2015年1月5日月曜日

作曲家育成セミナー「山口ゼミ」を続けている理由

 「山口ゼミ」を始めたのは、20131月だったから、3年目が始まろうとしている。きっかけは、「作曲家向けのセミナーをやってみませんか?」という後輩社長からの提案だった。どうせやるならと自分なりに掘り下げて考えたプロジェクトだ。
 アーティストマネージメントの使命は、新たな才能を世に出すことだと思って長年仕事をしてきたから、新人クリエイターの育成には、ある程度の自信はあった。音楽の才能というのは、泉や温泉を掘るようなところがあって、デリケートで難しいけれど、経験値はそれなりに持っているつもりだった。

 「山口ゼミ」とネーミングしたのは、責任の所在を明確にしたかったから。同じ年で親友の柳延人君が、ヘアーメイクアーティストとしてバリバリに活躍しながら、後進育成のためにやっているセミナーが「柳塾」だったのに啓発されたのもある。
 2人とも50歳になって、見た目も精神も変わらずにビックリだけど、50代に突入したら「50/50」というタイトルで、美容と音楽をメインとしたカルチャーTV番組をやろうと話してた。今年は具体的に考えたいな。

 さて、「山口ゼミ」では、マネージメントで培ってきたノウハウをセミナー形式でやるためにはどうすればよいかを考えた。専門学校の先生は、僕から見ると「元プロ」の人がほとんどだったから、自分がやるなら、今、ヒット曲を作っているサウンドプロデューサーの息吹を生で感じられるようにしようと思った。そもそも現役の音楽家じゃ無いと、僕に興味がわかない。ホストが楽しんでないトークイベントほどイケてないものは無い。そう、「山口ゼミ」は、授業というよりは、トークショーに近いのだと思う。



 世の中の音楽学校がどういうシステムかは詳しくは知らないけれど、今の状態からスキルを向上させる方法を教えているのだと思う。ほとんどの場合は、それだとプロに届くところまで育たない。平均点を上げることはできるのだろうけれど、プロのA&Rやプロデューサーが、新人作曲家に求めることは、「バランスが悪くても何か突出した才能が感じられること」だ。スキルを少しずつ向上させていっても、目的地に届くことは少ない。

 僕が伝えられることは、プロの第一線で行われていることを実感させてあげることだ、このレベルをクリアするのが前提だよ、と水準を肌で感じることが一番重要だ。そこを超える方法は、自分で創意工夫するしかない。もちろん気づきのチャンスを増やすためのアドバイスはするけれど、叱咤激励以外に他人ができることは限られている。

島野聡さんの説明は秀逸
 そもそも、こんな事をやろうと思ったのは、音楽業界の新人クリエイター育成のシステムが弱まっていると感じているからだ。以前は、「メジャーデビュー」が、次期のサウンドプロデューサーのインキュベーションの場になっていた。今、活躍している作曲家、サウンドプロデューサーは、僕が知る限り、ほぼ例外なく、アーティストとしてメジャーデビュー経験者だ。だから、若い音楽家で、「将来はアレンジャーになりたいんです」という相談に対して、以前は、「歌えるメンバー見つけて、グループ組んでデビューしなよ」と薦めていた。


 大御所プロデューサーの渡辺善太郎さんが「詩人の血」というグループでEPIC/SONYからデビューしたことを知っている人は、ほとんどいないだろう。大先生になっている菅野よう子さんも「てつ100%」というグループのキーボーディストだった時のライブを観ている。最近は大活躍の蔦谷好位置君が所属していた「CANNABIS」というバンドは、マネージャーもメーカーディレクターも仲間がやっていたので、応援していた。

伊藤涼さんとヒロイズムさん
 これらのグループは商業的には成功しなかったけれど、その時の経験とネットワークが、一流のサウンドプロデューサー、作曲家とさせているのだ。

 以前の音楽業界は、メジャー契約というのは3年間が普通だった。アルバム3枚位はメジャークオリティの作品を創る環境が与えられた。第一線のエンジニアやアレンジャーなどと一緒に作品をつくることで成長する機会があった。当時はプロフェッショナル向けのスタジオで作業するのが普通だったらレコーディングに関するノウハウも自然と身につけられた。大きなスタジオは、いくつものセッションが行われていたから、スタジオのロビーは音楽家のサロンで、先輩ミュージシャンと交流する場にもなっていた。

 業界が申し合わせをしていた訳では無く、偶然だったけれど、メジャーデビューをしてからの数年間がプロの作曲家のインキュベーションの機会となっていたんだ。
 ラジオに出て自分の作品について語ったり、音楽雑誌のインタビューを受けたり、レコード会社のスタッフに意味わからず「売れる曲つくれ」と言われたりする経験も、プロデュース側に回ってみると貴重な経験となる。
多胡邦夫さんとの打上げ後のスナップ

 近年はそういう場は、ほとんどなくなってしまっている。プロフェッショナルスタジオで作業する機会も少ないし、シングルを数枚出して売れなければみたいなスパンが多くて、新米音楽家が経験を積む機会としては、あまりに貧しい。


「このままだと新人作曲家はボカロPだけになってしまう!」という危機感を持った。ニコ動は面白い場だと思うけれど、音楽シーンの過去の流れとは隔絶していて、Jポップが培ってきたクオリティやノウハウが受け継がれていない。

 僕が「山口ゼミ」でやろうとしているのは、そんなインキュベーションの代替機能だ。一流のサウンドプロデューサーに来てもらって、僕が横からチャチャ入れながら、本音で話をしてもらう。本当に一線で作品を創っている人の息吹を感じるのが一番意味があると知っているからだ。たくさんの人が貴重なお話しをしてくれて、その友情には本当に感謝している。公式サイトにコメントもくれているので、興味のある人は読んでみて欲しい。

 浅田祐介さん、TAKU☆TAKAHASHIさん、Ken Araiさん、今井大介さん、nishi-kenさんと、どれも素敵なコメントだ。みなさん、新人クリエイターが育つ場がなくなっているという危機感は共有してくれているからなのだろうけれど、めちゃくちゃ協力的でありがたい。

 いつの間にか副塾長と名乗るようになってくれた伊藤涼さんの「コンペに勝つデモテープの作り方」という講義は秀逸だ。普段は、黒い幕の向こうに隠された大型コンペというのが、どういう構造、価値観で行われているかを体感できる「疑似コンペ公開添削」は、毎回、受講生の緊張感がよい感じだ。伊藤涼の辛辣なコメントを「伊藤斬り」と名付けたのは僕だけれど、斬られても、斬られても立ち向かってくる奴は、確実に力をつけてくる。


 「山口ゼミ」の講義と並行しながら、新人作曲家のための本も2冊監修して出した。『プロ直伝!職業作曲家への道』は、第1期の講義をやりながら並行して書いていった。昨年出した『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていることは、自宅作業が主になった作曲およびレコーディングについて、一流作曲家が何をやっているかをわかりやすくまとめた本だ。受講生との肌感覚で必要とされていることをまとめたつもりだ。

 「山口ゼミ」修了生でプロレベルに達したと僕らが判断した人だけで構成する山口ゼミのOBOG会「Co-Writing Farm」は、39人の大所帯になった。昨年末には、NEWSMISIAで採用されるという朗報も届いた。
素晴らしい環境のキティ伊豆スタジオ
 最近のコンペは商品レベルのデモクオリティが求められるから、コーライティング(共作)というデモの作り方も有効だ。自分の得意な部分を活かしながらのコーライティングがそここで行われている。

 育成にはある程度、自信があったけれど、嬉しい誤算だったのは、受講した人達がコミュニティをつくって、その場にエネルギーが生まれていることだ。作曲がPCに向かった孤独な作業になっている時代だから、同じ仲間を持った仲間が居ることは貴重なのだろう。年齢や立場を超えて、濃密なコミュニケーションが行われているようだ。

試聴会後の記念撮影
 老舗リゾートスタジオであるキティ伊豆スタジオに協力してもらって、コーライティングキャンプも二度やってみた。一泊二日で1曲のデモを0から完成させるのは、ハッカソンみたいで面白いし、スキルを上げる機会にもなるから、定期的に続けるつもりだ。キャンプにゲストとして招いている作曲家は第一線の人達だけれど、刺激を受けてくれているみたいだ。

 そんな感じで「山口ゼミ」は、続けるつもり。約2ヶ月間で8回というの講座を年4回やっている。実績も上がっているので、作曲家志望の友人知人がいたら、まずは説明会に来るように薦めてあげてください。

●東京コンテンツプロデューサーズラボ「山口ゼミ」公式サイト
●MUSICMAN-NET Special Interview 山口哲一×伊藤涼

2015年1月1日木曜日

独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜

 新年明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いします。

 2012年から3年続けて同じテーマで元旦にブログをアップしてきた。今年が4年目。過去はある程度的中させてきたのだけれど、2014年の予測は、見事に大外れだった。多少は希望的観測は込めていたけれど、振り返ってみて日本の音楽業界の変化の遅さに、心の底から残念だ。 

 昨年の元旦に予測した3つは全く持ってダメだった

●ストリーミングサービスの本格的に普及する
 ご存じの通りだ。全く外れた。驚くべき事だ。
 Spotify の日本法人ができたのは2012年の12月だし、Japan代表として来日したハネス・グレーのウエルカムパーティを渋谷のバーで僕が主宰したのは、20131月のことだ。その時は、まさかJapanのサービスが始まらないままに2015年を迎えるとは夢にも思わなかった。 
 鳴り物入りで発表されたLINE MUSICも始まらなかった。昨年の5月ローンチのはずだった。
 全ての理由は、もちろんレコード会社の許諾がでないことだ。サービス事業者としては、一定以上の作品を揃えて、サービスを開始したいと考える。日本の法律では、音楽ストリーミングサービス事業を行うには、楽曲ごとにレコード制作者と実演家の著作隣接権をクリアーする必要がある。アーティストや事務所がOKでも、レコード会社がNoと言ったら配信できない。レコード会社が許諾を出さなかったことが原因で、ストリーミングサービスが始まらなかった、とても残念な2014年だった。

O2O活用でCD店が活性化する
 もちろん起きなかった。Online to Offlineというのは、ネット上にコンテンツがあって、それをリアルに反映させるという考え方だから、ソーシャルメディア上に楽曲が無いのに、店舗にフィードバックさせようが無い。昨年はCD店側から、「売ろうにも商品がレーベルから出てこない」という悲鳴に近い声を聞いた。
 特に新人アーティストを売り出そうという姿勢がメジャーレーベルに見られないのは、本当に残念だった。

●ストリーミングサービス発のヒット曲が出る
 欧米では新しいヒット曲の方程式になっているのだけれど、日本ではもちろん、出るわけが無い、以下、同上。

 もう、日本を離れるか、職業を変えるかと思い詰めるくらいの2014年だった。

 ただ、昨年の後半から流れは変わっている。
 どういう経緯かは知らないが、大手レーベルの姿勢が変わったのだ。昨年の前半までは、奥深いところで「できるかぎり時計の針を前に進めない」という力学を感じたのが、何故か「来たるストリーミングサービズでもレコード会社が音楽流通の中心を担う。そのために動く」という意思変更が行われたようだ。
 アーティスト側に立って仕事をし続けている僕の立場で言うと複雑な心境もある。でも300歩譲って、音楽ストリーミングサービスの普及に取り組んでくれるのなら、それが良いと思う。
 ストリーミングが全てを解決する訳ではもちろんないけれど、音楽シーン活性化に必須の「ソーシャルメディア上で音楽ファンが好きな曲を広める」という状況が成立するためには、ストリーミングサービスへの楽曲許諾がマストだ。理由はともあれ、ともかくサービスを始めて欲しい。そのために役に立てることがあるなら何でもしたい

 LINE MUSICは、LINEとソニーとエイベックスの合弁会社がサービスを行う。アメブロを運営するサイバーエージェントとエイベックスも提携してサービスを始めるようだ。本当に頑張って欲しい。
 心配なのは、呉越同舟、同床異夢な感じが満載なことだ。世界的に有効性が証明されている「フリーミアムモデル」を否定しようとしているらしいのも困ったものだ。無料と有料を組み合わせて、音楽との接点を増やしながら、有料会員を増やして、権利者側に売上の60%〜70%を還元するというストリーミングサービスの仕組みは、21世紀の優れた発明かもしれないのに、「音楽は無料で聴かせない」という原理主義で断罪するのは、新興宗教に固執して外科手術を断る信者のようだ。アーティストと音楽ファンのために、データと経済的合理性に基づいた判断をして欲しい。

 それから、レコード会社の音楽サービスに対する姿勢は「供給者目線」に終始している。「音楽は素晴らしいのだから、聴ける環境さえ用意すればユーザーはお金を払う」と思っているとしたら(ほぼ間違いなく、そう思っているのだけれど)時代錯誤の大きな間違いだ。
 LINEやサイバーエージェントなどのIT企業は、経済的合理性以外の判断が行われるとは想像もできないだろうし、ユーザー目線しか持ってないだろうから、そのままサービス設計をして欲しい。

 一年後に今の音楽シーンの状況が変わってなければ、僕はおそらくブログを書かなくなっているだろう。もう音楽プロデューサーと名乗ることすらやめているかもしれない。
 もちろんレコード会社だけの責任にするつもりは1ミクロンも無い。今年ダメならもうダメだ。そのくらいの危機感を持って、日本の音楽シーンの活性化のために頑張るつもりだ。

 危機感が勢い余って、次世代型の音楽ビジネスを学ぶための場をつくることにした。遠回りのようで、これをやらないと何も始まらない気がしたんだ。
 尊敬する田坂広志さん著書からの引用で「ニューミドルマン」と名付けて、セミナーを始める。従来のスタッフの職域は変わるけれど、アーティストとユーザーを繋ぐ仕事は必要だというメッセージを込めた。昨年行ったプレ講座に集まってくれた顔ぶれは良かったし、講師をお願いした方々から逆に熱意をいただいたりして、本格的にやる覚悟ができた。意欲のある人と一緒にやりたい。

 2015年が良い年になりますように。

追伸:メールマガジン「コンテンツビジネス・ニュース・キュレーション」の発行ができてなくてごめんなさい。毎週末にニュースをまとめて整理するというのは自分にとっても役に立つことなのですが、11月末のSTART ME UP AWARDSMUSICIANS' HACKATHONから、師走に突入し、12月後半からは2月に出る著作の執筆にと追い立てられていました。立て直して、継続するつもりでいますので、もう少々お待ちください。

2014年12月1日月曜日

世界初!(らしい) 「MUSICIANS' HACKATHON」大成功!新たな 歴史のページが開かれたのかも。

 エンタメ系スタートアップを応援するためのStart Me Up Awardsと同時開催のハッカソン。最近は、日本でもハッカソンは珍しくなくなってきているので、僕らが企画したのは、音楽家が必ずチームに居るという「MUSICIANS' HACKATHON」。欧米では音楽家がハッカソンに参加すること自体は珍しくないだろうけど、こういうスキームでやったハッカソンは世界初らしい。気持ち良い響きなので、言わせてもらっている。

 きっかけは浅田祐介さんとの会話。「ハッカソンってもっと面白く出来るよね?」。
浅田祐介46歳は元祖ギークな存在で、中高生の頃は楽器よりもコンピューターが好きだったのは知っている。「じゃあ音楽家が必ずチームに居るハッカソンやるから、U-ske君がキャプテンね」と、オーガナイザーとして、即座に任命した。

 彼の人柄と交友関係で、日本の第一線で活躍するサウンドプロデューサー、アーティストが集まってくれた。とはいえ、音楽家向けの説明会をやった時は、ほとんどの人はハッカソンがどういうものかわかってなくて、頭を抱えてた。プログラマーなどの一般参加者と、ゲスト音楽家を別々にFacebookグループをつくって、アイデアを募り、僕らが間をとりもったけれど、事前にチーム組成のメドを出しておくという目論見は、見事に外れ、正直なところ当日の朝は不安で一杯だった。

 結論から言うと、まったくの杞憂だった。アイデアを出し合って、チームを組む段階から、ものすごい熱量が出ている場だった。運営協力「リクルートテクノロジーメディアラボ」の伴野さんの仕切りの手腕も見事で、アイデアをぶつけ合いながら、約80人から、17組のチームができた。初対面、しかも異分野の人同士なのに、朝からエネルギーが溢れていた。会場協賛してくれたTHE SOHOは、オフィス兼住居ビルなんだけれど、非日常感もあり、東京お台場のキッチュさを体現しているスペースだった。ここでやれたのも良かった。協力してくださった皆さんに感謝。

 僕は、その後、Start Me Up Awardsの最終審査会のために、通り向かいの日本科学未来館に移動。戻ってきて、夜の中間発表の時には、もうみんな和気藹々だった。
 日本の第一線で活躍を続けている音楽家は、高いクリエイティビティと人間力を持っているのは知っていたつもりだけれど、今回も、そのパワーをまざまざと見た。キャプテン浅田が何度も何度も「こんなにみんなが目を輝かして何かを作っている姿を久しぶりに見た」と言っていたけれど、同感だ。中間発表が終わったときには、不安は大きな期待に変わっていた。

 寝袋で数日分の睡眠を取った翌朝は天気も快晴で気持ちよかった。15時にハッキングは終了して、16時から発表会。これが凄かった。17組全部が、発表をできること自体が、ハッカソンとしては珍しいらしい。チームの結束が固いのと、その場のテンションが高いのが印象的だった。

 一組4分間の発表会は、さながらエンターテインメントショーだった。感嘆と爆笑と満場の拍手がひっきりなしに起きた。詳細レポは公式サイトなどに載せるので、そちらを見て欲しいけれど、円ドルポンドの為替の動きに合わせて曲を奏でるFX-SOUNDとか、スマホが猫になって、曲を聴かせると性格が変わるアプリ「ねこゴロゴロ」とか、クレイジーな発想がたくさんあった。

 API提供会社の理解もありがたかった。主宰する僕自身もそうだけれど、音楽関係者はAPIなどのIT知識が乏しい人が多い。トンチンカンなことも多かったはずだけど、暖かい目で見守りつつ、サポートしてくれた。次にやるときは、API側との連携ももっと上手にとっていきたい。

表彰式は、歓喜に包まれていた。音楽では何度も賞を取っているはずの今井大介さんが、ガッツポーズで「本当に嬉しい」って言っていた。20代のプログラマー、デザイナーと一緒に作った「I am your DJ」というリコメンデーションは、SpotifyとGRACENOTEから表彰された。ツボを押さえていて、ストリーミングサービスが広まれば日本でもすぐ使われそうだ。

 最優秀賞をとったのは「日本パーティ党」。Kinectを使ってダンスのリズムを測定、リズムに近い楽曲を自動的に流すというサービスを見事に仕上げていて、完成度が高かった。チームメンバー、元ニルギリスのアッチュが名言で締めてくれた。「プログラムって、何をやっているかわかんなかったけど、一日でこんなものつくっちゃうなんて凄い!プログラマー最高!」
 感極まった受賞の弁を聞きながら、僕も涙が出そうになった。
 うん。また、やるよ。

 こんなことを続けていれば、何か凄いことが必ず起きる。日本の産業は、個々に旧い障壁で分断されて、パワーが落ちているだけで、潜在力は高い。異ジャンルのクリエイターがコラボレーションすればブレイクスルーは起きるはずだ。日本人のクリエイティビティを信じて、続けていきたい。

参加音楽家(順不同・敬称略):浅田祐介、松武秀樹、RAM RIDER、 渡部高士、 浅岡雄也、Yun*Chi、ミト (クラムボン)、松岡英明、岩田アッチュ(EX.ニルギリス)、藤井丈司、本間昭光、島野聡、今井大介、Neat's、1980YEN (ICHIQUPPA)、藤戸じゅにあ(THE JETZEJOHNSON)

追記(12/9):運営協力のリクルートメディアテクノロジーラボ伴野さんが、MUSHUP AWARDSのサイトに全作品紹介を載せてくれたので、見てください!
【ハッカソンレポート@SMUA2014】Musician’s Hackathon2014 〜全作品紹介〜

2014年11月30日日曜日

Start Me Up Awards 2014終了。これから始まるよ。

 エンターテイメント関連、メディアコンテンツ系のスタートアップを応援して、既存の業界と起業家をつなぐためにはじめたSTART ME UP AWARDS 2014の最終審査会&表彰式。
二次審査が通過した8社が、プレゼンテーションして、来場者の投票で受賞者を決めた。

 二次審査をお願いしたキュレーターは、
 石川真一郎 (株式会社ゴンゾ副社長・グロービス講師)
 尾田和実(ギズモード・ジャパン編集長)
 鈴木貴歩 (ユニバーサルミュージック・デジタル本部長)
 林信行(ITジャーナリスト)
 ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
 東明宏(グロービス・キャピタル・パートナーズ シニアアソシエイト)
 上森久之(トーマツベンチャーサポート株式会社 エンターテイメント テクノロジーセクター事業統括)

 二次審査では8人の目利きが、独創性、事業性、グローバル性、社会的意義、成長性、エンタメ性(ワクワク感)の6つの基準で総合的に評価。興味をもったサービスにはキュレーターとしてアドバイスを送るまでやってくれたので、最終審査はシンプルなアンケート投票型にした。
 
 最優秀に選ばれたのは、「LIVE3」というサービス「今夜なにする?を解決する」というライブのキュレーションをするというスマホアプリ。

一般の観客の投票により選ばれる「エンタメ賞」は、Spincoasterの「SONG PITTCH」。缶バッチ型の通信機器で自動的にプレイリスト共有できるというサービス。

 キュレーターからの評価が高かった「キュレーター賞」は、「Wovn」。サイトの他言語翻訳が簡単にできるサービス。

 惜しくも選ばれなかった5社のファイナリストも、二次審査からブラッシュアップしたプレゼンテーションを見せてくれた。引き続き、注目&応援しておきたい。

 ご協力いただいた皆様、ご来場いただいたベンチャーキャピタルや、産業革新機構の方々、本当にありがとうございました。

 審査会場の日本科学未来館の通りを挟んだ向かいにあるTHE SOHOでは、世界初らしい、音楽家がチームに加わるMUSICIANS' HACATHONが同時開催されている。
 エンターテイメントビジネスを活性化するには、新しいテクノロジーを活用した、イノベイティブなアイデアが必要だ。
 Start Me Up Awardsは、そのきっかけを作る場となるように、継続していきたい。僕らの未来はここにあると信じている。

2014年10月28日火曜日

日本にはエンタメ系スタートアップが必要だ!よね?? 〜Start Me Up Awardsやります!

 「ニューミドルマン養成講座」やってます。受講生は22名。どんな人がくるか心配だったけれど、意識の高い、やる気のある人達が集まってくれて、毎回の講座で会うのが楽しみになっている。
 ゲストの皆さんもありがたい。「ニューミドルマンはこうあるべきですね」って、それほど詳しく説明している訳では無いのに、僕のコンセプトを理解して、それを超える提案や意見を披露してくれる。今回の6人は、「音楽業界改革の同志」と思える人達を選んでお願いしたけれど、間違ってなかった。嬉しい。自分が講師じゃ無い時に、観に来てくれたりして、ギャラリー席が華やかだ。



 僕がやろうとしているのは、日本の音楽ビジネスの未来像を描くことだ。「ニューミドルマン」という概念を提唱しているのだから、そもそも「音楽ビジネス」というカテゴリー自体も無意味になるし、様々な業界の障壁も溶けていくというのが前提だ。
 ただ、ITジャーナリストな人達や未来先取り風の文化人が言いがちな「どうせなくなるだから壊しちまえ」的な論旨には、僕は絶対、組みしない。日本の音楽業界の仕組みには素晴らしいところがたくさんあるので、それを発展的に継承したい。「プロ作曲家育成」なんて看板を掲げて「山口ゼミ」を始めたのもそういう思いからだ。ニコ動を中心としたUGM型のムーブメントは、とても面白いと思うけれど、未来の日本の音楽をボカロPだけに託す気持ちにはなれない。正統派のプロ作曲家、実力のあるサウンドプロデューサーを育てたい。

 前置きが長くなってしまった。Start Me Up Awardsというエンタメ系スタートアップを対象としたアワードを立ち上げたのも、動機はまったく同じだ。他の業種もそうなのかもしれないけれど、日本のメディアコンテンツ系の業界(いわゆるギョーカイ)は、独自の発展をして、ガラパゴスに蛸壺化してしまっている。全体のパイが右肩上がりの時は良
かったのかもしれないけれど、もうとっくに限界だ。蛸壺の内側だけを見ていると、「もう俺の業界はダメだ」って思うけれど、二歩くらい上から俯瞰して眺めることができると、たくさんのビジネスチャンスが眠っている。
 「業界横断型プロデューサーが必要」というのは、以前から言われていることだけれど、業種を超え、既成概念を疑って、グローバル市場への視点を持てば、日本人の強みを活かせるところはたくさんある。

 日本のコンテンツ業界ができていないのは、「デジタルファースト」。新しいテクノロジーをビジネスに活かすという当たり前のことに対して、遅れている。欧米は、ITベンチャーが音楽と一体となって、共に発展しているのに、日本は対立していると言うよりは、無関係だ。距離が遠い。Start Me Up Awardsは、ITベンチャーや起業家志望者と、音楽業界、メディア業界、既存の大企業が接点を持てる場にしていきたい。まだ間に合うと信じている。実際、このプロジェクトをやろうと思って動き始めたら、いろんな人達が共感して、jointしてくれた。朝日新聞メディアラボ、リクルートテクノロジーメディアラボ、スペースシャワーネットワーク、トーマツベンチャーサポートなどなどなど。大企業も新しい部署をつくって、ITとベンチャーの流れに接点を持とうとしている。ベンチャーキャピタルもあっという間に集まって、12社以上が最終審査を見に来てくれる。官製ファンドの「産業革新機構」もオブザーバー参加してくれる。

 ハッカソンもやる。アーティストやサウンドプロデューサーが、チームに必ず1人いるというハッカソンというのは「世界初」らしい。欧米では、音楽家とプログラマーが一緒に何かをつくるって、珍しくもなんともないけれど、当たり前すぎて、わざわざハッカソンとして組成しなかったらしい。
 米国でハッカソンを覗きに行くと感じるのは、本当に自由と自主性に溢れているなと言うこと。僕らは日本でやるので、その哲学はリスペクトしつつ、日本人らしいきめの細かさのある運営をしたい。チーム組成も丁寧にやりたいし、その日限りではなく、継続してフォローアップしていきたい。 
 
 起業家および起業家志望のみなさん!是非、Start Me Up Awardsに参加して下さい。書類締切は11/10です!
 エンターテインメントの定義は自由。食やファッションはもちろんのこと、B to Bだろうと、医療だろうと、やっている人が「これはエンタメだ」と思えばOK

 音楽に興味のあるエンジニアやデザイナーは、ハッカソンに申し込みを!浅田祐介キャプテンを中心に意識の高い音楽家が、下は20代から、還暦を超えた「4人目のYMO」松武秀樹さんまで、集まってくれている。イケてるエンジニアの参加が待たれる。
 ここから、新しいサービスや表現がきっと産まれることだろう。今からワクワクしている。歴史の針を動かそうよ!



2014年10月11日土曜日

「西野カナdarling現象」で再認識するクチコミパワーと新ランキングRUSHの魅力

 最近、注目&応援しているネット上のクチコミを楽曲の人気指標化したRUSH。毎週金曜日に発表されたら必ずチェックするようにしている。音楽プロデューサーとしての定点チェックとしてだけでなく、CREAwebで「来月流行るJポップ」というコラムを連載するようになって、リリース前の人気曲がわかるので助かっている。

 10/10付のRUSH総合ランキングを見ていたら、813日リリースの西野カナdarlingが突然、総合3位に入ってきたので、びっくりしてリサーチしてみた。

 おそらく理由は、ある女子高生による、このツイートだ。
 「Darling」の歌詞に合わせた漫画を描いて、ツイートしたのが公式RTだけで3万を超えている。

 早速、「RUSHニュース」でも分析していた。この記事の内容におおむね賛成だ。

 Yahoo!のリアルタイム検索の結果を見ても、ツイートの1回目と、続編の漫画を投稿した2回目のツイートと、そのタイミングが明確に連動している。
 そして、注目が集まったことに合わせて、iTunes Storeのダウンロードのチャートでも1位になっている。仮にRUSHのランキングアップだけだとしたら、ネットで騒がれただけでしょ?という判断もできるけれど、実際に売上にも結びついているのがすごい。TwitteriTunes Storeの相性の良さは、日本でも欧米でも一般的に語られていることだけれど、今回も証明されている。

 今回の西野カナ「darling」は、歌詞が女性に人気だという噂は耳にしていたけれど、歌詞の世界に触発された無名の女子高生の漫画が、発売2ヶ月後に人気を再燃させるとは誰も予測できなかっただろう。レーベルのPRはリリースタイミングに集中しがちだし、発売日にピークを持って行くのがマスプロモーションの常道だったりするけれど、ユーザーに刺さるのは、新譜リリースタイミングだけでは無いのは当然だね。


 RUSHチャートでは、3週間前にも嵐の数ヶ月間のリリース曲がチャートに入ってきていた、何だろう?と思ったら、ハワイ公演の影響だった。ハワイは彼らにとって縁の深い土地だからファンにとっても特別なのだろう。周知の通り、ジャニーズ事務所は音楽配信を原則的にやっていないので、iTunesなどへの跳ね返りは無かったけれど、もしライブに合わせて、期間限定でも配信をやっていたら、コアファン以外にも広がるチャンスだったかもしれない。

 オリコンは、相変わらずCDの売上という「所有」のチャートに固執している。年間アルバムチャートなら一定の意味があると思えるけれど、週間シングルチャートは、人気楽曲の指標としては機能を失ってしまって久しい。
 Billboardのジャパンチャートは、ラジオのオンエアー回数、ダウンロード数に加えて、レンタルCDでの人気も反映できるルックアップ数(CDをリッピングしてCDDBにアクセスした回数)まで反映されたランキングを作っていて、すごく頑張っているなという印象。

 そんな中で、新たに出てきたネットのクチコミを人気楽曲の指標にしたRUSHの魅力は、「近未来予測的なランキング」であること。RUSHのアナリストと話をしてみると、リリース1週間前に、オリコンランキングは、ほぼ予測できていて、複数買いなどで「作られる」ランキングと楽曲そのものの人気も区別して見ることができているそうだ。既に解析の仕組みは出来ていて、どうやってわかりやすく伝えるかを検討しているという。日本語で書かれたブログとTwitterの全てを解析して、文脈によるネガティブ、ポジティブなども考慮し、数々のノイズ的な投稿を削除する仕組みだというが、毎週見ていると、リアリティを感じられるランキングになっているのがわかる。

 RUSHは、現在、グロースハッカー的に関わってくれるスタッフを募集しているそうだ。音楽メディアや音楽サービスに興味のある人は、応募してみてはいかが? 
 ●RUSHランキングを世に送り出すグロースハッカー募集

 新しいテクノロジーやメディアを活用すれば、音楽市場や音楽シーンを活性化するんだなと、今回の「西野カナdarling」現象で、改めて思った。だからこそ、LINE MUSICもSpotify Japanもアメブロの音楽サービスも、一日も早く始まって欲しいと心の底から願っている。