2014年1月26日日曜日

Only The Good Die Young. 〜細川健さんと土川俊司さんを悼む〜

  ここ数ヶ月 Billy Joelの「Only The Good Die Young」が耳について離れない。ふと気付くと口ずさんでいる。

 理由はわかっている、細川健さんが亡くなったからだ。63歳という年齢は、高齢化社会
になった今の日本では早すぎる。

 細川さんは音楽業界で大きな功績のある方だ。アリスのマネージャーであり、ヤングジャパングループという数々のアーティストを輩出した会社の創業者だ、
 ポリスターというレコード会社も創業された。渋谷系の総本山であるトラットリアレーベルは、ポリスターの一部門だったし、一方で二人組のアイドルWINKもいるという幅のある会社だった。
 僕は、こなかりゆというアーティストをポリスターからデビューさせてもらった。面白い作品はつくれたと思うけれど、セールス的にはお役に立てずに申し訳なかった。
 
 9年前に日本音楽制作者連盟の理事になったときに、細川さんも理事に復帰された。理事長まで務めて、勇退された方が戻ってきたのは、相当思いがあったのだろう、実際、音楽事務所やアーティスト、音楽業界に対する愛情と見識の深さには、ただただ敬服した。

 忘れられない言葉がいくつかもある「この世界で仕事をするなら、プロデューサーになるか、プロデューサーの役に立つ人になるか、どちらかになれ」という言葉も刺さった。「俺は、アリスはプロデューサーだったけれど、佐野元春に出会って、プロデューサーの役に立つ人になろうと思ったんだ」とおしゃっていて、なるほどと思った。以来、この案件は俺がプロデューサー、このプロジェクトでは**の役に立つ人、と考えながら仕事する癖が付いている。

 今週、渋谷公会堂で行われた、お別れ会は、細川さんの人柄を表すようにたくさんの方が集まった。佐野元春さんの弾き語りに涙した。アリスの「遠くで汽笛を聞きながら」は、心に染みた。

 ここ数年は、お会いしてなかったけれど、昨年の突然の訃報は、ショックだった。「もう細川さんと話せないんだよね?」って、自問自答していた。この先「細川さんに相談しよう」と思いたって、それが叶わないとことを悲しく気付くことが何度もあるだろう。

 本当にBilly Joelの言うとおりだ。「善い人ばかりが、早死にする」。

 神様、そんなに天国は良いところですか?早めに呼ぶのはご褒美なんですか?残された僕らは、哀しみを抱えて立ちすくんでいます。。

 そして、
 このエントリーを書いている時に、40代の友人の訃報を知った。昨年末の井上晃一に続く、年下の友人の死だった。土川俊司さんは、ポリドールのディレクターだった20代の頃に仕事をして以来、会社が変わっても、親しくさせてもらっていた。
 ハードな仕事ぶりはFacebookから見てとれたので、時折warningは送っていた。悩みも抱えているようだったので、一度ゆっくり話そうと言いながら、スケジュールが合わずに1年以上経っていた。新年早々に、心筋梗塞で旅立ってしまった。とても優秀なミュージックマンで、心根も優しく、人間性も素晴らしい男だった。

 1月6日、亡くなる直前のFBの書き込みを見た。

「僕にとっての人生を変えた1曲は、Hotel California
 これを聞きながら眠ろう。おやすみ」

 

 おそらくこれが辞世の言葉だ。
 悲しすぎるし、切なすぎるけれど、音楽の近くで死んでいくのは、僕ら音楽で人生を踏み外した者たちにとっては、美しい姿なのかもしれない。せめてそうでも思わないと辛すぎる。 

 今年になって、大滝詠一さん、佐久間正英さんと尊敬する音楽家も天国に召された。 

 先輩方や、夭折した友人達の分まで、長生きしようと思うし、生きている時間を大切にしようと思う。
 合掌。

2月10日付追記:
このエントリーを書いた後に、いくつかご連絡をいただいた。ご家族の密葬で、業界内への連絡が無かった土川さんとのお別れ会をやりたいという声が強い。6月2日の彼の誕生日に何かできないかと考えている。同じ思いの方は、ご連絡ください。

2014年1月9日木曜日

LINE MUSICに期待すること

 ドリルスピンから依頼をいただいて「音楽ストリーミングサービス」についてコラムを書いた。紙幅の都合と、全体の流れで割愛してしまったけれど、LINE MUSICについては、ラブコールと独断予測を追加しておきたくなった。

 LINEが予告している音楽サービスLINE MUSICには、大いに期待している。友人は何人か関わっているようだけれど、僕自身は何の情報も持っていないし、サービスの内容は一切発表されていないので、以下は勝手な予測と期待だ。

 言うまでも無く、LINEは近年で最も伸びたコミュニケーションプラットフォームだ。特に10代をはじめとした若年層には圧倒的な支持を得た。始まった時は、「ポストペット+Skype」だなと思って見ていたけれど、(スタンプはモモちゃん!)経営陣のビジョンが功を奏したようだ。海外含めて、爆発的にユーザー数を増やしている。


 普通に考えれば、LINE MUSICは、一言で言えば「音楽版スタンプ」を目指しているはずだ。つまり、ユーザーのコミュニケーションを誘発するツールとして楽曲を使うということ。これはどんなものになるのだろう?浅学の僕には具体像は想像できないけれど、これまで体験したことの無い種類の音楽サービスになるはずだ。

 音楽をつくっている立場からは、「音楽をそんな使い方するのかよ!」って、突っ込みたくようなサービス設計かもしれない。寂しい思いをさせられるかなとも思う。
 一方で、若年層から支持されれば、今のLINEなら爆発的な普及の可能性がある。CDを再生する機器を持ってないような層に音楽を聴かせるという役割を果たしてくれるだろう。結果、音楽業界全体にも利益をもたらしてくれることだろう。

 歴史を振り返れば、カラオケも着メロも、音楽業界の外で産まれ、広まったサービスだ。ユーザーから支持されて、新たなカテゴリーがつくられた。着メロの発展系である着うたが、レコード業界に大きな収益をもたらしたのは、記憶に新しい。LINE MUSICにもそういう役割を期待したい。僕は「音楽へのリスペクトが感じられない」と寂しい気持ちを抱えたとしても、自分の作品のプロモーションと収益化への可能性を模索するつもりだ。
 
 もし、LINE MUSIC普通の音楽ストリーミングサービスだったら、失敗すると予測しておく。

 僕も含めて、音楽業界の人間は、音楽は素晴らしく、音楽自体にこそに価値があると信じている。一曲との出会いが人生を変えることもあるのも知っている。アーティストとスタッフが精魂込めてつくった作品は、きちんとしたコンディションで受け止めて欲しいと願っている。それが、時に、独善的に、「こう聴くべきだ」という発想に繋がってしまうことがある。
 本来、音楽の楽しみ方は、時代や世代やその人の嗜好によって、それぞれ自由であるべきなのに、デジタルの進化に、日本の音楽業界は乗り遅れ気味だ。レコード会社が音楽配信用ファイルの置き場所を「自社サーバーに限る」というルールにして、頑なに守っているのは、象徴的だ。大切な作品のマスターは、目の届くところで、きちんと管理したいという気持ちは痛いほどわかるし、ありがたいけれど、経済的合理性や災害対策などを考えても、滑稽なことになってしまっている。

 そんな音楽業界の感覚を尊重してサービスを設計しても、見たことが無いような新しいものは出てこない。LINEは「若い子にバズらせる」ことだけを目指してサービスを考えて、音楽業界の人に嫌がられて欲しい。

 音楽業界に気を遣って、普通のストリーミングサービスにしてしまうと、ユーザーが反応せず、LINE MUSICは来年の今頃には、サービスが終わっているかもしれない。

 そうでなくてもITサービスをやる人達の判断は早い。業種ごとに価値観も目的も違うから、彼らのやり方を批判するつもりは無いけれど、アーティストマネージメントなんて、成果が出るのに3年〜5年掛かる商売を長年やってきた者から見ると、見切りの早さには怖さを感じる。まあ「一度信じた才能を粘って売る」というマネージャー的な感覚は、ネットの世界では通用しないのだろうけれど。

 最近でも、DeNAが鳴り物入りではじめたGroovyは、「着うたユーザーにとっての後継サービス」として、よく考えられたサービス設計だと思ったけれど、本気で勝負を掛けないうちに諦めた、という印象で、残念に思っている。
 (そういう意味ではKDDIが行うKKBOXは、簡単にはやめることはないだろうから応援したいと思う。)

 万が一、LINE MUSICが、"普通"のストリーミングサービスで、そのサービスが成功したら、「読みが甘くてすいません」と頭をかきながら、「音楽の力だね」と喜びたい。

 つまり、この予測は、どちらに転んでも喜べる予測なので、今のうちに書いておきたかった^^


 このアンビバレント(両義性)な気持、伝わるかな?

 LINEが音楽をどう捉えるか、注目してサービス開始を待ちたい。

2014年1月1日水曜日

独断的音楽ビジネス予測2014 〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜

  新年あけましておめでとうございます。更新が間遠なブログですが、本年もお付き合い下さい。

 過去2年続けて、同じテーマで、年頭に音楽ビジネスの年間予測を書いてきたので、今年は3年目になる。昨年は、予測が概ねあたって、胸を張ったのだが。2013年の予測は全くダメだった。音楽とITの専門家を自任する立場としては、面目丸つぶれだけれど、まずは、そのエクスキューズも含めて、2013年の振り返りから始めたい。

 パッケージ売上は現状維持。CD店をネットと連動させて活用
⇒はずれ!
 2013年の音楽パッケージ売上は、前年比8%増を誇ったが、2014年は、10%以上下がることになりそうだ。まだ正式なデータはないけれど、2012年を下回ると言われている。
 昨年は店頭を賑わした大物アーティストのベスト盤などがネタ切れで、秋の売上減が大きいという話をCD店からよく聞いた。商品企画やリコメンドのやり方にも、もっと工夫が必要なのだろう。
 
・ストリーミングサービスが本格開始する
⇒微妙。
 7月からソニーのMusic Unlimited、レコチョクbestKDDIによるKKBOX JAPANとストリーミングサービスは始まった。ただ、欧米でユーザー数を急増させているSpotifyの日本ローンチは無く、始まったサービスもユーザー獲得には苦心しているようだ
 今後の音楽配信の主役になることは間違いないのだけれど、まだユーザーに、魅力を伝えることができずにいるようだ。ストリーミングサービスについては後述する。

・レコード会社がインターネット上に音源を解放し始める
⇒その方向ではあった。ただ、速度はゆっくりだった。

・コンテンツの海外輸出が本格的にはじまる
⇒動き始めているけれど、まだ数字には表れるほどではない。

 総括すると、メジャーレーベルをはじめとした規模の大きいプレイヤーほど、変化への不安がぬぐえずに、スローテンポな2013年だったと思う。もう、誰もブレーキは踏んでいないけれど、怖くてアクセルを踏めないので、エンジンブレーキが効いてしまっている感じ。正直、僕のイメージしたテンポの30%位の速さだった。

 それでも、目指す方向性のベクトルは定まってきていると思う。メジャーレーベルの中からも変化のバイブレーションを感じることが増えてきた。日本のマネージメントやプロデューサー達の意識は高い。希望は持てると思っている。

 さて、2014年の予測。

●ストリーミングサービスの本格的に普及する
 「来るよ来るよ」と言い続けていると、狼中年に思われてしまうかもしれないけれど、今年こそはストリーミングサービスの普及が本格化すると予測したい。

 日本法人を設立して1年以上経つSpotifyが、今春には日本サービスを始めるようだ。最初はβ版的な打ち出しになるようだけれど、世界で急成長中の人気サービスが、日本で始まるインパクトは大きい。

 異論もあるかも知れないけれど、2013年のパッケージ売上が伸び悩んだのは、端的に言えば、ストリーミングサービスが広まらなかったからだと思っている。今の時代にネットで音楽が聴かれない状態は。ラジオ局無しで楽曲PRをするようなものだ。新しいテクノロジーや情報伝達の変化を取り込まなければ、産業が停滞するのは自明のこと。音楽、特に新しい楽曲との接触の機会を増やし、ユーザーの興味を喚起することが、音楽業界にとって、最重要だ。

 世の中の関心も確実に向いてきている。昨年12月には、KADOKAWAグループの社内向け勉強会と、証券会社の機関投資家向けセミナーの講師に呼ばれた。いずれも、「音楽配信サービスがどうなるのか?海外事情と国内の今後を知りたい」というオーダーだった。異業種からの方がよく見えているのかもしれない。流行に敏感な日本で、ストリーミングがブームになる日は、そう遠くない。

O2O活用でCD店が活性化する
 音楽配信サービスが広まると、CDが必要なくなるという誤解は今でも大きいけれど、僕は全然違う観点で捉えている。確かに、iTunesなどのダウンロード型の配信サービスは、パッケージに取ってかわるような側面もあった。主要な音楽配信がクラウド活用のストリーミング型、課金が定額(サブスクリプション)型になることで、パッケージとの棲み分けは明確になっている。

 ユーザーのニーズとしても、色んな音楽をスマフォなどのデバイスで楽しみにたいという気持ちと、好きなアーティストの作品をコレクションしたいという欲望は、種類が違う。CD店が生き残っている日本では、ストリーミングが広まることで、パッケージの役割は残ると思う。

 ストリーミングサービスの普及で、負の影響を受けるとしたら、CDレンタル店だろう。まだ500億円以上の市場があるレンタルCDのマーケットは、置き換えられる可能性が高い。マジョリティの消費者行動は保守的なものだから、今年中とは言わないけれど、レンタル店の動向がストリーミングサービスの一般層への本格普及の目安になると僕は思っている。

 CD店活性化のキーワードはO2O。オンライン・トゥ・オフライン、ネットからリアルへの送客というのは、マーケティングの世界では耳にタコだろうけれど、音楽ビジネスでも重要だと思う。ネットラジオ的なサービスも含め、インターネットサービスでユーザーの興味喚起をリアル店舗に活用するというのが、これからのCD店の肝になる。CD店内でのデジタルサービス(オフライン・トゥ・オンライン)も含めて、ネットとリアルの連動という世の中では当たり前のことが、音楽の世界でも重要になっていく。音楽とデジタルは元来、相性が良いので、面白い施策が出てくることだろう。
 
●ストリーミングサービス発のヒット曲が出る
 新しいメディアの台頭は新しいスターを産むのが歴史の必然だ。YouTubeが無ければ、有名にならなかったかもしれないYouTubeクリエイターもたくさんいる。Twitterが買収したことで注目の6秒限定動画共有サービスvineは、米国では大人気のようんだ。今年は日本でも広まるだろう。新しい人気者がvineからも出てくるはずだ。

 音楽ストリーミングサービスからのヒット曲も欲しい。スウェーデンのEDM系のユニットCAZZETTEは、当初、Spotifyだけで楽曲を発表し、人気者になった。地元スウェーデンだけでなく、米国でもビルボードチャートにランクインした。

 僕の本業はITサービスの評論ではなくて、音楽プロデューサーなので、今年は、本腰をいれて、新人アーティストを夜に出そうと思っている。ちょうど、機は熟した気がしているので期待して欲しい。自分だけが成功したいわけではなくて、新しいフォーマットでの成功例を出していくことが、日本の音楽シーンの活性化になると信じているので、いろんな人とも連携していきたい。デジタルや海外をテーマに取り組むマネージャーやプロデューサー、アーティストは、是非、相談に来て欲しい。

 ちなみに、昨年書いた「極私的音楽ビジネス予測・続編」は、(残念ながら)、今も有効な提言になっていると思う。


 興味のある人は、読んでみて欲しい。ITベンチャーの音楽サービスには、本当に期待している。この問題意識から出版したのが『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)だ。若い起業家達から僕自身、たくさんのことを教わった。
 今年こそは、音楽とITの蜜月が始まり、新たなテクノロジーやメディアが音楽シーンと音楽業界を活性化することを期待するし、僕自身、頑張りたい。

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超実践型作曲家育成セミナー「山口ゼミ」もお陰様で、好評をいただいている。1月からは第4期が開講する。詳しくはこちらから。



できることからコツコツと。でも、機は逃さずに、大胆に。そんな2014年にしたい。音楽業界は「change or die」だとメッセージを出すのは去年で終わりにする。今年は「change to survive」生き残っていくために変わることが必要な時代なのだ。