今回が完結編です。
いささか僭越ですが、電子書籍に提言をして終わろうと思います。
本稿は、出版社のデジタル担当の方向けに勉強会でスピーカーをした際に作成したものです。ですから、編集者の方に対する提言になっています。ちなみに、タイトル「電子書籍は~」も、私がつけたものではありません。A新聞社のS君が決めてくれました。彼が書いてくれた
紹介文は以下の通りです。
「出版コンテンツのデジタル化がもたらす未来とは。 デジタル化されたコンテンツを端末に
詰めて持ち運ぶ時代の波を、2001年の時点で受けていた音楽業界 流行の発信地であったHMV渋谷は消え、大手レコード会社は存在意義を失った。 出版業界の将来を展望するうえで、一歩先をいく音楽業界のたどってきた道を改めて見つめなおす。」
電子書籍に3つの提言
~音楽プロデューサーの立場から~
1.プラットフォームは、公共財と考える
プラットフォームや技術フォーマットでの覇権争いは不毛。パブリックで透明性の
高い仕組みを構築し、手数料率を下げ、IT事業者に主導権を握られずにコンテンツ
側の配分を増やす方法を業界全体で考える。
2.マルチユース発想でプランニングする
電子書籍を書籍の代替ではなく、多様で成熟した日本の消費者に対応しやすい
ツールと前向きにとらえ、書籍や書店等の既存の経営資源と連動・補完させる戦略
をコンテンツ(ジャンル)ごとに構築していく。携帯、タブレット、PC等デバイス
ごとに対応したプロデュースワークを行う。
3.分配料率を再構築する
分配料率の考え方そのものを再構築。紙の書籍の読み替えも著者直営(70%)も主流
には、なり得ない。編集者の役割を著作隣接権的に捉え、企画、宣伝等貢献も数値
化して検証していく仕組みを持つ。産業として、公平で再生産可能な、新しい分配
思想をつくっていくことが肝要。
順に解説します。
1.プラットフォームは、公共財と考える
コンテンツプロデューサーにとって、当たり前ですが、大切なのはコンテンツです。プラットフォームや技術フォーマットは、読者の利便性のために重要ですが、手段に過ぎません。現在の電子書籍に関する議論は、ここの整理が不十分な場合が多いようです。
村上龍さんが新しい電子書籍の会社をつくったのも話題になりましたが、さらっと「技術的な部分がリクープされた後は~」という部分があり、気になりました。デバイスやOSのバージョンアップに終わりはありません。この判断の主導権を持っていないと、IT側の費用がいつまでたってもリクープされない事態になります。実業では、そのことがかなりバイタルなポイントになるのです。読者の利便性を図った上で、作家や出版社などのコンテンツ側にできるだけ高い料率を担保することが、電子書籍における正義の筈です。
余談ですが、村上龍さんの新しい会社に関する私の見解も述べておきます。音楽の著名アーティストが自分でレーベルをつくる事例に重ね合わせる論評も多かったですが、確かに似ていると思いました。その経験も踏まえていうと、アーティスト主導のビジネススキームが、業界のデファクトになったケースはありません。そういう意味では失敗すると思います。ただ、村上さんやその周辺の作家が、ご自分の料率や納得度が高い形でビジネスをすることができる可能性は十分にあると思います。ただ、これも音楽の例になぞらえるとすると、そこから才能ある新人アーティストが出てくるケースが非常に少ないのも、偶然とは言えない気がしています。
角川歴彦さんが、著書の中で、日本国産クラウドの必要性について語られていましたが、私は、強く共感します。
2.マルチユース発想でプランニングする
素晴らし書籍をつくるというノウハウは、職人的なものでしょうから、どうしても、ディテールのノウハウに固執してしまいがちです。その職人芸を守ることも重要だと私は思います。ただ、デジタルコンテンツというカテゴリーができたときから、音楽も小説も映画も写真も(プロ野球チームも?)同じコンテンツなのです。従来の発想にとらわれずに、様々なデバイス、シチュエーションでユーザーを楽しませる、感動させるということを追求するのがこれからの編集者の責務の筈です。
また、従来のカテゴリーも意味がありません。音楽やテキストや写真や動画という枠を超えた新しいジャンルのコンテンツでヒット作をつくることが、本当に意味でも市場の活性化です。不肖、私もそんな新しい作品つくりにコンテンツプロデューサーとして関わりたいと思っています。
3.分配料率を再構築する
レコード会社と同じ過ちを犯してはなりません。CDの読み替えで音楽配信の料率を決めようとしたことは、日本の音楽業界の発展のためにはマイナスでした。電子書籍も紙の書籍の料率をベースにするのではなく、0ベースから分配比率を考えていくことをお薦めします。同時に「作家とプラットフォームと読者がいればいいのだ、iPhoneなら70%だ」という論理も、ビジネスという観点では私は間違いだと思っています。音楽では、レコード製作者に著作隣接権が認められています。(この場合のレコード製作者の定義にもいろいろ問題があるのですが、それはともかく)編集者も同様の立場が認められて、しかるべきです。音楽における原盤権の発想も参考になるかもしれません。リスクを負って新しい才能を育て、プロフェッショナルなスキルで商品をユーザーに届ける自分たちのノウハウを、言語化し、数値化することが、電子書籍の時代には必要なのでは無いでしょうか?個人の集積だけでは達成できない、生態系をつくってきたという自負を、出版社が持つべきだと私は考えます。
以上が、音楽プロデューサーから出版社で働く編集者の皆さんへの提言です。
ご無礼があったらお許し下さい。
また、門外漢であるが故の、思い違いもあるかもしれません。遠慮無くご指摘下さい。
出版社以外の立場の方からのご批判も甘受します。
これを機会に論議を深めていけたら嬉しいです。
このような機会を設けて下さったエミューの会の皆さんに感謝しつつ
当日のプレゼンテーションシートを下記に公開しました。
ご興味のある方は、ご覧下さい。
http://www.slideshare.net/NorikazuYamaguchi/ss-5960417
0 件のコメント:
コメントを投稿