2014年7月21日月曜日

iTunesの音楽が売れないのは音楽業界衰退の兆しじゃない!反転上昇のノロシだよ!〜「iPhone PLUS by週刊アスキー」の記事が浅すぎる件について

 マネージャーやプロデューサーといったスタッフ側の仕事をずっとしているので、自分が原稿を書くときは、締切は守るタイプだ。スケジュールが守られずにプロジェクトが進まなくなることは避けたい生理を持っているからだと思う。ところが、「デジタルコンテンツ白書2014」は締切を大幅に遅れてしまっている。この週末はずっと、ノートPCを抱えている。なんでそんなことになったのかの言い訳は、納品してから書くことにするけれど、いずれにしても、ブログ書いている場合では無い。ただ、捨ておけない記事があったので、久々に更新することにした。

 10日ほど前の「iPhone PLUS powered by 週刊アスキー」の記事。

 これは酷いなと思いつつも、放置してたけど、いろんなブログに孫引きされているようだ。個人がブログに書くのは、推測でも自由だけれど、KADOKAWAのページで、こういういい加減な記事があるのは困る。
 元データは、モルガン・スタンレーリサーチの統計データで、iTunes Storeの売上げが落ちて、APP Storeの売上げが伸びて、iPhoneユーザーの1人あたりの使用金額が逆転しているというデータ。これを元に「音楽を売るのは古い」って言っているのだけど、いくらなんでも浅すぎる論理。この記事は、アップルファン向けのページだから仕方ないのかもしれないけれど、ネットユーザーはアップル社にだけお金を払うわけじゃ無いよ。

 近年の世界の音楽サービスの変化は、iTunesに代表されるダウンロード型から、Spotifyなどのフリーミアム・月額課金のストリーミングサービスに主役が交代しつつあるというのが大きなトレンド。
 これをきっかけに、世界の音楽市場は長期低落に歯止めが掛かりそうだ、というのが、2014年時点。つまり、iTunesのDLが減っているのは、構造変化の兆しで、音楽産業復活の狼煙かもしれないという状況なのだ。

 以下は、2013年世界の音楽市場に関して、敬愛するジェイ君のブログ「All Digital Music」からの引用。

「アメリカでの音楽売上は前年比48億7000万ドル(約4946億円)から0.5%増加し、48億9000万ドル(約4969億円)。ヨーロッパの音楽産業は売上が前年比0.6%増加となる53億8000万ドル(約5464億円)で12年ぶりのプラス成長を記録、主要6カ国である英国、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデンすべての国が売上増加を達成しました。」

 世界の音楽売上げは微減しているけど、それは世界2位の市場である日本が足を引っ張ったのが大きな原因で、欧米の主要国は、ストリーミングサービスの普及に合わせて、売上げを上昇させ始めているのが、2014年半ばのリアルな状況。
 
 ストリーミングサービスの好影響の理由は、いろんな分析があるのだけれど、一般的に言われているのは、ストリーミングサービスはユーザーと楽曲の接点を増やす効果があるといういうこと。ソーシャルメディア上での共有がしやすいとか、フリーミアム(無料でも楽しめて、広告などをなくすために有料サービスに移行させるモデル。Spotfiyはこのコンバージョン率が3割強と非常に高いのが特徴)だと、ユーザーが音楽サービスを試しやすいとかなどだ。
 近年の世界の音楽ITサービスのキーワードは「DISCOVERY」で、新しい楽曲やアーティストと、ユーザーをどう出会わせるか、リコメンド、マッチングするかということに躍起になっている。


 音楽ビジネスが大きな構造変化の時期なのは間違いないし、日本は、従来の仕組みが居心地良すぎたせいもあって、欧米に比べて遅れているのが、本当にマズイんだけど、だからこそ、事実誤認と勝手な思い込みによる言説が出回るのは、何もプラスが無いよ、ヤメテ!と思う。

 例えば、この記事も基本的に誤謬。

 ご本人も「勝手に推測してみる」と書かれているので、スルーすれば良いのかもしれないけれど、一応、3点に反論しておくとすると、

1)YouTubeの影響
YouTubeがその登場以来、音楽業界にとって、悩ましい存在であるのは事実だけど、そのグーグル社も定額型の音楽サービスGoogle Play MusicYouTubeを統合させようと躍起になっているのは、どう解釈するのだろうか?

2)ダンスや振付の影響
「風が吹けば桶屋が儲かる」的な凄い想像力だと思った。ダンスとセットになることで、音楽の売上げが落ちるというのは、どういう根拠で論理なのだろう?ジャズがダンス音楽として隆盛したという歴史を紐解く必要も無いほど、音楽とダンスはそもそも切っても切れないものだ。ダンスが流行することは、音楽にとってプラスの影響はあっても、マイナスは考えにくい。実際、音楽ビジネスに関わる人で「ダンスと音楽がセットになってるのが音楽が売れない理由だ」と思っている人は、多分、世界中に1人もいないと思う。(もしいたら教えてください。)

3)若者の車離れ
全世界のデータからiTunes Store普及率の低い日本の若者の車離れを語っているのが、そもそも論理的に整合性無いなと、まず思う。状況論的なことで言うと、今年のCES(世界家電見本市)では、車の中の音楽体験が、最も大きなトピックスだった。世界の音楽サービスのテーマ「Discovery」において、車内というのは主戦場の一つだし、米国で1億人ユーザーを持つネットラジオサービスPANDORAの成長も、カーオーディオとしての役割が大きい。

以上を踏まえて、

「iTunesですら売れなくなって、音楽業界終わりだね」って言っている知り合いがいたら、「バッカじゃないの!」と言って、この辺のことを教えてあげて下さい。

 上記のiTunes StoreとAPP Storeの逆転データも、アップル社が米国で掴んでいた音楽配信のデファクトスタンダードの座から落ちようとしているという風に読むべき。iTunes Radioも切り札にはならなかったようで、「BEATSの超高額買収はアップル社の焦りではないか?」と考える方が、よほどまともな推測だ。iTunes Music Storeは、画期的でイノベイティブなプラットフォームだったけれど、時代の変化には乗り遅れつつある。

 ここまでは、一般論を書いたので、最後に私見を一つだけ。米国ではCD→ダウンロード→ストリーミングと推移しているので、音楽ストリーミングサービスがCDの代替のように捉えられているけれど、日本では、だいぶ違うと予見している。

 CDショップが全国チェーンで4社(タワー、ローソンHMVTSUTAYA、新星堂)、地域店や専門店も残り、パッケージ市場が健在の日本では、ストリーミングサービスは、ラジオやジュークボックスの発展系の役割を担うと捉えた方が適格だ。CDレンタルの市場には取って代わるかなと思うけれど、パッケージの販売にはむしろプラスの効果が働くはずだ。

 パッケージストリーミングなどのITサービスと、堅調に伸びているライブエンタテインメントの3輪の連動が、今後の音楽業界、アーティストビジネスのポイントになる。そして、海外市場の開拓

 Spotify JapanLINE MUSICもサービス開始しない中、日本の音楽業界を楽観視している訳ではない(っていうか、メチャ危機感ある)けれど、「世界の音楽市場は上向いた。日本もチャンスはある。そんな2014年だ。」ということは、みんなに知って欲しい。

 ストリーミングについては、以前書いた記事を紹介。
 興味のある方は、今年の初めに書いた二つの記事をご覧下さい。

 ということで、白書の原稿に戻ります。ご迷惑をお掛けしているみなさま、ごめんなさい。

 そんな中でも地道に、毎週無料メルマガは続けています。読者登録をお願いします!

2 件のコメント:

yoko seki さんのコメント...

自分は音楽が大好きだし、音楽で生活が成り立つミュージシャンの数を増やせないまでも何とか維持できればとは思っています。
ただ日本は世界の音楽市場の20%を占有し、アメリカの1/3の人口ながらアメリカと同等の市場規模を持っている「極めて音楽にお金をかける国」であり、今でもアルバムの価格はアメリカの2倍です。これほどまでに音楽にお金をかけるという状況が継続すると考えるのはやや厳しいでしょう。

またフィジカル(CD)についてはもう無理です。CDプレーヤーは最盛期の数十分の一の販売数ですし、スマホのみや、DVDドライブの無いノートPCの増加など、CDを再生できる機器が無い家庭も増え続けており、今後も減ることは無いでしょう。

こういう前提から考えると、私や山口さんの希望とは反対に、フィジカル(CD)の売り上げは今後も落ち続けてしまうのは止めようが無いと思います。

yamabug さんのコメント...

コメントありがとうございます。
Compact Discという規格はもう30年以上経っていますので、さすがに賞味期限切れかなと思います。
この間、新しい高音質フォーマットなどを普及させられなかったのは、家電業界含めた、業界側の怠慢ですね。
ただ、アーティストとファンの関係を結ぶモノとしての、なんらかのパッケージは、まだまだ有効だと思いますよ。
また、日本は、海外では姿を消した、CD専門のチェーン店網が残っていますので、これも有効活用したいです。O2Oという言葉がありますが、ネットとリアル店舗の連動でファンを楽しませる施策を、もっと売る側やアーティスト側が考えるべきだと私は思っています。