2014年2月24日月曜日

「MUSIC DISCOVERYの今」とコンテンツ白書とKKBOX AWARDとMUSIC HACK DAY

 先週は、密度の濃い1週間だった。火曜日に、GRACENOTEの新機能、楽曲のリコメンドができるデータベース「Gracenote Rhythm」の発表イベントで、トークセッシ
ョンがあった。イベントの企画段階から相談されて、キャスティングとモデレーターをやらせていただいた。
 ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました。(イベントレポはこちら

 ゲストが豪華だったので、キャスティングのOKをいただいた時点で、僕の仕事は8割方終了していた。当日は、予定調和にならないように、エンタメ感をもって進行するだけだ。パネラーの皆さんにリラックスして話してもらうように心がけたけれど、楽しんでいただけたようで、嬉しかった。今の日本のデジタル音楽について語ると、愚痴っぽくなりがちなのだけれど、この日は、ポジティブに変化への期待を語り合えたような気がする。

 Billboard Japanで、ライブハウスを運営しながら、新しいチャートをリニューアルした磯崎誠二さん。ユニバーサルミュージックのデジタル本部長で、海外の音楽業界事情に詳しい鈴木貴歩さん、iTunes Japanの立ち上げに関わり、今はSpotify Japanの野本晶さん。
左から鈴木氏、磯崎氏、TAKU氏、野本氏
自賛する訳では無いけれど、なかなか揃うことのない顔ぶれだ。華やかさも欲しいなと思って、m-floレコーディング中のTAKU TAKAHASHIさんに無理言って、参加してもらった。皆さん快く受けて下さって、本当に感謝している。

 ステージで話していて、壇上はもちろんのこと、客席も含めて、「改革の同志」が集まっているように感じて、昂揚した。会場には、企業人、アーティスト、起業家、多様な人達がいたけれど、みんな日本の音楽シーンを良くしようという思いは同じだったはずだ。「一緒に頑張ろう!」ってアジテーションしたい気分になった。

 年頭にも書いたけれど、「Change to surviveが今年のキャッチフレーズだ。日本の音楽業界は、これまでが素晴らしかったからこそ、その良さを活かすために、変わらなければならない。このままでは、音楽シーンも閉塞していってしまう、そんな危機感を持っている。

 危機感は、木曜日に別の場でも、共有できた。経産省監修「デジタルコンテンツ白書2014」の第1回編集会議。僕も4年目になるので、編集委員の皆さんとも顔なじみだ。映画、出版、コミック、アニメ、ゲームなど各分野のエキスパートが集まっている。今年の内
容について、簡単なレジュメ発表があったので、とても勉強になった。それぞれの業界で、個別のトピックスや事情の違いはあるけれど、マクロな視点だと、委員の意識は同じだった。
 日本市場は人口分布的にも長期的な上昇傾向は難しい。これまで機能していた仕組みの弊害が大きくなっている。デジタル技術をもっと活用することと、海外市場を開拓することができれば、大きな可能性があるが、このままだと、ヤバい。
 まあ、色んなメディアでも書かれている当たり前のことだけれど、全分野で共通なんだと実感できると痺れる。「既得権を再構築しないと、日本は駄目になる」。みなさんが指摘する本質はどの分野でも同じだった。「何年も前からわかっていることだけど」という枕詞も。
 雰囲気を和らげようとしたのか、福富委員長が「デジタルじゃ無いコンテンツって、もう無いよね?」って仰って、みんなで笑った。そもそも発行元はデジタルコンテンツ財団なのだけれど、数年後には、「コンテンツ白書」で良いのではということになりそうだ。

台北アリーナ概観。台湾はデジタルサイネージが進んでいる印象
 週末は、久々に台湾に飛んだ。KKBOX AWARDに招待していただいたからだ。KKBOX JAPANPARCOのキャンペーンを監修的な立場でお手伝いしていた縁だ。いつも物腰柔らかな、KKBOX JAPAN代表でもあるKDDI八木さんの「絶対に来て下さい!」という口調から、ただ事では無いと感じて、皆勤賞を続けてきた「山口ゼミ」の講義を休ませてもらって訪台した。行ってみて、その意味はわかった。台湾で最大の音楽祭だとは、聞いていたけれど、台北アリーナが若者の熱気であふれていた。3時間半のイベントが、台湾だけで無く、アジア4ヶ国で生中継されたそうだ。アジアの音楽祭は、何度か観ているけれど、このレベルのイベントを台湾の会社、スタッフだけで破綻無く成立させていることにも失礼ながら驚いた。10年間にシンガポールで観たMTVASIA AWARD は、欧米のスタッフが仕切っていたことを思い出した。

 日本からはPerfumeが出ていて、大人気だったのは嬉しかった。台湾のアーティストを
まとめて聞くことができて、貴重な体験だった。Jポップの影響と台湾ポップス独自の特徴が体感できて勉強になった。アジアのポップスを知ることは、Jポップを見直す事になり、発見があるので、プロデュース感覚を磨くのにも有益だ。来年も来たい。
 興味のある方は、オフィシャル映像ナタリーの紹介記事をどうぞ。
 台湾のレコ大とか紅白とかいう説明しているメディアもあったけれど、日本の何かに喩えるなら、Mステのクリスマススペシャルが一番近いのではと思った。

 翌日に、友人の紹介されたメディア業界の重鎮である台湾人から、「日本は、この20年間負け続けている」と指摘されて、耳が痛かった。早稲田大学に留学していた彼が日本に居た頃は、ソニーとパナソニックが絶頂期で、大好きなVAIOがソニー商品じゃなくなって寂しいと言っていた。負けている理由は明確で「経営層が挑戦しない、意志決定が遅い」だと。アジア各国のテレビ局の番組売買に長年携わっていた人だけに説得力があった。積極的に市場開拓をする韓国の姿勢と方法論を詳しく説明してくれた。
 「台湾人は日本人が好きだから、残念。」と、日韓の差を悔しがってくれていた。俺も微力ながら頑張るからと言って、夜市の近くの老舗屋台で、メチャクチャ旨い豚肉そぼろ飯を食べながら、今後は連携を深めようと誓いあった。

 台湾に来る前、金曜の夜には、MUSIC HACKDAYのプレパーティにも顔を出した。知り合いだらけでびっくりした。ここにも同志が集まって、みんなが若い才能の台頭に期待している。当然だ。デジタル活用と海外市場開拓にしか、日本の音楽業界の未来は無い。逆に言うと、それができれば、未来は明るい。当たり前すぎることを、改めて確認する。

 僕の本業は、新しいアーティストとヒット曲を産み出すことだから、今年こそ、成功例を示せるように頑張りたい。水面下で準備はしている。それだけではなく、ゲームのルールが再定義される時代だからこそ、どんな分野や立場でも、同じ思いの人達と連携したいし、僕にできることは、積極的に協力したい。

 日本社会は、メディア・コンテンツ業界に限らず、understoodで成立していることが沢山ある。それこそが、五輪招致で流行語になった「おもてなし」のバックグラウンドで、日本の美点でもあるのだけれど、外部の人にはわかりにくいという弱点がある。それを知らずに"思い"だけで動くと地雷を踏んで、物事が進まなくなる。僕は長く仕事をしていて、地図は、持っているので、若者や外国人にも活用してもらいたい。日本の良さを残して、再構築するというのは、そういうことだと僕は思っている。
 Change to Survive


 そんな思いで、メルマガも地道にやっています。毎週月曜日発行。

2014年2月17日月曜日

楽天のViber買収、SBのWandoujia筆頭株主に、など。〜Weekly 極私的TOP5ニュース【無料メルマガ発行中!】

極私的トップニュースを解説付きで!

<第1位>
 ITが世界の経済を牽引する時代になっていることは間違いありません。成長期待の大きいところに資金は集まるのが資本主義の道理です。コミュニケーションのプラットホーム事業者が、グローバル経済の覇者になるのだとしたら、そのレースに参加できている数少ない日本企業として、楽天には期待したいです。日本人として、期待すべき存在ですね。
 メッセージアプリサービスとしてのViberを今のタイミングで、1000億円近くで買うことが適切かどうかは、浅学の私には判断できませんけれど、グローバルな競争に挑戦する姿勢は評価したいですね。

<第2位>
 そして、ソフトバンクも、グローバル競争に挑戦する日本企業ですね。今回も21世紀
の最大の消費市場である中国に果敢に挑んでいるというニュースだと受け止めています。
 中国の市場ルールは稚拙ですし、レベルの低いビジネスモデルも散見されますが、米国
発のグローバル企業であるアップル社やグーグル社に正面から異議申し立てをする姿勢は、
日本も見習うべき側面があると思います。
 これからの日本の強みは、「欧米ルールを上手に採り入れた最初のアジアの国」である
ことだと、私は思っています。尖閣問題などで反日を唱える中国に対して、日本人として
は反発も感じますけれど、これからの日本は「中国と折り合いを付けること」が、国際競
争社会を生き残るための必須条件です。

<第3位>
 Squareは素晴らしいビジョンを持ったサービスだと思いますが、電子決済の分野を米国
企業に牛耳られないように日本企業も頑張って欲しいです。
 ユーザー利便性の向上が、インターネット時代の最大の正義なのですが、いくつかバイ
タル(決定的な)サービスにおいて、日本人が影響力を行使できない会社が勝者になって、
他の選択肢が無くなるのは嫌だなと思います。

<第4位>
 豪華な組合せですね。LINEの急速な伸張でもわかるように、プラットホームの勝利者は、
いつどこから現れて、それまでの主役を追い落とすかわかりません。インターネットビジネ
スの草創期から活躍する2人のタッグで、どんなサービスが出てくるのか、注目したいです。

<第5位>
 「反則だなー」と思うやり方ですし、日本には当てはまらない方法論だと思いますが、
ユーザー行動が可視化される時代に、有効ですね。
 コンテンツプロデューサーとしては、こういうやり方もあり得るのだという前提を持って
仕事をしなくてはいけない時代である事は間違いありません。

<圏外>
 法廷闘争は空疎なこと多いですが、ジョークが混じると、面白いですね。日本企業にも、
こういうユーモアと余裕が欲しいと思いました。

※他にもニュースキュレーションをまとめてます。概要とバックナンバーはこちらからどうぞ。
音楽プロデューサー山口哲一のコンテンツビジネス・ニュース・キュレーション

2014年2月10日月曜日

【メルマガ発行中!】週間ニュースTOP5発表とか。

 無料メルマガ10号まできた。毎週、月曜日発行。前週、1週間のニュースをまとめて解説付きで紹介するという内容。
 『ソーシャル時代に音楽を売る7つの戦略』(リットーミュージック)の共著者を中心としたチームで出していた有料メルマガが1年間で終了したので、後を継ぐ形で、個人で始めた無料メルマガ。
 内容は、最初に山口の極私的TOP5ニュース。クリエイティブな映像、デザインなどの紹介コーナー、その他1週間の音楽、コンテンツビジネスに関わりがある思われるニュースやブログ記事の紹介など。僕の活動記録や情報コーナーもある。
 無料なので、是非、登録してください!
 ちなみに、本日2月10日付発行のメルマガの極私的TOP5は、下記の通り。

<第1位>
●ソニーから分離で「VAIO」の魂は失われてしまうのか


 何と言っても注目は、ソニーのPC部門の売却でしょう。輝きを失っているかつてのリーダーカンパニーが、浮上の機会になるのなら、日本人として嬉しいです。
 本田雅一さんの分析記事が参考になると思います。

<第2位>
●イタリアの音楽市場が11年ぶりにプラス成長を達成、音楽ストリーミングは3桁成長

 欧州各国の音楽市場はストリーミングサービスをきっかけに上昇をしています。日本は、
DL配信が広まらず、CD市場が健在な分、ストリーミングが広まった時の効果は大きいはず
ですね。

<第3位>
●ツイッター大ピンチ。収益のカギとなるタイムライン閲覧数が何と減少!

 タイムラインの閲覧数というのは貴重な指標ですから、ここが落ちているのは問題ですね。一方で、Twitterの影響力が落ちているという実感はありません。どのように捉えるべきなのか注目しつつ、考えていきたいと思います。

<第4位>
●GracenoteがNext Big Soundと提携、ビッグデータ活用で音楽サービス構築を支援

 ビックデータ活用では、音楽ビジネスが先陣を切るのでは無いかと思っています。ユーザーの嗜好性を分析して、ビジネスにする実験場としては、最適ですから。

<第5位>
●YouTubeが音楽業界への貢献を主張:「過去数年間で10億ドル以上を支払ってきた」

 主張したい気持ちはわかりますけれど、音楽業界への貢献というのなら、整備すべきことがたくさん残っているというのが率直な感想です。
 権利侵害に対する対策も不十分ですし、音楽産業を振興するという姿勢には見えませんね。
 ユーザーが誰でも使えるというインターネットのコンテンツプラットフォームとして、圧倒的な存在感ですが、既存の権利ホルダーにとっては、「必要悪」的な域を超えていないなと、改めて思いました。

<圏外>  
●レッチリ、スーパーボウルでのテープ演奏についてフリーの公開書簡の全文訳を掲載

 素晴らしい内容のインタビューです。いわゆる「アテブリ」に対して、メンバーが明確な
意思表明をしています。

<番外編>
●新垣氏 障害は「キャラ作り」
●佐村河内氏 記事コピー謝罪文
●彼はなぜゴーストライターを続けたのか
●より正しい物語を得た音楽はより幸せである ~佐村河内守(新垣隆)騒動につい
●佐村河内守の別人作曲騒動が浮き彫りにした、「音楽」と「物語」の危うい関係

 大きなニュースになっている佐村河内守さんのスキャンダル。ゴーストライターが居たことと、耳の障害が嘘では無いかという2点が大きなポイントのようです。いくつかの記事をまとめてみました。
 事件の詳細じゃチェックできていませんし、クラシック界のトーン&マナーは正確に知らないので迂闊なことは言えませんが、メディアにスクープされた時点で、対応の仕方は他にあったのでは無いかと感じています。
 楽曲への評価は高く、彼らが価値ある存在であったことは確かです。二人の関係性が壊れていないのだとしたら、半端な善悪論でさばくのでは無く、良い作品がつくられ、売れているという事実を大切にすれば良いのにと、率直に思いました。
 障害に関して世間を騙したことは、褒められることではないですし、社会的な制裁を受けるのは当然と思いますが、そのことと作品の価値、プロデュース手法は、別のレイヤーで語られるべきと音楽を生業にする者として感じています。

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2014年1月26日日曜日

Only The Good Die Young. 〜細川健さんと土川俊司さんを悼む〜

  ここ数ヶ月 Billy Joelの「Only The Good Die Young」が耳について離れない。ふと気付くと口ずさんでいる。

 理由はわかっている、細川健さんが亡くなったからだ。63歳という年齢は、高齢化社会
になった今の日本では早すぎる。

 細川さんは音楽業界で大きな功績のある方だ。アリスのマネージャーであり、ヤングジャパングループという数々のアーティストを輩出した会社の創業者だ、
 ポリスターというレコード会社も創業された。渋谷系の総本山であるトラットリアレーベルは、ポリスターの一部門だったし、一方で二人組のアイドルWINKもいるという幅のある会社だった。
 僕は、こなかりゆというアーティストをポリスターからデビューさせてもらった。面白い作品はつくれたと思うけれど、セールス的にはお役に立てずに申し訳なかった。
 
 9年前に日本音楽制作者連盟の理事になったときに、細川さんも理事に復帰された。理事長まで務めて、勇退された方が戻ってきたのは、相当思いがあったのだろう、実際、音楽事務所やアーティスト、音楽業界に対する愛情と見識の深さには、ただただ敬服した。

 忘れられない言葉がいくつかもある「この世界で仕事をするなら、プロデューサーになるか、プロデューサーの役に立つ人になるか、どちらかになれ」という言葉も刺さった。「俺は、アリスはプロデューサーだったけれど、佐野元春に出会って、プロデューサーの役に立つ人になろうと思ったんだ」とおしゃっていて、なるほどと思った。以来、この案件は俺がプロデューサー、このプロジェクトでは**の役に立つ人、と考えながら仕事する癖が付いている。

 今週、渋谷公会堂で行われた、お別れ会は、細川さんの人柄を表すようにたくさんの方が集まった。佐野元春さんの弾き語りに涙した。アリスの「遠くで汽笛を聞きながら」は、心に染みた。

 ここ数年は、お会いしてなかったけれど、昨年の突然の訃報は、ショックだった。「もう細川さんと話せないんだよね?」って、自問自答していた。この先「細川さんに相談しよう」と思いたって、それが叶わないとことを悲しく気付くことが何度もあるだろう。

 本当にBilly Joelの言うとおりだ。「善い人ばかりが、早死にする」。

 神様、そんなに天国は良いところですか?早めに呼ぶのはご褒美なんですか?残された僕らは、哀しみを抱えて立ちすくんでいます。。

 そして、
 このエントリーを書いている時に、40代の友人の訃報を知った。昨年末の井上晃一に続く、年下の友人の死だった。土川俊司さんは、ポリドールのディレクターだった20代の頃に仕事をして以来、会社が変わっても、親しくさせてもらっていた。
 ハードな仕事ぶりはFacebookから見てとれたので、時折warningは送っていた。悩みも抱えているようだったので、一度ゆっくり話そうと言いながら、スケジュールが合わずに1年以上経っていた。新年早々に、心筋梗塞で旅立ってしまった。とても優秀なミュージックマンで、心根も優しく、人間性も素晴らしい男だった。

 1月6日、亡くなる直前のFBの書き込みを見た。

「僕にとっての人生を変えた1曲は、Hotel California
 これを聞きながら眠ろう。おやすみ」

 

 おそらくこれが辞世の言葉だ。
 悲しすぎるし、切なすぎるけれど、音楽の近くで死んでいくのは、僕ら音楽で人生を踏み外した者たちにとっては、美しい姿なのかもしれない。せめてそうでも思わないと辛すぎる。 

 今年になって、大滝詠一さん、佐久間正英さんと尊敬する音楽家も天国に召された。 

 先輩方や、夭折した友人達の分まで、長生きしようと思うし、生きている時間を大切にしようと思う。
 合掌。

2月10日付追記:
このエントリーを書いた後に、いくつかご連絡をいただいた。ご家族の密葬で、業界内への連絡が無かった土川さんとのお別れ会をやりたいという声が強い。6月2日の彼の誕生日に何かできないかと考えている。同じ思いの方は、ご連絡ください。

2014年1月9日木曜日

LINE MUSICに期待すること

 ドリルスピンから依頼をいただいて「音楽ストリーミングサービス」についてコラムを書いた。紙幅の都合と、全体の流れで割愛してしまったけれど、LINE MUSICについては、ラブコールと独断予測を追加しておきたくなった。

 LINEが予告している音楽サービスLINE MUSICには、大いに期待している。友人は何人か関わっているようだけれど、僕自身は何の情報も持っていないし、サービスの内容は一切発表されていないので、以下は勝手な予測と期待だ。

 言うまでも無く、LINEは近年で最も伸びたコミュニケーションプラットフォームだ。特に10代をはじめとした若年層には圧倒的な支持を得た。始まった時は、「ポストペット+Skype」だなと思って見ていたけれど、(スタンプはモモちゃん!)経営陣のビジョンが功を奏したようだ。海外含めて、爆発的にユーザー数を増やしている。


 普通に考えれば、LINE MUSICは、一言で言えば「音楽版スタンプ」を目指しているはずだ。つまり、ユーザーのコミュニケーションを誘発するツールとして楽曲を使うということ。これはどんなものになるのだろう?浅学の僕には具体像は想像できないけれど、これまで体験したことの無い種類の音楽サービスになるはずだ。

 音楽をつくっている立場からは、「音楽をそんな使い方するのかよ!」って、突っ込みたくようなサービス設計かもしれない。寂しい思いをさせられるかなとも思う。
 一方で、若年層から支持されれば、今のLINEなら爆発的な普及の可能性がある。CDを再生する機器を持ってないような層に音楽を聴かせるという役割を果たしてくれるだろう。結果、音楽業界全体にも利益をもたらしてくれることだろう。

 歴史を振り返れば、カラオケも着メロも、音楽業界の外で産まれ、広まったサービスだ。ユーザーから支持されて、新たなカテゴリーがつくられた。着メロの発展系である着うたが、レコード業界に大きな収益をもたらしたのは、記憶に新しい。LINE MUSICにもそういう役割を期待したい。僕は「音楽へのリスペクトが感じられない」と寂しい気持ちを抱えたとしても、自分の作品のプロモーションと収益化への可能性を模索するつもりだ。
 
 もし、LINE MUSIC普通の音楽ストリーミングサービスだったら、失敗すると予測しておく。

 僕も含めて、音楽業界の人間は、音楽は素晴らしく、音楽自体にこそに価値があると信じている。一曲との出会いが人生を変えることもあるのも知っている。アーティストとスタッフが精魂込めてつくった作品は、きちんとしたコンディションで受け止めて欲しいと願っている。それが、時に、独善的に、「こう聴くべきだ」という発想に繋がってしまうことがある。
 本来、音楽の楽しみ方は、時代や世代やその人の嗜好によって、それぞれ自由であるべきなのに、デジタルの進化に、日本の音楽業界は乗り遅れ気味だ。レコード会社が音楽配信用ファイルの置き場所を「自社サーバーに限る」というルールにして、頑なに守っているのは、象徴的だ。大切な作品のマスターは、目の届くところで、きちんと管理したいという気持ちは痛いほどわかるし、ありがたいけれど、経済的合理性や災害対策などを考えても、滑稽なことになってしまっている。

 そんな音楽業界の感覚を尊重してサービスを設計しても、見たことが無いような新しいものは出てこない。LINEは「若い子にバズらせる」ことだけを目指してサービスを考えて、音楽業界の人に嫌がられて欲しい。

 音楽業界に気を遣って、普通のストリーミングサービスにしてしまうと、ユーザーが反応せず、LINE MUSICは来年の今頃には、サービスが終わっているかもしれない。

 そうでなくてもITサービスをやる人達の判断は早い。業種ごとに価値観も目的も違うから、彼らのやり方を批判するつもりは無いけれど、アーティストマネージメントなんて、成果が出るのに3年〜5年掛かる商売を長年やってきた者から見ると、見切りの早さには怖さを感じる。まあ「一度信じた才能を粘って売る」というマネージャー的な感覚は、ネットの世界では通用しないのだろうけれど。

 最近でも、DeNAが鳴り物入りではじめたGroovyは、「着うたユーザーにとっての後継サービス」として、よく考えられたサービス設計だと思ったけれど、本気で勝負を掛けないうちに諦めた、という印象で、残念に思っている。
 (そういう意味ではKDDIが行うKKBOXは、簡単にはやめることはないだろうから応援したいと思う。)

 万が一、LINE MUSICが、"普通"のストリーミングサービスで、そのサービスが成功したら、「読みが甘くてすいません」と頭をかきながら、「音楽の力だね」と喜びたい。

 つまり、この予測は、どちらに転んでも喜べる予測なので、今のうちに書いておきたかった^^


 このアンビバレント(両義性)な気持、伝わるかな?

 LINEが音楽をどう捉えるか、注目してサービス開始を待ちたい。

2014年1月1日水曜日

独断的音楽ビジネス予測2014 〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜

  新年あけましておめでとうございます。更新が間遠なブログですが、本年もお付き合い下さい。

 過去2年続けて、同じテーマで、年頭に音楽ビジネスの年間予測を書いてきたので、今年は3年目になる。昨年は、予測が概ねあたって、胸を張ったのだが。2013年の予測は全くダメだった。音楽とITの専門家を自任する立場としては、面目丸つぶれだけれど、まずは、そのエクスキューズも含めて、2013年の振り返りから始めたい。

 パッケージ売上は現状維持。CD店をネットと連動させて活用
⇒はずれ!
 2013年の音楽パッケージ売上は、前年比8%増を誇ったが、2014年は、10%以上下がることになりそうだ。まだ正式なデータはないけれど、2012年を下回ると言われている。
 昨年は店頭を賑わした大物アーティストのベスト盤などがネタ切れで、秋の売上減が大きいという話をCD店からよく聞いた。商品企画やリコメンドのやり方にも、もっと工夫が必要なのだろう。
 
・ストリーミングサービスが本格開始する
⇒微妙。
 7月からソニーのMusic Unlimited、レコチョクbestKDDIによるKKBOX JAPANとストリーミングサービスは始まった。ただ、欧米でユーザー数を急増させているSpotifyの日本ローンチは無く、始まったサービスもユーザー獲得には苦心しているようだ
 今後の音楽配信の主役になることは間違いないのだけれど、まだユーザーに、魅力を伝えることができずにいるようだ。ストリーミングサービスについては後述する。

・レコード会社がインターネット上に音源を解放し始める
⇒その方向ではあった。ただ、速度はゆっくりだった。

・コンテンツの海外輸出が本格的にはじまる
⇒動き始めているけれど、まだ数字には表れるほどではない。

 総括すると、メジャーレーベルをはじめとした規模の大きいプレイヤーほど、変化への不安がぬぐえずに、スローテンポな2013年だったと思う。もう、誰もブレーキは踏んでいないけれど、怖くてアクセルを踏めないので、エンジンブレーキが効いてしまっている感じ。正直、僕のイメージしたテンポの30%位の速さだった。

 それでも、目指す方向性のベクトルは定まってきていると思う。メジャーレーベルの中からも変化のバイブレーションを感じることが増えてきた。日本のマネージメントやプロデューサー達の意識は高い。希望は持てると思っている。

 さて、2014年の予測。

●ストリーミングサービスの本格的に普及する
 「来るよ来るよ」と言い続けていると、狼中年に思われてしまうかもしれないけれど、今年こそはストリーミングサービスの普及が本格化すると予測したい。

 日本法人を設立して1年以上経つSpotifyが、今春には日本サービスを始めるようだ。最初はβ版的な打ち出しになるようだけれど、世界で急成長中の人気サービスが、日本で始まるインパクトは大きい。

 異論もあるかも知れないけれど、2013年のパッケージ売上が伸び悩んだのは、端的に言えば、ストリーミングサービスが広まらなかったからだと思っている。今の時代にネットで音楽が聴かれない状態は。ラジオ局無しで楽曲PRをするようなものだ。新しいテクノロジーや情報伝達の変化を取り込まなければ、産業が停滞するのは自明のこと。音楽、特に新しい楽曲との接触の機会を増やし、ユーザーの興味を喚起することが、音楽業界にとって、最重要だ。

 世の中の関心も確実に向いてきている。昨年12月には、KADOKAWAグループの社内向け勉強会と、証券会社の機関投資家向けセミナーの講師に呼ばれた。いずれも、「音楽配信サービスがどうなるのか?海外事情と国内の今後を知りたい」というオーダーだった。異業種からの方がよく見えているのかもしれない。流行に敏感な日本で、ストリーミングがブームになる日は、そう遠くない。

O2O活用でCD店が活性化する
 音楽配信サービスが広まると、CDが必要なくなるという誤解は今でも大きいけれど、僕は全然違う観点で捉えている。確かに、iTunesなどのダウンロード型の配信サービスは、パッケージに取ってかわるような側面もあった。主要な音楽配信がクラウド活用のストリーミング型、課金が定額(サブスクリプション)型になることで、パッケージとの棲み分けは明確になっている。

 ユーザーのニーズとしても、色んな音楽をスマフォなどのデバイスで楽しみにたいという気持ちと、好きなアーティストの作品をコレクションしたいという欲望は、種類が違う。CD店が生き残っている日本では、ストリーミングが広まることで、パッケージの役割は残ると思う。

 ストリーミングサービスの普及で、負の影響を受けるとしたら、CDレンタル店だろう。まだ500億円以上の市場があるレンタルCDのマーケットは、置き換えられる可能性が高い。マジョリティの消費者行動は保守的なものだから、今年中とは言わないけれど、レンタル店の動向がストリーミングサービスの一般層への本格普及の目安になると僕は思っている。

 CD店活性化のキーワードはO2O。オンライン・トゥ・オフライン、ネットからリアルへの送客というのは、マーケティングの世界では耳にタコだろうけれど、音楽ビジネスでも重要だと思う。ネットラジオ的なサービスも含め、インターネットサービスでユーザーの興味喚起をリアル店舗に活用するというのが、これからのCD店の肝になる。CD店内でのデジタルサービス(オフライン・トゥ・オンライン)も含めて、ネットとリアルの連動という世の中では当たり前のことが、音楽の世界でも重要になっていく。音楽とデジタルは元来、相性が良いので、面白い施策が出てくることだろう。
 
●ストリーミングサービス発のヒット曲が出る
 新しいメディアの台頭は新しいスターを産むのが歴史の必然だ。YouTubeが無ければ、有名にならなかったかもしれないYouTubeクリエイターもたくさんいる。Twitterが買収したことで注目の6秒限定動画共有サービスvineは、米国では大人気のようんだ。今年は日本でも広まるだろう。新しい人気者がvineからも出てくるはずだ。

 音楽ストリーミングサービスからのヒット曲も欲しい。スウェーデンのEDM系のユニットCAZZETTEは、当初、Spotifyだけで楽曲を発表し、人気者になった。地元スウェーデンだけでなく、米国でもビルボードチャートにランクインした。

 僕の本業はITサービスの評論ではなくて、音楽プロデューサーなので、今年は、本腰をいれて、新人アーティストを夜に出そうと思っている。ちょうど、機は熟した気がしているので期待して欲しい。自分だけが成功したいわけではなくて、新しいフォーマットでの成功例を出していくことが、日本の音楽シーンの活性化になると信じているので、いろんな人とも連携していきたい。デジタルや海外をテーマに取り組むマネージャーやプロデューサー、アーティストは、是非、相談に来て欲しい。

 ちなみに、昨年書いた「極私的音楽ビジネス予測・続編」は、(残念ながら)、今も有効な提言になっていると思う。


 興味のある人は、読んでみて欲しい。ITベンチャーの音楽サービスには、本当に期待している。この問題意識から出版したのが『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)だ。若い起業家達から僕自身、たくさんのことを教わった。
 今年こそは、音楽とITの蜜月が始まり、新たなテクノロジーやメディアが音楽シーンと音楽業界を活性化することを期待するし、僕自身、頑張りたい。

年頭に付き、まとめて告知を!

昨年11月から無料メルマガを始めた。「ソーシャル7」の共著者チームを中心に発行した有料メルマガが1年間で休刊になったので、毎週やっていたニュース・キュレーション部分だけを個人で無料で出すことにした。まだの方はご登録下さい。毎週月曜日に前週のコンテンツビジネスに関するニュースを解説付きで紹介。極私的なTOP5も選んでいる。自分で言うのも何だけれど、結構、役に立つと思う。

3つのコラム連載も、宜しくお願いします!




超実践型作曲家育成セミナー「山口ゼミ」もお陰様で、好評をいただいている。1月からは第4期が開講する。詳しくはこちらから。



できることからコツコツと。でも、機は逃さずに、大胆に。そんな2014年にしたい。音楽業界は「change or die」だとメッセージを出すのは去年で終わりにする。今年は「change to survive」生き残っていくために変わることが必要な時代なのだ。

2013年12月29日日曜日

「ずっと好きな歌」と「無意味良品」と、「ザ・ベストハウス123」 〜井上晃一を悼む

 BSフジで「ずっと好きな歌」と「無意味良品」が放送された。1123日に亡くなった井上晃一が構成・演出した番組だ。
 「ずっと好きな歌」は、ドラマー・村上"ポンタ"秀一がホストの音楽番組。毎回のテーマにトリビュートするアーティストを選び、そのアーティストを敬愛するアーティストをゲストに招いて、トークと楽曲のカバーライブを行うという内容で、普通のTVでは観ることのできない、クリエイティブで、音楽的に濃い番組だった。たくさんのミュージシャンズミュージシャンが、出演してくれた。音楽事務所としてのBUGのカラーを表していたと思うし、ノウハウを注ぎ込んだ番組だった。幸いなことに評判も良く、開局以来、BSフジの看板番組とまで言われていた。

 「無意味良品」は、僕がプロデューサーとしてクレジットされている。キムスネイクというキャラクターを世に出したいと相談されて、井上晃一と一緒に企画した。敬愛する阿川佐和子さんを口説き落として、レギュラー出演していただいた。木村タカヒロという絵描きが産み出す奇天烈なキャラクターが世界中から無意味なものを集めてきて、ゲストが品評するという構成。要所にオリジナル音楽も織り込んだ。社長役のキムスネイクの声は、井上自身がやっていた。「あー、よいねー!」。総合演出がナレーションもやるという不思議な世界。撮影現場も編集スタジオも、一体感と笑いが溢れていた。そそのかすのが得意な彼に騙されて、僕もバーのマスター役のナレーションをやらされていた。熱い雰囲気に、草創期のテレビ番組って、こんな風に創ってたんじゃ無いかなと思ったりしていた。
 それにしても、一般的には無名のクリエイターを追悼してテレビ番組が放送されるのは異例のことだと思う。編成部長の立本洋之さんの厚情と、BSフジの度量の広さには、本当に感謝したい。この恩義は一生忘れません。ありがとうございます。総集編の編集にも愛情がありました。

書籍版「無意味良品」
 井上晃一と知り合ってからは20年近く経つ。2003年頃から2010年位までは、週の大半は一緒にいた。どれだけの時間、話をしたのだろう。些末なことから、深遠な内容まで多種多様な会話をしていたれど、とどのつまりクリエイティブとは何かについて、いつも話していたような気がする。そして、とても影響を受けた。僕が音楽プロデューサーを逸脱して、コンテンツビジネス全般について語るようになったのは、別の理由だけれど、あらゆるカテゴリーのコンテンツ、作品つくりに通底するプロデュースの基本姿勢が持てたのは、彼のお陰だ。

 フジテレビのプライムタイムで放送した「ザ・ベストハウス123は、レギュラーになる
前の特番のセットを考えるところから近くで見ていた。「ピストルバルブ」という僕が始めたアーティストを出演させることを前提に企画していたようなところがあり、視聴率を気にしながら毎週を過ごすという、初めての体験をさせてもらった。「自分が本気を出すと視聴率が下がるから、テキトーにやるのがちょうど良い」と言いながら、抜群のバランス感覚を見せていた。

 映画とかテレビとか音楽とかカテゴリーにとらわれずに、全てを俯瞰して、具体を産み出す才能は、希有だった。幅の広さと切り込みの鋭さを両方持っているクリエイターは、滅多にいない。本当に特別な人だった。

 一緒に立ち上げたプロジェクトの方針がずれてしまい、お互い本気だったが故に、袂(たもと)を分かつことになったけれど、別の機会で、いつか何かを一緒にやるんだろうなと漠然と思っていた。けれどもう、かなわなくなった。

 井上晃一は、人間関係でも仕事においても、過剰に背負い込む性質で、極度のマッチョだった。権威を信じず、弱者に優しい性格は良いのだけれど、多くのことを抱えすぎる。自分の会社を「動物保護区」や「モンスターゾーン」と名付けているくらいだから、自覚は十分にあったけれど、自分の体力、精神力を過信していた。僕が近くに居る時は、散々、批判して、だいぶ減らさせていたたけど、最近は没交渉で、止めてあげることはできなかった。近年の彼の周辺のスタッフは、僕の紹介だったりするから、その不甲斐なさには、腹立たしさと哀しみがあるけれど、、、。

 死亡の報せを聞いたとき、不思議なことに驚かなかった。年下の突然の死なのに、想定内のような気がした。これまで持ったことの無い感情だった。悲しみというよりは怒りに近い、喪失感とも違う何か。
 すぐに井上の携帯に電話して「自分は死なないと過信してたろう?だから言ったことじゃない。反省しろ!」って、言いたかった。自死では無かったけれど、長年の無茶と不摂生がたまりにたまって、身体が遂に限界点を超えたのだろう。生命力は異常に強い男だったから、仕事を離れて、養生に専念すれば違ったはずだけれど、そういう選択はできない性格だった。

 本当に烈しい感情は言葉で表現するのが難しい。何かを書かずに居られずに、このブログに書いている。さっきから、井上がKIM社長役で歌った「The store of HOPE」を口ずさみながら、涙が止まらない。レコーディングスタジオで、彼の歌をディレクションをした時の事を思い出す。
 心の置き場が無いけれど、もう作りたいものは作ったから、気が済んだんだな、と思うことにする。

 お前はやめても、俺は続けるよ。

 合掌。