2011年10月20日木曜日

日本のライブハウス事情2011、音楽シーンの底辺を支えるライブハウスシーンのビジネス構造


  ライブハウスにきちっとした定義がある訳ではないし、組合組織も無いので、きちんとした統計はわからないけれど、日本全国では1000軒以上のライブハウスがあると言われている。簡易的にライブができるカフェやバーを加えると数え切れないほどのお店があり、日本の音楽シーンの底辺を支えていると思う。

 海外のライブハウスでツアーをやった経験から比較しても、日本のライブハウスの設備は非常に充実している。過剰かもしれないとも思うけれど、PAのコンディションを心配する必要が無いのは助かるし、出演者も演奏しやすいだろう。100人程度のキャパのライブハウスでモニターシステム(演奏者が自分たちの演奏を聴くための仕組み)が4〜5系統あるなんて、欧米ではまず無いと思う。海外で何百のライブを観たわけでは無いけれど、僕の経験上、小規模ライブハウスのPAオペレーターの技術は日本が一番高い気がする。
 アメリカは飲食業で基本の経営を成り立たせて、バンド演奏はプラスアルファという業態の店も多いから、単純に比較できない部分もあるけれど。
 日本でもライブハウスの業態はいろいろで、例えば4ビートのジャズをやるお店は、飲食をベースにしていて、ライブについては店側が、リスクを持って、ミュージシャンにギャラを保証している場合が多い。

 また、地方のライブハウスには、バンドを育てて、音楽業界に情報を伝えるという役割も担っている。日本では、例えば、小さな街のライブハウスで数百人を集めて人気のバンドが出てきたら、業界関係者に伝わり、数ヶ月以内には、レコード会社のディレクターや事務所のマネージャーが観に行くという緩やかな仕組みができあがっている。今となってはメジャーデビューが素晴らしいことかどうかは別にして、そこで大衆性があると思われれば、全国規模のデビューに繋がっていく。そんなシステムがあるのは、おそらく日本だけなんじゃないかな?米国のライブシーンよりビジネススキームとして洗練されていると思う。

 最近、ツイッター等でライブハウスのノルマ制が俎上にあげられていたようだ。僕もアマチュアバンドにチケット買取の義務を負わせるのが当然と思うライブハウスのブッキングマネージャーは職務怠慢と思うし、立体駐車場と同じビジネスモデルに安住した経営者もライブハウスとか言うなよとは以前から思っている。そんな人達が音楽論を語るのは、ファーストフードの経営者が食文化の歴史を語るような気持悪さがある。

 ただ、僕が「ノルマ制度」を批判していたら、親しい友人で、有名パンクバンドをスターダムに押し上げた某マネージャーは「ノルマ制が広まって、ライブハウスが民主化した側面もある」と言っていた。「ライブハウスのオヤジが気に入らなくても、誰でも出られるようになって良かったんだよ」と聞いて、物事には何でも功罪両面あるんだなと思った。
 また、78年前に名古屋の名物ライブハウスオーナーと話していて、「最近のバンドの子はノルマにしないとチケット売らないんだよね。」と悲しそうに言っていたのも思い出される。その店は最後までノルマ制を取り入れなかったけれど、周辺のお店に泣きつかれて、導入することにしたのだそうだ。

 ちなみに、僕がライブハウスのマネージャーにブッキングを直接頼むことは、ごく希にしかないけれど、そのアーティストを気に入って貰えるかどうかがポイントで、チケットのノルマを強いられた経験は、ほとんどない。出演する以上、集客を頑張るのは当然だけれど。
 ただ、そういう気骨のあるお店が少ないのも事実で、300以上あると言われる東京のライブハウスで1割程度だとは思う。ほとんどのお店は、アマチュアバンドにチケットノルマを課すのを当然と考えている。

 一番よくないと僕が思うのは、ライブハウスもバンド側も、深く考えずに「そんなものだ」と受け入れてしまっていることだ。もう10年位前だけど、興味を持ったアマチュアバンドの子が「渋谷の**は2万円、新宿の**は3万円」とノルマ数×チケット代金の金額で語っているのを聞いて、呆れて叱った記憶がある。
 「効率的と思って広まった仕組みが、誰も疑わなくなって、替えられない様な気分になって、矛盾を抱えたまま存在している。」って他の分野でもよくあることだよね?感覚が麻痺していることに一番の問題を感じる。
 いわゆるバンドが出演するライブハウスでは、集客の責任は、主にバンド側にあるというのが、今の日本の音楽シーンの慣習。お店側は、環境を提供し、宣伝をサポートしていく。店ごとのカラーを(多少なりとも)打ち出して、ライブハウスに行くのが好きなお客さんに、情報を出していく。そんな役割分担が行われている。
 日本を代表するようなスーパーバンドも、ほとんどライブハウスを通過して世の中に出ていっている。ライブハウスのスタッフからは、敏腕マネージャーやヒットディレクターも輩出している。貴重な人材供給源としても機能も見逃せない。
 音楽シーンや音楽業界でのライブハウスの意義は、多面的に捉えて欲しいと思う。

 いずれにしても、企業努力を怠って、アマチュアバンドにチケットノルマを押しつけているだけのお店は、やがて行き詰まる。音楽シーンの礎を支える個性的なお店が増えていくことを期待したい。

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

アメリカで音楽活動していたものです。山口さんのおっしゃる通りだと思います。ロスですと、baked potatoやcafe cordialeというところで本当の一流と言える人たちの演奏が千円位のお金で見る事が出来ます。日本ですと、アマチュアバンドに1000円のお金を払って見に行かなくてはなりません。ロスで音楽ができる場所は、PA以外の機材はドラムも含めて自分で持ち込みます。NYのライブハウスは、基本的には、PA.ギターとベースのスピーカーキャビネット、ドラムセットはありますが、アンプのヘッドが無いので、ギターとベースはアンプヘッド持ち込み、キーボーディストはキーボードを持ち込み、ドラマーはハードウェア、ペダル、シンバル、スネアを持ち込んでいました。ただし、バーでの演奏はロスと同じでPA以外は自分で持ち込んでいました。LA.NYともに演奏するのに、ライブハウスにお金を払う事は全くと言っても良い位にありません。その代わりに、音の調整のリハーサルは、本番前の10分位でした。

私にとっては日本のライブハウスのシステムは明らかに音楽をやりたい人にとって音楽をやりずらい状況を作り上げていると思います。

yamabug さんのコメント...

コメントありがとうございます!日本と米国のライブハウス事情はかなり違いますよね?功罪あって、どちらが良いとは言えませんが、日本式の良さもあるなとは思ってます。

匿名 さんのコメント...

以前にコメントしたものです。日本式のライブハウスのシステムについてもう一度考えてみましたが、やはり良いと思える事がありません。
良い音で演奏できるのは良い事ですが、お金を払わなければ行けない事によりライブミュージックが身近なものでなくなっていることも事実だと思います。ライブをやるとしてもチケット売ってライブをやらなければいけないので、いくら友達でも何回も来てくれるはずもありません。結局お客さんは、音楽仲間だけということになりそれ以上につながることはないと思います。しかし、もし、お客さんが無料で入場できるのであれば、不特定多数の人が気軽にライブに行くことができますし、バンド側もお客さんを呼びやすくなります。
ドリンクのミニマムだけをライブハウスに払わなければいけなくても、チケット代がただなのであれば、たとえバンドの演奏がひどくてもお客さんは損をした気分にはならないはずです。

それから、リハーサルルームについてですが、日本では一時間いくらでリハーサルをすることが一般的ですが、
NYでは地下、ロスアンジェルスでは廃ビル(学校跡、病院跡)みたいな場所が大きなリハーサルビルになっていたりします。

一ヶ月単位の部屋のレンタルで機材はすべて持ち込みです。だいたい3バンドくらいでシェアをしていますので、
1バンドあたり、100ドルから150ドルぐらいだと思います。あまり治安がよくないばしょにあるのですが、24時間気兼ねなく音が出せるので、ドラマーにとってはすごくいい環境だと思います。日本にも同じような場所があればといつも思います。

日本の音楽環境が改善されライブミュージックがより身近になるように心から願います。

匿名 さんのコメント...

現在アメリカで音楽ビジネスに携わっています。L.A.でもSunset Strip沿いの小屋はチケットノルマがありますね。でもFBやTwitterでのファンベースのナンバー、またI-tuneの売り上げによって、そこは考慮される場合もあります。
チケットは、とても安くだいたい$10−20ぐらい。
最近では月曜日なんかは、ShowCaseの日としてライブはフリーの日もあります。
田舎の方ですと無名のバンドでもギャラは出ますよ。娯楽が少ないからだと思うのですが、日本も田舎や地方は東京に比べて土地代が安い訳ですから、ノルマの考慮はするべきだと思いますが...
日本だとチケット代がアマチュアでも高いので、気楽にライブハウスに行きにくいですよね...せめてShowCaseの日を設けて欲しいですね

匿名 さんのコメント...

今の日本のライブハウスの良い所は設備の充実一点だと思います。

以前は箱がバンドを育てたり、有名な所に出演できればそれで箔が着いたりステップアップになったりしたかも知れませんが
今は「ここに出ればその先に!」なんていう事は皆無です。

もはやバンドはノルマと言う名の料金で箱を借りているだけであり、機材が揃っている会議室を借りるのとあまり変わらない状況になっています。
なのに昔を引きずってバンドに対してあまりに偉そうなスタッフが日本の箱には多すぎる印象があります。

バンドでアジアやヨーロッパ、イギリスなどをツアーしてきましたが、
海外は基本的には箱スタッフもバンドを凄いリスペクトしてくれた上で、バンド含め皆で良いイベントを創ろうという意識が強いのに対して、
日本のライブハウスは、例外も当然いますが、バンドに対して上から目線の人や風潮が強い印象です。

もはやその理由が破綻しているのに、
お金を取って更に偉そうにする風潮だけが残っており、
そういう理由からノルマがどうのという議論が出てくるのだと思います。