作秋は自分が主宰するセミナー以外に依頼された講座が7つあった。テーマは音楽ビジネスに関するものだったので、自分の中の引き出し、これまで用意した資料のアレンジで対応するつもりだった。著書の出版以来、「講演の依頼は原則的に全部引き受ける」と決めている今の僕は、スケジュールが大丈夫なら、詳細は考えずにお受けしている。2週間位前から、資料作りをはじめるのだけれど、一つだけ困った講座があった。順天高校のGlobal Weekだ。
これまでの僕は、既存の音楽ビジネスで頭が固くなった人をほぐすような話をする場面が多かった。大学生に対しても音楽業界の現状から話を始める。ところが、高校生となると2000年代生まれ、アメリカ社会学者的に言うとGeneration Zだ。2013年に『世界を変える80年代生まれの起業家』というインタビュー集を刊行している僕は80年代、90年代生まれののY世代とは起業家、音楽家を中心に、日常的にコミュニケーションがあるけれど、Z世代は未体験ゾーンだ。一般的な高校生に今の日本音楽ビジネスについて語って何か意味があるのだろうか?
クラウド化してパッケージではなく、スマホでストリーミングで聴くって話をしても「はい。知ってます」で、何の驚きも発見も無いだろう。
デジタル環境の変化とコンテンツ消費の方法については、ジェネレーションギャップが大きい。60代と10代では常識が全く違うのが今の時代だ。
2000年代生まれの高校生に対して僕が語るべきことってあるのだろうか?真剣に考えたら見つかった。「オトナに騙されるな。奴らはデジタルがわかってないから、たいていの場合、判断を間違っている」ということを伝えようと思った。大きなテーマで、消化不良だったかもしれない。改めて年始にこのテーマをブログにまとめておきたい。
題して、「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル術」 だ
その前に、今日のテーマとも関連がある、前回の「独断的音楽ビジネス予測2018」に書き落とした中国、アジア市場の話をしたい。2015年12月中国政府の国家計画の発表以来、それまで違法サイト天国だった中国に音楽市場が「出現」したことは前回書いた。中国の「IT財閥」テンセントが運営するQQmusicはSpotifyと同種のフリーミアムモデル、オンデマンド型のストリーミングサービスだが、月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人超したと言われている。寸年で日本市場を規模で凌ぐだろう。
さて、有料音楽ストリーミングサービスが中国で広まっていることで、起きていることがもう一つある。御存知の通り、中国はスマートフォンの普及率が高く、決済などもすべてスマホで完結する仕組みができあがっている。中国の音楽ファンは、QQmusicで聴いた楽曲がきっかけでアーティストが好きになると、そのアーティストの詳細を知り、コンサートに行きたいと思えば、電子チケットを買い、コンサート会場に行き、SNSで感想を述べつつ、感動した勢いでアーティストグッズを買う。これが全部、自分のスマホ内で完結する。おそらく多くの中国人にとっては、自然な行動だろう。
でも、もし日本人のアーティストが好きになったらどうだろうか?コンサート情報が日本語以外で得られることはめったにない。スマホ決済もできないので、コンサートチケットが買えない。コンビニ受け取りって言われても。それでも数々の障壁を超えて、コンサートを観た後に思うだろう「日本ってなんてITの遅れた国なんだろう」。音楽を聴いたり、アーティストの情報を得るのに障害が多過ぎる。正月に、ウエブ上にジャニーズ事務所のタレントの写真がアップされたことを驚きとともに伝えるニュースがあったけれど、いくらなんでも時代にズレすぎだ。
一方で、日本人の普通の感覚として、ITサービスで、中国やASEAN諸国に大きく遅れを取っているという認識はないのではないか?少なくとも音楽ビジネスにおいては、日本はアジアで最も遅れた国になってしまっているかもしれない。僕は音楽業界人の端くれとして、そのことが心の底から恥ずかしいし、悔しい。これは、「このままだとそうなってしまうから警笛を鳴らす!」という近未来の話ではない。まだ顕在化されてないだけで、2018年1月現在「既にそうなってしまっている」事態だ。
僕が主張しているように、インバウンドの分野でコンサートが貢献できるとしたら、この問題をクリアにしなければならない。ユーザー向けのITサービスの後進国日本、そんな時代に僕らは生きている。
そして、ついでにいうと、日本は中国市場を無視してビジネスすることがあり得ない時代だというのも常識と言ってよいだろう。
ネット言論に多い、無知と偏見に満ちた「嫌韓論」は、反吐が出るほど大嫌いだけれど、クールに考えれば、韓国とは付きあわないという選択肢はあり得ると思う。市場も小さいし、経済的な補完関係もあまり大きくない。文化的、政治的に摩擦があるなら、避けて通ってもそれほど大きな損失があるとは思わない。でも、中国は違う。
世界最大の消費市場が、すぐ近くに存在していて、その国とは文化的な共通項も多く、日本のポップカルチャーに魅力を感じる若い世代もたくさんいる。日本が培ってきた、西洋型のルールやカルチャーを東洋流に昇華している、いわゆる「和魂洋才」なやり方は、アジア各国に参考になるはずだ。著作権ルールや新しいポップスの創り方など、日本流がリファレンスとしてアジアで貢献できることは多い。中国と連携できたらメリットは計り知れない。
さて、今日のテーマはZ世代の日本人サバイバル術だ。 僕が2000年代生まれの彼らと向き合って伝えたかったことは、以下の通りだ。当日の投影資料を並べてみよう。
テーマ1「オトナ達はわかってないことを知る」
・情報のデジタル化、インターネットの発展、IoT、人工知能(AI)など、近年に起きている社会、産業の変化は、本質的かつ不可逆的な人類史上でも稀にみる大きなものである。
・ところが、(特に日本の)大人達は、気づいてなかったり、認めたくなかったりする。
・企業もメディアも(学校も)そんな大人達が制御しているので(特に年功序列型の日本においては)これまで起きてきた過去が未来も続くという前提の言説が広まっている
自分達の当たり前が、大人には驚異的変化だと知っておこう。
彼らの親や教師や働き始めた時の上司で、デジタル化に対して適切な言説を持っている人は日本では少数派だろう。素直な子だと、オトナの多数派の意見を正しいと思ってしまうかもしれないと心配になった。
テーマ2:未来は予測できないが、予見はできる
・半導体やコンピューター、センサリング、人工知能などの発展は、20年位先までは、どんな方向に世の中が進むことは予見できる時代になっている
・世界各国の人口構成や産業規模も20年位先までは、予見可能だ。自分の頭で考えて、きちんと未来を見通そう
未来を予見して、行動を決めることが重要な時代になっている
これは僕の持論で、今は未来予見が可能な時代だ。20年はちょっと言いすぎかもしれない。10年位の世の中の流れは自明なことが多い。
実例:エンタメ産業視点で今起きている3つの変化
•クラウド化 ⇒「所有」から「利用」にユーザー行動が変化
•モノのオンライン化(IoT)⇒ リアルとネットが繋がり、一体化
•ソーシャルメディアの発展 ⇒ すべてのユーザー行動が可視化
この3つの変化によって、
あらゆるエンタメ・コンテンツ産業が、自らの役割や社会における意義を「再定義」し、ビジネススキームやノウハウを「再構築」する必要に迫られている。
これはいつも言っていることだ。Z世代向けに付け加えたのは以下だ。
今日のテーマ3:旧世代の価値観を理解し、受け入れる
•クラウド化 ⇒ エンタメコンテンツはパッケージメディアで楽しみたい。そこに思い入れ、深み、記憶、愛情を感じる
•モノのオンライン化(IoT)⇒ なんでもネットでやることに抵抗感がある。物をネットで動かすことがピンとこない
•ソーシャルメディアの発展 ⇒ オンラインだけの人間関係は偽物だ
できれば変化を忌避したい、一時の流行だと思いたい。少なくとも自分は関係なく生きていたい
こういう価値観、行動原理になっている日本人ビジネスパーソンをたくさん見る。日本の病巣と言ってもよい。僕らは必要に応じて、説明したり、説得したり、無視して進めたりできるけれど、若者たちはどうだろう?理解不能で、すごいストレスを感じるのではないだろうか?
パッケージを愛好することは嗜好だから良い。(音楽プロデューサー的に言うなら、とてもありがたいことだ。)でも、そこに過剰な意味を求めて、音楽を愛好することを宗教の宗派のようにすることは間違っている。多様なエンタメの楽しみ方を許容するべきだし、そこに新たな可能性を感じるべきだ。
ちなみにプロジェクター資料には書かなかったけれど、口頭では、「君らの年齢なら、日本を離れて仕事するという選択肢はあるよ。サンフランシスコでもニューヨークでも、シンガポールでも、ベルリンでも、その選択肢も持って良いと思う。でも日本に生まれた日本人なら、今日の話は意味がある。そして日本社会で仕事をするなら、知っていた方が良いと思う、と。
その後に、自動車がエンジンにハンドルとシートが付いた乗り物から、OSでコントロールされる乗り物に変わるという話や、ブロックチェーンの可能性などを実例として挙げた。
その上で、
今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜国際的に見た日本社会の特徴は?
•コンセンサス積み上げ型の社会⇒「みんなで話し合って、良き落とし所を見つけましょう」な仕組み
•性善説の考え方、仕組みが好き
•年功序列で、目上の人を敬うという東洋的文化がある
•同質性が高く、島国であることと、言語の壁があることで国際競争から守られている(ように見える)
•社会的インフラが整備され、勤勉でマナーがよく清潔で安全な国。
必ずしも悪いことばかりとは思わないけれど、過剰に同質性を求める日本社会の功罪は客観的視点で理解しておいた方がよいだろうと思う。例えば、学校での「いじめ問題」には個人的にはあまり興味無いけれど、根っこには同じものを感じる。
今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜確実に訪れる日本の危機は?チャンスは?
•少子高齢化社社会で、人口が減る、消費市場と労働人口は下落していく
•なのに、制度的にもマインド的にも、移民受入れの準備ができていない
•日本の強みだった、従来型の製造業では勝ち目がない
•イノベーションのジレンマを知る(Apple 対 Spotify、中国のスマホ向けサービスの方が日本より便利)
•1500年以上の歴史と伝統が世界中(のインテリ層)から尊敬されている
観光立国を意識して、食やファッションも含めた文化を売り物にする〜消費者(ユーザー)の質が高いことを如何に活用するか(UGM、二次創作等)が重要だ。
人口が減り、従来型の産業構造のままでは国際競争に敗れて、プレゼンスが下がっていくこと。カルチャーとインバウンドが日本の武器になっていくことは理解して欲しい。
今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜Z世代に必要なマインドセットは?
•組織依存しない、インディペンデントに自分の価値を磨く
•就職と起業を同列で検討する。スタートアップ生態系が日本でも経済構造の(重要な)一部を占めるようになってきている
•海外市場の視点と、そこにおける日本人としての優位性を意識する
•英語はマストスキル。必ずしも英語ネイティブスピーカーになる必要はない。翻訳技術は臆さずに活用する
•インターネットとデジタル技術による「民主化」という概念を知る
おそらく彼らの親世代は、今でも大企業への就職が安全という固定概念から抜けられない人が多いだろう。人生観は自由だし、公務員になれば、安全かもしれない。(彼らの世代だとそれすら怪しいとも思う。)でも、30年前とは様々な前提が変わっていること、親世代はその変化に自分の価値観をアップデイトできてない場合が多い。きちんと自分の頭で判断して欲しい。
英語はできるにこしたことないけれど、Google翻訳もどんどん便利になっているので、技術も活用してコミュニケーションすることが大事だ。
推薦図書として、池上彰、佐藤優、野口悠紀雄の3人の名前を上げた。気になるテーマについて書かれている入門書的な本の時に、きちんと本質を書く信頼できる書き手だからだ。
40人くらいの高校生が僕のメッセージをどんな風に受け止めたかはわからない。でも話していて手応えはあった。5年後くらいに、何人かの役に少しでも立てたら嬉しい。
そして、僕が最終的に語りたいのは世代論ではない。70代でもデジタルの変化をわかっている方はいるし、20代でも鈍感な人もいる。日本のピンチとチャンスを共有して、グローバル化したコンテンツ市場で、サバイブしていく仲間を増やしていきたい。
実はZ世代だけの課題ではない。人生100年のライフシフト時代と言われている中、すべての日本人がグローバル化した世界でどのようにサバイブしていくのか?切実な問題として、引き続き考えていきたい。
2月から始まるニューミドルマン養成講座のテーマは「超実践アーティストマネージメント篇」だけれど、基本姿勢としての中国市場への向き合い、日本のデジタル化の遅れによる課題はしっかり話し合いたいと思っている。
●ニューミドルマンラボ公式サイト
0 件のコメント:
コメントを投稿