2011年7月25日月曜日

気がつけばコンテンツと呼ばれて。~デジタル化&ソーシャル化で変わること、変わらないこと

 友人のツイートをきっかけに、心ならずも、読まずに批判してしまったので、これからスマートフォンが起こすこと。』本田雅一著(東洋経済新報社)を購入して読んだ。
全体の大意は賛成。デジタル化と常時ネット接続状態(≒ソーシャル化)の象徴を、スマートフォン(とタブレット)に見立てて、社会と人の生活への変化をまとめている。ポイントの整理の仕方も上手だし、勉強になる本だと思います。タイトルに引っ張られたのか、わかりやすくするためか、これから起こることの結果を「なんでもかんでもスマフォ」に落とし込み過ぎな印象はあるけれど、読む価値は十分あるでしょう。

ただ、この種の本にありがちなことで、音楽配信に関する記述は間違っている。「~あれほど導入時に抵抗の強かったiチューンズミュージックストアが、日本の音楽デジタル配信の中で圧倒的な存在感になっていることも踏まえ~」との記述。「圧倒的な存在感」という表現は抽象的だけれど、米国では過半になっている売上比率が日本では数パーセントに留まっているという事実を筆者は知っているのかしら?アップル社の企業としての存在感は、日本でもとても大きいと思うけれど、それが「音楽配信のシェアに反映されていない」ことが、認識すべきポイント。このことは、繰り返しになるので、興味のある方はこちらをご覧ください。日本の音楽配信事情2011 〜ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!〜

改めて思ったのは、客観的に見ると「俺たちはコンテンツをつくっているのだなぁ」ということ。当たり前だけど、この本の筆者も音楽は、one of themでとらえている。
最初に「コンテンツ」という言葉を聞いた時は、とても抵抗感と違和感があった。アーティストとスタッフが、精魂込めてつくっていうのは「作品」だから。そんな言い方で、軽々しく扱ったり、語ったりするなよ!っていう気分。正直それは、今でもある。
でも、僕はスタンスを変えることにした。アーティストは「作品」を作り続けて欲しいし、その環境を提供したいと思うけれど、アーティストとユーザーをつなぐ仕事をしている僕たちは、「コンテンツ」を流通させて、お金に換えなければいけない。大切なのは、アーティスト(作品)とユーザーで、それ以外は、何でもいいんだ。

以前から僕が音楽業界外の人に説明するときに、よく使う比喩がある。レコード業界を石炭産業に喩えて「奴らは、いまだに石炭を掘りたいって言うんですよ。僕もいわば"炭鉱育ち"だから、カンテラの種類と当て方の角度の話を、夜明けまで熱く語るのは好きですよ。でも、僕は自分をエネルギー産業と定義付けているので、アーティストとユーザーが結びつけるのが大事で、太陽光でも水力でも風力でも何でもいいと思っているんです。」こう言うと、結構、伝わる。
(原発事故の今は、ちょっと不適切な表現かもしれない。気に障った方がいたらごめんなさい。)


 尊敬する田坂広志さん(最近、菅首相の内閣参与になってしまって心配だけど)が著書で、「ミドルマン」という言葉を提示されていて、心に刺さった。生産者と消費者をつなぐ「ミドルマン」は、従来型とは機能を変えつつ、重要度はむしろ増すという主旨だ。俺もミドルマンになろう、というか、俺ってミドルマンだったんだなって。

音楽も映像も小説も、場合によってはプロ野球チームまでも、インターネット上では、すべて「コンテンツ」、デジタルファイルとして、流通していく。商品自体がデジタル化できない場合も、商品に関する情報はネットのクチコミで広がるし、ユーザが購入の意思決定をするのは、モニター画面になる。最近、博報堂の調査で「またがり消費」っていう言葉が使われていたけれど、DVDを買うか、電子書籍を買うか、楽曲を買うか、ライブチケットを買うか、Tシャツ買うかが、同じ画面で比較して、選ばれるようになっていくのだろう。

そんな時代に、音楽プロデューサーって名乗るとしたら、「コンテンツ」に関する事象に詳しくないと駄目だよね?アーティストの役に立つこともできない。今年の春に、ダイヤモンド社から、初めての本を刊行させてもらえることになって、自分の肩書き「音楽プロデューサー」に「コンテンツオーガナイザー」を加えたのは、そんな気持ちからだ。

 技術の発展は、流通や宣伝方法を変えていくし、時には表現そのものにも影響を与える。日本では、「元気ロケッツ」が、先駆的なことをかっこよくやっているけど、あのプロジェクトは、僕の知っている言葉で言えば、バンドよりは、メディアアートに近い。作品自体が、「音楽」という枠をはみ出していく例は、これから増えていくだろう。

一方で、デジタル化やソーシャル化で、音楽そのもの価値が変わるかというと、全然、そうじゃないことが自信を与えてくれる。道具が変わっても、人の心が変わるわけじゃ無い。感情に訴える音楽の価値は、社会的にむしろ、より重要になる気がする。

アーティストと企業のコラボレーションについても、積極的にやっていくべきだ。ソーシャルメディアが消費者とのコミュニケーションの中心になっていく数年後には、アーティストやエンターテインメントコンテンツは、企業にとっても有益なはずだ。これまでの、マスメディアでの大量露出とは違う形で、有機的な関係をつくっていけると思っているし、そういう企てに関わっていきたいと思っている。

 時代の変化は、しんどいことや、寂しいこともあるけれど、ワクワクするこもたくさんある。ポジティブに受け止めて、新しいことに挑戦していきいたいです!
 僕が役に立てそうなことがあったら、お気軽に声をかけてください!

0 件のコメント: