2012年2月18日土曜日

ミュージシャンよ大志を抱け! 〜音楽関連ビジネス書ブックレビュー〜


PeaTixの『音楽・アーティスト活動のこれから 〜Direct to Fan (D2F) マーケティング時代のサバイバル術〜』にゲスト出演した。書籍について語るというのも興味深い体験だった。いらしてくださった皆さん、ありがとうございました!沢山の方にいらしていただいて嬉しかったです。楽しんでもらえたかしら。

このセミナーは、『グレイフルデッドにマーケティングを学ぶ』という本がテー
セミナーでも話したので簡潔に。とても素敵な本で、装丁やエディトリアルデザインも素晴らしい。でも、デッドの活動を『フリー』『シェア』といったインターネット時代のトレンドと結びつけて分析するのは良いとして、ドラッグカルチャーやヒッピームーブメントまで、全部ざっくりまとめて、ジョブズまで引き合いに出して、礼賛する論理は、いくら何でも乱暴だ。ミュージシャンやマネージャーは、あくまでエンタメ本として読んで欲しい。

最近、音楽ビジネスに関連する本が出ているので、いくつか紹介しながら、持論をまとめてみたい。

『ビートルズのビジネス戦略』。すごく面白い本だけれど、『さおだけ屋はなぜ潰れないか』が、さおだけ業界のノウハウを書いた本では無く会計学の考え方を伝える本であるように、音楽ビジネスについては、あまりちゃんと語っていない。ビジネス戦略の考え方を平易に学ぶことはできるかもしれないし、ビートルズに関する雑学は身につくけれど、この本を読んで音楽ビジネスがわかった気になるのは、やめた方がよいと思う。

セミナーの会場にもなっていた残響レコードの社長、河野さんとはまだお話ししたことがない。彼が書いた『音楽ビジネス革命〜残響レコードの挑戦〜』(ヤマハミュージックメディア)は、実践の記録で具体的だ。
 インディペンデントのレーベルとして、音楽性が高いだけで無く、その戦略も卓越していると思っていたど、この本を読んで、改めてその思いを強くした。この本によれば、河野さんも自分のやりたい音楽を好きにつくれる環境を手に入れるために、9mm Parabllem Bulletというバンドを売り出したということになり、とても大変な事だけど、良い話だなと思った。

『次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル』(リットーミュージック)
著者の永田純さんは、業界で「どんべい」と呼ばれている。僕も親しみを込めて「どんべいさん」と呼ばせていただいている尊敬する先輩だ。矢野顕子さんのマネージャーを長く務められていた。大好きな『スーパーフォークソング』というアルバムの制作風景がビデオ化されていて、その映像でどんべいさんの仕事ぶりを観て、格好いいと憧れたのを今でも覚えている。
そんな著者だけに、さすがの内容。時代状況の分析も的確だし、ノウハウの説明も具体的かつ丁寧だ。音楽への愛も溢れている。
ただ実際の話、このシステムを活用して、ビジネスができる「次世代ミュージシャン」って本当に出てくるのだろうか?「次世代」では出てきて欲しいというどんべいさんのロマンは理解できるし、共感するけれど、残念ながらイメージできない。自分「だけ」が食えれば良いと思う音楽家が増えても意味ないと思うし、「バイトをしないで音楽だけで食う」というのも、ずいぶん低い目標だと思って、意義を感じないのが、ぶっちゃけた気持。僕はむしろ、若手マネージャーが、自分の仕事の再確認も兼ねて、読んで欲しいと思った。業務改善やストラテジー構築には、とても役に立つ本だ。

音楽業界について、書かれた本では無いけれど、音楽家が書いたビジネス書の紹介。
著者の沖野修也さんも、尊敬する友人だ。彼が京都から東京に出てきて、ROOMというクラブを始めてすぐ知り合ったから、もう何年になるのだろう?そんなに長い時間を一緒に過ごしたわけでは無いけれど、節目節目で、深い関わりがあって、思いで深い友人だし、その才能と人間的な器量をとても尊敬している。
  僕がダイヤモンド社からビジネス書を発行した同じ日に、彼も別の出版社からビジネス書『フィルター思考で解を導く』(フォレスト出版)を出版されたのは、やはり縁があるなと感じて、なんか嬉しかった。残念ながら、この本は、「ビジネス書だから幅広く」という風に思ったのか、沖野君の才能と実績を知っている者からすると、切れ味が鈍くて、物足りない。もっと、大風呂敷を広げて欲しかったなと思う。
  ちなみに、彼が書いた『DJ選曲術』(リットーミュージック)は、歴史に残る名著だと僕は思っている。沖野修也に興味を持った人は、是非、『DJ選曲術』を読んで欲しい。クラブミュージックやDJについてのhow toでありながら、同時に音楽論、文化論として秀逸で、非常に深い洞察がある。音楽に関わる人はジャンルを問わず必読だと思う。僕は、若手ミュージシャンに貸して、誰に貸したかわからなくなって、買い直してということを、何度も繰り返している本だ。オススメです。

さて、セミナーの中でも、発言したけれど、これからプロになろうとするアーティストへの助言。
アーティストが責任感と高い意識を持って活動する必要があるというのは当たり前のことだ。同時に、「売れたアーティストの影には名マネージャーあり」というのが、日本の音楽業界の鉄則だ。マネージャーは、基本的に裏方であることに誇りを持っているので、表に出るのをよしとしない。自分の手柄もすべて、アーティストがやったように見せるのが、名マネージャーの共通点だ。だから、一般には伝わってない場合も多いけれど、僕が知り限り、日本でマネージャーなり、ディレクターなり、能力のあるスタッフなしに、セルフマネージメントだけで成功したアーティストは寡聞にして知らない。売れた後には、多少のビジネスセンスがあれば、アーティストが社長で、スタッフを雇ってやることはできるし、そういう例は沢山ある。ただ、世の中に出て、広まっていく過程では、優秀なスタッフは必須なのだ。
但し、このマネージャーは、既存の業界人である必要は必ずしも無い。アマチュアバンドと素人マネージャーが成功した例はたくさんある。その風通しの良さが、日本の音楽業界の良いところだし、芸能界とは違うところだと僕は思っている。
だから、音楽家として成功したいと思ったら、優秀なスタッフを探すべきだというのが、改めて音楽ビジネス書を読んだ僕の結論。我田引水と言わないで欲しい。信用できる友達をマネージャーにしてもいいのだ。残響の河野さんは、自分が、他のバンドのマネージャーになって成功したことで、自分のバンドも活動できているということだと僕は理解している。

そんな意味でもお薦めしたいのが、加茂啓太郎さんの『ミュージシャンになる方法』(青弓社)。
これは名著だ。もうずいぶん前に出版された本だけど、本質的な話なので古びていない。プロになりたい人は、この本は必読。というか、これだけ読めばよいと僕は思っている。音楽への愛を熱く語れる人は多くても、俯瞰して論理的に自分の仕事を説明するのが下手な音楽業界人が多い中で、加茂さんは抜群だ。
10年前の本が古びないと言うことは、方法論やツールは変わっても、音楽ビジネスの大切な部分は実は変わっていないのだということも改めて確認する。

ちなみに、音楽著作権について説明した本は沢山あるけど、薦めたい本は無い。どの本も書いてあることは正しいけれど、根本的なところに、大きな問題がある。実業に携わってない人が書いてるから、アーティストの「権利」だけで「義務」について書かれてないのだ。そんな本を読んで真に受けて、権利だけを主張しても、何も始まらないし、成功できない。権利について学びたいなら、手前味噌だけど、音制連が出しているフリーペーパー『音楽主義』を手に入れて読めば良い。著作権や隣接権について連載があり、バックナンバーもwebで公開されている。

それから、手前味噌ついでにもう一つ。拙著『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)はビジネス書だけれど、Sweet Vacationというガーリーハウスユニットのソーシャルメディア活用の記録に一章、応援してくれたインフルエンサーのみなさんを集めた座談会に一章をそれぞれ割いて紹介してる。アーティストPRのソーシャルメディア活用としては、最先端の記録だと自負しているので、興味がある方はご覧いただけると嬉しいです。


 追伸的に、もう一冊素晴らしい本を紹介したい。『上を向いて歩こう』(岩波書店)。著者の佐藤剛さんは、業界の大先輩。とてもお世話になった方でもある。以前、東京エスムジカというアーティストを立ち上げた時、メジャー2枚目のアルバムは海外レコーディングをしようと思った。BOOMなどで海外経験豊富で、ワールドミュージックにも詳しい剛さんに、まず最初に相談に行った。モンゴルの馬頭琴とホーミー、インドネシアのジャワガムラン、ルーマニアのジプシーバンドとレコーディングをしたアルバム『Switched-On Journey』を作ったのだけれど、剛さんのアドバイスにはとても助けられたし、勇気づけられた。最近はプロデュースよりも著述活動に力点を置かれていると思ったら、ソノダバンドを世に出したり、由紀さおりさんのジャズアルバムをプロデュースして全米一位になったりと、プロデューサーとしても大活躍している。そんな、僕が、なかなか追いつくことにできない先輩が書かれたのが、日本の楽曲で世界で一番売れたとわれいてる「上を向いて歩こう」の記録。非常に貴重な歴史。そして、戦後の日本の音楽(芸能)業界の草創期の様子がわかる本でもある。是非、読んで欲しい。

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