2012年2月18日土曜日

ミュージシャンよ大志を抱け! 〜音楽関連ビジネス書ブックレビュー〜


PeaTixの『音楽・アーティスト活動のこれから 〜Direct to Fan (D2F) マーケティング時代のサバイバル術〜』にゲスト出演した。書籍について語るというのも興味深い体験だった。いらしてくださった皆さん、ありがとうございました!沢山の方にいらしていただいて嬉しかったです。楽しんでもらえたかしら。

このセミナーは、『グレイフルデッドにマーケティングを学ぶ』という本がテー
セミナーでも話したので簡潔に。とても素敵な本で、装丁やエディトリアルデザインも素晴らしい。でも、デッドの活動を『フリー』『シェア』といったインターネット時代のトレンドと結びつけて分析するのは良いとして、ドラッグカルチャーやヒッピームーブメントまで、全部ざっくりまとめて、ジョブズまで引き合いに出して、礼賛する論理は、いくら何でも乱暴だ。ミュージシャンやマネージャーは、あくまでエンタメ本として読んで欲しい。

最近、音楽ビジネスに関連する本が出ているので、いくつか紹介しながら、持論をまとめてみたい。

『ビートルズのビジネス戦略』。すごく面白い本だけれど、『さおだけ屋はなぜ潰れないか』が、さおだけ業界のノウハウを書いた本では無く会計学の考え方を伝える本であるように、音楽ビジネスについては、あまりちゃんと語っていない。ビジネス戦略の考え方を平易に学ぶことはできるかもしれないし、ビートルズに関する雑学は身につくけれど、この本を読んで音楽ビジネスがわかった気になるのは、やめた方がよいと思う。

セミナーの会場にもなっていた残響レコードの社長、河野さんとはまだお話ししたことがない。彼が書いた『音楽ビジネス革命〜残響レコードの挑戦〜』(ヤマハミュージックメディア)は、実践の記録で具体的だ。
 インディペンデントのレーベルとして、音楽性が高いだけで無く、その戦略も卓越していると思っていたど、この本を読んで、改めてその思いを強くした。この本によれば、河野さんも自分のやりたい音楽を好きにつくれる環境を手に入れるために、9mm Parabllem Bulletというバンドを売り出したということになり、とても大変な事だけど、良い話だなと思った。

『次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル』(リットーミュージック)
著者の永田純さんは、業界で「どんべい」と呼ばれている。僕も親しみを込めて「どんべいさん」と呼ばせていただいている尊敬する先輩だ。矢野顕子さんのマネージャーを長く務められていた。大好きな『スーパーフォークソング』というアルバムの制作風景がビデオ化されていて、その映像でどんべいさんの仕事ぶりを観て、格好いいと憧れたのを今でも覚えている。
そんな著者だけに、さすがの内容。時代状況の分析も的確だし、ノウハウの説明も具体的かつ丁寧だ。音楽への愛も溢れている。
ただ実際の話、このシステムを活用して、ビジネスができる「次世代ミュージシャン」って本当に出てくるのだろうか?「次世代」では出てきて欲しいというどんべいさんのロマンは理解できるし、共感するけれど、残念ながらイメージできない。自分「だけ」が食えれば良いと思う音楽家が増えても意味ないと思うし、「バイトをしないで音楽だけで食う」というのも、ずいぶん低い目標だと思って、意義を感じないのが、ぶっちゃけた気持。僕はむしろ、若手マネージャーが、自分の仕事の再確認も兼ねて、読んで欲しいと思った。業務改善やストラテジー構築には、とても役に立つ本だ。

音楽業界について、書かれた本では無いけれど、音楽家が書いたビジネス書の紹介。
著者の沖野修也さんも、尊敬する友人だ。彼が京都から東京に出てきて、ROOMというクラブを始めてすぐ知り合ったから、もう何年になるのだろう?そんなに長い時間を一緒に過ごしたわけでは無いけれど、節目節目で、深い関わりがあって、思いで深い友人だし、その才能と人間的な器量をとても尊敬している。
  僕がダイヤモンド社からビジネス書を発行した同じ日に、彼も別の出版社からビジネス書『フィルター思考で解を導く』(フォレスト出版)を出版されたのは、やはり縁があるなと感じて、なんか嬉しかった。残念ながら、この本は、「ビジネス書だから幅広く」という風に思ったのか、沖野君の才能と実績を知っている者からすると、切れ味が鈍くて、物足りない。もっと、大風呂敷を広げて欲しかったなと思う。
  ちなみに、彼が書いた『DJ選曲術』(リットーミュージック)は、歴史に残る名著だと僕は思っている。沖野修也に興味を持った人は、是非、『DJ選曲術』を読んで欲しい。クラブミュージックやDJについてのhow toでありながら、同時に音楽論、文化論として秀逸で、非常に深い洞察がある。音楽に関わる人はジャンルを問わず必読だと思う。僕は、若手ミュージシャンに貸して、誰に貸したかわからなくなって、買い直してということを、何度も繰り返している本だ。オススメです。

さて、セミナーの中でも、発言したけれど、これからプロになろうとするアーティストへの助言。
アーティストが責任感と高い意識を持って活動する必要があるというのは当たり前のことだ。同時に、「売れたアーティストの影には名マネージャーあり」というのが、日本の音楽業界の鉄則だ。マネージャーは、基本的に裏方であることに誇りを持っているので、表に出るのをよしとしない。自分の手柄もすべて、アーティストがやったように見せるのが、名マネージャーの共通点だ。だから、一般には伝わってない場合も多いけれど、僕が知り限り、日本でマネージャーなり、ディレクターなり、能力のあるスタッフなしに、セルフマネージメントだけで成功したアーティストは寡聞にして知らない。売れた後には、多少のビジネスセンスがあれば、アーティストが社長で、スタッフを雇ってやることはできるし、そういう例は沢山ある。ただ、世の中に出て、広まっていく過程では、優秀なスタッフは必須なのだ。
但し、このマネージャーは、既存の業界人である必要は必ずしも無い。アマチュアバンドと素人マネージャーが成功した例はたくさんある。その風通しの良さが、日本の音楽業界の良いところだし、芸能界とは違うところだと僕は思っている。
だから、音楽家として成功したいと思ったら、優秀なスタッフを探すべきだというのが、改めて音楽ビジネス書を読んだ僕の結論。我田引水と言わないで欲しい。信用できる友達をマネージャーにしてもいいのだ。残響の河野さんは、自分が、他のバンドのマネージャーになって成功したことで、自分のバンドも活動できているということだと僕は理解している。

そんな意味でもお薦めしたいのが、加茂啓太郎さんの『ミュージシャンになる方法』(青弓社)。
これは名著だ。もうずいぶん前に出版された本だけど、本質的な話なので古びていない。プロになりたい人は、この本は必読。というか、これだけ読めばよいと僕は思っている。音楽への愛を熱く語れる人は多くても、俯瞰して論理的に自分の仕事を説明するのが下手な音楽業界人が多い中で、加茂さんは抜群だ。
10年前の本が古びないと言うことは、方法論やツールは変わっても、音楽ビジネスの大切な部分は実は変わっていないのだということも改めて確認する。

ちなみに、音楽著作権について説明した本は沢山あるけど、薦めたい本は無い。どの本も書いてあることは正しいけれど、根本的なところに、大きな問題がある。実業に携わってない人が書いてるから、アーティストの「権利」だけで「義務」について書かれてないのだ。そんな本を読んで真に受けて、権利だけを主張しても、何も始まらないし、成功できない。権利について学びたいなら、手前味噌だけど、音制連が出しているフリーペーパー『音楽主義』を手に入れて読めば良い。著作権や隣接権について連載があり、バックナンバーもwebで公開されている。

それから、手前味噌ついでにもう一つ。拙著『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)はビジネス書だけれど、Sweet Vacationというガーリーハウスユニットのソーシャルメディア活用の記録に一章、応援してくれたインフルエンサーのみなさんを集めた座談会に一章をそれぞれ割いて紹介してる。アーティストPRのソーシャルメディア活用としては、最先端の記録だと自負しているので、興味がある方はご覧いただけると嬉しいです。


 追伸的に、もう一冊素晴らしい本を紹介したい。『上を向いて歩こう』(岩波書店)。著者の佐藤剛さんは、業界の大先輩。とてもお世話になった方でもある。以前、東京エスムジカというアーティストを立ち上げた時、メジャー2枚目のアルバムは海外レコーディングをしようと思った。BOOMなどで海外経験豊富で、ワールドミュージックにも詳しい剛さんに、まず最初に相談に行った。モンゴルの馬頭琴とホーミー、インドネシアのジャワガムラン、ルーマニアのジプシーバンドとレコーディングをしたアルバム『Switched-On Journey』を作ったのだけれど、剛さんのアドバイスにはとても助けられたし、勇気づけられた。最近はプロデュースよりも著述活動に力点を置かれていると思ったら、ソノダバンドを世に出したり、由紀さおりさんのジャズアルバムをプロデュースして全米一位になったりと、プロデューサーとしても大活躍している。そんな、僕が、なかなか追いつくことにできない先輩が書かれたのが、日本の楽曲で世界で一番売れたとわれいてる「上を向いて歩こう」の記録。非常に貴重な歴史。そして、戦後の日本の音楽(芸能)業界の草創期の様子がわかる本でもある。是非、読んで欲しい。

<関連投稿>
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2012年1月14日土曜日

最近観た映画『マネーボール』『モテキ』『ピアノマニア』『Pina』『ミラノ愛に生きる』『ゴーストライター』『ミッションインポッシブル』

年の瀬の慌ただしさに更新できずに、新年を迎えてしまったけど、映画評を7本。相変わらず、雑食感満載ですが。

『マネーボール』
原作はずいぶん前に読んだ。野球好きとして、アスレチックスのGMの存在は注目だ。気付いたら松井秀喜も在籍するようになった。そしたらブラッド・ピッド主演による映画化。プロデューサーも兼任。もちろん観に行きました。

投手を三振や球速では無く、与四死球の少なさで、打者を本塁打や足の速さ、肩の強さではなく、出塁率の高さで評価するという「マネーボール」理論は、原作で読んだときから、興味深かった。近年では、他チームでも採用されるようになったそうだ。アスレチックスの優位性が崩れてしまったという皮肉な話。
『メジャーリーグ』みたいな、単純明快なスポーツ映画とは全然違う。大リーグのGMやスカウトもリアルに登場するけど、基本的には、大人の男を描く人間ドラマ。含蓄のある良い映画だった。
興行的には苦戦してるみたいだけど、とてもいい映画ですよ。スポーツ映画では無く、人間ドラマだというのを宣伝的にも打ち出しせばよいのになと思った。

『モテキ』
すごく良かった!「J-popミュージカル」というキャッチコピーもあったけど、懐かしい曲をちりばめている、「反則!」と思うくらいの堂々たる盛り上げ方。大根監督とは、まだ彼が、堤幸彦さんのアシスタントだった頃に、仕事をご一緒したことがある。何かを秘めている印象は若い頃からあったけど、素晴らしく才能が開花!
ツイッターの使い方が、こんなにリアル(ピント外れで無い)のは、テレビドラマなど含めて、初めてじゃ無い?若者の生態を押さえているよね。ナタリーのTAKUYA社長は、あんな女好きじゃ無いけどね^^

ホイチョイプロダクションが、流行の真ん中にいた頃の『私をスキーに連れてって』を思い出した。2011年の東京のカルチャー&ライフを知りたければ、これを観ればいいという映画。この映画を観て、理解できない部分があれば「オジサン」という踏み絵にもなっているね。
興行的にも成功しているようだけれど、宣伝的な打ち出しで、4人の主要女優を同列に打ち出して、「美女達に翻弄されるモテキが突然きた主人公」というイメージにしたのは正解だったと思う。実際は、長澤まさみとのラブストーリーなんだけどね。前述の『マネーゲーム』は人間ドラマなのに、スポーツ映画っぽい打ち出しにして、苦戦しているのと好対照。

『ピアノマニア』
ウィーンに住む超一流、ピアノ調律師のドキュメンタリー映画。素晴らしい。ピアノが好きな人は、是非、観て欲しい。1月21日公開

ピアニストにとって、調律師というのは特別の存在だ。よほどのことが無い限り、クラシックの著名ピアニストでも、自分のツアーにピアノを持ち運ぶことは珍しい。山下洋輔さんがエッセイの中で、会場にあるピアノに「折り合いをつけなければいけない」ピアニストは、自分の楽器を偏愛する管楽器奏者やギタリストとは、違う性格が形成されると書いていた。
演奏する楽器別の性格の違いは三谷幸喜さんの舞台『オケピ』でも描かれていたのを思い出した。
この映画では、レコーディングの様子も丹念に紹介されていて、興味深い。ピアニストと調律師の会話は、別世界の話のようで、目の前で聞いていても魔法使いの言葉のような感じがする。以前、ジャズピアニストのマネージメントをしていたので、何度も立ち会っているけれど、ピアニストと調律師の関係は独特だ。でも、確かに音が変わっているのはわかる。でも、一流料理人の食事を食べても「おいしい」しか言えないように、「いい音だな」としか表現できないけど。
試写会会場のトッパンホールの音響も素晴らしかった。こういう素晴らしいホールがあるのが東京の文化力の高さだなと、改めて確認した。

『Pina〜ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
音楽を生業にしていなければ、アート鑑賞を趣味にしていたのではないかと思う。「フィリップジャンティカンパニー」「ブルーマングループ」「山海塾」は好きです。ポピュラーミュージックを作って売るという商売をやっていると、アート作品を観ていても、なにか「盗める」ところがないか、ポップスに応用できないかと、知らず知らすに考えてしまうし、趣味とは思いづらい。ちょっと「卑しい」けど、仕方ないなぁ。

でも、ピナバウシュは、特別にリスペクトしている。人間の根源的な生命を感じさせる舞踊、そのまま凍らせて、美術館に飾りたいような美しい構図。
眼鏡を掛けて観ていると頭痛がしてくる気がして、3D映画はあまり好きじゃ無いけど、この作品は3Dでつくってくれてよかった。
日本の舞踏家、故大野一雄さんについても語られていて、故人の評価の高さを確認する。
2月24日公開。清流で心が洗われる気持になります。激オススメ

『ミラノ、愛に生きる』
大人の映画。美しさに溢れている。
名家の婦人が、息子の友人と恋に落ちるというと下世話な話のようだけれど、ミラノの名家のお屋敷でのパーティや、サンレモ郊外の風景など、うっとりするほど美しい。
食事とセックスには共通点があるというのは、文化人類学でよく語られているけれど、料理を作ること、食べることが、非常に官能的に描かれているところがすごく良かった。
以前、読んだ本で、アフリカのある民族の習慣では、未婚の男女のセックスは認められているけれど、一緒に食事をすることは禁忌とされている、と書いてあったのを思いだした。
ヨーロッパのカルチャーや絵画的な美しさを持った映画が好きな人には、強くお薦めします。年末から公開中。

『ゴーストライター』

観た映画は、ツイッターやフェイスブックだけでなく、ブログにまとめて書くのを去年から始めている。
この映画は、たまたまた書き忘れてた。
重厚で良質な映画。昨年の映画のベスト3に挙げている人が多いのもうなずける。

個人的には英国首相とその自伝のゴーストライター、そこに起きる陰謀という設定のリアリティに今ひとつ入り込めなかったけど、観る価値のある映画だと思います。

ちなみに、2011年の僕のベスト3は、
1)『ブラックスワン』
2)『マイバックページ』
3)『ゲンズブールと女達』
にしてみました。

その他の昨年観た映画はこちら。2011年は豊作だった気がする。

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル


そして、年明け一本目に観た。豊島園のiMAXシアターに初めていったけど、迫力満点だね。スクリーンが大きくて、こういう映画にはぴったりだと思う。
若い頃のトムクルーズは興味なかったけど、最近は、徹底したプロ根性をリスペクトしたいと思う。これぞ、ハリウッド映画という感じの大仕掛けでスリル満点。こういう楽しみも映画の醍醐味だと思った。


今年もよい映画をたくさん観たいと思います!

2012年1月1日日曜日

独断的音楽ビジネス予測 〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜

 新年、明けましておめでとうございます。昨年の震災で、日本中が喪中みたいな年だけど、そんな時だけに、新年を迎えた喜びを分かち合いたいと思います。

2011年は、個人的にも、日本にも、国際的にも大きな事件があった年なので、いろいろなことを考えさせられた。年末から経済分析などを読み、考えてきたので、2012年予測を記しておきたい。

マクロ的には世界経済が不安定だ。ユーロは崩壊寸前の危機。ヨーロッパ経済が破綻すれば、中国に波及し、米国、日本への影響が拡大していくという世界恐慌の悪夢。これは、さすがに酷すぎるので、各国の指導者達が何とか避けると信じるしか無い。「人類を何回も殺せるくらいの爆弾があっても、核戦争が起きなかった」的な希望的観測。
いずれにしても、相対的(消去法的?)に、日本の国債と円の価値は上がるので、日本政府の財政は維持され、円高は進んでいく。
今年は世界主要国(米国・ロシア・中国等々)で選挙☞指導者交代があるので、政策的な大きな変化は起きにくい。求心力をもったリーダーが2013年にどのような変革を起こすか、おそれまでは、去年までの傾向が継続して、傷には絆創膏を貼るという感じの対応になるというのが、一般的な予測だと思う。

そんな中で日本の音楽ビジネスについて考えてみた。
ざっくり言うと、今年は、大きな変化は起きないと予測する。近年続いている傾向は続くだろう。CD売上減少、着うたの減少、スマフォ&PC配信の微増などは、環境的に変わりようが無い。ただ、ぞれぞれ緩やかな変化で、根本的な構造変化は今年は起きないと思う。
日本も早く変わるべきだと思っている僕にとっては、不本意な予測だけれど、、。

CD売上は、前年比一割以内の減少に留まる
2011年の統計はまだ出てないけれど、震災があったのに5%程度の減に留まりそう。「ほとんどAKB48でしょ?」「同じ人が何枚も買っているんでしょ?」という声が聞こえそうだけど、本質的じゃ無くても、理由はともあれ売上が維持されれば、ビジネススキームは温存されるという道理。

モバイル配信の変化もゆっくり進む
スマートフォンへの買い換えは進んでいくだろうから、「着うた」「着うたフル」は急激に落ちていく。ただ、去年下半期を傾向を見ていると、スマフォになっても、レコチョクやMORAで音楽を買うという習慣はある程度、残りそう。350円〜400円だった着うたフルに対して、スマフォだと1曲200円になるから、売上減は避けられないだろうけれど、DL数はそれほど落ちない気がする。

ストリーミングサービスは本格始動しない
音楽関連の画期的なITサービスの進出は望み薄だ。
レコードビジネスは、クラウド型ストリーミング(聞き放題)サービスがメインになり、CDはアーティストとの関係性を示す記念品として残り、ダウンロードサービスは衰退する、というのが僕の基本的な認識だ。実際、ヨーロッパでは始まっている。音楽ファイルになってしまった音楽は、違法配信サイトやピアトゥーピアサービスを撲滅することが原理的に不可能な以上、ユーザーに快適な音楽再生環境を提供して、音楽制作費を回収する仕組みを確立するしか無い。
でも、残念ながら、今年は日本ではまだ始まらないだろう。
アップル社も、ダウンロード型のiTunesStoreが世界(日本を除く)のデファクトになったためか聞き放題型に切り替えることができずにいる。本命もと言うべき、Spotifyは、米国でのサービスを始めたばかりで、日本上陸は、今年は無理そうだ。
権利ホルダーの中心であるレコード会社が日本の通信会社と組んで始めるべきだと思うけれど、前述の通り、前年比9割程度が維持されれば、守りに入って、攻めに出ることは難しいだろうね(auはLISMOで聞き放題サービスを始めているけれど、聴けるのはほとんど洋楽)
ベンチャーもIT大手も含めて、主役となれる可能性のある事業者が全く見えない。今年は間に合わないと思う。

●つまり、音楽ユーザーの消費行動はまだ大きく動かないということ
ちなみに2011年のCDレンタルの売上は前年比97%程度と言われている。震災のマイナス分を考えると、むしろ微増と言えるかも知れない。TSUTAYAがポスト返却など利便性を高めたり、ゲオが映画DVDの50円レンタル(市場を壊す行為なので大至急やめさせるべきと思うけど)で集客したりして、レンタル市場は維持されている。ユーザーは、CDを借りて聴く、PCにリッピングしてiPodで聴くという消費行動は、定着していてすぐには変わりそうもない。
新しい事をすぐ試してみるいわゆるイノベーター層はともかく、音楽ユーザーのマジョリティ(多数派)は、自分でイメージできて、安心できるサービスしか取り入れない。

日本が足踏みしている間に、欧米ではサービスが進化する。焦る気持ちもあるけれど、視点を変えれば、欧米のサービス状況を吟味して、日本流サービスを考える時間があるとも言える。この時間差を無駄にしないで、しっかり準備したい。
日本市場は、定着し始めると早いという特徴もある。2013年か14年か、一気に、ストリーミングサービスが広がる可能性は高いと僕は思っている。

そんな2012年は、音楽ビジネスは「準備の年」になる。ポイントは3つ。
1)経済的中間層が激増するアジアを中心とした海外輸出の環境整備
2)ソーシャルメディアを活用したプロモーションおよびマネタイズの研究
3)異業種との組み合わせ、企業とユーザーのリレーションに貢献する仕組みの確立

自分自身、昨年からキャッチフレーズにしている、グローバルな視点ソーシャルメディア活用異業種コラボをテーマに、準備を進めておきたいと思う。

付け加えると、ライブエンターテインメントは引き続き堅調、ファンクラブ、グッズなどを加えたアーティストビジネスは、ビックアーティストを中心に微増していくという流れは暫く変わらないだろうね。

年間予測は、高名な評論家も外してばかりだ。僕の予測は、当たるも八卦、当たらぬも八卦、正月のおみくじみたいなものと笑って赦して欲しい。
今年の年末にこのブログを読み返して、自分がどんな感想を持つのか、そんな事を楽しみに、一年間頑張ろう。

<関連投稿>
 「デジタルコンテンツ白書2011」音楽篇を執筆しました。〜日本の音楽ビジネスの現状と課題〜
 スポティファイとフェイスブックが提携してアップル社に対抗!?~クラウド型音楽サービスの近未来は?
 日本の音楽配信事情2011 〜ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!〜



2011年11月7日月曜日

最近観た映画〜『tree of life』『猿の惑星 創世記』『ガザを飛ぶブタ』『素敵な金縛り』


最近と言いつつ、ずいぶん幅があるけど、4本。
映画は、観たらすぐ、書かないと、タイミングを逃すよね。と、反省しつつ。

『ツリー・オブ・ライフ』
ツイッターでも話題になっていた映画。意見を聞かれて「よい映画だと思うし、嫌いじゃないけど、他人には薦めづらいな」とツイートした。
父と子供の葛藤に、恐竜の親子を重ねてるのもわかりやすくないし、キリスト教的な感覚も前提になっている気がするし、全体的に重苦しさはあるし、結構長いし(138分)というのが、薦めにくい理由。
同時に、良い映画だなと思うのは、監督がしっかりとしたイメージを持っていて、それが実現できている気がするから。
2時間以上の時間をテレンス・マリック監督に「支配」されてしまった。この「支配」は、重苦しいんだけど、心地よさがある。グレン・グールドやセロニアス・モンクのピアノソロを聴いたときに感じる「支配感」と似ているなと思った。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』

宇宙で漂流してたどり着いた、猿が支配する惑星が、実は未来の地球だった。というのは、今更ネタバレと言う必要もないだろうけど、何故、地球がそうなったかというのが、今回の「創世記」バージョン。
よくできた構成とシナリオ、そして、今更だけど、本当にリアルなCGの技術で、すごくリアル。人間社会の弱さも描かれていて、様々なことを考えさせられる。
主人公は、愛情と正義感が溢れる人物として描かれているけど、結局、この人が、個人プレーで、勝手に研究したことで、人類を滅亡させたんだよね。
エンタメとしてレベル高いです。

『ガザを飛ぶブダ』
 素晴らしい!
イスラエルが長期にわたって「占領している」パレスチナのガザ地区が舞台。主人公はパレスチナ人の男と占領地にいるロシア系ユダヤ人女性。そして、突然現れたブタ。イスラム教徒であるパレスチナ人にとってブタは不浄だし、ユダヤ教徒にとっても、忌避すべき存在。
フランス人的なエスプリに溢れてるけど、独りよがりてはない。 難しい社会状況を笑いに変えながらリアルに描いている。
宗教的対立も相対的に、そして愛情ある目で捉えて、くすっと笑える。久々に良い映画を観た気分。
東京映画祭(TIFF)で観客賞をとった。まだ配給決まってないみたいだけど、是非、上映して欲しい。もう一度観たい。

『素敵な金縛り』
絶賛上映中、大人気の映画。 
演技力の高い役者が多数出演。深津絵里と西田敏行、阿部寛と中井貴一と巧い人がたくさんという印象。浅野忠信もすごくよかった。
エキストラに近い端役が超豪華なのも、三谷作品の特徴だよね。ぜいたくーって思いながら、なんか楽しい。
物語の展開もテンポ感良く、笑いながら楽しめる。幽霊がいなくなってからラストまでは、ちょっとくどかったけど、そこにも味わいはあるしね。
フジテレビ×東宝という日本の大メジャーは、何となく敬遠しがちだけど、今回は、映画館で観て良かったな。

『モテキ』も観たいんだけど、タイミングを逃しているな。

 それから、DVDで観た『LOVE ACTUALLY』は、凄く良かった。
60年代の海賊ラジオ局を描いた『パイレーツオブロック』のリチャード・カーティス監督の代表作というので観てみたんだけど、群衆劇として最高のシナリオ。いくつものラブストリーが折り重なっていくシナリオが素晴らしいし、気持ちの良いハッピーエンド。デートムービーとしても鉄板。



2011年10月20日木曜日

日本のライブハウス事情2011、音楽シーンの底辺を支えるライブハウスシーンのビジネス構造


  ライブハウスにきちっとした定義がある訳ではないし、組合組織も無いので、きちんとした統計はわからないけれど、日本全国では1000軒以上のライブハウスがあると言われている。簡易的にライブができるカフェやバーを加えると数え切れないほどのお店があり、日本の音楽シーンの底辺を支えていると思う。

 海外のライブハウスでツアーをやった経験から比較しても、日本のライブハウスの設備は非常に充実している。過剰かもしれないとも思うけれど、PAのコンディションを心配する必要が無いのは助かるし、出演者も演奏しやすいだろう。100人程度のキャパのライブハウスでモニターシステム(演奏者が自分たちの演奏を聴くための仕組み)が4〜5系統あるなんて、欧米ではまず無いと思う。海外で何百のライブを観たわけでは無いけれど、僕の経験上、小規模ライブハウスのPAオペレーターの技術は日本が一番高い気がする。
 アメリカは飲食業で基本の経営を成り立たせて、バンド演奏はプラスアルファという業態の店も多いから、単純に比較できない部分もあるけれど。
 日本でもライブハウスの業態はいろいろで、例えば4ビートのジャズをやるお店は、飲食をベースにしていて、ライブについては店側が、リスクを持って、ミュージシャンにギャラを保証している場合が多い。

 また、地方のライブハウスには、バンドを育てて、音楽業界に情報を伝えるという役割も担っている。日本では、例えば、小さな街のライブハウスで数百人を集めて人気のバンドが出てきたら、業界関係者に伝わり、数ヶ月以内には、レコード会社のディレクターや事務所のマネージャーが観に行くという緩やかな仕組みができあがっている。今となってはメジャーデビューが素晴らしいことかどうかは別にして、そこで大衆性があると思われれば、全国規模のデビューに繋がっていく。そんなシステムがあるのは、おそらく日本だけなんじゃないかな?米国のライブシーンよりビジネススキームとして洗練されていると思う。

 最近、ツイッター等でライブハウスのノルマ制が俎上にあげられていたようだ。僕もアマチュアバンドにチケット買取の義務を負わせるのが当然と思うライブハウスのブッキングマネージャーは職務怠慢と思うし、立体駐車場と同じビジネスモデルに安住した経営者もライブハウスとか言うなよとは以前から思っている。そんな人達が音楽論を語るのは、ファーストフードの経営者が食文化の歴史を語るような気持悪さがある。

 ただ、僕が「ノルマ制度」を批判していたら、親しい友人で、有名パンクバンドをスターダムに押し上げた某マネージャーは「ノルマ制が広まって、ライブハウスが民主化した側面もある」と言っていた。「ライブハウスのオヤジが気に入らなくても、誰でも出られるようになって良かったんだよ」と聞いて、物事には何でも功罪両面あるんだなと思った。
 また、78年前に名古屋の名物ライブハウスオーナーと話していて、「最近のバンドの子はノルマにしないとチケット売らないんだよね。」と悲しそうに言っていたのも思い出される。その店は最後までノルマ制を取り入れなかったけれど、周辺のお店に泣きつかれて、導入することにしたのだそうだ。

 ちなみに、僕がライブハウスのマネージャーにブッキングを直接頼むことは、ごく希にしかないけれど、そのアーティストを気に入って貰えるかどうかがポイントで、チケットのノルマを強いられた経験は、ほとんどない。出演する以上、集客を頑張るのは当然だけれど。
 ただ、そういう気骨のあるお店が少ないのも事実で、300以上あると言われる東京のライブハウスで1割程度だとは思う。ほとんどのお店は、アマチュアバンドにチケットノルマを課すのを当然と考えている。

 一番よくないと僕が思うのは、ライブハウスもバンド側も、深く考えずに「そんなものだ」と受け入れてしまっていることだ。もう10年位前だけど、興味を持ったアマチュアバンドの子が「渋谷の**は2万円、新宿の**は3万円」とノルマ数×チケット代金の金額で語っているのを聞いて、呆れて叱った記憶がある。
 「効率的と思って広まった仕組みが、誰も疑わなくなって、替えられない様な気分になって、矛盾を抱えたまま存在している。」って他の分野でもよくあることだよね?感覚が麻痺していることに一番の問題を感じる。
 いわゆるバンドが出演するライブハウスでは、集客の責任は、主にバンド側にあるというのが、今の日本の音楽シーンの慣習。お店側は、環境を提供し、宣伝をサポートしていく。店ごとのカラーを(多少なりとも)打ち出して、ライブハウスに行くのが好きなお客さんに、情報を出していく。そんな役割分担が行われている。
 日本を代表するようなスーパーバンドも、ほとんどライブハウスを通過して世の中に出ていっている。ライブハウスのスタッフからは、敏腕マネージャーやヒットディレクターも輩出している。貴重な人材供給源としても機能も見逃せない。
 音楽シーンや音楽業界でのライブハウスの意義は、多面的に捉えて欲しいと思う。

 いずれにしても、企業努力を怠って、アマチュアバンドにチケットノルマを押しつけているだけのお店は、やがて行き詰まる。音楽シーンの礎を支える個性的なお店が増えていくことを期待したい。

2011年9月27日火曜日

コンテンツとしての大相撲の価値 〜JUDOと相撲の二方向で国力向上に活用しよう〜

 一昨日、大相撲9月場所が千秋楽を終えた。
 白鵬の二場所ぶりの優勝という結末。日馬富士の横綱挑戦と鶴竜の大関挑戦は失敗だったが、琴奨菊は千秋楽まで優勝を争い、大関の座を手に入れた。同じく準優勝の稀勢の里は来場所、大関獲りに挑むことになり、久々に有望な日本人力士がでてきている。全日を観ることはできなかったけれど、全体的に相撲内容も充実してて嬉しかった。空席が目立ったと言われているが、今場所のような状況が続けば、相撲人気は戻ってくると思う。

 魁皇が昨年引退したことで、1横綱大関は全員外国出身の力士になっている。貴乃花が引退した頃から、相撲の番付の上位4〜5人には日本人が入っていない状態が続いている。最後の日本人力士の優勝は2006年1月の栃東だから、もう5年以上経つ。
 
 ちなみに、僕は小学校低学年の頃からの相撲ファンだ。父や祖母の影響でテレビ観戦してた。先代貴乃花(今の貴乃花親方のお父さん)と輪島が大関に上がる前の取り組みを覚えているんだけど、今、調べたら1972年だった。(うーむ。昭和は遠くなりにけり。)
 そんな僕は、相撲については、基本的に伝統擁護派だ。大抵は進取改革派な考え方を持っているつもりだけれど、相撲は別だ。古墳時代まで遡るとも言われている歴史のある相撲が積み上げてきた伝統をしっかり守るべきだと思っている。
 但し、今の幕の内力士に外国人が溢れる状態は悪いとは思わない。朝青龍は親方の教育が悪くて、後味の悪い残念な引退をしてしまったけれど、白鵬や日馬富士など、今の外国人力士は、大相撲の伝統をきちんと継承しているように見える。下手な日本人力士より、そんきょの姿勢も取り口も美しい。

 そして、テニスの全英オープンの優勝者に英国人がなれない状態が続いた事に喩えれば「ウィンブルドン化」とも言うべき今の大相撲の状況は、コンテンツ力という視点で捉えても、非常に価値があると思う。文化輸出をするときに、多くの国から関取(プロの力士)が出ていることは、理解の窓口として有益だ。
 外国人が相撲のしきたりを会得してくれていることは、日本の文化が必ずしも閉鎖的ではなく、普遍的な価値を持ち得るということの証明でもあると思う。
 サムライや忍者などのキャラクターは、アニメやコミックを通じて多く輸出されているので、日本のイメージを鮮烈に訴えることもできるはずだ。

 もう一つの日本古来の武道である柔道は、全く違う道を歩んでいる。五輪で日本人がメダルを取れないことも多いのは、気分としては残念だけど、それだけ国際化しているという証明でもある。カラー柔道着やポイント制度など、「本来の」柔道からは逸脱した形で柔道は、JUDOとして、世界的な競技になっている。
 日本オリジナルのフォーマットが、海外とすり合わせて、変化しながら発展している例と言えるのでは無いか?
 僕はどちらも素晴らしいと思うし、海外で、日本文化を理解してもらうのに、役立ってくれていると思う。

 また、コンテンツのプロデューサーとしても「相撲型」と「JUDO型」の二つの成功例を意識することは、国際化の方法論として有効だと思う。

 さらに加えるなら、はじめから欧州発のグローバルルールに適用しようとする「サッカー型」がある。女子サッカーのなでしこJAPANは世界一という結果出したね。
 米国発祥のスポーツを、日本式にカスタマイズして、「baseball」を、緻密で求道的な「野球道」に仕立て上げた「野球型」もある。炎天下の甲子園で行われる高校野球は功罪あるけれど、日本人に広く野球を浸透させているし、WBCを2連覇して世界一にもなっている。「野球型」も参考になるよね。勇気が持てるといういうべきかも。

 グローバル化の洗礼は、もはや、日本のすべての産業が避けて通れない。
スポーツの4つの類型は、コンテンツだけでじゃなく、企業経営でも参考になるよね。
 白鵬の優勝インタビューを聞きながらそんなことを思った。


 相撲については、こちらもご覧下さい。

  大相撲はスポーツじゃない。文化的な伝統を守るために協会の仕組みを改善すべし。~大相撲八百長疑惑の考え方~



2011年9月11日日曜日

2011.9.11に思うこと。〜米国同時多発テロから10年。東日本大震災から半年〜


2001911日は、ニューヨークのマンハッタンに居た。2週間ほど滞在する予定の折り返し点で、塩谷達也という所属アーティストが、ニュージャージーのゴスペル教会でのレコーディングを終えて、僕の部屋に泊まりに来ていた。

当時は、ニューヨークに行くと、アッパーウエストの短期リースマンションを定宿にしていた。その部屋で、「テレビを観てください」と、たたき起こされた。寝起きの悪い僕が、「ナニコレ?何の映画?」と言ったのを覚えている。「違いますよ!CNNですよ!」と言われて、目が覚めた。日本でも何度も流れたであろう映像は、米国でも繰り返し放送されていた。最初はダイナマイトの爆発かと思ったが、4回目くらいに、飛行機がWTCのビルに突っ込んでいるのが見てとれて、これはただ事じゃないなと気がついた。その頃には日本からもたくさんの電話が掛かってきて、「ともかく食事と水だけは確保した方がよい」と言われて、近所のデリに買い物に行った。

僕が泊まっていたアッパーウエスト80丁目とワールド・トレード・センター(WTC)は、東京で言えば、東京駅と三軒茶屋位の距離はあると思う。煙も見えないし、匂いも届かない。部屋に居ても、騒動はわからなかった。塩谷も目が覚めて、メールチェックして、日本からのメールで知り、テレビをつけたそうだ。パンとワインとハムとチーズなどを買い込んで「ホームパーティやるんじゃないですよ」と揶揄されながら部屋に戻ると、窓からは帰宅する人々の姿が見えた。地下鉄が止まり、歩くしかなかったのだ。

半年前、2011311日の渋谷の街の光景を見て、あの時のニューヨークを思い出した。ニューヨーカーも冷静だったけれど、あの時の東京人たちも秩序のある行動だったと思う。

20代半ばから、何度となく訪れたニューヨークは、僕にとって心の故郷とも言えるような大好きで大切な都市だ。WTCというビル自体には、特別な思い入れは無いけれど、ニューヨーカーの人たちが悲嘆に暮れている姿を見るのは辛かった。友人の家族が死んだ時のような気持。バーは営業していたので、毎晩遅くまで、深酒してしまった。

3日ほどたって、いくつかのミュージカルが再開した。仕事もできず、飛行機の運航状況をチェックする以外にやることが無い僕は、オフブロードウエイに足を運んだ。ミュージカルの内容は覚えていないけれど、カーテンコールで、出演者全員が舞台に上がって、肩を組んで「God bless America」を歌ったのは印象的だった。

変な言い方かもしれないけれど、ニューヨークに居るときは、アメリカ合衆国を意識することが少ない。移民が多いこともあるし、ニューヨークという街の魅力と吸引力が大きいからだろう。ところが、9.11後は、アメリカを意識させられて、疎外感も味わった。愛国心が高揚した時のアメリカ人の姿には、何故か違和感を覚えてしまう。

あの日を境に、アメリカも変わった。9.11のショックとブッシュJrの無能ぶり
が、無ければ、黒人大統領を選ぶというラディカルな選択はできなかったのでは無いだろうか?その極端さがアメリカの魅力と強みでもあるのだけれど。
おそらくブッシュは、1000年後に人類史4000年を振り返っても五本の指に入る愚帝だろう。ゴアを全面的に支持するわけでは無いけれど、あの超僅差だった大統領選でゴアが勝っていれば、9.11テロも未然に防げたらしいという情報を知ると、歴史の不思議と残酷さを感じる。

そんな風に考えていると、千年に一度の大災害の時の首相が、「市民派」の菅さんだったのは、日本人の不幸だと思うし、同時に、僕たちは、これからの日本をよい方向に変えていけるのかと考えさせられる。原発の賛否の話ばかりになっているけど、太平洋戦争後、高度成長を経て、まあまあ良い感じだった日本という国が、このまま落ちぶれてしまうのか、魅力のある国でいるのか、原発云々よりももっと大きな境目にいる気がしてならない。10年後、20年後に振り返った時に、この未曾有の大災害が、結果的に日本をよくする契機になったと思えるようにしたいと心から願う。

10年前の9月のニューヨークの空気も沈痛が覆っていた。不屈の精神を持っているように感じた。あの時のことは、一生忘れないと思っていたけど、所詮は、人ごとだったんだと、今回の震災を経験してわかった。

3.119.11、どんな記念日よりも重い、イレブンスを半年ごとに迎えることになるんだな。
そんな事を思っていたら、大阪在住のシンガーソングライター・ササキホナミが、こんな曲をYou Tubeにアップしてた。
原発事故で将来を悲観して自殺してしまった93歳の女性の事を歌った歌。こんな悲劇を産んだことを忘れてはいけないね。歌はとてもよいと思うので、聴いてみてください。