PeaTixの『音楽・アーティスト活動のこれから 〜Direct to Fan (D2F) マーケティング時代のサバイバル術〜』にゲスト出演した。書籍について語るというのも興味深い体験だった。いらしてくださった皆さん、ありがとうございました!沢山の方にいらしていただいて嬉しかったです。楽しんでもらえたかしら。

セミナーでも話したので簡潔に。とても素敵な本で、装丁やエディトリアルデザインも素晴らしい。でも、デッドの活動を『フリー』や『シェア』といったインターネット時代のトレンドと結びつけて分析するのは良いとして、ドラッグカルチャーやヒッピームーブメントまで、全部ざっくりまとめて、ジョブズまで引き合いに出して、礼賛する論理は、いくら何でも乱暴だ。ミュージシャンやマネージャーは、あくまでエンタメ本として読んで欲しい。
最近、音楽ビジネスに関連する本が出ているので、いくつか紹介しながら、持論をまとめてみたい。

セミナーの会場にもなっていた残響レコードの社長、河野さんとはまだお話ししたことがない。彼が書いた『音楽ビジネス革命〜残響レコードの挑戦〜』(ヤマハミュージックメディア)は、実践の記録で具体的だ。

『次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル』(リットーミュージック)

そんな著者だけに、さすがの内容。時代状況の分析も的確だし、ノウハウの説明も具体的かつ丁寧だ。音楽への愛も溢れている。
ただ実際の話、このシステムを活用して、ビジネスができる「次世代ミュージシャン」って本当に出てくるのだろうか?「次世代」では出てきて欲しいというどんべいさんのロマンは理解できるし、共感するけれど、残念ながらイメージできない。自分「だけ」が食えれば良いと思う音楽家が増えても意味ないと思うし、「バイトをしないで音楽だけで食う」というのも、ずいぶん低い目標だと思って、意義を感じないのが、ぶっちゃけた気持。僕はむしろ、若手マネージャーが、自分の仕事の再確認も兼ねて、読んで欲しいと思った。業務改善やストラテジー構築には、とても役に立つ本だ。
音楽業界について、書かれた本では無いけれど、音楽家が書いたビジネス書の紹介。

僕がダイヤモンド社からビジネス書を発行した同じ日に、彼も別の出版社からビジネス書『フィルター思考で解を導く』(フォレスト出版)を出版されたのは、やはり縁があるなと感じて、なんか嬉しかった。残念ながら、この本は、「ビジネス書だから幅広く」という風に思ったのか、沖野君の才能と実績を知っている者からすると、切れ味が鈍くて、物足りない。もっと、大風呂敷を広げて欲しかったなと思う。

さて、セミナーの中でも、発言したけれど、これからプロになろうとするアーティストへの助言。
アーティストが責任感と高い意識を持って活動する必要があるというのは当たり前のことだ。同時に、「売れたアーティストの影には名マネージャーあり」というのが、日本の音楽業界の鉄則だ。マネージャーは、基本的に裏方であることに誇りを持っているので、表に出るのをよしとしない。自分の手柄もすべて、アーティストがやったように見せるのが、名マネージャーの共通点だ。だから、一般には伝わってない場合も多いけれど、僕が知り限り、日本でマネージャーなり、ディレクターなり、能力のあるスタッフなしに、セルフマネージメントだけで成功したアーティストは寡聞にして知らない。売れた後には、多少のビジネスセンスがあれば、アーティストが社長で、スタッフを雇ってやることはできるし、そういう例は沢山ある。ただ、世の中に出て、広まっていく過程では、優秀なスタッフは必須なのだ。
但し、このマネージャーは、既存の業界人である必要は必ずしも無い。アマチュアバンドと素人マネージャーが成功した例はたくさんある。その風通しの良さが、日本の音楽業界の良いところだし、芸能界とは違うところだと僕は思っている。
だから、音楽家として成功したいと思ったら、優秀なスタッフを探すべきだというのが、改めて音楽ビジネス書を読んだ僕の結論。我田引水と言わないで欲しい。信用できる友達をマネージャーにしてもいいのだ。残響の河野さんは、自分が、他のバンドのマネージャーになって成功したことで、自分のバンドも活動できているということだと僕は理解している。
そんな意味でもお薦めしたいのが、加茂啓太郎さんの『ミュージシャンになる方法』(青弓社)。

10年前の本が古びないと言うことは、方法論やツールは変わっても、音楽ビジネスの大切な部分は実は変わっていないのだということも改めて確認する。
ちなみに、音楽著作権について説明した本は沢山あるけど、薦めたい本は無い。どの本も書いてあることは正しいけれど、根本的なところに、大きな問題がある。実業に携わってない人が書いてるから、アーティストの「権利」だけで「義務」について書かれてないのだ。そんな本を読んで真に受けて、権利だけを主張しても、何も始まらないし、成功できない。権利について学びたいなら、手前味噌だけど、音制連が出しているフリーペーパー『音楽主義』を手に入れて読めば良い。著作権や隣接権について連載があり、バックナンバーもwebで公開されている。
それから、手前味噌ついでにもう一つ。拙著『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)はビジネス書だけれど、Sweet Vacationというガーリーハウスユニットのソーシャルメディア活用の記録に一章、応援してくれたインフルエンサーのみなさんを集めた座談会に一章をそれぞれ割いて紹介してる。アーティストPRのソーシャルメディア活用としては、最先端の記録だと自負しているので、興味がある方はご覧いただけると嬉しいです。

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