2015年7月16日木曜日

もう一度だけ、ストリーミングサービスとお金の話。〜クローズアップ現代「あなたは音楽をどう愛す?」を観て


 音楽シーンや音楽ビジネスにメディアの関心が向いてくれるのは大切なことなので、依頼があればできる限りの協力はすることにしている。今回も、NHKのディレクターとお会いして、アドバイスはさせてもらったし、番組にも登場したITジャーナリストの本田雅一さんともメッセージで意見交換した。佐野元春さんをご紹介したり、ユニバーサルの加茂啓太郎さんを推薦したのも僕だ。
 放送を観た感想としては、ともかくピーター・バラカンさんのバランス感覚と音楽への愛情が素晴らしくて、良い番組になっていたと思う。協力してよかったなと思った。

 ところが、番組で紹介された、CD単価とダウンロード単価とストリーミング再生の一回あたりの金額の比較グラフが、ネットで一人歩きをはじめていて、とても良くないことだなと思っている。
 番組では、この比較自体の問題点をピーター・バラカンさんが、否定する発言をしていてバランスが取れているのだけれど、このグラフだけがひとり歩きして、「ストリーミングはアーティストへの還元が少ない」という認識が広がるのはあまりにも不正確なことだ。
 この表の出典になっているのは、MUSICMAN-NETの榎本幹朗さんの連載だ。あのコラムは超力作で、海外の音楽配信事情を日本の音楽関係者に知らせるという意味では、とても功績がある。ただ「音楽サービスごとの1再生の金額試算は、不正確な上にミスリードにつながる、折角の労作に傷になるから止めたほうが良い」と、榎本さんに直接メッセージして、何度か忠告したのだけれど聞き入れなれなかったようだ。音楽業界の方ではないので、ビジネス感覚が無いのは仕方ないことなのだけれど、誤解を呼ぶ危険がある「榎本試算」が、今回のような事態になっていて、とても残念だ。

 そもそも、ストリーミングサービスの1再生あたりの金額というのは、毎月変わる。ユーザーからの使用料+広告などの収入を、全再生回数で割るという計算式だ。

 この話のポイントは、再生回数が多いということは、ユーザーから愛用されたということで、ストリーミングサービスの効用の一つである「ユーザーの生活の中で音楽の存在感を高める」ということができているということになる。総再生回数が多いことは、音楽業界にとってもおおまかに言うと嬉しい事なのだ。何が言いたいかというと、同じ有料会員数の時に一再生回数の単価が低いことは、良いことだという解釈が成り立つということ。この試算は、CDやダウンロードよりストリーミングは安い=音楽の価値が下がるという意図で使われることが多いが、実際は逆だ。
 ここで引き合いに出すのは申し訳ないけれど、docomoの「dヒッツ」は、一再生あたりの単価は高いだろう、だってユーザーにあまり聴かれてないのだから。同じ売上だったとして、ユーザーがたくさん音楽を聞いてくれることは、良いことだという感覚が、この話からはすっぽり抜け落ちている。音楽の価値を下げているのは、こういう数字を元に音楽サービスを判断する人たちだと僕は思っている。

 そもそも「ストリーミングになるとアーティストに入るお金が減る」というのは、間違いだ。少なくとも、非常に不正確な表現だ。
 ビジネスの本質的な視点で、意味のある数字は2つだ。「ユーザーの支払額における、アーティスト側への還元率」と「全体の総額」。それ以外は、KPIとしてあまり意味が無い。1再生がいくらになっているかなんて、野次馬的な興味でしか無い。購入したCDDLした音源の再生回数は調べられないのだから、そもそも比較対象が存在しないのだ。

 ストリーミングサービスは、アーティスト側に50%60%の原盤使用料を払うと言われている。著作権使用料は国によって使用料が違うけれど、欧米でのデファクトは10-12%、日本では、現状のJASRAC規程は3.5%と安いので料率を協議中だそうだ。(※ご指摘をいただいたので著作権使用料の部分の表現を訂正しました)
 この計算で言うと、CDの売上からアーティスト側に還元されるのは1220%前後が相場だから(アーティスト印税+原盤印税など)、むしろ「ストリーミングサービスはアーティストへの還元率が高い」とも言えるのだ

 僕は基本的には、パッケージとストリーミングサービスは、補完的な関係で、ビジネススキームはハイブリッドに捉えるべきだと思っているけれど、敢えてやってみよう。
 例えばこんなことだろう。

CD3000×20%(印税率)×1億枚(出荷枚数)600億円

ストリーミング:1000×12ヶ月×60%(原盤印税率830万人(有料会員数)597億円

 2014年のCDアルバムの生産枚数は約11490万枚だ。年間1億枚のアルバムが売れた時に、アーティスト側に分配される金額(原盤+アーティスト印税を20%にしてみた)を掛けると約600億円となる。(生産枚数と出荷枚数の違いとか返品控除は?とか、ストリ
ーミングについてもiPhoneアプリの場合のアップル手数料分は?とか、やりだすと色々あるけど、あくまでざっくりね。)


 この金額をストリーミングサービスで賄うとすると、月額1000円払うユーザーが830万人いると、近い数字になる。十分に達成可能な数字ではないだろうか?(ちなみに、LINE MUSICの目標獲得ユーザー数は2000万人らしい。是非、達成して欲しい。)

 比較試算をやるのなら、こんな感じというのは理解してもらえるだろうか?

 ちなみに、2014年のダウンロード配信の売り上げは約300億円で、同じ原盤印税率を掛けると、180億円になる。
出典:音楽主義

 原盤印税は、レコード会社や事務所も含んで、おおまかに言うと、レコーディングの費用を出した人が受け取る取り分なので、そこを「アーティスト側」と捉えるのは異論がある人もいるかもしれない。
 また、この試算は原盤印税にフォーカスしていて、CDについては、レコード会社の宣伝費や製造費、管理費などが設定されていて、配信だけになるとしなきゃいけない補足説明がたくさんあるけど、少なくとも、1再生が1円以下のストリーミングと3000円のCDみたいなむちゃくちゃな比較よりは、だいぶ意味がある試算になっているはずだ。

 一応、CDとストリーミング配信の分配の円グラフの形も出しておくね。CDの割合については、日本音楽制作者連盟が発行しているフリーペーパー「音楽主義」から。「音楽主義」はリアルな情報がわかるし、ネットにバックナンバーも公開されているので、興味のある人はどうぞ。

 さて、では、ストリーミングはアーティスト側の取り分が少なくないのに、何故、レコード会社や、欧米の大物アーティストが反対するのか?これは、ビジネスの仕組みが変わることへの抵抗感だ。忌避感と言ったほうが近いかもしれない。
 誤解にもとづいている場合も少なくないが、レコード会社が躊躇しているのは、音楽ビジネスの仕組みが変わって、自分たちの存在感が下がると思っているからだろう。LINE MUSICにソニーミュージックが主導的に関わったのは、業界の主役じゃなくなるという危機感からだろうし、エイベックスにユニバーサルも加わった構図はガラケー向けの着うたで成功した「レコチョクの夢よ再び」を思っているようにも見える。いずれにしても、LINE MUSICには、本当に頑張って欲しい。失敗が許されない座組みでの事業になっているのだから。
 ともかく一番大事なのは、ユーザー視点のサービスであることだ。供給者の論理を捨てて、謙虚にユーザーの声に耳を傾ければ、活路は見えてくるはずだ。
 
 ストリーミングサービスの問題点は、新作と旧カタログのバランスの変化と、それに伴う投資と回収のシステムの変化だ。ストリーミングサービスは、様々な曲が聞かれるので、いわゆるロングテールが長くて、分配される曲の数が大幅に増えるというデータが出ている。
 レコード会社の立場だと、ベスト盤やコンピレーション盤をつくって、宣伝しなくても、ユーザーが勝手にプレイリストで宣伝してくれるという側面もある。実際、Spotifyの中で、各レーベルがプレイリストをつくったり、Spotify向けアプリを作って、楽曲再生促進の施策をやるのが当たり前になっている。
 名作の旧譜の権利を持っている会社にとっては、収入機会が増えていくだろう。

 ただ、投資と回収のスパンが変わるという問題はある。以前は、新人アーティストにしても新曲にしても、ヒットが出れば、短期間で回収できた。仮に、楽曲からの売上金額が同じ規模だとしたら、同じくらいの普及度合い、ヒットした曲の、新作の回収までのスパンは以前より長くなることになる。単純に新曲でドカンと儲けるという考え方が以前より難しくなる側面はある。本当は映画プロデューサーの「ウィンドー戦略」のように、一つのアルバムの収益最大化を図るべきなのだけれど、いかんせん経験が無い。
 レコード会社にとっては、その分、旧譜が稼いでくれる側面もあるのだけれど、問題は、旧譜の収益が良くなっても新しいアーティスト開発に回す余裕や気持ちがレコード会社に無くなっていることだ。

 アメリカではこの空白は、クラウドファンディングが埋めている。メジャーレーベルとの契約が無くなった女性アーティストAmanda Palmerが、1億円以上の資金を集めて注目されたのはもう3年前になる。KicksterterIndie gogoなどで、インディーズのアーティストが1000万円位のお金を集めることは日常的に行われている。

 残念ながら日本の音楽シーンでは、クラウドファンディングは、まだほとんど機能していない。僕もいくつかのプロジェクトでチャレンジした経験があるけれど、100万円以上集めるのは結構大変だった。アメリカと比較してウエブマネーが広まっていないので、少額課金参加者の幅が狭くて、ダイナミズムが生れない。自分のファンをクラウドファンディングサービスに誘導するという構図になると手数料がバカバカしい。プロのマネージャーやプロデューサーなら、その程度の金額なら自腹でやれるし、少なくなったとはいえ残っているレコード会社や音楽出版社の新人開発費を調達したほうが楽だし、早い。今、クラウドファンディングに出てくる音楽関係は、すごくニッチな企画か、アマチュアのプロジェクトになっている理由だ。
 新しいアーティストに関心がある音楽ユーザーが集まるクラウドファンディング的なサービスが定着するのが、今の日本の音楽にとって、めちゃくちゃ必要だ。僕に果たせる役割があれば、なんでもやりたいと思っている。
 
 さて、日本はパッケージ市場が健在なので、ストリーミングとの相乗効果が期待できるということは何度も書いてきた。今、日本でCDを買っているユーザーで、「曲を聴くためだけ」にCDを買っている人はどのくらいいるだろうか?コレクションとしての喜び、アーティストとの関係性の証、応援したいという気持ち。コンサートなどでの記念品としての役割。いずれもストリーミングサービスでは代替できない喜びだ。ストリーミングは音楽専門メディアの進化系、メディアにしてはアーティスト側に還元率は高い、という解釈が、これからのアーティストやスタッフにとっては一番リアルな捉え方だ。

 大切なのは、テクノロジーを活用して、アーティストとユーザーのコミュニケーションを活性化していくことだし、マネタイズの場面を増やしていくことだ。ストリーミングが是か非かみたいな、低レベルの議論は今回のブログ終わりにさせて欲しい。もう「次のこと」を考えたいし、話し合いたい。
 ストリーミングは時代の変化の必然だし、音楽にとってはツールの一つでしか無い。効果的に活用する以外の結論は無いよ。

 最後に告知。来週行うトークイベント。たまたまタイムリーなタイミングなゲストになったSpotfiy Japan野本晶さん。言えないこともたくさんありそうだけれど、ウラ話も聞きつつ、未来志向の話をしたい。ストリーミングという新しいツールの使い途の質疑応答とかも長めにとって、議論を深めるので、時間のある人は来て欲しい。

【日 時】7月26日(日) 18:00-20:30 (20:00以降:ネットワーキングタイム)
【会 場】シダックスホール (7階 Fホール)

2015年7月14日火曜日

クリエイターが主役の時代がやってくる。クリエイターズキャンプ真鶴やります。

 今年もやっと「デジタルコンテンツ白書2015」の原稿を書き上げた。様々なデータを見て、時代の流れを確認して、「白書」だから客観性を担保して、バランスを取りながら書く作業は骨が折れる。今回は、ニューミドルマン養成講座の受講生有志がアイデア出しなどで手伝ってくれたので、去年よりだいぶ楽になった。署名も「山口哲一+ニューミドルマン研究会」になっている。

 改めて思ったのは、レコード業界が音楽ビジネスの主軸だった時代は本当に終わったんだなということ。音楽業界で普通に仕事している人なら誰でも10年くらい前からは予想できたことだけれど、2014年に、コンサート入場料収入がCD売上を上回ったというのは象徴的な出来事だ。
 新しい才能を育てるのには、エネルギーも時間も必要なのだけれど、以前は、その「バッファー」はレコード会社が持ってくれていた。メジャーデビューの契約は3年間でアルバム3枚が普通だったし、アーティストマネージメントに専属契約料やアーティスト育成費、事務所援助金などいう名目の予算があった。丸山茂雄さんが社長の頃のEPIC/SONY5年契約が基本で、見込んだアーティストは必ず売ると言われていたのは、本当に遠い昔のことだ。レコード会社は自社を維持するのが精一杯で、新しいアーティストを育成する余裕は無くなってしまっている。

 では、日本の音楽がダメになっているかというとそんなことは全然無い。他国に比べれれば音楽市場は健在だし、Jポップは海外にもたくさんのファンが居る。ビジネススキームを組み直せば、大いに有望だと思っている。
 コンテンツ輸出を観光という今の日本の国策のために、音楽業界が貢献できることは多いと思う。

 そんな中で、改めて軸として大切なのは、30代、40代のサウンドプロデューサーと言われる人たちだ。彼らが実際には音楽を作ってきている。レコード会社に余裕があった時代に恩恵も受けていた世代だ。

 ELT、浜崎あゆみ、木山裕策Home」等、数々のヒット曲を産みだした多胡邦夫さんは、地元高崎市と協力してTAGOSTUDIO」という素晴らしいスタジオをプロデュースした。日本にプロフェッショナルスタジオが新たに作られるなんて、10年以上無かったと思う。高崎は、BUCK-TICKBOØWYを産んだロックの町で、新しいアーティストの育成に貢献したいのだそうだ。地元にUターンして住んでいて、「山口ゼミ」のゲスト講師を年に2回位頼んでいるのだけれど、高崎から車で駆けつけてくれる。
 僕も次にバンドのプロデュースをする時は、高崎のTAGO STUDIOを制作拠点にさせてもらうつもりだ。思いのある人が作ったスタジオでレコーディングすると、バンドマジックが起きる確率が高まるものだということを経験則的に知っているから。
 
 最近、こんなニュースも見た。元JUDY AND MARYTAKUYAさんが、福岡にスタジオを作って生活拠点にするというのだ。

 あれ?TAKUYAさんも博多出身だっけと思って、ググったら京都出身だった。アジア視点で見た時の福岡の地政学的位置、行政のIT導入やベンチャー支援の施策などが理由だとしたら慧眼だ。

 クリエイティブ力が高くて、ビジネス構造も理解している彼らが、音楽業界の未来に危機感を持って、後進の育成や環境改善に目を向けてくれているのだとしたら、当然とも思うけれど、とても嬉しい。

 彼らと同じ志かどうかは話してみないとわからないけれど、僕が取り組む音楽業界の「環境改善施策」は「クリエイターズキャンプ真鶴」だ。

 日本の音楽業界が不況とかオワコンとか言われる理由は、実は一言で説明できる。他業種では当たり前の「デジタルファースト」をやらないから、だ。何故できないかは、何度か書いてきているので、本稿では割愛するけれど、内側からの改革だけには限界を感じて、音楽業界外との連携に、ここ数年の僕のエネルギーは注いでいる。

 STARTME UP AWARDSは、既存のメディアコンテンツ業界、権利者団体などと、若い起業家、スタートアップの出会いの場を作り、支援していくために去年始めた。今年は、デジタルコンテンツ協会の後援をいただいて、経済産業省主催のデジタルコンテンツEXPOの一環としてやらせらもらえることになった。(エントリー受付中なので、エンタメ感のある起業志望者は、是非応募してください。)

 昨年行った第一回のSTART ME UP AWARDSの時に併催した、「ミュージシャンズハッカソン」を発展させたのが、今回の「クリエイターズキャンプ真鶴」だ。


 音楽をテーマにしたハッカソンは、日本でもいくつかあったけれど、プロの音楽家が参加したという例は聞いたことがなかった。正直、イマイチ、イケてないという印象を持っていた。同じことを浅田祐介さんが感じていて、サウンドプロデューサーたちを巻き込んだハッカソンをやれば、音楽シーンにも刺激を与えられるし、ハッカソンとしても成功するのではないかということになった。結果は、期待以上だった。
 浅田祐介曰く「最近、あんなに目を輝かして音楽をつくること無いんじゃない?」、プログラマーやデザイナーとミュージシャンが、喧々諤々、和気あいあい、ものすごい高い熱量の場で、面白いものはたくさん出来た。


 昨年最優秀賞だった「MUSIC DJ」は、身体の動きに合わせて、曲が変わるという仕組みだけれど、今年の神戸ビエンナーレの入賞作品となった。9月から展示されるそうなので、観に行きたいと思っている。

 Jポップの隆盛を担ってきた日本のサウンドプロデューサーたちのクリエイティビティと人間力の高さは知っていたつもりだったけれど、こういうことを続けていけば、何かとんでもなく面白いことが起きるなと確信した。

 そもそも、製造業では優位性を持ちにくくなっている日本が国際社会の競争で戦う時
に、残されている強みは、クリエイティビティではないだろうか?
 日本人クリエイターは貴重な資源だという認識をもっと日本は持つべきだ。近年のビジネストレンドをリードしていSXSWの今年のテーマは「ダイバーシティ(多様性)」だった。それが本当ならますます日本人にはチャンスがある。宗教的な禁忌も少なく、融通無碍に創作するのは日本人の得意とする分野だ。

 「クリエイターズキャンプ真鶴」は、地元の起業家たちと町役場が強力にバックアップしてもらってやる。海と森と昭和を想いださせる町並みがある美しい町だ。(ソトコト8月号の表紙になっているので本屋に行ったら見てみてください。)

 ハッカソンと同時に、「コーライティング・セッション」もやる。3人一組で2日間で0から曲をつくって、日本人アーティストにプレゼンする。海外の作曲家にも各国大使館経由で声を掛けた。まだ発表はできないけれど、びっくりするような大物音楽家が参加したいと言ってくれている。日本に興味のある音楽家は多いようだ。

 真鶴町岩海岸にある民宿を全部借りきって、泊まり込みでつくるというやり方にした。畳とちゃぶ台のある部屋で、どんな名曲が産み出されるか楽しみだ。

 この2つは実績のあるプロ向けだけれど、閉じたプロジェクトにはしたくないので、一般向けのコーライティング・ワークショプ(日帰りキャンプ)もやるし、最終日9/27()の、コーライティング試聴会〜ハッカソン発表会〜アフターパーティに参加できる「オーディエンス券」というのも発売する予定だ。
 興味のある人は、是非、参加して欲しい。

 毎年、恒例のイベントにして、音楽を中心にオールジャンルのクリエイターが集まり、創り、出逢う、クリエイターが主役のフェスティバルとして続けていきたい。来年からは、映像クリエイターや写真家、振付家なども参加してもらえるようにしていくつもりだ。
 「クリエイターズキャンプ真鶴」は、シルバーウィーク明けの9月最後の週末だ。今から本当に楽しみにしている。
 
※「ミュージシャンズハッカソン」や「コーライティング・セッション」は、プロの音楽家を対象に招待制でやっているので、公募は行っていません。興味がある方は、フェイスブックなどを使って、僕に連絡ください!
●クリエイターズキャンプ真鶴公式ページ

2015年6月29日月曜日

「日本発のエンタメ系スタートアップ」という旗を掲げて、全力で応援するよ。

 去年始めたSTART ME UP AWARDS。ネーミングはもちろん、ローリング・ストーンズの名曲が由来。イベントで盛り上げるジングルは、山口ゼミ卒業生CWFメンバーたちに作ってもらった。

 「音楽とIT」というテーマに取り組むようになったのは、元は自分がプロデュースするアーティストを売り出すためだ。ソーシャルメディアに手を染めた2006年頃から、グローバルとデジタルコミュニケーションをテーマに実践的プロデュースをして、いろんな出会いがあった。そのプロジェクト自体は、卑怯な背信行為に遭って、志半ばで頓挫してしまったけれど、コンセプトや考え方を評価してもらって、今の活動につながっている。
 
 音楽業界が、ネット民からオワコンと目されてもうずいぶん経つような気がする。売上の長期低落は20年位続いている。その原因は意外に簡単で、一言で言えば、デジタルへの無理解だ。他の分野では当たり前の「デジタルファースト」に真摯に取り組めば、日本の音楽シーンや音楽業界には大きなポテンシャルがある。欧米では、PANDORASpotifyShazamなどの音楽系IT企業が高い時価総額で評価されている。ヒップホップのプロデューサーDr.Dreが始めた高級ヘッドフォンメーカーBEATSが音楽配信サービスを始めて数ヶ月で超高額でアップルに買収されたのは記憶に新しい。

 僕は業界団体の理事も長年やったし、キャリアは(無駄に)長いので、固有名詞も含めて、誰が癌で、どういうパワーバランスで硬直状態になっているのか、概ねはわかっているつもりだ。ただ、自分が育った音楽業界で「テロ行為」を起こす気にはなれない。それに、良くも悪くも、風が吹くとそれに乗ってくるのがギョーカイなのも知っているので、外部の若いエネルギーを借りて、新しい風を吹かせて、改革したいと思っている。

 設立2年以内のスタートアップと起業志望者を対象にしたSTART ME UP AWARDSを有志で立ち上げた個人的な動機は、そういうことだ。音楽ではなく「エンタメ感のあるサービス」という掲げ方をしたのは、既存のカテゴリー設定は有効性を失っていると感じているからだ。実際、農業でも医療でも、経営者が「これはエンタ−テインメントだ!」と思って立ち上げるなら、是非、応援したいし、役に立てることはあると思っている。


 既存の権利者団体や大手企業も今の枠組みの中で内側を向いてやっていても未来は辛いと、みんなわかっている。イノベーティブな発想をもった若者たちの力を欲しいということは、どんなコンサバティブな経営者も異存はないはずだ。

まだ告知が十分にできてないけれど、日本市場に興味をもっているアジアの起業家も巻き込みたい。落ちていると言ってもエンタメにおいては日本は世界二位の規模を保っているし、消費者の質が高いことは世界が認めている。自分のサービスを日本市場で試したいと思っている起業家は海外にも少なくないはずだ。
 ただ、言葉の問題、業界慣習の問題で、おそらく、何から手を付ければよいかもわからないのが現状だと思う。面白いアイデアを東京に持ってきてぶつけてもらって、僕らがジョインすることで何かが始まる可能性はあるはずだ。募集要項で、日本語もしくは英語での応募がOKとしているのはそういう理由だ。

 一回目だった去年は、本当に暗中模索で、なんとかかんとか形にしたというのが正直なところだったけれど、課題設定は正しかったようで、各方面から望外の高い評価をいただいた。
 今年は、経産省コ・フェスタの一環であるデジタルコンテンツEXPOの中でやらせてもらえることになった。お台場の科学未来館での最終審査には、ベンチャーキャピタルも12社以上が来てくれるし、第一興商やスペースシャワーネットワークなどの大手企業が、真剣に起業家のプレゼンテーションを受け止めてくれる。デジタルコンテンツ協会に加えて、都有地である竹芝地区を再開発して、コンテンツを核とした国際ビジネス拠点にしようとしている一般社団法人CiP(コンテンツイノベーションプログラム)協議会も、後援に加わってくれた。

 そうそうたる顔ぶれである二次審査の審査員が、キュレーターとして最終審査向けのブラッシュアップをしてくれるし、選ばれたファイナリストについては、実力と識見のある実行委員会メンバーが膝詰め(ハンズオン)で応援することになっている。


 賞金を出せるほど協賛を集めることはできてないけれど、本気で出資を検討している人たちとの出会いと、知見者たちの知恵とネットワークは、若い起業家にとって賞金以上の価値があると思う。


 一昨年に『世界を変える80年代生まれの起業家』という本で取り上げた若い起業家たちとは今も関係が続いている。それぞれ成長を見せていて、数年以内にここからスター起業家は出てくるだろう。この本で取り上げた10人中、何人が「成功」と言えるエグジットができるか、僕の目利き力が試される気がしている。3割超えたら威張っていいよね?今はイチロー超えの4割打者になれる予感がしている。
 
 「エンタメとIT」をテーマにした最新刊10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出すにも書いたけれど、日本のギョーカイはタコツボにハマって、成長イメージが持てなくなっているけれど、個々のノウハウをパーツとして考えれば、使い途はまだ相当ある。明文化されていない「村の掟」や「踏んではいけない地雷」に囚われずに、若い起業家の新しい発想と行動力を活かせれば日本経済再生に繋がると、僕は本気で信じている。
 「破壊」ではなく、「再構築」をしたいし、そのためには、既存のプレイヤーが自分の役割や職能を「再定義」する必要があるというのが、この本で僕が訴えたかったテーマの一つだ。
 
 歴史的に見ても、エンターテインメントはテクノロジーの実験場だし、新しいサービスを先導する役割だ。メディア系、コンテンツ系、エンタメ感のあるサービスや事業を志す起業家たちは、START ME UP AWARDSをステップアップの場として、活用して欲しい。
 今週水曜日には、説明会を兼ねたキックオフイベントを朝日新聞メディラボ渋谷でやるので、興味のある人は覗きに来てね。

 これからの日本は製造業だけでは国際競争に勝てない。エンターテインメント要素を取り込んだ新しい事業を立ち上げることは、日本がグローバル競争で生き残っていくためにも重要だし、そこに日本人の優位性はあると僕は心底思っている。できる限りのことをやっていきたい。


2015年6月16日火曜日

ストリーミングサービスにムカついている人は放置しようぜ

 前回のブログで日本でも音楽ストリーミングサービスが本格的に到来したこと、日本ではパッケージ市場へのマイナスは少なく、プラス効果のほうが大きいのではないか?と提起した。BLOGOSに転載されたからというのもあるだろうけれど、予想以上にネガティブな反応を見かけた。

自分にはストリーミングサービスとか必要ない、使う気はしない。だから、そんなに流行るとは思えない」という意見。
 あとは「もうオワコンになっている音楽業界が元気になるなんて思えない。レコード会社ってもう終わっているでしょ?」みたいな意見。
 全体を俯瞰した判断ではなく、情緒的な印象論、感情論が多かったように感じた。

 ユーザーは理屈通りに動くわけじゃないし、長年の消費行動は習慣性を持っているから、新しいサービスは簡単に受け入れられないことも多い。「コンテンツがクラウド化した時代は、ストリーミングで聞くのが当然だ」という「理屈」は「ユーザーの気分」の前には無力だ。
 ただ、スマホが情報の窓口になっている時代に、音楽ストリーミングサービスは浸透する必然性がある。ユーザー行動は保守的であると同時に「便利さには負ける」という側面もあるので、知らず知らずのうちに使ってしまうというパターンもある。

 僕は、5年位前からストリーミングサービスをウォッチングしてきて、人々の生活の中で音楽を親しくする役割を果たしてくれると確信している。パッケージ市場とCDショップが生き残っている日本では、音楽シーン活性化の効果は大きいはずだ。パッケージにも好影響が出るはずだ
 「希望的観測でしょ?」と言われれば、その通りかもしれないけれど、僕なりには根拠も実感もある推測なので、支持してくれる人を増やすために海外のデータを出そうと思う。

 ITの世界で言うグローバルであるアメリカの事例が中心になるのは仕方ないけれど、音楽市場に関して言うと、アメリカにはアメリカの特殊性がある。
 自由経済を標榜して、何事にも極端に振れがちなアメリカは、ウォールマートが集客ツールに使うために、CDを低価格で売るようになって、タワーレコードが倒産した。入れ替わるようにiTunes Storeが音楽流通の主役になり、ダウンロードして自分のパソコンやiPodで音楽を聞くという習慣が広まった。それが近年は、Spotifyに取って代わられるようとしている。Spotifyは、先週有料会員が全世界で2000万人を超えたと発表された。国別の細かなデータは公表されていないけれど、アメリカでの伸びが顕著だと聞いている。伸長するSpotify対抗策として、アップルが始めるのが、今回WWDCで発表されたApple Musicなのだけれど、CDDL型配信⇒ストリーミングと主役が大きく入れ替わっているアメリカ事情は、日本との比較対象には適してない。

 そこで、世界第三位の音楽市場を持つドイツのデータを引用したい。
ドイツの音楽配信売上
 まだCD市場も残っているドイツの例の方が参考になるよね?ドイツは、2014年に業界全体が1.9%成長と回復基調が明確になった。ストリーミングが対前年46%増とデジタル全体を12.2%成長させて、業界の成長に貢献した。同時に、フィジカルも堅調で対前年マイナス1.5%にとどまっている。
 ユニバーサルドイツの副社長Holger Christophは「すくなくともドイツではフィジカルセールスとストリーミングは共存できている」と表明しているそうだ。
 CDやダウンロードの所有型ユーザーは平均46歳と大人層で、ストリーミングはそれより若い層を取り込んでいるというのも、日本にとって参考になるんじゃないかな。

 それぞれの立場や気分で、いろんな意見があってよいので、個別にコメントはしないけれど、もう一度だけ言うと、ストリーミングサービスというのは、音楽体験として、必然的な変化だ。スマホどころか携帯電話を持たないことも自由なので、いろんな人生、価値観があって良いと思うし、その人が生きている間、そのポリシーを貫くことは可能だと思う。ただ、社会の変化としては、クラウド上に楽曲を置いて、友人知人とプレイリストなどでコミュニケーションして音楽を楽しむというのは、移動手段が馬から自動車になったような時代の変化だということは、知ったほうが良いと思う。今でも乗馬クラブはあるし、僕は自動車免許を持っていないし、生き方はそれぞれ自由だけれど、高速道路や新幹線が産業活動における幹線になっているような意味で、音楽体験の主役の一つがストリーミングになることは時代の必然だ。これを否定する人を論破するための時間は、申し訳ないけれど僕にはない。車が嫌いだからロバに乗って移動する人の人生も個人的には嫌いじゃないしね。
 むしろ、伝えたいのは、日本にも欧米に比べて4年遅れで始まった、音楽ストリーミング時代がチャンスになり得るということだ。「次のことやろうぜ!」というのが、僕が一番、言いたいことだ。

 ITサービスをやっている人は、音楽体験の変化に基づく新しいサービスを考えて欲しい。プレイリストにロボットアバターを模すという素敵なアイデアを提唱したビートロボは、優秀なCTOが特許をとって、PLUGAIRというスマホ向けのガジェット&サービスを始めている。もう音楽の範疇を超えて、スマホ経由のID認証や決済の分野でポジションを作りつつあるけれど、SXSWがもともと音楽祭だったような意味で、音楽サービスをDNAに持っているベンチャーだ。
 アーティスト側からみると、ストリーミングサービスは新たなビジネスとPRのチャンスだ。僕は5年位前から「ストリーミングサービスが主流になるけど、その売上はレーベルがガメて、俺達には入ってこないから、そこに付随して儲かる商売を考えようぜ。これまでCDの購入特典にしていたような、写真とかをデジコンにしていけば良いんじゃない?」って後輩マネージャーたちに訴えてきた。
 
 日本の音楽市場にストリーミングが浸透することで、やっとJポップで海外で勝負する可能性が生まれる。ラッキーな事に日本政府もそこに興味は持っている。僕が、徒手空拳に有志で立ち上げたエンタメ系スタートアップを支援するSTART ME UP AWARDSも今年は、デジタルコンテンツEXPOの一環でやったらと誘われて、やることにした。(7/1に説明会兼キックオフイベントやるから来てね!
 ストリーミングサービスの到来は、時代の必然だし、新しい才能にとっては大きなチャンスだ、ディスりたい人は、面倒だからスルーして。次のステージで何ができるか考えようぜ。

最後に、いろんな人に聞かれたから、ネタ的に予測しておくね。裏情報とか無い、個人的な「ドタ勘」で言うと、Apple Musicは8/31、Spotifyは11月、YouTubeMusicKeyはSpotifyと同時期と予測しておく。理由は細かく書かないけれど、俺の見立てです(^_-)

2015年6月9日火曜日

日本にもやっと、ストリーミングサービスの夜明けが来たのかな?Apple Music開始!

  インターネットが広まったことによる環境変化は、音楽体験も大きく変える。クラウド化とソーシャルメディアの普及にともなって、ストリーミングサービスが音楽体験の主要な方法の一つになることは、もうずいぶん前から、明らかなことだった。

 僕は3年以上前から、「ストリーミングサービスの時代が来るよ」と言ってきていて、最近は「くるくる詐欺の狼オヤジ」みたいになっていたので、変な言い方だけど、ちょっとホッとした。今月の終わり頃には、みんな、「やっぱりストリーミング来そうですね」って、少なくともいったんは思ってくれるだろう。

●Apple Music発表!

 アップルの開発者向けイベントWWDCが、その枠を超えて世界的な注目を集めるようになって久しい。今年のWWDCの最注目は、Beatsを高額買収して、Beats Musicスタッフを取り込んで始める音楽ストリーミングサービスだった。Apple Musicは、世界100カ国で630日から始まるそうだ。サービス内容はまだよくわからないけれど、Spotifyなどのオンデマンドストリーミングサースと似たような内容のようだ。Beats Musicは優れたキュレーションが評判だったから期待が持てる。無料会員の仕組みは無いが、Beats1という無料のネットラジオを始めるようだ。アラカルトダウンロード型のiTunes Storeで多数のユーザーを抱えているアップルが、普通に考えると両立しにくい月額定額型のストリーミングサービスをどのように組合せてユーザーに提案するのか興味深い。音楽イメージを持った世界ブランド、アップルがストリーミングサービスを始める意義はとてつもなく大きい。

●「フリーミアムモデル」への逆風

 近年ユニバーサルミュージックを始めとしたグルーバルメジャーレーベルは、Spotifyは味方、PANDORAが敵と、はっきり色分けして、Spotifyの普及にはポジティブだったけれど、昨年のアメリカでの売上減を見て、ちょっと風向きが変わったようだ。Spotifyを始めとするストリーミング月額課金の伸び以上に、iTunes Storeの落ち込みが激しかったのだ。やっぱり「フリーミアム」の「フリー部分は微妙かもね」みたいなことを言い出しているようだ。
 「フリーミアム」は、フリー(無料)とプレミアム(有料)を組みあせた造語で、無料会員と有料会員を組合せてサービス運営をする手法のことだ。インターネットの普及で、あらゆるデジタルコンテンツが無料化の圧力を受けている時代に、よくできた「発明」と捉えるべきで、敵視するのはおかしい。まして、Spotifyは無料会員が有料化するコンバージョン率が2割以上という驚異的な数字を誇っている。無料部分の広告収入よりも有料会員による収入の方がずっと多い。総収入の7割弱を権利者に分配しているのも素晴らしい。2015年1月〜3月の分配額は3億ドルを超えたとの発表があった。そんな状況で権利者側が「無料で聴かせている」という部分だけを理由に嫌がるのは、経済的合理性に反するな、と個人的には思っている。
 その風向きを読んでかどうか、対抗馬となるアップルミュージックは、フリーミアムモデルは採用していないので、レーベルの期待度は高いようだ。このサービスの伸び方次第では、Spotifyに逆風が吹くかもしれない。

●日本のストリーミングサービス

 さて、日本のサービスはどうだろう?
 先月末始まったAWA musicには、どんどん暴れて欲しい。アプリのさくさく感は良い感じだ。せっかくのプレイリストにソーシャルボタンが付いてないなどの不備も見られるけれど、サイバーエージェントとエイベックスは、ユーザー視点で機敏に動くというカルチャーを持っている会社のはずなので、既成概念にとらわれない新しい挑戦をやってくれるのはないかと期待している。
 LINE MUSICも今週、サービス開始だと聞いている。LINEという巨大なコミュニケーションプラットフォームとストレス無く行き来できる設計というは魅力的だ。会員になっていなくても30秒試聴はできるようなので、LINEの会話で友人に曲を紹介するみたいなことが簡単にできるはずだ。ソニーミュージック、エイベックスに続いて、ユニバーサルミュージックまで資本参加したのは、着うたの時のレコチョクを彷彿とさせる。レコード会社が後押ししつつ、LINEスタッフの発想を活かしてサービスを作っていけば成功確率が上がっていくだろう。
 先行して始まった台湾発でKDDI傘下のKKBOXは、アジアではNo.1のストリーミングサービスだ。台湾でブレイクのキッカケになったlisten withというチャット機能を活かして頑張るだろう。
 Apple Musicは日本も同時にサービス開始という情報が事前にあったけれど、630日だとすると、LINE MUSICなどとの関係上、少し遅らせるように、ソニー・ミュージックなどが希望するかもしれない。それでも数カ月後には始まる流れが予想できる。そうなると、アメリカでの大型上場を控えるSpotfiyも指を食わえて見ている訳にはいかないはずだから、日本でのサービス開始が近づくはずだ。グーグルも日本での音楽サービス準備に入ったと言われているので、遅くとも秋ころには「役者」が揃って、日本で、音楽ストリーミングサービスを競い合うことになるだろう。

●音楽ストリーミングサービスは必然的な進化形

 こんな状況になってくると、「そもそもストリーミングサービスが日本には普及するか?」と疑問を提示する人がいるようだけれど、どういう論点で考えているのだろう?
 デジタル化、クラウド化、スマートフォン普及、ソーシャルメディア普及といった環境変化と、テクノロジーの進化による必然的な変化で広まっていることなので、日本だけが全然影響を受けないなんてことはあり得ない。もしかしたらその人は、5年位前に「mixiがあるからフェイスブックは日本では広まらないよ。」と言っていたのではないか?「日本人の文化には匿名性が合っていて、実名制は馴染まない」とまことしやかに語っている人がたくさんいた気がする。
 今でも、フェイスブックをやらない友人はいるし、僕の両親もやっていないし、その人は今でもmixi愛好家なのかもしれないけれど、ビジネスを語るのなら、時代の大きな流れを俯瞰しないと意味が無い。

●日本ではパッケージへの好影響も期待できる。

 ストリーミングが広まるとパッケージが無くなるということを信じている人も多いみたいだけれど、僕はむしろ逆でストリーミングはパッケージ売上にプラスに働くと思う。iTunes Storeなどからのダウンロードは激減するだろうし、日本にしかない業態のCDレンタル店は壊滅的になるだろう。
 もうずいぶん前から、CDを買っている人の理由は、楽曲を聴くこと「だけ」が目的ではなくなっている。YouTubeや中国の違法サイトを検索すれば、聞けない楽曲はほとどん無いのが(残念ながら)現状だ。それでも、パッケージを買っている人の欲望は、アーティストとの関係性の証だったり、コレクションすることに喜びだったりがするはずだ。この欲望は、ストリーミングサービスで代替することはできない。
 音楽ストリーミングサービス、CDレンタル業と置き換えられる役割で、ラジオの発展形と捉えるのが日本においては、もっとも自然な見方だ。

 この話で思い出すのは、20世紀にラジオ放送が始まった時に、ラジオで曲が流れて無料で聞けるとレコードが売れなくなるとレコード会社が反対していたという話だ。実際は、レコード産業はラジオの発展とともに大きくなっていったという歴史が答えだ。CD店の全国網が健在なうちに、音楽とユーザーの接点を増やせるストリーミングサービスが広まることは、日本の音楽業界にとって幸運なことで、アナログレコードやDVDなど含めて、パッケージ売上にはプラスに働く、ストリーミングサービスからの分配分と合わせて、レコード業界全体の売上にはプラスに働くというのが、僕の持論だ。百歩譲ってそうならなくても、今のままだと落ちていくだけなんだから、何もしないよりは百倍良いでしょう?

●ユーザーの音楽体験を豊かに。

 そして、一番大切なのは、ユーザーの音楽体験が豊かになって、アーティスト側に収益が還元されること。そのために有益だから音楽ストリーミングサービスを僕は推しているのだと、改めてこのタイミングで確認しておきたい。

 ところで、先月から始めたフジテレビpresents「デジタルエンタメワークショップ」はエンタメとITをテーマにした新刊10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。』と連携したトークイベント。7月のゲストはSpotify Japanの野本晶さんだ。オファーをしたのは随分前だから、こんなタイミングになっているのは、全くの偶然だけれど、7月21日に聞ける話は、めちゃくちゃ貴重かつタイムリーかもしれない。ネット中継などはやらないし、定員40人のクローズイベントだからオフレコ話をするつもりだ。質疑応答とネットワーキングの時間を長くとったイベントなので、音楽サービスの未来を知りたい人は、是非、足を運んで欲しい。

 それから、昨年好評だったエンタメ系スタートアップ支援のアワードSTART ME UP AWARDSを今年もやることが決まった。デジタルコンテンツexpoの中でやれるので、注目度も上がると思う。日本でストリーミングサービスが広まることで、新しい音楽サービスの可能性は膨らむ。スマホになったことで、業界の障壁も溶けていっているので、音楽を絡めたいろんなサービスの可能性があるだろう。71日にキックオフイベントをやるので、興味のある人は遊びに来て欲しい。
 日本の音楽の夜明けは近い(かもしれない)。