2011年7月13日水曜日

最近観た映画。名作揃い。〜『八日目の蝉』『奇跡』『ブラックスワン』『ゲンズブールと女たち』

 たまってしまっていた最近観た映画。今回は名作揃いでお薦め感が満載なり。


 『八日目の蝉』
 とても評判が良くて、興行的にも成功しているみたいだけど、確かによくできた映画だ。井上真央(が主役って観終わるまで気づかなかった)スゴいね。永作博美も超熱演。演技力に圧倒される。

 物語が、女のたくましさと情の深さが主題になっていて、男性は影が薄い。女性の女性による女性のための映画って感じ。男って、いい加減で、情けない存在だなって、突きつけられる。「すみません、、。m(_ _ )m」って気持ちにさせられた。
 中絶させられた愛人が、妻が産んだ赤ん坊を誘拐して、逃亡しながら、愛情豊かに育てるが、4年後に捕まる。その娘が大学生になって、、という設定なのだけれど、特異な状況と思わせない迫真性がある。
 残念だったのは、ラストシーン。エンディングで主題歌「Dear」(中島美嘉)が流れるのだけれど、感動が台無し。こみ上げてきた涙が引いてしまった。歌詞がある事で、イマジネーションを狭める事ってあるなと、音楽プロデューサーとして身につまされた。曲自体はJポップとして、とてもよくできている作品なだけに、よけいに残念。ギョーカイ人としては、もしかして何かご事情がおありかもとご推察申し上げるけれど、作品の傷になるのは、やっぱり駄目だよね。イメージソングとしては素晴らしいのだし、TVスポットCMで散々、聞かせてあるんだから、ラストはオーケストラバージョンで始めれば良かったのに。インストルメンタルでドラマと少し馴染ませてから、歌が入ってくれば、随分印象が違ったと思う。


 『奇跡』

 これも友人たちから評判が高かったのだけれど、スゴく良かった。僕は、子供と年寄りが主役の映画は、敬遠しがち。そもそもの設定が「反則」という気がするし、お涙ちょうだいにしようとしている?って感じ。もう一つ告白すると、是枝監督の世界も、あまり好みじゃない。小説家の文体のようなものが、映画監督にもあると思うんだけれど、その「文体」が、肌に合わないんだと思う。そんな僕が、すごく良いというのだから、名作だよ。
 上演時間が127分でちょっと長い。人間関係やタイトルの「奇跡」何を指すのかがわかるまで、最初の30分間は半分位に編集すれば良いのにと思うのだけれど、説明を省いて、淡々と描くのが是枝流なんだろうね。認めざるを得ない。
 子役達の演技が不自然さが無く、抜群。周辺の大人の俳優陣も好演。オダギリジョーと大塚寧々もよかったけど、鹿児島の実家の祖父母が、橋爪功と樹木希林というのが、贅沢だ。
 淡々として、特に事件の無い映画が、興行的にも成果を収めるのは良いことだと思う。九州新幹線の開通の話なので、JRとはタイアップしているみたいだけど(裏事情は何も知りません)全然、嫌みじゃなく良い形だと思う。クライマックスのトンネルとか実在するのだろうから、観光名所になるよね。地方振興に映画が貢献する例が増えるのは嬉しい。


 くるりの音楽も素晴らしい。前述の『八日目の蝉』と違って、エンディングで曲が掛かると、ぐっとくるのは、音楽家と監督の距離が近くて、必然性が濃いからだろう。本編の中でも、モチーフが使われているしね。
 ということでオススメです。


 『ブラックスワン』

 大名作!アカデミー賞作品賞は、何故、これじゃなかったの?と思った。鬼気迫るナタリー•ポートマンの演技は歴史に残るレベルだから、主演女優賞は当然として、作品としても、『英国王のスピーチ』より、断然こちらを推したい。って、もう遅いけど^^;
 ニューヨークのバレエ団で主役に抜擢されたバレリーナが、ものすごいプレッシャーを感じて、様々な幻覚も見る。幻覚のシーンは、ホラー映画のような怖さ。心身ともに追いつめて技量を磨いていくバレリーナのストイックさが、よく描かれているのだけれど、この感覚は、すべての芸事に通じると思う。本番前は自分を追い込んでいくのが、表現者というもの。音楽業界でもスタッフの条件の一つは、ナイーブになっているアーティストと同じ楽屋に居られるかどうかだ。何かあればフォローするのは、当然だけど、黙って近くに居ても、アーティストに気を遣わせない存在、関係性になるのは、マネージャーには、マストの資質だ。僕は冗談で「俺たち危険物取扱主任一級の免許を持ってるみたいだよね。」と言っている。


 そういえば、演出家の鈴木裕美が「翌日に本番や大事な稽古のある俳優は気をつけて」とツイートしていた意味が分かった。情緒豊かな女優や歌手が見たら、主役に感情移入して食あたりのように、「アタって」しまっても不思議は無い。決して悪い事ではないけれど、翌日の表現には支障があるかもね。


 子役出身の大女優は少ないと言うけれど、ナタリー•ポートマンは、着実にハリウッドを代表する女優の一人になるだろうね。記念碑的作品。特に、舞台と並行して進むラスト15分は、最高。
 音楽は、クリント・マンセル。「白鳥の湖」の音楽の変奏でつくられていて、非常にレベルが高い。作品に求心力を与えている。チャイコフスキーの曲が元ということで「作曲賞」には資格がなかったらしいけれど。
 蛇足だけど、もしこれが日本映画だったら、バレエシーンは吹き替えだろうなと、ふと思って、寂しくなった。ナタリーは8割以上のシーンを踊っているそうです。っていうか、全部かと思ったよ。全然気づかない。
 以上、絶賛です。もう一度観たい。


 『ゲンズブールと女たち』

 今回は、褒めてばかりだけど、これもスゴく良かった。
 セルジュ・ゲンズブールは、言わずとしてたフランスのソングライターでシンガー。プロデューサーとしても、多くのシンガーを世に送り出している。たくさん有名女優、歌手とも浮き名を流しているのだけれど、そのゲンズブールの人生を描いた作品。
 全編で、ゲンズブールの歌が使われていて、素敵な「音楽映画」でもある。僕は、シャンソンって、古くさい印象で興味なかったけど、これを観て、初めて良いと思った。言葉もとても大切な音楽だから、フランス語が少しでもわかると、もっと楽しめるのにと悔しい。歌っているシーンが物語と関わっているので、歌詞も全部字幕で出ているんだけど、この日本語訳がとてもいい。(古田由紀子さん)自然に入ってきた。おそらくスゴくレベルの高い翻訳作業なのではないかと推察した。
 ただ、シャンソンを本当に楽しむには、ある程度のフランス語の素養は必要だよね?そのくらい、言葉と旋律が結びついている。Jポップは、日本語の伝統的な発音をある程度壊して、つくってきた歴史があるよね?外国人が日本語歌詞で歌うのをディレクションすると気づくことだけど、母音の発音を相当変えても、Jポップとしては不自然じゃない。桑田佳祐以降かなと思うけれど、母音部分を「ア」でも「エ」でも「イ」みたいに発音しても、文脈から類推してくれる歌なんて、他の国ではあり得ないんじゃないかな?フランス語に殉じたシャンソンとの違いを知って、Jポップ、Jロックが海外でも受け入れられるのは、日本語の発音を曖昧でもよくしたこと(つまり、日本語ネイティブの語感を知らなくても歌のニュアンスが楽しめること)と、関係あるんじゃないかと思った。まだ、ジャスト思いついただけだけど。今後、意識して考えてみたい。


 レティシア・カスタが演じるブリジットバルドーも、ルーシー・ゴードン演じるジェーン・バーキンも、スゴく似てた。写真で見る本物より本人っぽい感じ。もちろん主役のエリック・エルモスニーノもめちゃリアル。
 美しい女性と美しい音楽にが溢れる映画らしい映画。醜男でユダヤ人なのが、ゲンズブールのコンプレクッスだったと言われているけれど、幸せな人生だよね。無頼派で無軌道な人生だけど、名曲もたくさん残したしね。これは、没後20年記念映画らしい。
 フランス映画だからだろうけど、それにしても煙草を吸い過ぎ。この映画の中で、ゲンズブールは何本、吸ったんだろう?脳梗塞で倒れた入院先でも吸ってたし。



 『美しき棘』

 フランス映画祭で上映された作品。新進女流監督の作品らしいけど、たぶん失敗作ないしは、意欲作?
 パリを舞台に、女子高校生の悩みみたいなものを描いているのだろうけれど、現代フランス事情を知りたい人や、欧州の若手映画監督を押さえておきたいというような人以外は、観なくていいですっていう感じ。
 というか、日本では公開されないんじゃないかな。



 以前は、誰かと約束しないと観たい映画を逃していたけど、最近は、隙間時間を使って、映画を観るのが上手になってきた。いろんな事を考えさせられ、異文化に触れ、感性を刺激されって言葉にすると、こっ恥ずかしいけど、映画を観るのは続けよう。
 今後は、できるだけ試写会か公開直後に観て、即、ブログでも紹介するようにします。情報としては遅すぎるよね、ごめんなさい。

1 件のコメント:

Tomo さんのコメント...

「八日目の蝉」を何度も見返すのですが、
あのエンディング曲はホントミスマッチで...

監督の力が及ばないところで決まったんじゃないかと
邪推したくなります。劇中の音楽が良いだけに...