去年、iPadを買って、日経新聞の購読をやめた。朝起きて、新聞受に朝刊を取りにいき、トイレやソファで新聞を読むという行動は一生続く習慣だと思ってたので、ちょっとびっくりした。新聞のコンテンツとしての質が下がっているような気がしていたのと、ツイッターとグーグルリーダーで、ネット上から情報を得れば十分だと思ったのが理由だけど、試してみたら、何の不自由も感じなかった。1年間の新聞購読料でiPadを買ったことになるね。
教養と良識の象徴が新聞だった事は覚えている。中学生の頃は、教師に勧められて、深代淳郎著の「天声人語」を読んだ。あの頃は、朝日新聞からたくさんのことを教わっていた気がする。
日経新聞に続いて、朝日新聞がデジタル版を始めたけど、値段は高いし、紙をデジタルで「も」見えるようにしただけで、全く魅力を感じない。新聞社という存在が、時代から取り残されてしまった感じが、自分が深く仕事をしてきたレコード会社と相似形で、似た寂しさを感じる。
『俺たち訴えられました!』(烏賀陽弘道、西岡研介著/河出書房新社)を読んだ。二人とも新聞記者からフリーランスになったジャーナリストで、都合の悪い記事を書いたことで、大きな組織から裁判を仕掛けられた。その経験を対談形式で、まとめている。
「SLAPP裁判」という言葉を、この本で初めて目にしたけど、アメリカでは、大企業などが言論抑圧を目的に裁判を起こすことと定義されて、はっきりと禁止されているそうだ。
特に烏賀陽氏を訴えたオリコンは、無茶苦茶な”無理筋”で、雑誌「サイゾー」のコメント(編集部の確認ミス)に対して裁判を起こすという、道義的にも問題があると思う行動だ。訴えられた方に、非があってもなくても、社会的、経済的、イメージ(評判)的なダメージを受ける。実際、僕も知人が「烏賀陽さんもオリコンと喧嘩して損しましたよね。」みたいな噂を聞いて、喧嘩好きな人なのかなと勝手に思っていた。(実際、喧嘩好きかもしれないけど^^、オリコン裁判の件に限っては一方的に被害者のようだ。)
西岡氏は、過激派(革マル派)の幹部がJR東日本の労働組合で特権階級になっているということを問題提起していたので、もっと本格的な闘争だ。日本中の組合関係者から50件以上の訴訟を起こされているって、ちょっと想像を超えた嫌がらせだ。
烏賀陽弘道さんは、著作『Jポップとは何か』(岩波新書)を読んで、感心させられた。音楽業界関係者は全員読むべき名著だと思う。徹底的な取材と独自の分析が素晴らしい。彼の結論には必ずしも賛成じゃ無いけど、ここまできちんとした仕事をされると無条件に敬服する。
インターネットが本格的に普及する前で話が終っているので、是非、続編を書いて欲しい。機会があれば、取材等は全面的に協力したいと思っている。
こんな風に思うのは、佐々木俊尚著の『電子書籍の衝撃』を読んだからだ。昨今、注目されている佐々木俊尚さんの著作でロングセラーだけど、音楽ビジネスの引用部分は、ほとんど間違っている。
読んだときは、業界外の人には、音楽業界の仕組みや習慣を理解するのは難しいんだな。僕ら業界人が説明不足なのもよくないよな。とか思っていたけれど、『Jポップとは何か』を読んで、単に取材量の違いだという事がわかった。佐々木さんは一部の関係者の伝聞を基に、自論の繋がるように書いたのだろう。テーマは出版業界だから本の主旨が変わらないのはわかるし、その主旨自体には賛成なんだけど、音楽業界の間違った引用が、他の人に”孫引き”されて誤解が広がるのが心配だ。
それにしても烏賀陽さんや西岡さんは、なんでこんなに頑張れるんだろう?僕も零細企業の社長を長くやっているので、「何があっても動じない事務所のオヤジとしての矜持」みたいなのは持っているつもりだけど、彼らの状況は度を超している。
もちろん、ジャーナリストとしてのプロ意識を尊敬するけれど、それ以上に、不思議な生き物に興味を持っている感覚に近い関心を覚える。本人達も、理由がよくわからないのではないかと推測する。その意識をどんな風に言語化しているのかは興味津々だ。
そういえば、俺はジャーナリストになりたいと思ったことは無かったな。この本を読んでわかったけど、絶対になれないし、なりたくない。
ということで、『俺たち訴えられました!』読んでみてください。
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