2014年8月20日水曜日

ろくでなし子逮捕と署名運動について

 だいぶ間が抜けたタイミングでの投稿になるけれど、変な論説が多い気がして、書くことにした。前衛芸術家ろくでなし子の3Dプリンターでの女性器頒布と逮捕について、僕の個人的な見解をまとめておきたい。
 その話は何?という人は、とりあえず、下記の記事をどうぞ。

●なぜ「自称」芸術家? 「ろくでなし子」氏逮捕の深層 女性器3Dデータは「わいせつ」か「芸術」か


まずは、前衛芸術家のスタンスについて。

◆前衛芸術家は反体制であるし、反社会的であることが存在意義

 僕は、正直、逮捕が不当と騒ぐ人達の多くの論旨が理解できなかった。「悪いことをしていないのに逮捕されて可哀想」みたいな言説は、芸術家と名乗っているろくでなし子にたいして、むしろ失礼だと思う。
 前衛芸術の定義は人それぞれでよいけれど、基本的には、既存の価値観に対するアンチテーゼ、当たり前と思っていることを疑わせる、認識を改めさせるというのが、本人の意思はともかくとして、社会的には役割であるはずだ。その意味で、3Dプリンターという従来の価値観を揺るがすツールを使って問題定義するというスタンスはとても正しい。
 そもそも「ろくでなし子」って名乗っているのだから、確信犯だと捉える方が自然でしょ?

 一方で、既得権益者は守旧的であるのが前提で、そういう意味で、今回のろくでなし子の表現を見逃さなかったのは、職務熱心であると捉えるべきで、逮捕された側は名誉なことだし逮捕した方は、さぼらずにちゃんと仕事をしたというのが、客観的なとらえ方だと僕は思う。

 その事件を「自称芸術家」という言い方で報道したメディアの責任放棄は、批判されるべきとは思う。「お前は体制側の犬なのね」という烙印を押すには値する。
 一方で、警察に対して、ことさらに、「不当逮捕」だと言いたてるのは、警察に対する期待値が高すぎると思う。体制側のオペレーションを担う役所は、既存の価値観を揺るがす行為は否定するのが、そもそもの立ち位置だ。逮捕自体は、むしろ「正当」だと僕は思う。

◆留置所への長期拘留は不当ということ

 ろくでなし子が、自己の確信犯的な表現で警察に逮捕されたことは、体制側が、しっかり「敵」と見なしたという意味で、芸術家としては、むしろ名誉なことであるはずだ。万が一、逮捕される覚悟がなくやっていたとしたら、それはそもそも、「前衛芸術家」を「自称」する資格が無かったことを意味する。まったく私見だけれど、体制側に抑圧された方が、前衛芸術家の表現のクオリティは高くなると僕は、当然のこととして思っている。
 ただ、それも程度問題で、極論で言うと、体制側が不快なことをしたら即、殺されるみたいなことだとしたら、論外だ。芸術家には成長するプロセスは必要だし、政府の弾圧や、社会の偏見の目を知って、活きる表現もあるはずだ。

 さて、ろくでなし子について、釈放を求める署名運動が行われた。

●「ろくでなし子」の即時釈放もとめる「署名活動」ネットで展開・・・賛同者が急増

 僕が、このネット署名運動に参加して、署名したのは、まず一義的には、たかだか「オ××コ」をつくっただけで、留置所に長期拘留するのは、警察の横暴が過ぎると思ったからだ。日本がこれから文化国家として活きていくしか無い時代に。多様性を認めないのは問題だし、そもそも西洋に対する東洋の知的優位性は、性的なものも含む寛容性であるはずだ。そして、ともかく、牢屋に入れて反省させるという警察のやり方には、しっかりNOを伝える必要はある。
 気分で言うと、風営法によるクラブ摘発問題に対する反感もある。「警察とヤクザは紙一重」という論説に僕は与しないけれど、やみくもに社会浄化を求める近年の警察のスタンスは、ちょっとバランス悪すぎるし、日本の国益にとってマイナスだ。法律を拡大解釈して、カルチャーを抑圧すると、強い批判を浴びるということは伝えたいと思う。

◆ネット署名についての見解

 「.org」の活動はリスペクトするけれど、僕が個人的に気をつけるのは、むやみに「賛同ボタン」を押さないことだ。
 ネットでの署名運動は、良いことだと思うけれど、一ユーザーの立場で言うと、気軽に、手軽に、署名ができてしまって、深く考えたり、調べたりせずに、気分で署名しそうになるのが、マイナス面だ。自分なりにしっかり情報を分析して、立場をはっきりさせてから、署名するかどうか決めた方が良い。
 
◆3Dプリンターが僕らに投げかけていること

 このエントリーからは枝葉になるけれど、今回の「事件」が3Dプリンターで起きているのは事実、3Dプリンターとい存在が、従来の社会常識を揺るがしているのは間違いないし。警察に恐怖感があったから、勇み足的な逮捕になったという側面もあると思う。
 3Dプリンターとそのネットワーク化は、社会を根本から改革する可能性を秘めているのだと改めて思った。

 様々なことを考えさせられる事件で、そういう意味で、前衛芸術家「ろくでなし子」は、まさに定義される意味の前衛芸術家として、功績があったと僕は思う。

2014年7月21日月曜日

iTunesの音楽が売れないのは音楽業界衰退の兆しじゃない!反転上昇のノロシだよ!〜「iPhone PLUS by週刊アスキー」の記事が浅すぎる件について

 マネージャーやプロデューサーといったスタッフ側の仕事をずっとしているので、自分が原稿を書くときは、締切は守るタイプだ。スケジュールが守られずにプロジェクトが進まなくなることは避けたい生理を持っているからだと思う。ところが、「デジタルコンテンツ白書2014」は締切を大幅に遅れてしまっている。この週末はずっと、ノートPCを抱えている。なんでそんなことになったのかの言い訳は、納品してから書くことにするけれど、いずれにしても、ブログ書いている場合では無い。ただ、捨ておけない記事があったので、久々に更新することにした。

 10日ほど前の「iPhone PLUS powered by 週刊アスキー」の記事。

 これは酷いなと思いつつも、放置してたけど、いろんなブログに孫引きされているようだ。個人がブログに書くのは、推測でも自由だけれど、KADOKAWAのページで、こういういい加減な記事があるのは困る。
 元データは、モルガン・スタンレーリサーチの統計データで、iTunes Storeの売上げが落ちて、APP Storeの売上げが伸びて、iPhoneユーザーの1人あたりの使用金額が逆転しているというデータ。これを元に「音楽を売るのは古い」って言っているのだけど、いくらなんでも浅すぎる論理。この記事は、アップルファン向けのページだから仕方ないのかもしれないけれど、ネットユーザーはアップル社にだけお金を払うわけじゃ無いよ。

 近年の世界の音楽サービスの変化は、iTunesに代表されるダウンロード型から、Spotifyなどのフリーミアム・月額課金のストリーミングサービスに主役が交代しつつあるというのが大きなトレンド。
 これをきっかけに、世界の音楽市場は長期低落に歯止めが掛かりそうだ、というのが、2014年時点。つまり、iTunesのDLが減っているのは、構造変化の兆しで、音楽産業復活の狼煙かもしれないという状況なのだ。

 以下は、2013年世界の音楽市場に関して、敬愛するジェイ君のブログ「All Digital Music」からの引用。

「アメリカでの音楽売上は前年比48億7000万ドル(約4946億円)から0.5%増加し、48億9000万ドル(約4969億円)。ヨーロッパの音楽産業は売上が前年比0.6%増加となる53億8000万ドル(約5464億円)で12年ぶりのプラス成長を記録、主要6カ国である英国、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデンすべての国が売上増加を達成しました。」

 世界の音楽売上げは微減しているけど、それは世界2位の市場である日本が足を引っ張ったのが大きな原因で、欧米の主要国は、ストリーミングサービスの普及に合わせて、売上げを上昇させ始めているのが、2014年半ばのリアルな状況。
 
 ストリーミングサービスの好影響の理由は、いろんな分析があるのだけれど、一般的に言われているのは、ストリーミングサービスはユーザーと楽曲の接点を増やす効果があるといういうこと。ソーシャルメディア上での共有がしやすいとか、フリーミアム(無料でも楽しめて、広告などをなくすために有料サービスに移行させるモデル。Spotfiyはこのコンバージョン率が3割強と非常に高いのが特徴)だと、ユーザーが音楽サービスを試しやすいとかなどだ。
 近年の世界の音楽ITサービスのキーワードは「DISCOVERY」で、新しい楽曲やアーティストと、ユーザーをどう出会わせるか、リコメンド、マッチングするかということに躍起になっている。


 音楽ビジネスが大きな構造変化の時期なのは間違いないし、日本は、従来の仕組みが居心地良すぎたせいもあって、欧米に比べて遅れているのが、本当にマズイんだけど、だからこそ、事実誤認と勝手な思い込みによる言説が出回るのは、何もプラスが無いよ、ヤメテ!と思う。

 例えば、この記事も基本的に誤謬。

 ご本人も「勝手に推測してみる」と書かれているので、スルーすれば良いのかもしれないけれど、一応、3点に反論しておくとすると、

1)YouTubeの影響
YouTubeがその登場以来、音楽業界にとって、悩ましい存在であるのは事実だけど、そのグーグル社も定額型の音楽サービスGoogle Play MusicYouTubeを統合させようと躍起になっているのは、どう解釈するのだろうか?

2)ダンスや振付の影響
「風が吹けば桶屋が儲かる」的な凄い想像力だと思った。ダンスとセットになることで、音楽の売上げが落ちるというのは、どういう根拠で論理なのだろう?ジャズがダンス音楽として隆盛したという歴史を紐解く必要も無いほど、音楽とダンスはそもそも切っても切れないものだ。ダンスが流行することは、音楽にとってプラスの影響はあっても、マイナスは考えにくい。実際、音楽ビジネスに関わる人で「ダンスと音楽がセットになってるのが音楽が売れない理由だ」と思っている人は、多分、世界中に1人もいないと思う。(もしいたら教えてください。)

3)若者の車離れ
全世界のデータからiTunes Store普及率の低い日本の若者の車離れを語っているのが、そもそも論理的に整合性無いなと、まず思う。状況論的なことで言うと、今年のCES(世界家電見本市)では、車の中の音楽体験が、最も大きなトピックスだった。世界の音楽サービスのテーマ「Discovery」において、車内というのは主戦場の一つだし、米国で1億人ユーザーを持つネットラジオサービスPANDORAの成長も、カーオーディオとしての役割が大きい。

以上を踏まえて、

「iTunesですら売れなくなって、音楽業界終わりだね」って言っている知り合いがいたら、「バッカじゃないの!」と言って、この辺のことを教えてあげて下さい。

 上記のiTunes StoreとAPP Storeの逆転データも、アップル社が米国で掴んでいた音楽配信のデファクトスタンダードの座から落ちようとしているという風に読むべき。iTunes Radioも切り札にはならなかったようで、「BEATSの超高額買収はアップル社の焦りではないか?」と考える方が、よほどまともな推測だ。iTunes Music Storeは、画期的でイノベイティブなプラットフォームだったけれど、時代の変化には乗り遅れつつある。

 ここまでは、一般論を書いたので、最後に私見を一つだけ。米国ではCD→ダウンロード→ストリーミングと推移しているので、音楽ストリーミングサービスがCDの代替のように捉えられているけれど、日本では、だいぶ違うと予見している。

 CDショップが全国チェーンで4社(タワー、ローソンHMVTSUTAYA、新星堂)、地域店や専門店も残り、パッケージ市場が健在の日本では、ストリーミングサービスは、ラジオやジュークボックスの発展系の役割を担うと捉えた方が適格だ。CDレンタルの市場には取って代わるかなと思うけれど、パッケージの販売にはむしろプラスの効果が働くはずだ。

 パッケージストリーミングなどのITサービスと、堅調に伸びているライブエンタテインメントの3輪の連動が、今後の音楽業界、アーティストビジネスのポイントになる。そして、海外市場の開拓

 Spotify JapanLINE MUSICもサービス開始しない中、日本の音楽業界を楽観視している訳ではない(っていうか、メチャ危機感ある)けれど、「世界の音楽市場は上向いた。日本もチャンスはある。そんな2014年だ。」ということは、みんなに知って欲しい。

 ストリーミングについては、以前書いた記事を紹介。
 興味のある方は、今年の初めに書いた二つの記事をご覧下さい。

 ということで、白書の原稿に戻ります。ご迷惑をお掛けしているみなさま、ごめんなさい。

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2014年5月8日木曜日

〜「世界を変える80年代生まれの起業家」外伝〜PLUGAIRでビートロボがローソンHMVと提携!

  日々、忙殺されて(忙しさに殺されるってすごい熟語だね)、遅くなってしまったけれど、421日のテレビ東京のWBSで、ビートロボとローソンHMVエンターテインメントの提携について、放送された。 
 パーソナリティが大江真理子さんになって、視聴率も上がっているそうで、ご覧になった方も多いのでは無いか?
 ビートロボCEOの浅枝君とは、sensorというふくりゅう君と一緒に主宰しているイベントの打上げで初めて会った。観客として観に来てくれていて、音楽サービスの存在を知った。楽曲のプレイリストをロボットのアバターに代表されて、交流する音楽SNSという発想は素敵だなと思ったし、頑張ってほしいと思っていた。

 昨秋に出版した「世界を変える80年代生まれの起業家」(スペースシャワーブックス)の出版のためにやらせてもらった尚美ミュージックカレッジの特別講座で浅枝君からスマホガジェットの話を聞いた。その時点では、ビートプラグと呼んでいた。ものすごく可能性があると思ったけれど、同時に、若者5人のベンチャーじゃ無理だ、とも思って「大企業を巻き込んだスキームを組もうよ」と提案した。

 今回のLHEとビートロボの提携が、どうなるかはわからないけれど、ベンチャーと大企業の組合せとして、フェアで、かつ「伸びしろ」のある、理想的な形がつくれたと、手前味噌ながら思っている。絶対、成功させたいし、音楽業界に良い刺激を与える可能性と、ビジネス的な大きな可能性を感じている。毎週の会議のajendaには「世界標準にする」というテーマが必ず書かれていて、身が引き締まる。

 SXSWに行くと、異業種コラボなんて言葉をわざわざ語っているのが恥ずかしくなるくらい、いろんな協業が行われている。デジタルの進化は、様々な業種や役割分担を溶解させているから、当然だ。
 
 遅ればせながら、という気持も強いけれど、日本政府も音楽を活用した国力向上に乗り出している。知財に関する日本の政策を決める内閣府の知的財産戦略本部に、何度か呼ばれてお話をさせていただいた。輸出とインバウンド(何故、観光って言わなくなったのかよくわかんないけど)という外貨獲得に音楽を活用することが、日本の国策になるようだ。10年前を考えても夢のようなことだ。日本の音楽プロデューサーは、本気で外貨獲得にフォーカスして尽力すべきと心の底から思う。ウソだと思う人は、この報告書を読んでみて欲しい。政府が公式にだす文書としては、びっくりする位、踏み込んだ内容だ。

 そういえば、3月で一旦、終了したけれど、KKBOXPARCOで行ったキャンペーンも監修みたいな立場で関わらせていただいた。僕が言うのも身びいきかもしれないが、全国17館のPARCOの館内放送とストリーミングサービスがコラボするというのは、アイデアとしては卓越していたと思う。

 従来の枠組みを超えて、音楽業界、音楽シーンの活性化につながることを、できることからやっていきたい。微力ながらって、謙遜している場合は無いのかもしれないなぁ。
 皆さん、一緒にやりましょう。悩んでる人は連絡ください!

2014年4月21日月曜日

メルマガvol.20発行!先週のTOPニュースはレディー・ガガのオープニングアクトが初音ミク!

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◆山口的ニュース今週のTOP5
※先週のニュースから山口が気になった極私的ランキングを解説付きで!

<第1位>
 素晴らしいニュースですね。今、世界一注目されているアーテイストが、日本の二次創作サブカルチャーを象徴するバーチャルキャラクターを登用するというのは、すごいことだし、影響力のある出来事だと思います。
 クールジャパンと言われて久しいですが、日本のコンテンツ輸出という国策の真ん中に音楽が置かれようとしている昨今(最後尾のPostScriptを参照してください!)、大きな追い風です。この好機を活かしていきたいですね。


<第2位>
 
 心情的にはこちらを1位にしたかったです。東京五輪に向けての、国立競技場の改修前にオールジャパンのコンサートができたことには、政治的にも大きな意味があるはずです。ラグビー、サッカーと同様に、コンサートも国立競技場にとって、大切だということが、国として認識されました。
 構想は以前から伺っていましたが、日本で音楽ビジネスに関わる者の一人として、関係各位のご苦労に心から感謝したいと思います。

<第3位>
 スマホの楽曲認識アプリとして1億人近いアクティブユーザーを抱えているShazamは、iTunes Storeへのユーザー誘導力も大きく、Shazam経由の年間1DLのアフィリエイトがあるそうです。
 SpotifyPONOの登場で、防戦気味のアップル社にとって、Shazamの重要性は高まっているのでしょう。上場が噂されるShazamにとっても、大きなプラスですね。

<第4位>
 調査結果自体には特に驚きは無いですが、改めて政府統計として見せられると、時代は動いているなと改めて思いました。

<第5位>
 SXSWでのニール・ヤングのスピーチを聞きながら、私もKickstarterに参加(購入)しました。アーティストがmp3という圧縮音源に対して、異議を唱えて、新しいサービスを産み出したというストーリーは音楽ファンに届きますね。

<圏外>
 最近、あまり名前を聞かないなと思っていましたが、頑張っているんですね。
 peer to peerのファイル交換サービスでレコード会社から違法の烙印を押されましたが、グローバルでは、Napstarの知名度は大きいのでしょうか?

<番外編>
 プラットフォームを米国系グローバル企業に握られてしまうことの、日本の権利者にとっての危険は、共感しますが、このやり方はどうなのでしょうか?
 小作人がお代官様に百姓一揆みたいな印象で、事態を好転させるイメージが持てません。もっと長期的な戦略を持って、アマゾンとのつきあい方を考えるべきだと思います。

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2014年3月25日火曜日

【私的ニュースTOP5】2013年世界音楽売上げは日本低迷が原因で前年比減

今週も月曜日メルマガ発行。極私的TOP5のニュースキュレーションです!

<第1位>

 世界の音楽市場は横ばいで、iTunesを中心とするダウンロード型から、Spotifyなどのストリーミング・月額課金型モデルへの移行期。そんなトレンドとはかけ離れて、ガラーケー向けサービス(着うた)の落ち込みをスマホの配信が補えないという周回遅れを走って状態の日本という構図だ。
 SXSWに行って感じたのは、音楽サービスに次のイノベーションの気配は無いということ。目立ったのは、Samsungの新音楽サービスMILKの膨大にお金を掛けたPRと、BEATS MUSICへの注目度の高さ、それと先週のTOP1に採り上げた、ニール・ヤング入魂のハイレゾ配信&デバイスのPONOだった。技術やサービスの構造に新規性は無い。
 「もうゲームのルールは決まったから、そこで戦って白黒つけようぜ」って感じなのか。トークセッションのテーマもウエアラブルやクラウドファンドや3Dプリンターなどだった。

 この状況は日本にとってはラッキーだと思う。現状の音楽デジタル市場は、欧米の周回遅れだけれど、もう一つ先に行かれたら、挽回は大変だ。悪い意味でのガラパゴスで、シュリンクする市場を内向きに守り続けるしか無くなってしまい、海外では欧米プラットフォーマのルール上でコンテンツを出すしかなくなって、主体性は持てなくなる。いわゆる負け組だ。
 今ならまだ間に合う。iTunesが広く普及しなかった日本市場は、ストリーミングへの移行がスムーズなはずだ。固定電話網が不十分な国では携帯電話の普及が早いみたいな話。
 一旦、ダウンロード配信が市場の中心になった欧米では、ストリーミングはダウンロードの代わりという位置づけになるが、パッケージ市場が健在な日本は、ストリーミングは、古くはジュークボックス、ラジオ局、カラオケといった、音楽を使ったコミュニケーションサービスの進化形と捉える方が自然だ。
 パッケージとストリーミングの両輪で日本の音楽市場が活性化すると、世界の音楽市場も上向くということだね、とこのニュースを前向きにとらえたい。
 2014年は変化の節目にしなくちゃいけないと思う。

<第2位>

 米国はミレニアム法という形で、所定の使用料を支払えば、インターネットサービスを権利者の許諾なしでやれる仕組みがあります。そこの徴収分配を担っているのが、SoundExchangeという団体だ。PANDORAiHeartなどのインターネットラジオの収益を徴収して、レコード会社とアーティストに折半して分配している。その徴収額は59000万ドルという大きな金額になっているそうだ。
 日本と米国では著作権法の立て付けも、業界慣習も、ビジネススキームも違うので、全く同じ枠にはできないけれど、いわば「日本型」のSoundExchangeの役割が求められていると思います。
 内閣府の知的財産戦略本部も、音楽流通促進の方法を積極的に検討しているそうなので、、権利者の立場を守りながら、ネットで音楽がどんどん聴かれていくようになるための仕組みが、日本にもできることを期待したい。

<第3位>

 これからの日本は知財が重要な産業なのは当たり前だけれど、音楽を含む、エンタメコンテンツは大幅な輸入超過な状態だ。J-POPが外貨を稼ぐことに貢献できるように頑張り
たい。

<第4位>

 中国だけのサービスが、グローバルNo.1Facebook並の時価総額が付きそうというところに、中国市場に対する米国資本市場の高い評価が現れている。
 これからの日本経済は中国市場抜きでは語れない。音楽ビジネスは、まだ今すぐは動きにくいけれど、ライブ市場としては既に魅力的だし、中期的には中国ビジネスを視野に入れておくことは、音楽業界にとっても必須だ。注視はしておきたい。

<第5位>

通信会社の強さを感じる。コンテンツプラットフォームとして、魅力的だ。


<圏外>

 SXSWでも、PONOの登場をアップルが脅威を感じているという話が聞かれた。「前門のSpotify、後門のPONO」で、iTunes Storeは、次のステップに進むことが求められている。iTunes Storeはデファクトスタンダードになったから、次のイノベーションに進めないという勝者のジレンマを抱えていることは間違いない。
 どういう戦略で打開を図るのかに注目したい。

<番外編>

 ピントがずれた解説に感じた。心配するべきは、メディアが政府に牛耳られることではなく、政治が大手メディアに「人質」を取られていることの気味の悪さではないか?
 どこの国にもエグゼクティブな一族は居るものだけれど、ジュニアが血筋で得する国は、社会の活力が落ちていくよね。



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2014年3月2日日曜日

Jポップ輸出が国策に、配信売上がCD上回る、日テレHulu Japanを売却される、Groovy終了など、週間TOPニュース!

<第1位>
 クールジャパン戦略の中で、Jポップも重視されてきました。昨年は、テレビ番組の
海外販売を主眼にしていたのですが、思ったほどの成果が上がっていないので、音楽に
目を向けてくれたのかもしれません。理由はともあれ、チャンスですので、音楽業界は
千載一遇のチャンスと考えて、最大限、活用すべきです。
 私も先日、内閣府知的財産戦略本部の方に呼ばれて、お話をしてきました。日本社会は
意思決定は遅いですが、方向が決まると向かいますので、音楽の輸出と、コンサートなど
を観光資源にするという考え方が「国策」になることの意味は。大きいです。Jポップを
国力向上に使うという発想を広めたいと思っています。

<第2位>
 LINEの新サービス発表は、激震と呼べる衝撃が走っていました。スタンプ販売のオープン化、電話サービスの開始など、注目すべき新機能が目白押しです、

<第3位>
 2013年は、エポックメイキングの年となったようですね。世界でシェアの4割を占める
No.1レコード会社の売上比率で、フィジカル(CD)をデジタル(配信)が上回ったというのは、象徴的な出来事だと思います。
 日本のレコード会社も時代の流れに鋭敏な対応を望みたいです。音楽配信サービスに対
する許諾は、「原則OK」という方針にするべきです。同時に、パッケージは日本の特徴、
強みであるという認識も大切だと私は考えます。

<第4位>
 このニュースは驚きました。びっくり度では、第一位かもしれませんね。これから様々な分析が出てくるかと思いますが、多様な理由、思惑が交錯した「複雑系」の意思決定による出来事だと私はとらえています。
 Hulu Japanが、順調に収益を上げていなかったことは、間違いないでしょう。ただ、
Huluは挫折というよりは、「名より実をとった」結果のように思います。
 日本のテレビ局が、配信サービスの拡充に動き始めたトレンドの中で、日本テレビ
にとっては、絶好のアピール材料だと思います。

<第5位>
 おおむね、予想通りです。着うた市場の崩壊を、スマホ配信で補えず、ストリーミング
は、まだ普及せずというのが、日本の音楽配信市場の現状であることを数値として確認
しましょう。

<圏外>  
 本気で「勝負する」というタイミングがないまま、サービスが終わってしまう印象が
ぬぐえません。DeNAからは、事前にご説明をいただたいのですが、その際のお話、数値
などを拝見すると、iPhoneアプリのアップル社許諾の失敗というのが浮き上がってきます。
 「ポイントを使って、フル試聴」というGroovyのコアの機能が、iTunes Storeを持つ、
アップル社にとって容認できなかったようですね。音楽系サービスは、アップル社の不透
明なアプリ基準との戦いが、ユーザー獲得以前にあるのだということを改めて、痛感した
出来事でした。サービス設計はよかったと思うので、とても残念です。

<番外編> 
  元総務省の中村伊知哉さんのブログから。地上波テレビをデジタル化したことによって空いた電波の帯域を何に使うかというのは、日本全体にとって大切な話ですね。
 鳴り物入りで始まった「NOTTV」が、ひいき目に見ても、成功とは言えない状況の中で、V-Lowを使ったサービスがどうなるのか、注目したいです。

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2014年2月24日月曜日

「MUSIC DISCOVERYの今」とコンテンツ白書とKKBOX AWARDとMUSIC HACK DAY

 先週は、密度の濃い1週間だった。火曜日に、GRACENOTEの新機能、楽曲のリコメンドができるデータベース「Gracenote Rhythm」の発表イベントで、トークセッシ
ョンがあった。イベントの企画段階から相談されて、キャスティングとモデレーターをやらせていただいた。
 ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました。(イベントレポはこちら

 ゲストが豪華だったので、キャスティングのOKをいただいた時点で、僕の仕事は8割方終了していた。当日は、予定調和にならないように、エンタメ感をもって進行するだけだ。パネラーの皆さんにリラックスして話してもらうように心がけたけれど、楽しんでいただけたようで、嬉しかった。今の日本のデジタル音楽について語ると、愚痴っぽくなりがちなのだけれど、この日は、ポジティブに変化への期待を語り合えたような気がする。

 Billboard Japanで、ライブハウスを運営しながら、新しいチャートをリニューアルした磯崎誠二さん。ユニバーサルミュージックのデジタル本部長で、海外の音楽業界事情に詳しい鈴木貴歩さん、iTunes Japanの立ち上げに関わり、今はSpotify Japanの野本晶さん。
左から鈴木氏、磯崎氏、TAKU氏、野本氏
自賛する訳では無いけれど、なかなか揃うことのない顔ぶれだ。華やかさも欲しいなと思って、m-floレコーディング中のTAKU TAKAHASHIさんに無理言って、参加してもらった。皆さん快く受けて下さって、本当に感謝している。

 ステージで話していて、壇上はもちろんのこと、客席も含めて、「改革の同志」が集まっているように感じて、昂揚した。会場には、企業人、アーティスト、起業家、多様な人達がいたけれど、みんな日本の音楽シーンを良くしようという思いは同じだったはずだ。「一緒に頑張ろう!」ってアジテーションしたい気分になった。

 年頭にも書いたけれど、「Change to surviveが今年のキャッチフレーズだ。日本の音楽業界は、これまでが素晴らしかったからこそ、その良さを活かすために、変わらなければならない。このままでは、音楽シーンも閉塞していってしまう、そんな危機感を持っている。

 危機感は、木曜日に別の場でも、共有できた。経産省監修「デジタルコンテンツ白書2014」の第1回編集会議。僕も4年目になるので、編集委員の皆さんとも顔なじみだ。映画、出版、コミック、アニメ、ゲームなど各分野のエキスパートが集まっている。今年の内
容について、簡単なレジュメ発表があったので、とても勉強になった。それぞれの業界で、個別のトピックスや事情の違いはあるけれど、マクロな視点だと、委員の意識は同じだった。
 日本市場は人口分布的にも長期的な上昇傾向は難しい。これまで機能していた仕組みの弊害が大きくなっている。デジタル技術をもっと活用することと、海外市場を開拓することができれば、大きな可能性があるが、このままだと、ヤバい。
 まあ、色んなメディアでも書かれている当たり前のことだけれど、全分野で共通なんだと実感できると痺れる。「既得権を再構築しないと、日本は駄目になる」。みなさんが指摘する本質はどの分野でも同じだった。「何年も前からわかっていることだけど」という枕詞も。
 雰囲気を和らげようとしたのか、福富委員長が「デジタルじゃ無いコンテンツって、もう無いよね?」って仰って、みんなで笑った。そもそも発行元はデジタルコンテンツ財団なのだけれど、数年後には、「コンテンツ白書」で良いのではということになりそうだ。

台北アリーナ概観。台湾はデジタルサイネージが進んでいる印象
 週末は、久々に台湾に飛んだ。KKBOX AWARDに招待していただいたからだ。KKBOX JAPANPARCOのキャンペーンを監修的な立場でお手伝いしていた縁だ。いつも物腰柔らかな、KKBOX JAPAN代表でもあるKDDI八木さんの「絶対に来て下さい!」という口調から、ただ事では無いと感じて、皆勤賞を続けてきた「山口ゼミ」の講義を休ませてもらって訪台した。行ってみて、その意味はわかった。台湾で最大の音楽祭だとは、聞いていたけれど、台北アリーナが若者の熱気であふれていた。3時間半のイベントが、台湾だけで無く、アジア4ヶ国で生中継されたそうだ。アジアの音楽祭は、何度か観ているけれど、このレベルのイベントを台湾の会社、スタッフだけで破綻無く成立させていることにも失礼ながら驚いた。10年間にシンガポールで観たMTVASIA AWARD は、欧米のスタッフが仕切っていたことを思い出した。

 日本からはPerfumeが出ていて、大人気だったのは嬉しかった。台湾のアーティストを
まとめて聞くことができて、貴重な体験だった。Jポップの影響と台湾ポップス独自の特徴が体感できて勉強になった。アジアのポップスを知ることは、Jポップを見直す事になり、発見があるので、プロデュース感覚を磨くのにも有益だ。来年も来たい。
 興味のある方は、オフィシャル映像ナタリーの紹介記事をどうぞ。
 台湾のレコ大とか紅白とかいう説明しているメディアもあったけれど、日本の何かに喩えるなら、Mステのクリスマススペシャルが一番近いのではと思った。

 翌日に、友人の紹介されたメディア業界の重鎮である台湾人から、「日本は、この20年間負け続けている」と指摘されて、耳が痛かった。早稲田大学に留学していた彼が日本に居た頃は、ソニーとパナソニックが絶頂期で、大好きなVAIOがソニー商品じゃなくなって寂しいと言っていた。負けている理由は明確で「経営層が挑戦しない、意志決定が遅い」だと。アジア各国のテレビ局の番組売買に長年携わっていた人だけに説得力があった。積極的に市場開拓をする韓国の姿勢と方法論を詳しく説明してくれた。
 「台湾人は日本人が好きだから、残念。」と、日韓の差を悔しがってくれていた。俺も微力ながら頑張るからと言って、夜市の近くの老舗屋台で、メチャクチャ旨い豚肉そぼろ飯を食べながら、今後は連携を深めようと誓いあった。

 台湾に来る前、金曜の夜には、MUSIC HACKDAYのプレパーティにも顔を出した。知り合いだらけでびっくりした。ここにも同志が集まって、みんなが若い才能の台頭に期待している。当然だ。デジタル活用と海外市場開拓にしか、日本の音楽業界の未来は無い。逆に言うと、それができれば、未来は明るい。当たり前すぎることを、改めて確認する。

 僕の本業は、新しいアーティストとヒット曲を産み出すことだから、今年こそ、成功例を示せるように頑張りたい。水面下で準備はしている。それだけではなく、ゲームのルールが再定義される時代だからこそ、どんな分野や立場でも、同じ思いの人達と連携したいし、僕にできることは、積極的に協力したい。

 日本社会は、メディア・コンテンツ業界に限らず、understoodで成立していることが沢山ある。それこそが、五輪招致で流行語になった「おもてなし」のバックグラウンドで、日本の美点でもあるのだけれど、外部の人にはわかりにくいという弱点がある。それを知らずに"思い"だけで動くと地雷を踏んで、物事が進まなくなる。僕は長く仕事をしていて、地図は、持っているので、若者や外国人にも活用してもらいたい。日本の良さを残して、再構築するというのは、そういうことだと僕は思っている。
 Change to Survive


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