2017年1月1日日曜日

独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜

 新年明けましておめでとうございます!
 
 見事なくらい更新が少なかった本ブログ。メールマガジン「音楽プロデューサー山口哲一のエンターテック・ニュース・キュレーションは、ほぼ毎週出したし、3月から11月までは、TokyoTech Street」というネットラジオ番組もレギュラーでやったから、情報発信はできたつもりだけれど、なかなかブログまでは手が回らなかった。ごめんなさい。

 毎年続けてきた元旦の「独断予測」は今年もやります。まずはいつものように、昨年の答え合わせから。

(予測1)
サブスクリプション型ストリーミングサービスの有料会員は200万人超へ

⇒オンデマンド型のストリーミングサービスは、日本では、Apple MusicGoogle Play MusicLINE musicAWAKKBOX、そして12月からやっと始まったSpotifyと6社ある。どこも日本での有料会員数は発表していないので正確にはわからないけれど、各所からの情報を集まると、おそらく150万人を超えたくらいかなと思う。Spotifyが夏に始まってくれれば200万人超えていたと思うけれど、当たらずとも遠からずという予測結果になっていると思う。

(予測2
●Spotify いよいよ日本サービス開始

⇒御存知の通り、これは正解。僕の読みよりは4〜5ヶ月くらい遅かったけれど、日本法人を作ってから4年と随分待たされたけれど、やっとSpotifyが日本でもサービスを始めた。欧米とは多少設定が違うけれど、フリーミアムモデル。無料でも一定のサービスが楽しめる形だ。使ってみればすぐに感じると思うけれど、音楽オリエンテッドでとても良くできているサービスだ。やっと日本の音楽消費が世界水準になって、ホッとした。Spotifyの存在を前提にした様々な音楽サービスも出てくるだろう。日本のスタートアップに期待したいし、できることがあれば積極的に応援したい。
 アメリカで老舗のNapster、フランス発で世界3位のDeezerの大手2社も日本でのサービス開始を準備中で、2017年には始まる可能性が高いと聞いている。オンデマンド型ストリーミングサービスの百家争鳴という感じだけれど、同時に、合従連衡も始まっていくと思う。

(予測3)
インターネットラジオが一般化する

⇒これは当たったかどうか、半々というところだろうか。楽天がネットラジオのプラットフォームとしてRakutenFMを開始し、TOKYO FMidioと連携するなど注目は集めたけれど、一気に普及とまでは言っていない。
 ただ、radikoが始めたシェアラジオは注目だ。放送エリア外のラジオ番組が聞ける有料会員も着実に増えているし、放送後に誰かがシェアしたら番組が聞けるというのは、魅力的だ。ラジオ受信機の価値は落ちても、コンテンツとしてのラジオ番組にはユーザーの支持があることを証明している。

(予測4)
●VR映像とライブエンターテインメントの融合が本格的に始まる

VRについては、やはりまずはゲームに注目が集まっている、おそらくアダルト映像、エロの分野が売上的にはとても大きくなるだろう。でも、ゲームセンターがVR化している現状は、エンタメ分野にも大きなチャンスだ。実際、昨年は、宇多田ヒカル、きゃりーぱみゅぱみゅなどが、360度映像の配信を行った。この予想も概ね外れないと言わせて欲しい。
 個人的には、2016年はポケモンGOの大ヒットがARを一般化した記念するべき年だ。プロデュサーとしての仕掛けところが「早すぎる」と業界で言われることが多い僕だけれど、大注目だった「セカイカメラ」と組んでアーティスト&楽曲PRをした渋谷で恋するメッセージ―AR恋文横丁―」企画は、2010年の1月に発表しているので、6年以上、早過たということになる(汗
 思い出して検索してみたら、ソフトバンクからのプレスリリースが見つかって、感無量だった。こんなことやってたということで、見てみて下さい!

 さて、答え合わせが終わったところで2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、

1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。

2)   パッケージは微減しながらも健在

3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく

といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 ざっくり言うと、レコード売上については、2020年までには、デジタル配信とパッケージの比率が半々くらいになるだろう。配信のほとんどはサブスクリプション売上になる。売上総額が3000億円位まで落ち込むか、5000億円位まで伸ばせるか、その間というのが僕の感覚だ。
 コンサート市場も日本人だけが対象だとそろそろ頭打ちになるところだけれど、訪日外国人観光客が2000万人を超え4000万人になるというインパクトは大きい。全体の20%位まで訪日外国人比率を上げられれば5000億円も夢ではない。
 お正月ということで楽観的に語らせてもらえば、併せて1兆円が音楽産業の国内市場で、あとは輸出がどのくらいできるかというのが概観だ。2017年はそのプロセスということになるだろう。

 昨年も書いたけれど、2020年までの日本の経済の流れは概ね上向きに進むと思う。安倍政権も続きそうだし、首相が代わることになっても、政策的に大きな変更は無さそうだ。
 但し、これには功罪ある。オリンピック景気で、2020年までは従来型の仕組みが維持される。象徴的に言うと、地上波テレビは世帯視聴率を基準に大企業の宣伝費を電通が制御して番組が作られるだろうし、レコード会社もおそらく1社も潰れないだろう。本来、行われるべきな構造的な変化は、全て2020年までは先送りされる。
 ついでに言うと、日本の芸能界の構造も維持される。大騒動となったSMAPの解散を一言で総括するなら、「40代の意思決定に対して80代が認めないと通らないのが日本」ということだ。政治家まで残念とか言っていて意味がわからない。本当に憂鬱なニュースだった。
(個人的には、音楽的クオリティが高い良質のJポップがつくられるSMAPのアルバムがもう制作されないことが、凄く残念だ。)

 日本の大きな病巣の一つは、70代以上の重鎮にデジタル社会に対する見識がある方がほとんどいらっしゃらないことだ。特に芸能界、メディア業界は悲惨だ。日本の芸能界、メディア業界、音楽業界などの仕組みは、今の70代以上のみなさんが戦後に苦労して作られたもので、僕らはその土俵の上でやらせてもらっている。なので、先達への尊敬と感謝は、日本人的なマインドも含めて、決して忘れてはいけないと常々思っている。ただ問題は、重要なところで意思決定をする立場の人が、デジタル化、クラウド化、SNS化、人工知能の進化、ビッグデータ解析等々、社会の本質的で不可逆的な変化に対して、無知で不勉強なことだ。そして、おそらく2020年東京五輪までは現役でいたいと思っていらっしゃるだろう。それは誰も止められない。でもいつか引退の時はくる。
 この2つの意味で、2021年は大きな節目になる。

 それまでの4年間でやっておくべきことは多い。大きく3つ

●データベース構築

 日本の音楽に関するデータベースは内側に閉じてしまっている。著作権などの分配のためのデータベースは精緻に整理されている。ところが、それを例えばITサービス側に提供して、音楽に関する情報を活性化させようという発想は無い。レコード業界は、楽曲データは自分たちのものという感覚で、存在感が低下することを怖れて、極力閉じておこうとしている。コンサートに関しても悲惨だ。コンサート会場に関する共通データベースはない。いまやどんなコンサートがいつ行われたかということ記録に、文化的な価値がある時代なのにもかかわらず、共通データベースは存在しない。5年くらい前に調べた時に、チケットサービス事業社が個々に付番しているコンサート番号は、9ヶ月程度で元に戻ると聞いて、暗澹たる気持ちになった。誰もアーカイブを作ろうという発想が持てていない。記録をまとめて「コンサートミュージアム」があれば観光名所になるだろうに。
 大きな会場が同時に改修してコンサート会場が不足するという問題も、コンサートが日本にとって必要な文化の一部だという社会的なコンセンサスが不足しているから起きていることだ。自分達の記録も残せないようで、社会における価値を胸を張って主張ができるだろうか?
 このままだと、ここでも外資、例えばSongkickが日本のコンサート情報を一番持っているというようなことになりかねない。火急の課題なのだ。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

 著作権に関する法律は、それぞれの国ごとで決まるということもあり、言葉や文化の違いや、主たるメディアがドメスティックであったことなどが理由で、音楽ビジネスはドメスティックな産業だった。インターネットの普及でこの状況は変わってしまっている。SpotifyAppleGoogleなどすべて、グローバルサービスで、契約もグローバルに行うことになる。日本のアーティストが海外で稼ぐためにも、これらグローバルプラットフォーマーと交渉力を持つことと、グロバールになっている流通で戦略的なマーケティングができることは、これからの日本の音楽業界にとって、死活的に重要だ。
 海外市場での著作権徴収については、昨年できたNexToneに期待したい。グローバルエージェントと伍する存在になって欲しい。

●中国市場への本格的な取り組み

 僕は2007年にタイでシンガーオーディションを行って、16歳の美少女と日本人と組合せてSweetVacationというグループをデビューさせた。これもまた「早すぎ」だったのかもしれないけれど、アジアでの取り組みはいち早くやってきたつもりだ。インドネシア人シンガーAiu Ratna日本に何度も呼んだ。ただ、その時のテーマは、「without China」だった。
 著作権遵守の意識が無く、共産党政府の恣意的な政治で物事が決まる、法治ではなく、「人治」社会の中国でのビジネスはリスクが大きすぎて、避けるべきだと言い続けてきた。
 その時代も終わったようだ。象徴的なのは、中国の巨大IT企業テンセントが有料のストリーミングサービスを成功させていることだ。海賊版すら買わないと言われていた中国人が定額サービスの有料会員になるとは驚きだ。
 隣りにある巨大なマーケット。政府の反日誘導などカントリーリスクは相変わらず大きいが、もう音楽ビジネスにとっても避けては通れない状況になっている。訪日外国人観光客も一番多いのは中国人だ。

 これらの状況を踏まえて、音楽ビジネスの生態系を作り直す必要がある。新人開発は日本型クラウドファンディングの普及が鍵だろうし、ファンクラブもソシャゲーの様なオープン型に移行するべきだろう。この辺の処方箋は、拙著『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック刊)にまとめているので興味のある人は読んでみて下さい。
 僕が育った音楽業界には素晴らしいところがたくさんある。パーツとして見れば今でも有益だ。イマドキの言い方で言うと、モジュールとして捉えて、的確に再構築すれば、音楽ビジネスの生態系は息を吹き返すと思う。オールドとニューの融合が肝要だと僕は思っている。

 2021年の大変革に向けて、やるべきことは山積だけれど、まだ4年あるので、しっかり備えていきたい。そんな元旦の抱負にしたい。

 2014年から始めた「ニューミドルマンラボ」は、旬のゲスト講師と共に考える「養成講座」とサロン&ゼミ的に個々の目標を達成するためのフォローアップをする「インキュベーションプログラム」の二軸で続けて、成果が出始めている。今年も継続していくので、コンテンツビジネスについて学びたい人や、起業および転就職を考えている人は、受講を検討して下さい。
 まもなく情報解禁のイベントをフライングで告知しておく。『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)著者でお額ライターの柴那典さん、宇多田ヒカルのヒットで大活躍した宣伝プロデューサーの梶望さん、ALL DIGITAL MUSICでお馴染みの音楽ブロガージェイコウガミさんの3人を招いて、座談会をやります。日程は4月1日の午後帯。ニューミドルマン養成講座第6期のプレイベントしてやるのだけれど、この3人には、第6期のゲスト講師もお願いする予定。詳細は、東京コンテンツプロデューサーズラボのサイトを見て下さい。まもなく情報解禁のはず。


 それから、「テクノロジーで音楽を拡張する」をテーマに始めた、ライブイベント&メディア「TECHS」を今年は強化していきたい。ライブイベントのためにハッカソンを開催するなんて、これまで無かった試みと思う。プログラマー、デザイナー、映像クリエイターなどと同じ目線で、一緒に新しい音楽シーンを作っていきたい。
 TECHS2@六本木SuperDeluxeは214日に行いますでの、ぜひぜひご来場下さい。

 おまけとして、過去の元旦ブログはこちら。同じこと言ってるなとか、日本の動きはおせーなとか思いながら、読んでみて欲しい。





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