2016年1月1日金曜日

独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜

 新年あけましておめでとうございます。去年は14本しか書けなかった本ブログですが、引き続きお付き合い下さい。

 2012年元旦から続けている同タイトルシリーズ、昨年は、前年の予測が外れすぎて落ち込んだけれど、2014年の音楽サービスは概ね予想通りの展開だった。

 2016年の独断予測は、今年を占いつつ、近未来への希望をまとめようと思う。

●サブスクリプション型ストリーミングサービスの有料会員は200万人超へ


 昨年は、4月にAWA5月にLINE MUSIC6月にAPPLE MUSIC9月にGoogle Play Musicとオンデマンド型ストリーミングサービスが日本で始まった「ストリーミング元年」となった。
 各サービスの有料会員数は正式発表されていないけれど、控え目に見て、昨年中に全サービス合計で50万人は超えていたと思う。僕が主宰するデジタル時代のビジネスパーソンを育成するセミナー「ミューミドルマン養成講座」にも、AWAの小野さん、Google Play Musicの鬼頭さんというサービス開発のど真ん中に居る人をゲスト講師にお招きして話を伺った。懇親会で裏話も含めて、お二人共、自社のサービスがユーザーに届いてることについては自信を持っていた。
 音楽を聴くというは個人的なことなので、普段は客観的な人も音楽体験については自分基準で可能性を判断してしまいがちだ。ストリーミングサービスに否定的な人も、過剰に期待を持つ人も、無意識のうちに「だって、自分なら」という感覚で判断しているように見受けられることが多い。
 コンテンツがクラウド上の管理になり、スマートフォンがデジタル流通の主流になり、ネットへの常時接続が普及するという、社会の変化に基づく必然的な変化が、音楽ストリーミングサービスを伸張させているという客観的な視点を、音楽が好きな人ほどしっかりと持つべきだと思う。水道水より井戸水が好きな人が居ても良いし、個人としてそれを貫くことはできるけれど、ビジネスとして考えたら、環境要因から変化することは避けられないのだ。


Spotify いよいよ日本サービス開始


 そして、今春には、いよいよ大本命のSpotifyが日本開始をしてくれそうだ。
日本法人設立から3年余り、満を持してというべきか、紆余曲折を経てというべきかわからないけれど、さすがに始まると思う。
 論拠はいくつかあるけれど、一番大きいのは、Spotify本社の経営陣が妥協してでも日本サービスを始める必要があることだ。去年のApple Musicがあっさり日本でもサービスを行ったのはSpotifyにとってネガティブ要因だ。これから株式公開を準備しているSpotify経営陣にとって、最大のコンペティターであるアップルがサービスしている世界第二位の市場が手付かずというのは、投資家視点でマイナスになる。サービス内容について日本向けカスタマイズを行ってでも、レコード会社との許諾契約をまとめようとするだろう。一日も早いサービス開始を期待したい。
 実は、日本で始まっているオンデマンド型ストリーミングサービスは、有料のみとなっている。海外ではフリーミアムモデルのGoogle Play Musicも日本では有料サービスしか行っていない。Spotifyのサービスの肝は無料と有料を組み合わせたフリーミアムと、有料サービスへのコンバージョン率の高さだから、日本でのストリーミングサービスの普及に貢献してくれるはずだ。
 既にサービスを始めていたKDDI系で台湾発のKKBOX JAPANも含めた6社合計で有料会員が200万人までは、今年中に伸びていくと予測しておく。

 ただ、レコード産業にとってパッケージと肩を並べる規模になるには、1000万人以上の有料会員が必要だ。LINE MUSICは単独で2000万人という目標を掲げて始めたという話も聞く。数年以内に、その位の数字になるように関係各位の努力を期待したい。レコード産業はパッケージとストリーミングの合計で3年後には5000億円売上を目指そうよと、お屠蘇気分を理由にして言っておきたい。

●インターネットラジオが一般化する


 サブスクリプション(月額課金制)オンデマンド型ストリーミングサービスが広まるとして、日本で普及が待たれるのがインターネットラジオだ。普及が遅れている理由は、日本の著作権法制度とレコード業界の許諾姿勢にある。
 アメリカはDMCA(Digital Millennium Copyright Act / 通称:ミレニアム法)をつくって、「インターネットラジオ」を定義付け、その基準をクリアーすれば、規定の使用料を支払って自由に楽曲を使える仕組みを作っている。ミレニアム法があるお陰でアメリカでは、Pandora RadioiHeart Radioなどの新しいサービスが普及して音楽業界に巨額の収益をもたらしている。
 日本でもテレビ局やラジオ局の番組では、楽曲を自由に使って、使用データと使用料をまとめて支払う仕組みになっている。インターネット回線を通じているから、「放送」と基準が違うというのは、ユーザーにとっても時代遅れの仕組みだ。

 実際、radikoというサービスは、全国のラジオ局の番組をネットで聞けるようにしただけで、ラジオを復権させた。みんな何となく「ラジオはもうダメだよね」と決めつけていたけれど、ダメだったのは、放送をラジオチューナーを使って聞くことで、ラジオ番組自体にはコンテンツとしての魅力があることをradikoが証明してくれた。放送エリア外でのネット試聴を有料にしたら月額350円の有料会員が20万人になったという。新しい市場も産んだのだ。Radikoは聞き逃し用の期間限定のオンデマンドサービスやオンエアーした楽曲とリンクするような仕組みを提供しようとしているが、大手レコード会社がブレーキを踏んでいるらしい。自分たちに収益が上がることであっても、仕組みが変わることにはネガティブだという風に見えてしまう。レコード業界は、音楽ファンからの支持も大事だし、政府からも見た存在感についても危機感を持つべきだ。コンテンツ産業の活性化は安倍政権にとっても重要課題で、その足を引っ張っているのがレコード業界と見えるのはよろしくないだろう。原盤許諾の根拠になっている「レコード製作者の著作隣接権」は、アメリカの著作権には無い概念だ。音楽業界と音楽家を豊かにするために行使されるべきであって、「ともかくデジタルなことは邪魔をする」というスタンスに見えてしまったらどうだろう?折しもTPP時代だ。レコード会社の著作隣接権行使の社会的意義が疑われ、法律改正が検討されるような事態になったら大変なことだ。
 アメリカでは、ミレニアム法設立時にSoundExchangeというNPO法人が設立され、インターネットラジオに関する権利徴収と分配を行っている。2015年はレコード業界が積極的に日本版SoundExchangeを作って、自らの権利収益を最大化するような動きを見せて欲しい。

 今春には楽天が、インターネットラジオのインフラを無料で提供するプラットフォーム「楽天FM」が本格開始するという。音声広告のネットワークの仕組みで、チャンネルオーナと売上シェアをするらしい。いわば楽天市場のネットラジオ版だ。様々な事業者が、自らのカラーを打ちだして、ネットラジオ局を持つというのは今の時代に合っている。インディーズレーベルや音楽事務所はもちろん、専門学校やファッションブランド、お菓子メーカーなどが、ユーザーとのエンゲージメントを深めて、ビジネスにプラスにするという試みが出てくるだろう。ラジオと音楽の相性は良い。インターネットラジオの普及が音楽シーンと音楽ビジネスの活性化になることを期待したい。

VR映像とライブエンターテインメントの融合が本格的に始まる

 
 2014年にCD売上を上回ったコンサート入場料収入は2015年も上向いたようだ。デジタルファイルとなった楽曲はインターネット上で無料化圧力との闘いがあるのに対して、SNS普及でコンサート体験の価値は上がっているというのが音楽ビジネスに関する近年のトレンドだ。デジタル配信が可能なった映画館でのコンサート鑑賞、ODSを活用したライブビューインジャパン社は売上を伸ばしている。
 2015年はVR(バーチャルリアリティ)的なライブ体験が、VR×ライブエンターテインメントが本格的に注目される年になるだろう。

<近未来予測扁>

 さて、僕は東京五輪が行われる2020年までの日本市場は、ひとまとまりのトレンドで捉えるべきだと思っている。アベノミクスへの評価は後世に委ねるとして、株価や為替を戻し、活発な東京再開発と不動産価格の上昇などマクロ的にはプラスになっているのは事実だ。ベンチャー支援、コンテンツ輸出、インバウンド拡充など政策の方針は正しい。産業構造や社会福祉システムの構造、少子高齢化など根本的な日本の課題解決について手付かずなのは、大問題だと憂慮するけれど、とりあえずは今の流れが2020年までは続くと思って良いだろう。そんな中で、音楽ビジネスにとっての今年から3〜5年間のトレンドについても触れておきたい。

テクノロジーとの融合で音楽が拡大する


 前述のVR×ライブエンターテイメントでも新しいテクノロジーの活用は重要だけれど、他にも様々な可能性が眠っている。
 1950年〜60年代の電化(トランジスタ)によって、音楽表現には大きな変化があった。エレキギターのディストーションサウンドもハモンドオルガンもテクノロジーの恩恵だ。そのことに比べると、この20年のデジタル化が音楽表現に与えている影響は軽微だ。
 DTMとサンプリング音源が、レコーディングを安価に誰でもできるものにはしたけれど、表現そのものに革命的な変化を与えたとは言い難い。メディアの変化も含めて、今のポップスの表現や形式そのものに大きな変化がでてきておかしくないはずだ。音楽ファンの洗練度が高い日本では、「ポップミュージックの拡大解釈」的な変化で世界の先頭を走れる潜在力がある。

  プロデュースの比重がクリエイターサイドに移ってコーライティングを活用した音楽制作システムになっていく


 もう少し目先の具体的な変化としては、楽曲制作の役割分担、仕組みが変わるだろう。欧米型に近づくと言ってもよい。自作自演のアーティスト以外のメジャーアーティストを除けば、日本でも「コンペ」(Competition)による楽曲選択の仕組みが定着している。AKB系列やジャニーズ事務所のアーティストなどは、数百曲から選ぶようなケースも珍しくない。以前は楽曲の原型を選んで、レコード会社のディレクターが形にしていくような制作体制が多かったけれど、今後は、歌詞もアレンジも限りなく完成形に近いデモ楽曲がチョイスされるようなやり方に移っていくだろう。僕が作曲家育成の「山口ゼミ」でコーライティングを掲げ、CoWrtingFarmという若手クリエイター集団を作ったのもこの変化が見えているからだ、このことについては、改めて本ブログでまとめて書くつもりだ。

レコード会社はカタログ管理活用が主事業となり寡占化する


 最近、「レコード会社は潰れるよね?」みたいなことを訊かれることが増えた。レコード会社が流行を引っ張り、カッコイイ存在だった時代を知っている世代としては凄く残念だけれど、外から見た時にレコード会社の未来に暗いイメージを持たれるのもわかる。
 けれど、僕はちょっと違う認識を持っている。新人アーティストを発掘、育成に大きな資金を投入し、マスメディアを活用してスターを生み出すような機能に関しては、レコード会社の役割は大きく下がっているし、今後も縮小され、アウトソーシング的なシステムになるだろう。ただ、膨大なカタログ(原盤権)と音楽業界、メディア業界への幅広いネットワークを持っている。
 新人を売出すというミッションを諦めて、自社が持っている原盤などの権利を最大化する、カタログ活用するのが主たる事業だと捉えると、レコード会社は収益性効率の高い優良企業だ。
 実は、ストリーミングサービスが普及した時に起きることの一つが旧譜の活性化だ。これまでは、その年にリリースした作品の売上比率が高かった。会社にもよるけれど8割以上は新譜売上というケースが多かっただろう。ところが、収益のメインがストリーミングサービスになるとすると、旧譜からの収益の比率が一気に上る。しかも、旧譜活性化には、莫大な宣伝費を掛ける必要はない。ストリーミングサービス内でプレイリストをつくって、嗜好性の近いユーザーにリコメンドしていくことが主たるPR手法になるのだ。レコード会社の収益率は画期的に向上する。
 ユーザーの視聴履歴などビッグデータ解析や適切な楽曲データベースの確立、運用、ユーザ向けのアプリ開発などが肝になるので、企業体として統合する力も働いてくるだろう。
 現在、日本レコード協会加盟社は約20社だが、グローバル視点だとメジャーレーベルは既に3社だ。外資系のユニバーサルとワーナーは別として、他のレコード会社は数社にまとまっていく流れになるはずだ。
 これも、社会環境や市場の変化から生じる必然的な流れで、できるだけスムーズに、摩擦を少なく、軟着陸する知恵が求められていると思う。これからの日本の音楽業界が目指すべき市場は欧米とアジアを中心とした経済新興国だ。そういう意味でも、原盤はデジタル対応で収益最大化、データ分析などをするためにM&Aで寡占化するというのが国益でもあるし、他業種でも起きている自然な流れだと思う。

 日本の音楽ビジネスは、海外との比較で言うと既に4〜5年遅れてしまっている。いわば周回遅れを走っている状況だ。ただ、欧米でもストリーミングを代替する「次のイノベーション」と呼べるようなサービスの萌芽はまだないし、日本の音楽市場は洗練されてい
僕のMBAに貼られたステッカーは音楽×ITの今?
るので、ショートカットルートで追いつくことは可能だ。追いついた上で、新しい活路を探していきたい。キーポイントは、進化するテクノロジーを上手に活用することだ。

 この予測が当たるかどうか、まずは1年間、僕も微力ながら時代の針を前に進められる様に頑張りたい。
 そんな問題意識で昨年出した『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック)出版記念の無料対談イベントも続けている。1月はHi-STANDARDを輩出した名マネージャーで、これからのアーティストマネージメントに必須だと心理療法のプロにもなってしまったハウリング・ブル小杉茂さんがゲストだ、音制連の理事時代にたくさんの刺激をもらった人だ。一緒に飲む機会は多いけれど、人まで素面で仕事の話をするのは珍しい。貴重な機会だと思う。
 1月13日には、知財ホルダー向けのセミナーもやるので、興味のある人はどうぞ。


 ニューミドルマン・ラボも継続していくつもりなので、音楽×ITを仕事にしたい人は参加して欲しい。新しい人材が日本の音楽ビジネスを進化させてくれることを心から期待している。
 2016年が日本の音楽界にとって良い年でありますように。



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