2013年3月30日土曜日

僕らはいつまでデバイスにmp3を持っているのだろう?〜DeNAの新サービス「Groovy」開始〜


 328日からDeNAの新音楽サービス「Groovy」が始まった。事前に何度か説明を伺ったり、テスト環境で触らせてもらう機会があったけれど、とても、よく考えられたサービスだと思う。
 

 「ストリーミングサービスでは無い」と説明しているように、音楽との出会いや共有の機会を増やし、ダウンロードに誘導するという構造になっている。サイト内の「チケット」を使うことで、フルサイズで試聴ができるけれど、13回までの再生で、それ以上は、買ってねという仕組み。
 人気No.1のスマートフォン音楽再生プレイヤーであるdiscodeerの開発者が全面的にサービス設計に関わっていて、ユーザー行動をベースに組み立てられている。B to Cのサービスでは、ユーザーがどういう希望を持っているかの「仮説」を立てることが大切だと思うけれど、きちんとした「仮説」を持ってつくられているという印象。
 この設計は、本来、スマフォの普及が本格化することが見えた時点で、日本の音楽配信の覇者だった「レコチョク」が始めるべきサービスともいえるかもしれない。DeNAに転職した元レコチョク役員が始めているので、「着うたビジネスの後継」という意識もあるのかもしれない。

 そのレコチョクが始めたサブスクリプション(月額課金)型ストリーミングサービス「レコチョクbest」は、「これからは、聞き放題でサブスクリプションなんですよね?用意しましたよ。」という印象で、率直に言って、ユーザー視点の「仮説」は感じられない。
 
ただ、2週間のお試し期間しか使っていないけれど、ネットで批判されるほど、使い勝手が悪いとは思わない。月額980円を打ち出したことも含めて、意欲的に頑張っているなという印象。個人的に一番、残念なのは、ターゲットを「20代後半以降」(下記インタビューより)と定めていること。


 僕は、レコチョクの最大の功績であり、強みは、「着うた系」と呼ばれるシーンを作って、そのジャンルの断トツのシェアをとったことだと思う。「レコード会社直営」(元のサービス名)という安心感と品揃えで、「ギャルとヤンキー」の心をつかんで、着うた市場を育て上げた。ガラケーからスマフォへの移行で取り逃がしている、着うたユーザー(ギャルとヤンキー)を、どうやって、ストリーミング型に取り込んで課金するか、そこに最大の精力を注いで欲しかった。

 KKBOXSpotifyもテストアカウントをいただいて試しているけれど、KKBOXは台湾で、Spotifyは欧米で、それぞれ成功しているサービスだけあって、とてもよくできている。魅力を感じる。裏事情も伺ってしまっているので、ここには詳細は書けないけれど、いずれにしても、今年中には、様々な音楽サービスが日本で出そろうことになる。

 先週は、僕が理事を務める社団法人音楽制作者連盟の正会員対象に「ストリーミングサービスの現状と可能性」というテーマのセミナーを行った。
 レコチョク、Music UnlimetedMTIKDDISpotify JapanDeNA6社のストリーミングサービスのキーマンにいらしていただいて、説明会形式でお願いした。他社の講演の間は、控え室でお待ちいただき、時間の都合で各社15分間ずつになってしまったけれど、とても貴重な内容だった。正会員社のみのクローズな場と言うことで、プレス発表前のオフレコ話なども伺えた。
(ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。感謝です。)
 僕は司会進行をやりながらだったけれど、パネラーの六者六様の、ユーザーに音楽を楽しませたい、音楽との出会いを増やしたいという熱い思いを感じて、ポジティブな気持になれた。これから日本の音楽配信は面白くなると思う。

 昨年は、日本以外の全ての国でデジタル音楽市場の売上が伸びた。(日本は世界で唯一ダウンしている。興味のある方は、こちらをどうぞ。「続・iTunes Storeは日本では失敗してるんだよ」
 スマートフォンは、充電池の持ち時間の問題もあって、音楽プレイヤーとしての課題は残っているけれど、クラウド化と常時接続が進行して、ユーザーが音楽に触れる機会を増やすための環境は整っている。

 そんな中で、米国のダウンロード市場に陰りが出て、ストリーミングに移行していこうとしているというデータが出始めているようだ。


 クラウド化が進むインターネット全般において「所有から利用へ」という流れは必然の流れで、音楽サービスはその先頭を走る可能性が高い。
 iTunes Storeがデファクトスタンダードにならずに、着うた市場が崩壊して、ダウンロード市場が沈んでいる日本市場は、ストリーミングへの移行は、欧米よりも急激に進むと予測する
 
 スマフォやPCで音楽を聴くならストリーミングの方が便利で、所有するならフィジカル(CD)の方が満足度は高いはず。
 そして、もっと言えば、ダウンロードかストリーミングかなんてユーザーにとってはどうでも良いことだ。(そもそも技術的にはデバイス上のキャッシュの管理の仕方の話しなんだろうし)音楽が聴けることが重要で、ファイルの在り方に興味がある人は少ないだろう。
 便利とか、安いとか、何百万曲とかではなく、楽しいとか、ワクワクするとか、自慢できるとか、ユーザーをそんな気持にさせる、「ライフスタイルに影響を与えるようなサービス」が出てくることを期待したい。

 その後の告知方法も含めて、とても評判の悪い「違法ダウンロード刑罰化」だけど、昨秋の施行以来、レコード会社が方向を変えたのは事実だ。DRMも外れたし、ソニーもiTunesで楽曲を売り始めた。デジタル音楽配信サービスにポジティブになっているのは、本当に良いことだ。

 来年の今頃には、日本でも音楽との新しい出会いの方法が、大幅に増えていることだろう。そこでどんなことが起きるのか、楽しみにしている。ホントに微力ながらだけど、日本の音楽市場の発展に尽力したいと思っている。

 そして、年頭の今年の予測は当たる気がしてきている。頑張りたい。
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜

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●音楽プロデューサー山口哲一のコンテンツビジネス・ニュース・キュレーション

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