017年は、今までにない新しい動きがたくさん見られた年でしたね。CDが売れていた時代のような過去に決別し、何か、重い腰を上げて動き始めた実感がありました。JASRACの件、ビクターの件についても、過去にしがみついて引きこもっていたなら、このような騒ぎにならない。そう考えると未来を感じますね。山口さんはどう思われました?

山口:国際的な視点で言えば、周回遅れな感じもするけれど、やっと日本でも新しい潮流があるのかなと、希望的に考えたいです。

脇田:ニューミドルマン養成講座も新しい仕組みをスタートさせます。マネジメント本も出ましたし、音楽ビジネスに参入する人をどんどん増やしたいです。

山口:ニューミドルマンもコミュニティ化を図ろうと思います。音楽業界の変革を牽引する人がたくさん出てきてほしいです。オンライン+オフ会のコミュティをベースにして、養成講座は回数やテーマを絞って、年4回やるような形にアレンジしようと。1月からはオンラインコミュニティもフェイスブックグループを使ってα版運用を始めるので、是非、参加して欲しいし、2月に行う音楽ビジネスに興味がある人は、2月に行う「超実践アーティストマネージメント篇」を受講してください!

●ニューミドルマン養成講座公式サイトはこちら
●脇田敬Facebook、Twitter

2017年8月12日土曜日

書籍の著者になって良かったこと

 音楽の仕事を始めてもう30年近くなるけれど、自分が書籍を出版するようになんて思ってもいなかった。インターネット上に本名と写真を晒して、日々発言するなんて15年前頃までは絶対に有り得なかった。実際mixi日記もブログもやってなかったし、自分の事務所のアーティストのメイキングのビデオや写真にも写り込まないように気をつけていた。裏方の美学みたいなものもあったし、単純に自意識過剰で恥ずかしがり屋なので、避けていた。

 だから、2010年1月からTwitterを始めたことは、人生の最大の事件だった。多分、1月の2日か3日だったと思う。世田谷線に乗っていて「やる!」と決意した時の車窓の風景を何故か今でも覚えている。

 そこからは自分に対してマネージメント、プロデュースの能力をフルに発揮したので、書籍を出すまでの流れ必然的だった。ブランディングや風評リスク、本業へのマイナスなども気にしながら、活動領域を広げていったつもりだ。とは言え、書籍を出すのは一つの大きな節目だった。ふくりゅう君との共著にしたのには、初めての経験で彼に頼りたい気持と、同時に直近のプロジェクトで大きな迷惑を掛けたので、彼の初著作の機会を作ることで罪滅ぼししたいという気持ちもあった。

 さて、今日の本題はここから先のこと。

 僕の最初の著作『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』は2011年の3月刊行予定が延期になった。最終的には震災がダメ押しだったんだけれど、その前から出版社の雲行きが少し怪しくなって、「より良い内容で良い形で出すために」という理由で延期が決まった。
その話を僕に伝えてくれる時の編集者の態度を見て気づいた。「これ、俺が普段やっている役回りの仕事だ」と。「事実は正確に伝えなければいけない。中途半端に誤魔化すことはしない。でも相手が少しでも前向きに捉えられるように、ポジティブな側面をきちんと伝える」なかなか難しい役割なのだ。編集者の僕の気持を気遣う態度に感謝した。
 そして、一番驚きだったのは、自分がとても不安になっていることだった。
 逆の立場だったら「よりベターな方法を選んでいるだし、1〜2ヶ月遅れることなんて、大したことじゃない」と思うのに、著者の立場になると「もう出版できないのではないか?」と不安になるし、自分が否定されたような気分に落ち込んでいく。

 痛感したのは、アーティストってこんな風にどうしようもなく不安なんだなということ。アーティストマネージメントの仕事を長年やって、よくよくわかっていたつもりだったけれど、これまで関わったアーティストに対して「ごめん、、。俺、わかってなかった。」謝りたい気持だった。もちろん、言っても副業な僕の著作と、全エネルギーを注ぐアーティストでは不安の程度も違う。今後はもっともっと気遣って優しくしなくちゃと思った。同時に確信したのは「やっぱり、アーティストの立場に居てスタッフに感謝の心を持てない奴は人間のクズだな」ということ。自分の育て方が悪かったという悔恨を伴った経験は、セミナーなどで本格的に人材育成に取り組むようになって糧となっていると思う。その時気遣ってくれた担当編集者は古い付き合いというのもあったけれど、心の底から感謝した。その気持は一生忘れないし、彼のためならできることはなんでもしたいと今でも思っている。
 「最初に井戸を掘ってくれた人のことを忘れない」ができるかどうかで、その後のその人の人生は変わっていく。そんな例を何度も見てきた。

 著者というアーティストとニアリーの立場を経験したことで、音楽プロデューサー、アーティストマネージメントとしての自分の仕事に奥行きが出たらいいなと思う。

 こんなことを思い出しているのは、同業の後輩、ワッキーこと脇田敬の最初の著作『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務〜答えはマネジメント現場にある!』の監修をしているからだ。発売が決まって、書籍の情報がAMAZONに載り、同時並行で文章の校正と図表や後書きなど細かなことを詰める作業をしている時には、いろんな不安がよぎっているだろう。打合せをしている脇田の顔を見て、6年前の気持を思い出した。彼も著者になるという経験を糧にして音楽プロデューサーとしても成長してくれると思う。

アーティストマネージメントの実務を微に入り細に入りその意味と具体を説明しているこの本は、業界で仕事をしている人なら誰でも知っている暗黙知を言語化するという作業で、拙著ではクリエイター向けに音楽業界の成り立ちを伝えた『プロ直伝!職業作曲家への道』と似ているところがある。全てが可視化されて、情報が隠蔽できない時代に、長く続いている音楽業界の慣習を、そもそもの意味から紐解いて言語化して公開するのは重要な作業だ。若い人が全てを盲目的に業界慣習に従う必要は全く無いけれど、知らずに損をしない方が良い。音楽業界の良き部分を語り継ぐという意義もある。もちろん時代遅れになった慣習は変えていかなければならないけれど、そのためにしっかり知っておいたほうが良い。
 自立心を持ったDIYミュージシャンと音楽業界で働きたい人、そして音楽業界とこれから仕事をしようとしている人にも有益な本なので、是非、読んでみて欲しい。

 ちなみに、この本はNEW MIDDLEMAN BOOKSシリーズの第二弾で、脇田曰く「ミュージックビジネス最終講義が設計図だとすれば、本書は現場マニュアルだ」とのこと。お陰様で重版されている『新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』も改めてチェックして欲しい。もう約2年の出版になるけれど、ここに書かれている課題と分析は、(残念ながら)2017年現在もほぼそのまま有効な内容だ。

 新しい世代や異業種と連携して、日本の音楽シーンを活性化して、音楽ビジネスを広げていくことは、僕のライフワークなので、もちろん続けていくつもりだ。10月1日(日)は、デジタルコンテンツ白書の音楽部分のエキストラ解説と『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』の出版記念のトークイベントを予定している。ニューミドルマンラボの活動の一環として、ラボメンバーやゲストもお招きするつもりだ。詳細発表はもう少し先になるけれど、無料イベントになる予定なので、是非、足を運んで僕らに会いに来て欲しい。

2017年6月11日日曜日

誰がJASRACをカスと呼ばせるのか?〜状況整理と幾つかの提言

 音楽教室からの著作権使用料徴収問題が世間を騒がせている。AbemaTVなどのメディアからもコメントを求められることが多くなってきた。以前、本ブログで「JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理」という記事を書いたけれど、その後もあまりにも内向きで、後ろ向きの議論が多く感じている。多少の提言を含めて、改めて本件について言及したいと思う。




●JASRACのガバナンス不全という問題 



 ネット上では、「カスラック」と呼ばれることも少なくない。JASRACへの批判や不満は、誤解や無知によるものも多いのだけれど、JASARACが説明責任を果たそうとしないので、どんどん誤解が広がるという側面もある。昨今、ここまで自らのブランディングができていない団体は珍しいのでは無いだろうか?
 改めて言うけれど、JASARACは、日本の音楽業界に大きな貢献を果たしてきている団体だ。日本での音楽著作権の徴収分配は世界的に高い水準で行われてきた。過去10年以上約1100億円の著作権料を徴収し、作詞作曲家に分配し続けている。
 ただ、歴史が古いということは、ルールを決めた時期が古いということで、そのルールのアップデートがインターネットとデジタルの時代に追いついてないことは事実だ。一言で言えば、透明性が足りない。そこが批判の一番の原因だろう。そこから「悪の権化」のようなJASRACのイメージが拡散されている。実態は、JASRACの事務方は、正義を持って、真面目に仕事に取り組んでいると思う。ただ、その「正義」がもうカビが生えていて、その自覚が薄いことが問題なのだ。

 今回の騒動でも、僕は「JASRACが全音楽教室にセンサーを取り付けて全データを集めて徴収分配するという姿勢なら、断固支持する」と何度も言っている。実際は分配コストが高すぎで難しいのはわかるけれど、その位の姿勢じゃないと世の中からは認められないという認識をJASRACに持って欲しい。

 認識が甘い理由は何か?理事会が機能不全なのだと僕は思う。役人が国会議員や大臣の方を見て仕事をするように、JASRACの職員も理事を見て仕事をするのは止むを得ない、というか当然だ。彼らは職業的良心に則って真面目に仕事をしてくれていると思う。理事会に、音楽家から信頼され、ユーザーから支持されないとJASRACという団体は存在できないという意識が足らず、既得権益のように思ってしまっているのではないか?デジタル時代は、全量報告で完全透明な徴収分配が技術的に可能なのだから、透明性を担保しないと社会的に許されないという認識を持つべきだ。おそらくJASRACの理事会にその理解は無い。
 JASRACの理事の2/3は作詞家作曲家の代表で、会員作家からの選挙で選ばれている。個々人の方はよく存じ上げない。もちろん見識のある方もいらっしゃるのだろうけれど、僕に見えてくるのは悲惨な有様だ。デジタルに対する理解も、日本社会、産業界への貢献という意識も感じられない。
 政府も、音楽教室からの著作権徴収を認めるような見解を出す前に、JASRACのガバナンスを改善する要望を出すべきだと思う。理事会の2/3が作詞家作曲家という組織の構造が音楽ユーザーから意識が離れる元凶になっている。理事選任の方法から考え直すべきだろう。
 選出方法を変えるのに時間がかかると言うのなら、すぐにできることがいくつかある。まずは情報公開だ。JASRACの内部で語られたことや、使用者団体との交渉経緯をしっかり公開するのだ。ニコ生で生中継しろとまでは言わないが、きちんと議事録公開をすることがユーザーからの理解を得る一番の方法だろう。そもそもJASRACは密談的な交渉が好きなカルチャーがある。事業会社と本音と建前をぶつけ合いながら、お互いの落とし所を探っていき、公開されている使用料規程とは別に細則、補則をつくって対応し、そこは非公開にしておく、みたいなやり方の良さも日本人的な感覚で理解はできるけれど、さすがにもう時代に合わない。

 理事長か会長の直轄で諮問委員会みたいな組織をつくるのも一案だ。事業社やユーザーに近い立場の人から定期的に提言を受けるような形だ。例えば、津田大介君に、3ヶ月に1回意見を聞いて、その経緯を公開すれば、世間からの印象は大きく変わるはずだ。
 音楽業界村の中だけで通用する感覚で運営する時代ではないし、それが許されないくらJASRACの存在は日本の中で大き過ぎると知るべきだ。

●音楽教室業界への提言 


 今回は心情的に音楽教室に肩入れする人が多いようだけれど、彼らのロジックも相当、貧弱に感じる。YAMAHAやKAWAIなどがやっている音楽教室は、どこから見ても商売で、少なくも保護を主張するような業態ではない。
 ただもし、JASRACから著作権使用料の支払を求められた時に、 こんな切り返しがあったらなら、尊敬できる。
 「JASRACの管理楽曲の楽譜を全てクラウド上で管理するシステムを作って、それに基づいて著作権使用料を払いたい。ユーザーの利便性も上がって、音楽全体が活性化するはずなので、その開発費の半分をJASRACで出してくれないか?」

著作権支分権一覧
引用元:http://www.jasrac.or.jp/copyright/outline/index.html#anc05

 音楽教室から著作権を取る根拠に、演奏権のルールを当てはめているのは、個人的に「筋が悪い」と感じている。楽譜出版の支分権準拠にして、クラウド上の楽譜使用のアクセス権型に読み替えて、著作権使用料を取る方式が、音楽教室というビジネスの利用実態に近い。著作権法の運用という意味でもスマートなやり方だと僕は思う。
 音楽教室に通うユーザーも、タブレットや家のTVで楽譜が自由に見ることができるのなら、レッスン受講料が少しくらい上がっても納得してくれるかもしれないし、そもそも別料金で楽譜使用に関する著作権使用料を徴収することも可能だろう。
 このような音楽市場を活性化する発想をそれぞれの立場から出し合って欲しい。著作権を払う払わないだけの話は醜悪だし、後ろ向きだ。 時代に即した新サービスをスタートアップと組んでやる位のフットワークの軽さと発想の柔軟さを持っていたい。

 他にも、おさえておくべきポイントを2つ加えたい。

●NexToneの存在が貴重


 日本の第2JASRAC法人二社が昨年合併してNexToneという会社になった。この会社は、前述の透明な分配の重要性を理解しているし、デジタルサービスを研究し、海外事情にも精通した経営陣による会社だ。
 JASRACを批判していて、NexToneを知らない人は、是非、ウォッチして欲しい。いわゆる第2JASRACと言われる会社の存在があることで、これまでJASRACの改革が進んできたし、今後、NexToneの影響力が増すことが、日本にとってプラスだと僕は思っている。

●そして最後は、ブロックチェーンの時代になるんだよ。

アーティストへの適正なロイヤリティ支払いのため、Spotifyがブロックチェーン開発のMediachainを買収 (「TechCrunch Japan」より)

 Spotifyがブロックチェーンの会社を買収して話題になっている。いずれにしても近い将来、音楽著作権の分配の仕組みにブロックチェーンが使われるようになることは間違いないと言っていいだろう。インターネットの世界は様々な分野を「民主化」してきたけれど、音楽著作権の民主化を担うのがブロックチェーンだ。普及するには10年以上かかるだろうけれど、クリエイティブ・コモンズで提唱された音楽家主導の音楽流通が商業化できる時代がきている。ルールが曖昧なことが障害になっているリミックスや二次創作も活性化されるだろう。
 そして、ブロックチェーン到来の時代は、著作権の集中管理の有効性そのものが問われる時代だ。そういう意味で今のJASRACは2周遅れを走っているランナーのような状態なのだ。組織としてもっと危機感が必要だ。

 こんな環境下で今やるべきことは、大きく変わった市場環境に対して、新しいテクノロジーを使って、新たな産業を創出、市場を活性化することだ。今あるパイの取り合いにエネルギーを使っているのは無駄で無益なことだ。そんな余裕は今の日本の音楽業界には無いはずだ。JASRACも音楽教室側も日本政府も未来志向で考えて欲しいと心底、願っている。

関連投稿
●「JASRAC音楽教室から著作権徴収」に関する論点整理

●日本の音楽ビジネスを進化させる、JASRACの対抗軸、NexTone設立の期待

●JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配

2017年1月2日月曜日

2016年のエンターテックニュースTOP20+α

 ブログはできなかったけれど、毎週月曜日の無料メールマガジン「音楽プロデューサー山口哲一のエンターテックニュースキュレーション」は、おおむね毎週発行できた。
 2016年のエンターテック関連のニュースから1年間の極私的TOP20+αを紹介した、よければまぐまぐから発行しているメールマガジンも読者登録をお願いします!

<第1位>
●ノーベル文学賞にボブ・ディラン氏 

 ニュースが多かった今年ですが、今年のNO.1は、何と言ってもこれでしょう。歴史に残る大事件ですね。文学というカテゴリーでポップミュージックのシンガーソングライターが最高の栄誉を得たことになります。びっくりですね。

 日本の純文学界の系譜と無縁だった村上春樹が取るのも日本の芸術史的に事件ですが、ボブ・ディランは世界史レベルですね。この後も表彰式を欠席するなど話題を振りまきました。ノーベル賞授賞式より優先される「先約」って何なのでしょうか?知りたいですね。
 そして、こんなニュースもありました。ストリーミングサービスでの楽曲の再生回数が、注目度に関する新たな指標になっています。再生回数がオープンなのもSpotifyの良いところです。
・ボブ・ディランのSpotify再生回数が500%アップ。ノーベル文学賞受賞を受けて

<第2位>
●音楽配信のSpotifyが日本参入。広告付き無料版と月額980円の有料プラン

 苦節4年という感じですか、やっと真打登場です。素晴らしいプロダクトなので、必ずや日本の音楽市場を活性化に貢献してくれると思います。 関係者の皆さん、まずはおめでと
うございます!!
 Spotifyの登場でやっと日本の音楽サービスも世界標準になります。日本の音楽市場を活性化してくれることは間違いないです。

<第3位>
●ピコ太郎「PPAP」が米ビルボード77位 松田聖子以来26年ぶりの日本人トップ100入り

 驚きました。YouTubeの破壊力ですね。ただ、今回も様々な形の「カバー」が伝搬力になりました。時代性を感じます。
 YouTubeの再生回数だけでは広告収入の分配があるだけですから、これからピコ太郎がどんな活動をしていくのか注目です。アメリカの地上波TVに進出とかなら面白いですね。
・ユーチューブ:PPAP年間世界2位 日本人歌手で初
 素晴らしい!ですが、 過剰評価せずに、このラッキーな現象をピコ太郎がどんな風に戦略的に活かしていくか、注目したいです。

<第4位>
●クラブ終夜営業 23日からOK 

 偉大なる一歩。関係各位の努力に最大限の賛辞と感謝を捧げたいです、日本のカルチャーを救った皆さんです。女性が接客するお店とDJが新しい音楽を提供するお店の区別が法律的にできたことには意義があります。
 クラブは、萌芽する前の様々なカルチャーがクロスして新しいムーブメントを産むインキュベーション装置です。都市の魅力を高める観光業とにとっても重要です。日本が観光&文化立国するためにあと10歩位進めないといけませんね。

<第5位>
●BABYMETAL、新アルバムが米配信チャートで一時3位

 アメリカでは日本と違って、ストリーミングに押され始めているとはいえ、iTunes Storeは、デファクト的な存在で、メジャーなサービスですから、この総合チャート3位は本当に立派ですね。
 BABY METALの成功は、2つの文脈をまとめたことにあると思っています。一つは、いわゆるクールジャパン。日本のポップカルチャーの一つであるアイドルという流れ。もう一つは、メタルロックの流れです。
マイナージャンルは、グローバルに繋がりを持っています。そのグローバルニッチな音楽ジャンルのファンからもBABY METALは支持されて、大きなロックフェスにも招聘されています。プロデューサー陣の「メタル愛」が本場のマニアにも刺さったということなのでしょう。
 2つの文脈を掛けあわせることで、「現象」となりますし、メディアも取り上げやすくなります。ビジュアル系のバンドが海外進出が多いのも同じ理由です。
 日本人アーティストの海外進出の成功方程式として、ブローバルニッチジャンル×クールジャパンというのは意識していきたいですね。

<第6位>
●米スナップチャットが非公開ベースでIPO申請-関係者 

 おそらくsnapの経営陣が見ているのは、「スマホの次」のコミュニケーションプラットフォームでしょう。写真が消えるという発想は斬新でも、snapchatだけなら、ラッキーパンチと言えます。でもメガネにカメラ仕込んだSpectclesは面白い、これが当たれば、見晴らしが悪いウェアラブルの分野で抜きん出る可能性があります。
プロダクト開発センスは抜群なので、期待しています
・Snapchat、Spectclesメガネの自販機をグランドキャニオンに設置 
 これもイケてる施策。
・Snapchat、Twitterをデイリーアクティブユーザー数で超える、Bloomberg報道
 Snapchatの勢いを感じさせると同時に、Twitterの停滞感を示すニュースですね。
 写真やメッセージが自動消滅するのが特徴のSnapchatはアメリカで若者を中心に大人気で、日本でも広まり始めていますね。

<第7位>
●Google翻訳,ニューラルネットワークが導入されて精度が大幅上昇 

 びっくりしました。久々に技術の進歩に痺れた気がします。英語力が足らない人にとって、少なくとも英語の勉強の仕方が変わりますね。
 ワープロが普及した時に、漢字の書き方を覚えなくても読めれば大丈夫になった、というのと似ている気がします。翻訳しやすさを意識ながら日本語を書いて、出てきた英語をチェックするというやり方で、英文メールはほとんど問題無さそうです。単語のニュアンスとか英語の言い回しはある程度知見が必要ですが、英作文的な勉強はだいぶすっ飛ばせる印象です。
 英語のメールがストレスだった僕にはめちゃめちゃ朗報です。そのうち、カンファレンスの同時通訳もgoogleになりそうですね。マジで、久々に痺れる技術の進歩です。しかも超助かります。

<第8位>
●HTCは自社のVR技術とハードウェアを2017年までにアジアの“数千の”ゲームセンターで展開する
●HTC、巨大VRアーケード「Viveland」を台湾にオープン

 VRは中華圏で広がっていきそうな様子です。派手好きで新しもの好きで、資金が潤沢な中国人たちがVRを牽引しそうです。コンテンツ力、企画力を活かしつつ、プラットフォームを牛耳られないように、日本企業も頑張って欲しいです。
 ゲームの分野、特に家庭向けではプレステVRが優位な展開はするはずなので、そこを活かしたいですね。HTCの動きも、スペックの高さを活かして、家庭内ではなく、街中を主戦場にしようとしているように見受けられます。アーケードゲーム系の企業には脅威ですね。

<第9位>
●radiko、過去番組のタイムフリー聴取とシェアラジオの実験を開始へ

 あまり話題になっていませんが、素晴らしいニュースです。時代にあったテクノロジー活用の体験を提供してくれますね。
 Radikoの伸長は、だめになったのはラジオ受信機による聴取という行動であって、コンテンツとしての番組は価値があるということを証明してくれていますね。

<第10位>
●世界の最重要「音楽フェスティバル」 3位にフジロックが選出 

 嬉しいニュースですね。フジロックは本当に素晴らしいフェスティバルだと思います。インバウンドにも、もっと活用したいです。

<第11位>
●売上はすでに約1億円以上か!?『ポケモンGo』、米国アプリランキングで1位獲得 
●「Pokemon GO」、iOSで平均使用時間が「Facebook」や「Twitter」を上回る

 アメリカでポケモン旋風が吹き荒れています。このゲームの大人気がAR(拡張現実)を一般化するのでしょう。日本のキャラクターの強さとGoogleのネットワーク技術力の融合ということでしょうか?
 もしかしたら日本のコンテンツがグローバルに勝つ時のパターンとして捉えるべきのか?そんなことを考えています。個人的にはPokemon GOの画像を観ると6年前のセカイカメラを思い出します。

<第12位>
●逃げ恥「恋ダンス」の踊ってみた動画、YouTube上のアップが公式OKに

 このニュースを「ビクターの英断素晴らしい!」と一瞬でも思ってしまうのは、日本の音楽業界に毒されているのだと反省します。グローバル基準では、ユーザー動画を誘発しつつ、話題とともに広告収入を得るのは当然のことですね。
 ドラマの終了後も星野源のアーティストPRのために、許諾を継続することを望みます。

<第13位>
●ゴールデンタイムでNHKが視聴率1位。テレビは新しい局面を迎えている。

 これはびっくりしました。けれど、ここから読み取るべきなのは、「世帯視聴率」、「ゴールデンタイム」という概念が既に指標としてあまり意味がない、少なくともTV局の編成や制作を決めるための最大のポイントではなくなっているということを関係者が認識するべきことだと思います。
 大企業の宣伝部、広告代理店、TV局の営業、編成、経営陣などが、時代に即したビジネススキームにむけて真摯に再構築することが、必要なのでしょう。
 それにしてもフジテレビ黄金時代の視聴者としては、落ち込みの激しさに驚きます。

<第14位>
●世界で最も魅力的都市は?1位東京、2位京都 米旅行誌
●都市総合力 パリ抜き東京3位  

 都市ランキングには様々な指標がありますが、東京の評価は高いですね。東京五輪までは放って置いても注目はあがっていくでしょうから、問題はその後ですね。
 2020年までに日本人のマインドや、決済や外国語での説明や、その他様々な仕組みを「観光立国」モードにすることが必須です。

<第15位>
●自動運転タクシー 2020年までに実用化へ

 国際水準で見て、スピード感のある判断ですね。良いと思います。東京五輪に間に合わせましょう。渋滞解消やWifi環境整備などもセットでやる必要が出てきます。国際都市としてTOKYOのデジタルインフラ環境が良くすることは大切ですし、都市のブランドとしても、自動運転タクシーをいち早く実現することは意味があります。
 既存の運転手の雇用は問題になるでしょうが、日本の発展のためには、既得権を守る方向にいってはいけません。ロボティクス(ロボット工学)とデータ分析(人工知能)が進化した時に、人間がやるべきことは何なのか、社会全体で考えるべき時代になっています。日本は移民の代わりがロボットという国になるのかもしれませんね。

<第16位>
●人工知能作品に「著作権」 音楽や小説など、政府知財本部方針 

 まだ産業規模も商品形態もわからない状況ですが、この段階で政府が方針を出したことを高く評価したいです。
 僕もAI作曲のプロジェクトに関わってみたいと思っています。

<第17位>
●サイバーエージェント、AbemaTVが1日1000万視聴、WAU100万超と好スタート! 藤田社長「事業化に確かな手応え」

 UGM型ではない、「ユーザー受身形」の動画サービスとして、「LINE LIVE」と「Abema TV」の対決という様相になっていますね。スマホ世代を取り込めると地上波テレビ以上の影響力を持つようになるかもしれません。大注目です。
 スマホ時代のUI/UX設計については、他のIT企業と比べて、サイバーエージェントが優れている印象があります。藤田社長が若手社員への権限委譲をしているのが功を奏しているのでしょうか。

<第18位>
●ドコモiモードケータイ出荷終了に思いを馳せる〜3分で振り返るケータイ文化〜

 Appleがグローバルに築き上げた、iTunes、AppStoreの生態系は故ジョブズがiモードをベンチマークして考案したと言われています。スマートフォン時代のプラットフォームの勝者です。NTTドコモにもチャンスがあったはずと考えると郷愁だけでは終わらせられないですね。

<第19位>
●アマゾン読み放題、人気本消える 利用者多すぎが原因?

 ひどい話ですね。権利者も読者も無視したプラットフォーマーの横暴です。新しいサービスを始める際にサービス事業者が守るべき最低限の信義に反しています。
 同時に、収益のほとんどを投資に充てて、赤字を厭わない経営方針のAmazonが、こういう動きをするということは、電子書籍読み放題サービスの優先順位や期待度は低いのかなと思いました。
 ちなみに、拙著も6冊ほど読み放題サービスに出ていたのですが、このタイミングで4冊が取り下げられていました。一応、人気本のカテゴリーに入ったのかって、何も得はないのに、ちょっと嬉しくなってしまいました。複雑なクリエイターの気持ちが少しだけわかった気がしました。

<第20位>
●安倍マリオ、海外の人たちが大喜び「こんなすごい光景見たことない」【リオオリンピック】 

 2020年の期待を高める演出でしたね。違和感を表明する人も居ましたが、賛否両論でも話題になる方がメリットがあるのがSNS時代です。業界人視点だと、正直「電通色」を感じてしまう部分はありますが、ポップカルチャーを全面に出して、日本をアピールする姿勢はとても良いと思いました。

<And More>  
●ハイスタ16年半ぶり新作ゲリラ発売 事前プロモ一切なしで配信時代に対抗

 話題になっていましたね。ストリーミング配信やSNSの活用に注目が集まる時代に、敢えて事前プロモーション無しで店頭にCDを置くことから始めるというのは面白いやり方です。
 もちろんご本人たちの思想の表現でもあると思いますが、僕が感じたのは強運です。時代の流れは感じられても、Spotifyの日本開始日を予測するのは不可能ですから、この絶妙のタイミングは、話題性として効果抜群です。
 成功するアーティストは「思想性×強運」が必要だし、持っているのだなと改めて思いました。

●Google脱税容疑 パリ支店捜索 

 グローバルにビジネスを展開していると、税金をどの国に払うかは、収益を残して再投資に充てためのテクニックになりますね。
 善悪論というよりは、アメリカ系グローバル企業対EU各国の戦いという見立てで分析して、日本も参考にするべきだと思います。

●Uber China と Didi Chuxing が統合される: それはタオルを投げ入れることに等しい? 

 共産党政府との関係性が重要になる中国でのインフラサービスですが、Uberは中国の同種サービスの会社と合併というのは、中国らしいできごとですね。中国人がしたたかなのか、Uberが賢いのか、「狐と狸の化かし合い」という感じもします。同床異夢でも儲かれば良いということなのでしょう。
 日本も対岸の火事ではありません。欧米系プラットフォームとのタフなつきあい方は中国から学ぶこともありますし、中国でのビジネスチャンスを逃さない姿勢も重要ですから。

<社会編>
●総人口初の減少 15年国勢調査 

 随分前から言われていましたが、実際のデータが遂に出ましたね。日本人の人口が減り始めたのです。これは大事件です。
 科学の進歩で平均寿命は伸びていくので、出生率向上が政治的には日本最大の課題ですね。移民の問題は置いておくとして、エンタメ、コンテンツ業界的には、日本市場だけ向いていられる時代は終わったことをシビアに確認するべきですね。

●EU離脱、イギリスはどうなる? 数日後、数カ月後、数年後のシナリオ

 エンターテックの話ではないですが、先週は文句無しにこれですね。ベルリンの壁崩壊以来の世界史的な出来事ではないでしょうか?イギリス国民の今回の判断の是非は歴史に委ねるしかありませんが、目先のボンド安円高などではなくロングスパンで捉えるべきですね。 スコットランドはUKを離れてEU加盟を目指すしょうし、ポンドとユーロの影響力源など、広範囲で、長期的に大きな影響が予想されます。
 日本人として、為替や株価など経済的なことだけではなく、自分たちの問題として捉えるべきと思っています。英国と日本の相違点ではなくて、共通点から考えてみることです。例えば、中国かシンガポールが経済の覇権を握って、ASEANまで取り込んだ、元(ないしシンガポールドル)経済圏を作る動きが出た時に、日本はどうあるべきなのでしょう?アジア経済圏を活性化しながら、日本の存在感を上げていくべきと僕は思いますが、今回の英国民の判断が正しいなら、違うことになりますね。沖縄問題とスコットランド離脱の相似性など、日本人にとっても他人事にはできない事件です。
⇒この件については、ブログも書きました。こちらもご覧ください。
『イギリスのEU離脱は、日本人にとっても他人事じゃないよね』


●トランプ氏が当選確実、クリントン氏を破る

 単純に投票数を足すとクリントンの方が多かったというデータも出ていて、選挙制度自体の問題も感じられる出来事でした。
 政治経験の無いトランプ大統領がどんな政策をとるかはまったく不明で、極端な悲観論も、安易な楽観論も禁物だと思いますが、国際社会全体がきな臭くなっているのは間違いないと思います。
 2016年僕が感じたのは、自分が生きている間に日本という国が戦争する可能性があるということ、裏返せば、これまで無自覚に戦争の可能性が無いと思っていたことに、気づきました。有識者によると、今の国際情勢は第一次世界大戦前に似ているそうです。

<残念編第1位>
●DeNAが健康情報サイト「WELQ」の広告販売を停止 
 
 がっかりする記事でした。上場企業の危機管理としても非常に稚拙だったと思います。プロ野球チームの経営まで成功させて、携帯ゲーム会社という狭いカテゴリーから脱出した経営力が評価されている会社だけに本当に残念です。DeNAにはIT企業の機動力、世の中を見る目と大企業の公共性を両立させてほしかったです。
 もう一つ思うのは、PV(ページビュー)至上主義の問題点です。極端な低コストでコピペ的な記事を投稿さえて、SEOだけ充実させて、PVを稼ぐという手法は自らのメディア価値を下げていく負のスパイラルで自殺行為だと思います。
 世帯視聴率至上主義で影響力を失っていった地上波テレビの二の舞いにならないように、ユーザーとのエンゲージメントを重視したウエブメディアを作って欲しいと思います。 
  今回の不祥事は、上場廃止になりかれない危機だという認識が必要でしょう。

<残念編第2位>
●SMAP解散は「極めて残念」 菅官房長官がコメント 「特別なオンリーワン」と活躍期待

 アイドルグループの不合理な解散について、政治家が発言するのは、気分悪いです。SMAP事件は、「40代の意思決定を80代がOKしないと通せないのが日本」だというのが僕の総括です。憂鬱な気分になるはなしばかりでした 。
 個人的には、素晴らしいJポップであるSMAPのアルバムがもう作られないことがとても残念です。

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音楽プロデューサー山口哲一のエンターテック・ニュース・キュレーション
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2017年1月1日日曜日

独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜

 新年明けましておめでとうございます!
 
 見事なくらい更新が少なかった本ブログ。メールマガジン「音楽プロデューサー山口哲一のエンターテック・ニュース・キュレーション」は、ほぼ毎週出したし、3月から11月までは、「TokyoTech Street」というネットラジオ番組もレギュラーでやったから、情報発信はできたつもりだけれど、なかなかブログまでは手が回らなかった。ごめんなさい。

 毎年続けてきた元旦の「独断予測」は今年もやります。まずはいつものように、昨年の答え合わせから。

(予測1)
●サブスクリプション型ストリーミングサービスの有料会員は200万人超へ

⇒オンデマンド型のストリーミングサービスは、日本では、Apple Music、Google Play Music、LINE music、AWA,KKBOX、そして12月からやっと始まったSpotifyと6社ある。どこも日本での有料会員数は発表していないので正確にはわからないけれど、各所からの情報を集まると、おそらく150万人を超えたくらいかなと思う。Spotifyが夏に始まってくれれば200万人超えていたと思うけれど、当たらずとも遠からずという予測結果になっていると思う。

(予測2)
●Spotify いよいよ日本サービス開始

⇒御存知の通り、これは正解。僕の読みよりは4〜5ヶ月くらい遅かったけれど、日本法人を作ってから4年と随分待たされたけれど、やっとSpotifyが日本でもサービスを始めた。欧米とは多少設定が違うけれど、フリーミアムモデル。無料でも一定のサービスが楽しめる形だ。使ってみればすぐに感じると思うけれど、音楽オリエンテッドでとても良くできているサービスだ。やっと日本の音楽消費が世界水準になって、ホッとした。Spotifyの存在を前提にした様々な音楽サービスも出てくるだろう。日本のスタートアップに期待したいし、できることがあれば積極的に応援したい。
 アメリカで老舗のNapster、フランス発で世界3位のDeezerの大手2社も日本でのサービス開始を準備中で、2017年には始まる可能性が高いと聞いている。オンデマンド型ストリーミングサービスの百家争鳴という感じだけれど、同時に、合従連衡も始まっていくと思う。

(予測3)
●インターネットラジオが一般化する

⇒これは当たったかどうか、半々というところだろうか。楽天がネットラジオのプラットフォームとしてRakutenFMを開始し、TOKYO FMのidioと連携するなど注目は集めたけれど、一気に普及とまでは言っていない。
 ただ、radikoが始めたシェアラジオは注目だ。放送エリア外のラジオ番組が聞ける有料会員も着実に増えているし、放送後に誰かがシェアしたら番組が聞けるというのは、魅力的だ。ラジオ受信機の価値は落ちても、コンテンツとしてのラジオ番組にはユーザーの支持があることを証明している。

(予測4)
●VR映像とライブエンターテインメントの融合が本格的に始まる

⇒VRについては、やはりまずはゲームに注目が集まっている、おそらくアダルト映像、エロの分野が売上的にはとても大きくなるだろう。でも、ゲームセンターがVR化している現状は、エンタメ分野にも大きなチャンスだ。実際、昨年は、宇多田ヒカル、きゃりーぱみゅぱみゅなどが、360度映像の配信を行った。この予想も概ね外れないと言わせて欲しい。
 個人的には、2016年はポケモンGOの大ヒットがARを一般化した記念するべき年だ。プロデュサーとしての仕掛けところが「早すぎる」と業界で言われることが多い僕だけれど、大注目だった「セカイカメラ」と組んでアーティスト&楽曲PRをした渋谷で恋するメッセージ―AR恋文横丁―」企画は、2010年の1月に発表しているので、6年以上、早過たということになる(汗
 思い出して検索してみたら、ソフトバンクからのプレスリリースが見つかって、感無量だった。こんなことやってたということで、見てみて下さい!

 さて、答え合わせが終わったところで2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、

1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。

2)   パッケージは微減しながらも健在

3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく

といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 ざっくり言うと、レコード売上については、2020年までには、デジタル配信とパッケージの比率が半々くらいになるだろう。配信のほとんどはサブスクリプション売上になる。売上総額が3000億円位まで落ち込むか、5000億円位まで伸ばせるか、その間というのが僕の感覚だ。
 コンサート市場も日本人だけが対象だとそろそろ頭打ちになるところだけれど、訪日外国人観光客が2000万人を超え4000万人になるというインパクトは大きい。全体の20%位まで訪日外国人比率を上げられれば5000億円も夢ではない。
 お正月ということで楽観的に語らせてもらえば、併せて1兆円が音楽産業の国内市場で、あとは輸出がどのくらいできるかというのが概観だ。2017年はそのプロセスということになるだろう。

 昨年も書いたけれど、2020年までの日本の経済の流れは概ね上向きに進むと思う。安倍政権も続きそうだし、首相が代わることになっても、政策的に大きな変更は無さそうだ。
 但し、これには功罪ある。オリンピック景気で、2020年までは従来型の仕組みが維持される。象徴的に言うと、地上波テレビは世帯視聴率を基準に大企業の宣伝費を電通が制御して番組が作られるだろうし、レコード会社もおそらく1社も潰れないだろう。本来、行われるべきな構造的な変化は、全て2020年までは先送りされる。
 ついでに言うと、日本の芸能界の構造も維持される。大騒動となったSMAPの解散を一言で総括するなら、「40代の意思決定に対して80代が認めないと通らないのが日本」ということだ。政治家まで残念とか言っていて意味がわからない。本当に憂鬱なニュースだった。
(個人的には、音楽的クオリティが高い良質のJポップがつくられるSMAPのアルバムがもう制作されないことが、凄く残念だ。)

 日本の大きな病巣の一つは、70代以上の重鎮にデジタル社会に対する見識がある方がほとんどいらっしゃらないことだ。特に芸能界、メディア業界は悲惨だ。日本の芸能界、メディア業界、音楽業界などの仕組みは、今の70代以上のみなさんが戦後に苦労して作られたもので、僕らはその土俵の上でやらせてもらっている。なので、先達への尊敬と感謝は、日本人的なマインドも含めて、決して忘れてはいけないと常々思っている。ただ問題は、重要なところで意思決定をする立場の人が、デジタル化、クラウド化、SNS化、人工知能の進化、ビッグデータ解析等々、社会の本質的で不可逆的な変化に対して、無知で不勉強なことだ。そして、おそらく2020年東京五輪までは現役でいたいと思っていらっしゃるだろう。それは誰も止められない。でもいつか引退の時はくる。
 この2つの意味で、2021年は大きな節目になる。

 それまでの4年間でやっておくべきことは多い。大きく3つ

●データベース構築

 日本の音楽に関するデータベースは内側に閉じてしまっている。著作権などの分配のためのデータベースは精緻に整理されている。ところが、それを例えばITサービス側に提供して、音楽に関する情報を活性化させようという発想は無い。レコード業界は、楽曲データは自分たちのものという感覚で、存在感が低下することを怖れて、極力閉じておこうとしている。コンサートに関しても悲惨だ。コンサート会場に関する共通データベースはない。いまやどんなコンサートがいつ行われたかということ記録に、文化的な価値がある時代なのにもかかわらず、共通データベースは存在しない。5年くらい前に調べた時に、チケットサービス事業社が個々に付番しているコンサート番号は、9ヶ月程度で元に戻ると聞いて、暗澹たる気持ちになった。誰もアーカイブを作ろうという発想が持てていない。記録をまとめて「コンサートミュージアム」があれば観光名所になるだろうに。
 大きな会場が同時に改修してコンサート会場が不足するという問題も、コンサートが日本にとって必要な文化の一部だという社会的なコンセンサスが不足しているから起きていることだ。自分達の記録も残せないようで、社会における価値を胸を張って主張ができるだろうか?
 このままだと、ここでも外資、例えばSongkickが日本のコンサート情報を一番持っているというようなことになりかねない。火急の課題なのだ。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

 著作権に関する法律は、それぞれの国ごとで決まるということもあり、言葉や文化の違いや、主たるメディアがドメスティックであったことなどが理由で、音楽ビジネスはドメスティックな産業だった。インターネットの普及でこの状況は変わってしまっている。Spotify、Apple、Googleなどすべて、グローバルサービスで、契約もグローバルに行うことになる。日本のアーティストが海外で稼ぐためにも、これらグローバルプラットフォーマーと交渉力を持つことと、グロバールになっている流通で戦略的なマーケティングができることは、これからの日本の音楽業界にとって、死活的に重要だ。
 海外市場での著作権徴収については、昨年できたNexToneに期待したい。グローバルエージェントと伍する存在になって欲しい。

●中国市場への本格的な取り組み

 僕は2007年にタイでシンガーオーディションを行って、16歳の美少女と日本人と組合せてSweetVacationというグループをデビューさせた。これもまた「早すぎ」だったのかもしれないけれど、アジアでの取り組みはいち早くやってきたつもりだ。インドネシア人シンガーAiu Ratnaも日本に何度も呼んだ。ただ、その時のテーマは、「without China」だった。
 著作権遵守の意識が無く、共産党政府の恣意的な政治で物事が決まる、法治ではなく、「人治」社会の中国でのビジネスはリスクが大きすぎて、避けるべきだと言い続けてきた。
 その時代も終わったようだ。象徴的なのは、中国の巨大IT企業テンセントが有料のストリーミングサービスを成功させていることだ。海賊版すら買わないと言われていた中国人が定額サービスの有料会員になるとは驚きだ。
 隣りにある巨大なマーケット。政府の反日誘導などカントリーリスクは相変わらず大きいが、もう音楽ビジネスにとっても避けては通れない状況になっている。訪日外国人観光客も一番多いのは中国人だ。

 これらの状況を踏まえて、音楽ビジネスの生態系を作り直す必要がある。新人開発は日本型クラウドファンディングの普及が鍵だろうし、ファンクラブもソシャゲーの様なオープン型に移行するべきだろう。この辺の処方箋は、拙著『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック刊)にまとめているので興味のある人は読んでみて下さい。
 僕が育った音楽業界には素晴らしいところがたくさんある。パーツとして見れば今でも有益だ。イマドキの言い方で言うと、モジュールとして捉えて、的確に再構築すれば、音楽ビジネスの生態系は息を吹き返すと思う。オールドとニューの融合が肝要だと僕は思っている。

 2021年の大変革に向けて、やるべきことは山積だけれど、まだ4年あるので、しっかり備えていきたい。そんな元旦の抱負にしたい。

 2014年から始めた「ニューミドルマンラボ」は、旬のゲスト講師と共に考える「養成講座」とサロン&ゼミ的に個々の目標を達成するためのフォローアップをする「インキュベーションプログラム」の二軸で続けて、成果が出始めている。今年も継続していくので、コンテンツビジネスについて学びたい人や、起業および転就職を考えている人は、受講を検討して下さい。
 まもなく情報解禁のイベントをフライングで告知しておく。『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)著者でお額ライターの柴那典さん、宇多田ヒカルのヒットで大活躍した宣伝プロデューサーの梶望さん、「ALL DIGITAL MUSIC」でお馴染みの音楽ブロガージェイコウガミさんの3人を招いて、座談会をやります。日程は4月1日の午後帯。ニューミドルマン養成講座第6期のプレイベントしてやるのだけれど、この3人には、第6期のゲスト講師もお願いする予定。詳細は、東京コンテンツプロデューサーズラボのサイトを見て下さい。まもなく情報解禁のはず。


 それから、「テクノロジーで音楽を拡張する」をテーマに始めた、ライブイベント&メディア「TECHS」を今年は強化していきたい。ライブイベントのためにハッカソンを開催するなんて、これまで無かった試みと思う。プログラマー、デザイナー、映像クリエイターなどと同じ目線で、一緒に新しい音楽シーンを作っていきたい。
 TECHS2@六本木SuperDeluxeは2月14日に行いますでの、ぜひぜひご来場下さい。

 おまけとして、過去の元旦ブログはこちら。同じこと言ってるなとか、日本の動きはおせーなとか思いながら、読んでみて欲しい。





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