2011年8月21日日曜日

園子温監督の傑作『恋の罪』と円山町の思い出

  1980年代後半、大学には全く行かなくなっていたけど、学生証は持っていた頃、僕が最初に「事務所」として、部屋を借りたのは、渋谷の円山町だった。今でこそ、ライブハウスや映画館が建ち並んで、華やいだ場所になったけれど、その頃はまだ、ラブホテル街とその周辺という怪しいエリアだった。百軒店商店街というアーケードをくぐって、ジャズ喫茶やロック喫茶の前を通り、小径を入ったところにある、今にも壊れそうな木造のアパート、3畳ちょっとくらいのスペース。知人からのまた借りみたいな形だったけど1年半くらいで、取り壊しを理由に追い出された。

 園子音の最新作『恋の罪』1990年頃の渋谷円山町が舞台だ。実際に起きた殺人事件から触発されたオリジナルストーリー。映画で登場アパートのイメージ元は、もしかしたら僕たちが借りていたところかもしれない。追い出された後も、かなりの間、建て直しされずにいて、前を通ると無人になっていたのを覚えている。
 その頃に「立ちんぼ」と呼ばれる娼婦が、路上に並んでいたというのは、ちょっと誇張だけど、隠れて少しは居たと思うし、怪しいマンションの一室を借りた風俗営業が盛んだったのは間違いない。電話ボックスに小さなチラシがたくさん貼られていて、ラブホテルに出張させるのは盛んだったようだ。
 戦前から、娼婦街(それも公営の「赤線」では無く、「青線」街)だったらしいから、年季の入った、怪しい雰囲気を醸し出していた。今は、ほとんど無くなってしまった、ジャズ喫茶やバーがあって、高校時代からよく通っていた。そんな僕が観ても、あの頃の街の空気が見事に描かれている。

 3人の女性の生と性と死の物語、とまとめてしまうのは、あまりにも陳腐だろうか?恵まれているように見える彼女たちが、自分が手に入れられない何かを求めてもがいてる。
 水野美紀、富樫真、神楽坂恵の主演女優三人が、素晴らしい。文字通りの体当たり演技だし、女性の心の奥底が見えそうで、見えない、そんな凄みと深みがある。
 園監督は、男性目線で女を語らないようにシナリオを書いたと言っているけれど、その通りだと思った。女の怖さと強さと、言葉にできない真実がある。強烈なエロスだけれど、半端な男には勃起が躊躇われるような、大胆な女の性。

 詩人でもある園監督の台詞は、言葉の一つ一つに陰影がある。引用されている田村隆一の詩は、既知だったせいか個人的にはそんなに響かなかったけど、女性達が叫ぶ言葉は、心に刺さった。「オマエは、自分できちっと、ここまで堕ちてこい」って凄い台詞だと思わない?
 映画でしか描けない世界。そして、もしかしたら日本人にしか描けない、けれでも普遍的な、映像世界をつくりあげてくれた園子温監督に脱帽。絶賛。
 海外の映画祭でも好評だったようだし、試写会も毎回、座りきれないほどの盛況ぶりらしい。

 普段、ハリウッド映画とアニメしか観てない人には、刺激が強すぎるかもしれないけれど、観る価値がある映画です。デートで女性を誘うのは、かなりチャレンジ。大成功か失敗か、はっきり結果が出るでしょう。女性が男の品定めをするのにはいい映画かもね。もちろんR-18指定の成人映画です。1112日公開だって。

 観逃していたを反省して、今年初めに公開された同監督の前作『冷たい熱帯魚』DVDで観た。
 こちらも凄い。壮絶という意味では、こちらの方が過激。食事の前後に観たりしない方がいいし、精神的にも「持って行かれる」可能性もあるから、観るシテュエーションを考えた方がよいと思う。不快なんだけど、惹かれるという感じ。セックスと殺人シーンが続くのに、何故か詩情がある。本当に園子温監督の世界は独自だな。

 こんな監督が日本から輩出できているのは、日本文化の豊かさとして誇っていいと思う。

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