2014年1月26日日曜日

Only The Good Die Young. 〜細川健さんと土川俊司さんを悼む〜

  ここ数ヶ月 Billy Joelの「Only The Good Die Young」が耳について離れない。ふと気付くと口ずさんでいる。

 理由はわかっている、細川健さんが亡くなったからだ。63歳という年齢は、高齢化社会
になった今の日本では早すぎる。

 細川さんは音楽業界で大きな功績のある方だ。アリスのマネージャーであり、ヤングジャパングループという数々のアーティストを輩出した会社の創業者だ、
 ポリスターというレコード会社も創業された。渋谷系の総本山であるトラットリアレーベルは、ポリスターの一部門だったし、一方で二人組のアイドルWINKもいるという幅のある会社だった。
 僕は、こなかりゆというアーティストをポリスターからデビューさせてもらった。面白い作品はつくれたと思うけれど、セールス的にはお役に立てずに申し訳なかった。
 
 9年前に日本音楽制作者連盟の理事になったときに、細川さんも理事に復帰された。理事長まで務めて、勇退された方が戻ってきたのは、相当思いがあったのだろう、実際、音楽事務所やアーティスト、音楽業界に対する愛情と見識の深さには、ただただ敬服した。

 忘れられない言葉がいくつかもある「この世界で仕事をするなら、プロデューサーになるか、プロデューサーの役に立つ人になるか、どちらかになれ」という言葉も刺さった。「俺は、アリスはプロデューサーだったけれど、佐野元春に出会って、プロデューサーの役に立つ人になろうと思ったんだ」とおしゃっていて、なるほどと思った。以来、この案件は俺がプロデューサー、このプロジェクトでは**の役に立つ人、と考えながら仕事する癖が付いている。

 今週、渋谷公会堂で行われた、お別れ会は、細川さんの人柄を表すようにたくさんの方が集まった。佐野元春さんの弾き語りに涙した。アリスの「遠くで汽笛を聞きながら」は、心に染みた。

 ここ数年は、お会いしてなかったけれど、昨年の突然の訃報は、ショックだった。「もう細川さんと話せないんだよね?」って、自問自答していた。この先「細川さんに相談しよう」と思いたって、それが叶わないとことを悲しく気付くことが何度もあるだろう。

 本当にBilly Joelの言うとおりだ。「善い人ばかりが、早死にする」。

 神様、そんなに天国は良いところですか?早めに呼ぶのはご褒美なんですか?残された僕らは、哀しみを抱えて立ちすくんでいます。。

 そして、
 このエントリーを書いている時に、40代の友人の訃報を知った。昨年末の井上晃一に続く、年下の友人の死だった。土川俊司さんは、ポリドールのディレクターだった20代の頃に仕事をして以来、会社が変わっても、親しくさせてもらっていた。
 ハードな仕事ぶりはFacebookから見てとれたので、時折warningは送っていた。悩みも抱えているようだったので、一度ゆっくり話そうと言いながら、スケジュールが合わずに1年以上経っていた。新年早々に、心筋梗塞で旅立ってしまった。とても優秀なミュージックマンで、心根も優しく、人間性も素晴らしい男だった。

 1月6日、亡くなる直前のFBの書き込みを見た。

「僕にとっての人生を変えた1曲は、Hotel California
 これを聞きながら眠ろう。おやすみ」

 

 おそらくこれが辞世の言葉だ。
 悲しすぎるし、切なすぎるけれど、音楽の近くで死んでいくのは、僕ら音楽で人生を踏み外した者たちにとっては、美しい姿なのかもしれない。せめてそうでも思わないと辛すぎる。 

 今年になって、大滝詠一さん、佐久間正英さんと尊敬する音楽家も天国に召された。 

 先輩方や、夭折した友人達の分まで、長生きしようと思うし、生きている時間を大切にしようと思う。
 合掌。

2月10日付追記:
このエントリーを書いた後に、いくつかご連絡をいただいた。ご家族の密葬で、業界内への連絡が無かった土川さんとのお別れ会をやりたいという声が強い。6月2日の彼の誕生日に何かできないかと考えている。同じ思いの方は、ご連絡ください。

2014年1月9日木曜日

LINE MUSICに期待すること

 ドリルスピンから依頼をいただいて「音楽ストリーミングサービス」についてコラムを書いた。紙幅の都合と、全体の流れで割愛してしまったけれど、LINE MUSICについては、ラブコールと独断予測を追加しておきたくなった。

 LINEが予告している音楽サービスLINE MUSICには、大いに期待している。友人は何人か関わっているようだけれど、僕自身は何の情報も持っていないし、サービスの内容は一切発表されていないので、以下は勝手な予測と期待だ。

 言うまでも無く、LINEは近年で最も伸びたコミュニケーションプラットフォームだ。特に10代をはじめとした若年層には圧倒的な支持を得た。始まった時は、「ポストペット+Skype」だなと思って見ていたけれど、(スタンプはモモちゃん!)経営陣のビジョンが功を奏したようだ。海外含めて、爆発的にユーザー数を増やしている。


 普通に考えれば、LINE MUSICは、一言で言えば「音楽版スタンプ」を目指しているはずだ。つまり、ユーザーのコミュニケーションを誘発するツールとして楽曲を使うということ。これはどんなものになるのだろう?浅学の僕には具体像は想像できないけれど、これまで体験したことの無い種類の音楽サービスになるはずだ。

 音楽をつくっている立場からは、「音楽をそんな使い方するのかよ!」って、突っ込みたくようなサービス設計かもしれない。寂しい思いをさせられるかなとも思う。
 一方で、若年層から支持されれば、今のLINEなら爆発的な普及の可能性がある。CDを再生する機器を持ってないような層に音楽を聴かせるという役割を果たしてくれるだろう。結果、音楽業界全体にも利益をもたらしてくれることだろう。

 歴史を振り返れば、カラオケも着メロも、音楽業界の外で産まれ、広まったサービスだ。ユーザーから支持されて、新たなカテゴリーがつくられた。着メロの発展系である着うたが、レコード業界に大きな収益をもたらしたのは、記憶に新しい。LINE MUSICにもそういう役割を期待したい。僕は「音楽へのリスペクトが感じられない」と寂しい気持ちを抱えたとしても、自分の作品のプロモーションと収益化への可能性を模索するつもりだ。
 
 もし、LINE MUSIC普通の音楽ストリーミングサービスだったら、失敗すると予測しておく。

 僕も含めて、音楽業界の人間は、音楽は素晴らしく、音楽自体にこそに価値があると信じている。一曲との出会いが人生を変えることもあるのも知っている。アーティストとスタッフが精魂込めてつくった作品は、きちんとしたコンディションで受け止めて欲しいと願っている。それが、時に、独善的に、「こう聴くべきだ」という発想に繋がってしまうことがある。
 本来、音楽の楽しみ方は、時代や世代やその人の嗜好によって、それぞれ自由であるべきなのに、デジタルの進化に、日本の音楽業界は乗り遅れ気味だ。レコード会社が音楽配信用ファイルの置き場所を「自社サーバーに限る」というルールにして、頑なに守っているのは、象徴的だ。大切な作品のマスターは、目の届くところで、きちんと管理したいという気持ちは痛いほどわかるし、ありがたいけれど、経済的合理性や災害対策などを考えても、滑稽なことになってしまっている。

 そんな音楽業界の感覚を尊重してサービスを設計しても、見たことが無いような新しいものは出てこない。LINEは「若い子にバズらせる」ことだけを目指してサービスを考えて、音楽業界の人に嫌がられて欲しい。

 音楽業界に気を遣って、普通のストリーミングサービスにしてしまうと、ユーザーが反応せず、LINE MUSICは来年の今頃には、サービスが終わっているかもしれない。

 そうでなくてもITサービスをやる人達の判断は早い。業種ごとに価値観も目的も違うから、彼らのやり方を批判するつもりは無いけれど、アーティストマネージメントなんて、成果が出るのに3年〜5年掛かる商売を長年やってきた者から見ると、見切りの早さには怖さを感じる。まあ「一度信じた才能を粘って売る」というマネージャー的な感覚は、ネットの世界では通用しないのだろうけれど。

 最近でも、DeNAが鳴り物入りではじめたGroovyは、「着うたユーザーにとっての後継サービス」として、よく考えられたサービス設計だと思ったけれど、本気で勝負を掛けないうちに諦めた、という印象で、残念に思っている。
 (そういう意味ではKDDIが行うKKBOXは、簡単にはやめることはないだろうから応援したいと思う。)

 万が一、LINE MUSICが、"普通"のストリーミングサービスで、そのサービスが成功したら、「読みが甘くてすいません」と頭をかきながら、「音楽の力だね」と喜びたい。

 つまり、この予測は、どちらに転んでも喜べる予測なので、今のうちに書いておきたかった^^


 このアンビバレント(両義性)な気持、伝わるかな?

 LINEが音楽をどう捉えるか、注目してサービス開始を待ちたい。

2014年1月1日水曜日

独断的音楽ビジネス予測2014 〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜

  新年あけましておめでとうございます。更新が間遠なブログですが、本年もお付き合い下さい。

 過去2年続けて、同じテーマで、年頭に音楽ビジネスの年間予測を書いてきたので、今年は3年目になる。昨年は、予測が概ねあたって、胸を張ったのだが。2013年の予測は全くダメだった。音楽とITの専門家を自任する立場としては、面目丸つぶれだけれど、まずは、そのエクスキューズも含めて、2013年の振り返りから始めたい。

 パッケージ売上は現状維持。CD店をネットと連動させて活用
⇒はずれ!
 2013年の音楽パッケージ売上は、前年比8%増を誇ったが、2014年は、10%以上下がることになりそうだ。まだ正式なデータはないけれど、2012年を下回ると言われている。
 昨年は店頭を賑わした大物アーティストのベスト盤などがネタ切れで、秋の売上減が大きいという話をCD店からよく聞いた。商品企画やリコメンドのやり方にも、もっと工夫が必要なのだろう。
 
・ストリーミングサービスが本格開始する
⇒微妙。
 7月からソニーのMusic Unlimited、レコチョクbestKDDIによるKKBOX JAPANとストリーミングサービスは始まった。ただ、欧米でユーザー数を急増させているSpotifyの日本ローンチは無く、始まったサービスもユーザー獲得には苦心しているようだ
 今後の音楽配信の主役になることは間違いないのだけれど、まだユーザーに、魅力を伝えることができずにいるようだ。ストリーミングサービスについては後述する。

・レコード会社がインターネット上に音源を解放し始める
⇒その方向ではあった。ただ、速度はゆっくりだった。

・コンテンツの海外輸出が本格的にはじまる
⇒動き始めているけれど、まだ数字には表れるほどではない。

 総括すると、メジャーレーベルをはじめとした規模の大きいプレイヤーほど、変化への不安がぬぐえずに、スローテンポな2013年だったと思う。もう、誰もブレーキは踏んでいないけれど、怖くてアクセルを踏めないので、エンジンブレーキが効いてしまっている感じ。正直、僕のイメージしたテンポの30%位の速さだった。

 それでも、目指す方向性のベクトルは定まってきていると思う。メジャーレーベルの中からも変化のバイブレーションを感じることが増えてきた。日本のマネージメントやプロデューサー達の意識は高い。希望は持てると思っている。

 さて、2014年の予測。

●ストリーミングサービスの本格的に普及する
 「来るよ来るよ」と言い続けていると、狼中年に思われてしまうかもしれないけれど、今年こそはストリーミングサービスの普及が本格化すると予測したい。

 日本法人を設立して1年以上経つSpotifyが、今春には日本サービスを始めるようだ。最初はβ版的な打ち出しになるようだけれど、世界で急成長中の人気サービスが、日本で始まるインパクトは大きい。

 異論もあるかも知れないけれど、2013年のパッケージ売上が伸び悩んだのは、端的に言えば、ストリーミングサービスが広まらなかったからだと思っている。今の時代にネットで音楽が聴かれない状態は。ラジオ局無しで楽曲PRをするようなものだ。新しいテクノロジーや情報伝達の変化を取り込まなければ、産業が停滞するのは自明のこと。音楽、特に新しい楽曲との接触の機会を増やし、ユーザーの興味を喚起することが、音楽業界にとって、最重要だ。

 世の中の関心も確実に向いてきている。昨年12月には、KADOKAWAグループの社内向け勉強会と、証券会社の機関投資家向けセミナーの講師に呼ばれた。いずれも、「音楽配信サービスがどうなるのか?海外事情と国内の今後を知りたい」というオーダーだった。異業種からの方がよく見えているのかもしれない。流行に敏感な日本で、ストリーミングがブームになる日は、そう遠くない。

O2O活用でCD店が活性化する
 音楽配信サービスが広まると、CDが必要なくなるという誤解は今でも大きいけれど、僕は全然違う観点で捉えている。確かに、iTunesなどのダウンロード型の配信サービスは、パッケージに取ってかわるような側面もあった。主要な音楽配信がクラウド活用のストリーミング型、課金が定額(サブスクリプション)型になることで、パッケージとの棲み分けは明確になっている。

 ユーザーのニーズとしても、色んな音楽をスマフォなどのデバイスで楽しみにたいという気持ちと、好きなアーティストの作品をコレクションしたいという欲望は、種類が違う。CD店が生き残っている日本では、ストリーミングが広まることで、パッケージの役割は残ると思う。

 ストリーミングサービスの普及で、負の影響を受けるとしたら、CDレンタル店だろう。まだ500億円以上の市場があるレンタルCDのマーケットは、置き換えられる可能性が高い。マジョリティの消費者行動は保守的なものだから、今年中とは言わないけれど、レンタル店の動向がストリーミングサービスの一般層への本格普及の目安になると僕は思っている。

 CD店活性化のキーワードはO2O。オンライン・トゥ・オフライン、ネットからリアルへの送客というのは、マーケティングの世界では耳にタコだろうけれど、音楽ビジネスでも重要だと思う。ネットラジオ的なサービスも含め、インターネットサービスでユーザーの興味喚起をリアル店舗に活用するというのが、これからのCD店の肝になる。CD店内でのデジタルサービス(オフライン・トゥ・オンライン)も含めて、ネットとリアルの連動という世の中では当たり前のことが、音楽の世界でも重要になっていく。音楽とデジタルは元来、相性が良いので、面白い施策が出てくることだろう。
 
●ストリーミングサービス発のヒット曲が出る
 新しいメディアの台頭は新しいスターを産むのが歴史の必然だ。YouTubeが無ければ、有名にならなかったかもしれないYouTubeクリエイターもたくさんいる。Twitterが買収したことで注目の6秒限定動画共有サービスvineは、米国では大人気のようんだ。今年は日本でも広まるだろう。新しい人気者がvineからも出てくるはずだ。

 音楽ストリーミングサービスからのヒット曲も欲しい。スウェーデンのEDM系のユニットCAZZETTEは、当初、Spotifyだけで楽曲を発表し、人気者になった。地元スウェーデンだけでなく、米国でもビルボードチャートにランクインした。

 僕の本業はITサービスの評論ではなくて、音楽プロデューサーなので、今年は、本腰をいれて、新人アーティストを夜に出そうと思っている。ちょうど、機は熟した気がしているので期待して欲しい。自分だけが成功したいわけではなくて、新しいフォーマットでの成功例を出していくことが、日本の音楽シーンの活性化になると信じているので、いろんな人とも連携していきたい。デジタルや海外をテーマに取り組むマネージャーやプロデューサー、アーティストは、是非、相談に来て欲しい。

 ちなみに、昨年書いた「極私的音楽ビジネス予測・続編」は、(残念ながら)、今も有効な提言になっていると思う。


 興味のある人は、読んでみて欲しい。ITベンチャーの音楽サービスには、本当に期待している。この問題意識から出版したのが『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)だ。若い起業家達から僕自身、たくさんのことを教わった。
 今年こそは、音楽とITの蜜月が始まり、新たなテクノロジーやメディアが音楽シーンと音楽業界を活性化することを期待するし、僕自身、頑張りたい。

年頭に付き、まとめて告知を!

昨年11月から無料メルマガを始めた。「ソーシャル7」の共著者チームを中心に発行した有料メルマガが1年間で休刊になったので、毎週やっていたニュース・キュレーション部分だけを個人で無料で出すことにした。まだの方はご登録下さい。毎週月曜日に前週のコンテンツビジネスに関するニュースを解説付きで紹介。極私的なTOP5も選んでいる。自分で言うのも何だけれど、結構、役に立つと思う。

3つのコラム連載も、宜しくお願いします!




超実践型作曲家育成セミナー「山口ゼミ」もお陰様で、好評をいただいている。1月からは第4期が開講する。詳しくはこちらから。



できることからコツコツと。でも、機は逃さずに、大胆に。そんな2014年にしたい。音楽業界は「change or die」だとメッセージを出すのは去年で終わりにする。今年は「change to survive」生き残っていくために変わることが必要な時代なのだ。

2013年12月29日日曜日

「ずっと好きな歌」と「無意味良品」と、「ザ・ベストハウス123」 〜井上晃一を悼む

 BSフジで「ずっと好きな歌」と「無意味良品」が放送された。1123日に亡くなった井上晃一が構成・演出した番組だ。
 「ずっと好きな歌」は、ドラマー・村上"ポンタ"秀一がホストの音楽番組。毎回のテーマにトリビュートするアーティストを選び、そのアーティストを敬愛するアーティストをゲストに招いて、トークと楽曲のカバーライブを行うという内容で、普通のTVでは観ることのできない、クリエイティブで、音楽的に濃い番組だった。たくさんのミュージシャンズミュージシャンが、出演してくれた。音楽事務所としてのBUGのカラーを表していたと思うし、ノウハウを注ぎ込んだ番組だった。幸いなことに評判も良く、開局以来、BSフジの看板番組とまで言われていた。

 「無意味良品」は、僕がプロデューサーとしてクレジットされている。キムスネイクというキャラクターを世に出したいと相談されて、井上晃一と一緒に企画した。敬愛する阿川佐和子さんを口説き落として、レギュラー出演していただいた。木村タカヒロという絵描きが産み出す奇天烈なキャラクターが世界中から無意味なものを集めてきて、ゲストが品評するという構成。要所にオリジナル音楽も織り込んだ。社長役のキムスネイクの声は、井上自身がやっていた。「あー、よいねー!」。総合演出がナレーションもやるという不思議な世界。撮影現場も編集スタジオも、一体感と笑いが溢れていた。そそのかすのが得意な彼に騙されて、僕もバーのマスター役のナレーションをやらされていた。熱い雰囲気に、草創期のテレビ番組って、こんな風に創ってたんじゃ無いかなと思ったりしていた。
 それにしても、一般的には無名のクリエイターを追悼してテレビ番組が放送されるのは異例のことだと思う。編成部長の立本洋之さんの厚情と、BSフジの度量の広さには、本当に感謝したい。この恩義は一生忘れません。ありがとうございます。総集編の編集にも愛情がありました。

書籍版「無意味良品」
 井上晃一と知り合ってからは20年近く経つ。2003年頃から2010年位までは、週の大半は一緒にいた。どれだけの時間、話をしたのだろう。些末なことから、深遠な内容まで多種多様な会話をしていたれど、とどのつまりクリエイティブとは何かについて、いつも話していたような気がする。そして、とても影響を受けた。僕が音楽プロデューサーを逸脱して、コンテンツビジネス全般について語るようになったのは、別の理由だけれど、あらゆるカテゴリーのコンテンツ、作品つくりに通底するプロデュースの基本姿勢が持てたのは、彼のお陰だ。

 フジテレビのプライムタイムで放送した「ザ・ベストハウス123は、レギュラーになる
前の特番のセットを考えるところから近くで見ていた。「ピストルバルブ」という僕が始めたアーティストを出演させることを前提に企画していたようなところがあり、視聴率を気にしながら毎週を過ごすという、初めての体験をさせてもらった。「自分が本気を出すと視聴率が下がるから、テキトーにやるのがちょうど良い」と言いながら、抜群のバランス感覚を見せていた。

 映画とかテレビとか音楽とかカテゴリーにとらわれずに、全てを俯瞰して、具体を産み出す才能は、希有だった。幅の広さと切り込みの鋭さを両方持っているクリエイターは、滅多にいない。本当に特別な人だった。

 一緒に立ち上げたプロジェクトの方針がずれてしまい、お互い本気だったが故に、袂(たもと)を分かつことになったけれど、別の機会で、いつか何かを一緒にやるんだろうなと漠然と思っていた。けれどもう、かなわなくなった。

 井上晃一は、人間関係でも仕事においても、過剰に背負い込む性質で、極度のマッチョだった。権威を信じず、弱者に優しい性格は良いのだけれど、多くのことを抱えすぎる。自分の会社を「動物保護区」や「モンスターゾーン」と名付けているくらいだから、自覚は十分にあったけれど、自分の体力、精神力を過信していた。僕が近くに居る時は、散々、批判して、だいぶ減らさせていたたけど、最近は没交渉で、止めてあげることはできなかった。近年の彼の周辺のスタッフは、僕の紹介だったりするから、その不甲斐なさには、腹立たしさと哀しみがあるけれど、、、。

 死亡の報せを聞いたとき、不思議なことに驚かなかった。年下の突然の死なのに、想定内のような気がした。これまで持ったことの無い感情だった。悲しみというよりは怒りに近い、喪失感とも違う何か。
 すぐに井上の携帯に電話して「自分は死なないと過信してたろう?だから言ったことじゃない。反省しろ!」って、言いたかった。自死では無かったけれど、長年の無茶と不摂生がたまりにたまって、身体が遂に限界点を超えたのだろう。生命力は異常に強い男だったから、仕事を離れて、養生に専念すれば違ったはずだけれど、そういう選択はできない性格だった。

 本当に烈しい感情は言葉で表現するのが難しい。何かを書かずに居られずに、このブログに書いている。さっきから、井上がKIM社長役で歌った「The store of HOPE」を口ずさみながら、涙が止まらない。レコーディングスタジオで、彼の歌をディレクションをした時の事を思い出す。
 心の置き場が無いけれど、もう作りたいものは作ったから、気が済んだんだな、と思うことにする。

 お前はやめても、俺は続けるよ。

 合掌。 

2013年11月10日日曜日

もう日本のプロ野球を真剣に観ないと決めた理由〜日本シリーズ2013〜

 今年の日本シリーズは盛り上がったようだ。東日本大震災から復興途中の東北をフランチャイズとする楽天イーグルスが、読売巨人軍を破っての日本一。空前絶後の記録を残したマー君こと田中投手の存在。話題になる要素が多かった。僕自身も、楽しみにしていた。
 第7戦まで戦い、高い視聴率を誇って、楽天が日本一になって盛り上がった。結果は良かったし、水を差したくは無いけれど、このままでは日本のプロ野球は、駄目になるのではと心配だ。

 野茂投手が大リーグで活躍するようになってから、多くの試合が日本で観られるようになった。イチロー、松井秀喜に続いて、ダルビッシュまで渡米し、日本人の野球ファンにとって大リーグは身近な存在になっている。今年のワールドシーリーズを制覇したボストン・レッドソックスの胴上げ投手は、上原だった。
 日本のプロ野球が大リーグの下部組織化して、空洞化していくのではないかという懸念の声も聞かれる。

 僕は、野茂以降の日本人選手の大リーグでの活躍ぶりは、日本野球のレベルの高さを証明することと前向きに受け止めてきた。実際、その価値はともかくとして、WBCでも第一回、第二回は優勝することができた。
 送りバントの多用などいわゆる、日本的野球の作戦は批判されることが多かったけれど、バレンタインやヒルマンなど、日本からの「逆輸出」された監督の出現で、評価が上がっている。

 日本人野球ファンの楽しみ方も、日本野球の強みだと思う。投手の継投策や、ヒットエンドランなど「小技」な作戦選択に感情移入する日本の野球ファンは、爽快感と参加意識を求める米国野球ファンよりも深みがあると思うし、日本野球を成長する原動力にもなっていると思う。日本人は何でもにするというのは功罪あると思うけれど、「野球道」的な視点を僕は、日本野球ファンの一人として愛している。

 さて、今年の日本シリーズ。星野、原両監督の采配に、そんな野球ファンを満足させる繊細さはあっただろうか?全試合の子細をチェックした訳では無いけれど、「勝つために、あらゆる策を尽くす」という日本人好みには応えていなかったように思う。選手起用にも工夫は見られなかった。「シーズン通りの野球」というのも一つのポリシーなので、否定はしないけれ、これが野村、森、落合、など名将と言われる監督だったら違う作戦はあっただろうなとは思う。
 
 僕が一番、批判したいのは、星野監督の田中投手の起用法だ。今季のスペシャルな成績から言って、「日本シリーズはマー君と心中」という方針をとるのは、賛成だ。多少の負荷を掛けても、良いと思う。でも、もしそう思うなら、第1戦先発だったはずだ。第1戦を避けた時点で、どこかを故障したのかと思った。第2戦を観て、それは杞憂だと知った。その時に僕は「星野監督は、指名打者の使えるホームゲームである第2戦と第6戦を田中投手に任せるという作戦にしたのだ」と思った。普通に考えれば、第1戦、第5戦と先発で投げて、第7戦はリリーフ登板待機、星野監督の性格と今の楽天の戦力なら、第1戦、第4戦、第7戦の先発という選択肢もあったから、ちょっと意外に思った。一般的には巨人の戦力の方が層は厚く、14敗の可能性もあったから、勇気のある選択だとも。

 短期決戦は、何が起こるかわからない、32敗で第六戦を迎えて、マー君の先発。今年の田中投手は時の利があるな、星野監督は賭に勝ったと思った。結果は、今年初の黒星がマー君についてしまったけれど、160球超を投げさせたのは、理解できるし、美しい在り方だった。
 第七戦に登録して、登板させたのは「本人の意思だ」と、星野監督自身がメディアで語っているけれど、リーダーとしての資質に欠けた発言だと思う。そりゃあ、ピッチャーに聞けば、投げたいっていうでしょ?リーダーの最大の仕事の一つはリスクヘッジだ。そういう使い方をする可能性があるなら、第1戦で先発させるべきだった。行き当たりばったりで、気合いや根性で決めるのは、真っ当なリーダーの選択では無い。責任放棄だ。
 
 アスリートの最大の敵はケガだ。不運な大ケガもあるけれど、避けられるケガもある。横綱貴乃花が、前日に負った膝の大怪我をおして千秋楽の土俵に上がって勝ち、小泉首相の「感動した」という名言を呼んだけれど、あの時休んでいれば、大鵬を超える超名横綱になっていたのかもしれないと思って、今でも残念だ。(そもそも武双山のまわしが緩かったのがケガの原因で、相撲界はまわしの締め方の指導について反省するべきだと思っている。)今回のことで、もし田中が肩を痛めたら、星野監督は、どうやって責任をとるんだろう?

こんな記事もあった。

 大リーグの基準で言うと、1年間の酷使指数を1試合で超えているらしい。ましてや翌日の登板なんて問題外の外だろう。米国式が全て正しいとは全然、思わないけれど、投手の肩は消耗品と、大切にする思想は、少し学んだ方が良い。
 高校野球の春夏の甲子園日程も、そろそろ考え直すべきだと常々思っている。

 辛くても頑張るという、浪花節的な姿が日本野球の魅力だと、メディアが思っているとしたら、大きな間違いだ。今年の日本シリーズは、大味だった。選手が力と力の激突をするだけなら、大リーグの方が魅力的だ。様々な可能性を想定し、策を尽くして、勝ちに向かうのが日本野球の醍醐味だし、それに耐えうる能力を持つ選手が居るのが日本野球の強みだと思う。
 高い視聴率をとり、話題と感動を呼んだ2013年の日本シリーズが、日本野球下降の契機にならないことを祈りたい。

<関連投稿>

2013年11月4日月曜日

JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配


 音楽ビジネスに関する記事が新聞の一面記事になることは珍しい。東京高裁が公正取引委員会の審決を取り消したことは、112日付けの朝日、読売、毎日朝刊で、トップ記事になっていた。著作権への関心が高まるのは嬉しいことだけれど、記事の内容には、首是できない部分も散見された。
 

 包括契約というのは、JASRACが、放送局と結んでいる契約の形態のことで、信託されている楽曲をまとめて許諾している仕組みだ。この契約が、他の著作権信託会社の参入障壁になっているというのがイーライセンス社の主張。公正取引委員会が行った審理で、認められなかったので、東京高裁で争われていた。
 私見だけれど、東京高裁の今回の判断は妥当だと思う。JASRACだけが放送使用料を受け取る状態は異常だ。新聞論調もJASRACを批判するものが多かった。
 ただ、JASRACを悪者に見立てて、事態を理解するのは、短絡的だとも思う。

■ポイントは、放送局側の協力姿勢

 放送局の音楽の使用については、本来、使用者である放送局が、許諾を受け、使用の詳細を報告する義務がある。包括契約は、個別の許諾もなく、また番組制作の予算管理上も煩雑にならず、スムーズな番組制作と音楽流通という面では、大きなメリットだ。そのメリットを享受しているのは放送局で、法律が変わり、著作権管理団体が複数になったのであれば、それに対応して、使用報告や許諾交渉を行うのは、当然の事。99%超と言われる放送使用におけるJASRACのシェアは、JASRACの責任もあるのだろうけれど、それ以上に放送局側の姿勢や楽曲管理の体制が生んでいる側面が強い。

  また、イーライセンス側の弁護士が「(包括契約は)料理で言えば『食べ放題のビュッフェだけ』みたいなもの。アラカルトが楽しめないのはおかしい」と批判している(112日付毎日新聞)けれど、かなり的外れな発言だと思う。TVやラジオにおける著作権使用の実態を知っているのだろうか?
 放送番組をつくる際に、商業化されたほとんどの楽曲が自由に使えることは、コンテンツ制作上は便利で、そこに個別の許諾を紛れ込ませようとしているように聞こえる。これまでの楽曲使用の自由は担保した上で、総合的に、生態系として成り立つ報酬体系を再構築するというのが、本件のポイントのはずだ。

JASRACの貢献と古い体質からの脱却の動き

 これまでの日本の音楽市場、コンテンツ産業におけるJASRACの貢献は、非常に大きい。アジアなど新興国と比較しても、日本みたいに楽曲の使用に対価を払うという思想が浸透している国は少ない。「欧米並み」という言葉は好きでは無いけれど、国際的に胸が張れる著作権管理体制を日本が持っていることはコンテンツ産業にとって大きな日本のアドバンテージで、JASRACが果たしてきた役割は大きい。
 以前より、「カスラック」と蔑称するネットユーザーは減ったようだけれど、全ての悪をJASRACに押しつけるような風潮を感じることはある。その種の発言は、勘違いも多く、濡れ衣を着せられているケースも散見する。JASRACの功績について、日本人はもっと評価するべきだと思う。

 一方で、JASRACが古い体質を引きづっているのも事実だ。JASRACの運営は作詞作曲者と音楽出版社によって行われるので、理事や古い会員には、高齢の作曲家先生も多い。発想や視点が守旧的になりやすいという構造を持っている。JASRACの設立は1939年。長い歴史があり、昔は「とれるところから、できるだけたくさん使用料を取って、クレームが出ない程度に、大まかな基準で分ける」というやり方も、やむを得なかったのだろうけれど、デジタル技術が進化した今、体質改善は求められている。

 僕が代表のBUGコーポレーションという会社もJASRAC正会員になって、10年以上になるけれど、不満はある。例えば、コンサートもカラオケも同じ「演奏権」という区分にして、25%という高い手数料を取っている。カラオケ店が乱立していた頃ならいざ知らず、今は通信カラオケの時代で、第一興商とエクシングの二社の寡占状態だ。片田舎のカラオケスナックでの使用料が徴収できなくてもよいから、手数料を10%以下に下げて欲しい。まして、コンサートにおいては自社が「著作権使用者」側になることも多く、自社のリスクで、所属アーティストがコンサートをやっているのに、JASRACに払う著作権使用料から25%の手数料が取られるのはあまりに理不尽。CDよりライブエンターテインメントの比重が高まっている昨今、手数料改定がされなければ、演奏権をJASRACから引き上げ、自己管理する音楽事務所が出てくるだろう。特に海外来日アーティストの問題提起がきっかけで、日本のコンサートにおける著作権使用料は増額している。高率の手数料は納得がいかない。
 とは言え、全体として俯瞰して見れば、日本のコンテンツ産業の発展に対して。JASRACの功罪は、功の方が圧倒的に大きいのが実情。近年は、理事長、会長も替わり、前述の古い体質からの脱却も始まっているように感じている。既得権益を守るのでは無く、日本のコンテンツ産業が活性化する方向での運営を期待したい。

■イーライセンスのやり方も褒められない

 一方、正義の味方、被害者という位置づけのイーライセンス社だけれど、僕は必ずしも支持できない。これまでやってきた「戦い方」が乱暴過ぎるからだ。自社に徴収、分配できる状態かどうかを判断せずに、放送局に対して、いきなり著作権使用料を求め、使用を差し止めるのは、やり過ぎだと思う。
 包括契約によって、倖田來未など一部アーティストの楽曲の契約が無くなったことを裁判所が重視したとの記事もあったけれど、あまりに乱暴な姿勢に、権利者が嫌気をさしたのかもしれない。プロデューサーやマネージャーの立場で、自分が関わるアーティストの大切な楽曲を、どこに信託するかという時に、今のままのイーライセンスは、率直に言って、選びづらい。礎のロジック自体は正しいと思うし、問題提起は十分に果たしているのだから、今後は、本当の意味で権利者と使用者の利益を、広い視野で追求する会社になって欲しいと思う。

 実際、「第2JASRAC」と呼ばれる中には、素晴らしい会社もある。僕は自分が関わる作品は原則的にJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)に信託することにしている。JRCは坂本龍一や、L’ArcenCiel、スピッツ、THE BOOMなどのたくさんのヒット曲も管理している。荒川社長はITサービスにも造詣が深く、USTREAMやニコニコ動画などの新しいITサービスともいち早く交渉の場を持ち、権利者の利益を守りながら、新サービスの発展にも寄与するというスタンスで活動している。前述したカラオケなどの演奏権もJRCに管理して欲しいのだけれど、「完全な状態で徴収分配する準備ができてない」という理由で、慎重に構えているようだ。良い意味でJASRACと競い合うような存在になって欲しいし、一部のITサービスなどにおいては、既になり始めている。

■キーワードは「デジタル技術を活用した、ガラス張りの徴収分配」

 実は、本件の問題点、放送局の著作権使用料の包括契約については、解決の道筋は見えている。キーワードは「デジタル技術を活用したガラス張りの徴収分配」。2009年設立のCDC(著作権情報集中処理機構)を中心に、NTTのオーディオフィンガープリント技術を活用して、放送で使われた楽曲をサーバーに貯めて、クローリングを行って、全曲を割り出してのデータ制作が始まっている。CDCを中心に、NTTDATAなどが協力をして、全曲データを作成、分配データには使用されている。近年は精度もあがり、データ量も増え、かなりの確率で、楽曲が特定できる。放送局からの使用報告が簡単になり、正確な使用データができるのだから、一石二鳥だ。

■著作権管理における「競争」とは何か?

 この方式を徴収にも適用すれば、信託団体の差違は問題では無くなる。問題は、使用料の交渉は、相対で、交渉力で決まるということだ。一部の新聞記事には「この判決をきっかけに競争が起きることが期待できる」という、「競争=善」という論理の、思考停止的な内容があって、残念だった。どんな土俵で、何について誰が競争するか語らなければ無意味だ。放送局での楽曲使用料は、公的は話し合いで決められるのが、適切だと思う。信託団体の交渉力では無く、権利者側と放送局者側が第三者も交えて、年間の使用料総額を決め、分配については、全量データを基に、各団体が行うというルールにできれば、権利者は、とりっぱぐれを心配せずに、著作権信託会社を選ぶことができる。


 著作権の徴収と分配は、コンテンツビジネスの礎だ。今回の東京高裁の判断が、音楽ビジネス活性化の方向で活かされることを期待したい。


<イベント告知>
書籍『世界を変える80年代生まれの起業家』出版記念イベントを11月11日(月)渋谷iCon Loungeで行います。ゲストは、安藤美冬さん。10人の起業家による3分ピッチ有。懇親会も行いますので、是非、いらしてください!前売チケットは、tixeeにて。

2013年10月20日日曜日

米国音楽市場で始まっている変化の芽

  最近、ブログをサボりすぎだったので、プチ反省して、少なくとも週1回くらいは、1週間のニュースを振り返って、短くても何か書こうと思う。というのも、昨年11月から『音楽ビジネス最前線』というメールマガジンを毎週、監修していて、ニュースキュレーションを毎週やっている。1週間のニュースの中で、音楽ビジネスに関係のありそうなニュースを選んで、簡単な解説付きで紹介しているのだ。毎週末にその作業をやる習慣はできているので、その時に一番気になった記事について、ブログに書くのなら続けられる気がしている。(メルマガ購読もヨロシクです。

 今日は、海外音楽ITサービス事情をわかりやすく紹介してくれて、いつも助かっているジェイコウガミ君の「Alldigital music」から、この話題を。


 「Nielsen SoundScan」による、2013年度第3四半期米国音楽売上レポートは非常に興味深いものだ。
 概要は、

<デジタル・アルバム売上>
・前年同期2830万ユニットから5%減少
・カタログ(旧作)の売上は前年同期比1.4%減少し、4240万ユニット。一方新作リリースは6.6%増加で4530万ユニットと好調。
・1-9月までの9ヶ月間でみると6.1%減少
<パッケージ売上>
・CD売上は12.8%減少し、1億1310万ユニット
・アナログレコードのアルバム売上は30%増加し、410万ユニット

 この変化の意味を僕は、米国音楽配信の主役が、iTunes StoreからSpotifyへと変わるの兆しだと捉えている。金額の減少は、「主役の変化」の時期の過渡的な現象で、必ずしも悲観すべき状況ではないと思う。音楽配信が楽曲単位のダウンロード型から、ストリーミングによる月額課金(サブスクリプション)型に変わるだろう。
 関係者の話によると、Spotifyの有料会員は、確実に伸びていて、既に800万人を超えて、早ければ年内にも1000万人に到達する模様だ。特に米国での増加が著しいそうだ。日本法人も着々と準備を進めているようなので、サービス開始を心から期待したい。

もちろん、このままアップルが黙っているとは思えない。再生プレイヤーとしてのiTunes、配信プラットフォームとしてのiTunes Storeの存在は米国では圧倒的だ。iCloudに加えてMusic Matchというパーソナルクラウドの機能も提供している。既にiTunesをベースに楽曲を購入して、ライブラリーを持っているユーザーは、アップルのエコシステムから離れるのは強い抵抗感があるだろう。新サービスiTunes Radioで、新たな音楽のリコメンド機能も強化されている。
 ただ、音楽配信サービスにおけるDL型からストリーミング型への移行という大きなトレンドは、環境の変化による必然だというのが僕の基本的な認識だ。
 いずれにしても、米国音楽市場は、世界をリードする存在だ。この変化に注目していきたい。

 パッケージ売上についてもCD売上は減少しているけれど、アナログが増加していることにも着目したい。ストリーミングが主流になる時代のパッケージの役割はこれまで以上に、コレクションとしての価値になる。アーティストやレーベルがパッケージの在り方、見せ方を工夫すれば、音楽ファンへの興味喚起は可能なはずだ。

Austinの老舗CD店Waterloo
 最近の米国では、パッケージの価格が安値一辺倒から、少し戻っているようだ。2006年に大好きなニューヨークの街からタワーレコードが無くなった時は、本当にショックだった。ウォールマートを初めとするスーパーマーケットが主なCD販売のチャネルになり、アルバムが9ドル90セントで売られ、客寄せのツールとなったと聞いていた。
 でも、今春に行ったオースティンの老舗CD店では、ほとんどのCD12ドル〜15ドル、アナログレコードの主価格帯は20ドル以上だった。今頃は、CDアルバムが8ドルくらいになっているのかなと思っていたので、驚いた。米国でも、パッケージの価値は再認識されているような気がした。

 もう一つ、この記事で着目したのは、レーベルのシェアだ。「レコード会社のマーケット・シェアでは、ユニバーサルレコードが38.3%、ソニー・ミュージックが29.1%、ワーナーミュージックが19.7%」とある。メジャー3社で9割のシェアだ。
 一方、日本は34%だ。ここに日本の音楽市場の特殊性が表れている。エイベックス、ビクター、キング、トイズファクトリー、ポニーキャニオンなどは、グローバル視点では、ドメスティックインディーズレーベルとなる。
 米国も以前は、メジャー比率は50%から70%を行き来していると言われていた。元気なインディーズレーベルが売上を伸ばして成功するとメジャーレーベルに売却するというのが、米国音楽市場のシステムの一つだったらしい。9割になった現状は、どうなんだろう?そもそもパッケージと配信という、原盤からの売上をベースにシェアを語ることが無意味な時代になっているのかも知れない。

 また、Spotifyについては、大物ミュージシャンからの反対論が話題を呼んでいる。最近も、こんな記事があった。


 トムヨークの時も同様だったけれど、この種の批判は、僕からは論理的に成立していないように思える。Spotifyは、楽曲の著作権使用料とは別に、売上の5〜6割をレーベルとアーティストに支払っている。新人アーティスへの支払が少なすぎるというのは、音楽配信サービスに対する期待が過剰過ぎる。これまでレコード会社が担っていた、新しい才能への投資をIT企業に期待するのは、お門違いではないか?
 それだけ、Spotifyの存在感が欧米では大きくなっていて、脅威を覚えているのかも知れない。KickstartaterIndiegogoなどのクラウドファンドが、その役割を受け持っているように日本に居る僕からは見えるのだけれど。

 そんなことを思う、201310from東京。ともかくは、欧米に比べて"周回遅れ"を走っている日本の音楽配信状況が、前に進むことを心から願う。