2014年2月24日月曜日

「MUSIC DISCOVERYの今」とコンテンツ白書とKKBOX AWARDとMUSIC HACK DAY

 先週は、密度の濃い1週間だった。火曜日に、GRACENOTEの新機能、楽曲のリコメンドができるデータベース「Gracenote Rhythm」の発表イベントで、トークセッシ
ョンがあった。イベントの企画段階から相談されて、キャスティングとモデレーターをやらせていただいた。
 ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました。(イベントレポはこちら

 ゲストが豪華だったので、キャスティングのOKをいただいた時点で、僕の仕事は8割方終了していた。当日は、予定調和にならないように、エンタメ感をもって進行するだけだ。パネラーの皆さんにリラックスして話してもらうように心がけたけれど、楽しんでいただけたようで、嬉しかった。今の日本のデジタル音楽について語ると、愚痴っぽくなりがちなのだけれど、この日は、ポジティブに変化への期待を語り合えたような気がする。

 Billboard Japanで、ライブハウスを運営しながら、新しいチャートをリニューアルした磯崎誠二さん。ユニバーサルミュージックのデジタル本部長で、海外の音楽業界事情に詳しい鈴木貴歩さん、iTunes Japanの立ち上げに関わり、今はSpotify Japanの野本晶さん。
左から鈴木氏、磯崎氏、TAKU氏、野本氏
自賛する訳では無いけれど、なかなか揃うことのない顔ぶれだ。華やかさも欲しいなと思って、m-floレコーディング中のTAKU TAKAHASHIさんに無理言って、参加してもらった。皆さん快く受けて下さって、本当に感謝している。

 ステージで話していて、壇上はもちろんのこと、客席も含めて、「改革の同志」が集まっているように感じて、昂揚した。会場には、企業人、アーティスト、起業家、多様な人達がいたけれど、みんな日本の音楽シーンを良くしようという思いは同じだったはずだ。「一緒に頑張ろう!」ってアジテーションしたい気分になった。

 年頭にも書いたけれど、「Change to surviveが今年のキャッチフレーズだ。日本の音楽業界は、これまでが素晴らしかったからこそ、その良さを活かすために、変わらなければならない。このままでは、音楽シーンも閉塞していってしまう、そんな危機感を持っている。

 危機感は、木曜日に別の場でも、共有できた。経産省監修「デジタルコンテンツ白書2014」の第1回編集会議。僕も4年目になるので、編集委員の皆さんとも顔なじみだ。映画、出版、コミック、アニメ、ゲームなど各分野のエキスパートが集まっている。今年の内
容について、簡単なレジュメ発表があったので、とても勉強になった。それぞれの業界で、個別のトピックスや事情の違いはあるけれど、マクロな視点だと、委員の意識は同じだった。
 日本市場は人口分布的にも長期的な上昇傾向は難しい。これまで機能していた仕組みの弊害が大きくなっている。デジタル技術をもっと活用することと、海外市場を開拓することができれば、大きな可能性があるが、このままだと、ヤバい。
 まあ、色んなメディアでも書かれている当たり前のことだけれど、全分野で共通なんだと実感できると痺れる。「既得権を再構築しないと、日本は駄目になる」。みなさんが指摘する本質はどの分野でも同じだった。「何年も前からわかっていることだけど」という枕詞も。
 雰囲気を和らげようとしたのか、福富委員長が「デジタルじゃ無いコンテンツって、もう無いよね?」って仰って、みんなで笑った。そもそも発行元はデジタルコンテンツ財団なのだけれど、数年後には、「コンテンツ白書」で良いのではということになりそうだ。

台北アリーナ概観。台湾はデジタルサイネージが進んでいる印象
 週末は、久々に台湾に飛んだ。KKBOX AWARDに招待していただいたからだ。KKBOX JAPANPARCOのキャンペーンを監修的な立場でお手伝いしていた縁だ。いつも物腰柔らかな、KKBOX JAPAN代表でもあるKDDI八木さんの「絶対に来て下さい!」という口調から、ただ事では無いと感じて、皆勤賞を続けてきた「山口ゼミ」の講義を休ませてもらって訪台した。行ってみて、その意味はわかった。台湾で最大の音楽祭だとは、聞いていたけれど、台北アリーナが若者の熱気であふれていた。3時間半のイベントが、台湾だけで無く、アジア4ヶ国で生中継されたそうだ。アジアの音楽祭は、何度か観ているけれど、このレベルのイベントを台湾の会社、スタッフだけで破綻無く成立させていることにも失礼ながら驚いた。10年間にシンガポールで観たMTVASIA AWARD は、欧米のスタッフが仕切っていたことを思い出した。

 日本からはPerfumeが出ていて、大人気だったのは嬉しかった。台湾のアーティストを
まとめて聞くことができて、貴重な体験だった。Jポップの影響と台湾ポップス独自の特徴が体感できて勉強になった。アジアのポップスを知ることは、Jポップを見直す事になり、発見があるので、プロデュース感覚を磨くのにも有益だ。来年も来たい。
 興味のある方は、オフィシャル映像ナタリーの紹介記事をどうぞ。
 台湾のレコ大とか紅白とかいう説明しているメディアもあったけれど、日本の何かに喩えるなら、Mステのクリスマススペシャルが一番近いのではと思った。

 翌日に、友人の紹介されたメディア業界の重鎮である台湾人から、「日本は、この20年間負け続けている」と指摘されて、耳が痛かった。早稲田大学に留学していた彼が日本に居た頃は、ソニーとパナソニックが絶頂期で、大好きなVAIOがソニー商品じゃなくなって寂しいと言っていた。負けている理由は明確で「経営層が挑戦しない、意志決定が遅い」だと。アジア各国のテレビ局の番組売買に長年携わっていた人だけに説得力があった。積極的に市場開拓をする韓国の姿勢と方法論を詳しく説明してくれた。
 「台湾人は日本人が好きだから、残念。」と、日韓の差を悔しがってくれていた。俺も微力ながら頑張るからと言って、夜市の近くの老舗屋台で、メチャクチャ旨い豚肉そぼろ飯を食べながら、今後は連携を深めようと誓いあった。

 台湾に来る前、金曜の夜には、MUSIC HACKDAYのプレパーティにも顔を出した。知り合いだらけでびっくりした。ここにも同志が集まって、みんなが若い才能の台頭に期待している。当然だ。デジタル活用と海外市場開拓にしか、日本の音楽業界の未来は無い。逆に言うと、それができれば、未来は明るい。当たり前すぎることを、改めて確認する。

 僕の本業は、新しいアーティストとヒット曲を産み出すことだから、今年こそ、成功例を示せるように頑張りたい。水面下で準備はしている。それだけではなく、ゲームのルールが再定義される時代だからこそ、どんな分野や立場でも、同じ思いの人達と連携したいし、僕にできることは、積極的に協力したい。

 日本社会は、メディア・コンテンツ業界に限らず、understoodで成立していることが沢山ある。それこそが、五輪招致で流行語になった「おもてなし」のバックグラウンドで、日本の美点でもあるのだけれど、外部の人にはわかりにくいという弱点がある。それを知らずに"思い"だけで動くと地雷を踏んで、物事が進まなくなる。僕は長く仕事をしていて、地図は、持っているので、若者や外国人にも活用してもらいたい。日本の良さを残して、再構築するというのは、そういうことだと僕は思っている。
 Change to Survive


 そんな思いで、メルマガも地道にやっています。毎週月曜日発行。

2014年2月17日月曜日

楽天のViber買収、SBのWandoujia筆頭株主に、など。〜Weekly 極私的TOP5ニュース【無料メルマガ発行中!】

極私的トップニュースを解説付きで!

<第1位>
 ITが世界の経済を牽引する時代になっていることは間違いありません。成長期待の大きいところに資金は集まるのが資本主義の道理です。コミュニケーションのプラットホーム事業者が、グローバル経済の覇者になるのだとしたら、そのレースに参加できている数少ない日本企業として、楽天には期待したいです。日本人として、期待すべき存在ですね。
 メッセージアプリサービスとしてのViberを今のタイミングで、1000億円近くで買うことが適切かどうかは、浅学の私には判断できませんけれど、グローバルな競争に挑戦する姿勢は評価したいですね。

<第2位>
 そして、ソフトバンクも、グローバル競争に挑戦する日本企業ですね。今回も21世紀
の最大の消費市場である中国に果敢に挑んでいるというニュースだと受け止めています。
 中国の市場ルールは稚拙ですし、レベルの低いビジネスモデルも散見されますが、米国
発のグローバル企業であるアップル社やグーグル社に正面から異議申し立てをする姿勢は、
日本も見習うべき側面があると思います。
 これからの日本の強みは、「欧米ルールを上手に採り入れた最初のアジアの国」である
ことだと、私は思っています。尖閣問題などで反日を唱える中国に対して、日本人として
は反発も感じますけれど、これからの日本は「中国と折り合いを付けること」が、国際競
争社会を生き残るための必須条件です。

<第3位>
 Squareは素晴らしいビジョンを持ったサービスだと思いますが、電子決済の分野を米国
企業に牛耳られないように日本企業も頑張って欲しいです。
 ユーザー利便性の向上が、インターネット時代の最大の正義なのですが、いくつかバイ
タル(決定的な)サービスにおいて、日本人が影響力を行使できない会社が勝者になって、
他の選択肢が無くなるのは嫌だなと思います。

<第4位>
 豪華な組合せですね。LINEの急速な伸張でもわかるように、プラットホームの勝利者は、
いつどこから現れて、それまでの主役を追い落とすかわかりません。インターネットビジネ
スの草創期から活躍する2人のタッグで、どんなサービスが出てくるのか、注目したいです。

<第5位>
 「反則だなー」と思うやり方ですし、日本には当てはまらない方法論だと思いますが、
ユーザー行動が可視化される時代に、有効ですね。
 コンテンツプロデューサーとしては、こういうやり方もあり得るのだという前提を持って
仕事をしなくてはいけない時代である事は間違いありません。

<圏外>
 法廷闘争は空疎なこと多いですが、ジョークが混じると、面白いですね。日本企業にも、
こういうユーモアと余裕が欲しいと思いました。

※他にもニュースキュレーションをまとめてます。概要とバックナンバーはこちらからどうぞ。
音楽プロデューサー山口哲一のコンテンツビジネス・ニュース・キュレーション

2014年2月10日月曜日

【メルマガ発行中!】週間ニュースTOP5発表とか。

 無料メルマガ10号まできた。毎週、月曜日発行。前週、1週間のニュースをまとめて解説付きで紹介するという内容。
 『ソーシャル時代に音楽を売る7つの戦略』(リットーミュージック)の共著者を中心としたチームで出していた有料メルマガが1年間で終了したので、後を継ぐ形で、個人で始めた無料メルマガ。
 内容は、最初に山口の極私的TOP5ニュース。クリエイティブな映像、デザインなどの紹介コーナー、その他1週間の音楽、コンテンツビジネスに関わりがある思われるニュースやブログ記事の紹介など。僕の活動記録や情報コーナーもある。
 無料なので、是非、登録してください!
 ちなみに、本日2月10日付発行のメルマガの極私的TOP5は、下記の通り。

<第1位>
●ソニーから分離で「VAIO」の魂は失われてしまうのか


 何と言っても注目は、ソニーのPC部門の売却でしょう。輝きを失っているかつてのリーダーカンパニーが、浮上の機会になるのなら、日本人として嬉しいです。
 本田雅一さんの分析記事が参考になると思います。

<第2位>
●イタリアの音楽市場が11年ぶりにプラス成長を達成、音楽ストリーミングは3桁成長

 欧州各国の音楽市場はストリーミングサービスをきっかけに上昇をしています。日本は、
DL配信が広まらず、CD市場が健在な分、ストリーミングが広まった時の効果は大きいはず
ですね。

<第3位>
●ツイッター大ピンチ。収益のカギとなるタイムライン閲覧数が何と減少!

 タイムラインの閲覧数というのは貴重な指標ですから、ここが落ちているのは問題ですね。一方で、Twitterの影響力が落ちているという実感はありません。どのように捉えるべきなのか注目しつつ、考えていきたいと思います。

<第4位>
●GracenoteがNext Big Soundと提携、ビッグデータ活用で音楽サービス構築を支援

 ビックデータ活用では、音楽ビジネスが先陣を切るのでは無いかと思っています。ユーザーの嗜好性を分析して、ビジネスにする実験場としては、最適ですから。

<第5位>
●YouTubeが音楽業界への貢献を主張:「過去数年間で10億ドル以上を支払ってきた」

 主張したい気持ちはわかりますけれど、音楽業界への貢献というのなら、整備すべきことがたくさん残っているというのが率直な感想です。
 権利侵害に対する対策も不十分ですし、音楽産業を振興するという姿勢には見えませんね。
 ユーザーが誰でも使えるというインターネットのコンテンツプラットフォームとして、圧倒的な存在感ですが、既存の権利ホルダーにとっては、「必要悪」的な域を超えていないなと、改めて思いました。

<圏外>  
●レッチリ、スーパーボウルでのテープ演奏についてフリーの公開書簡の全文訳を掲載

 素晴らしい内容のインタビューです。いわゆる「アテブリ」に対して、メンバーが明確な
意思表明をしています。

<番外編>
●新垣氏 障害は「キャラ作り」
●佐村河内氏 記事コピー謝罪文
●彼はなぜゴーストライターを続けたのか
●より正しい物語を得た音楽はより幸せである ~佐村河内守(新垣隆)騒動につい
●佐村河内守の別人作曲騒動が浮き彫りにした、「音楽」と「物語」の危うい関係

 大きなニュースになっている佐村河内守さんのスキャンダル。ゴーストライターが居たことと、耳の障害が嘘では無いかという2点が大きなポイントのようです。いくつかの記事をまとめてみました。
 事件の詳細じゃチェックできていませんし、クラシック界のトーン&マナーは正確に知らないので迂闊なことは言えませんが、メディアにスクープされた時点で、対応の仕方は他にあったのでは無いかと感じています。
 楽曲への評価は高く、彼らが価値ある存在であったことは確かです。二人の関係性が壊れていないのだとしたら、半端な善悪論でさばくのでは無く、良い作品がつくられ、売れているという事実を大切にすれば良いのにと、率直に思いました。
 障害に関して世間を騙したことは、褒められることではないですし、社会的な制裁を受けるのは当然と思いますが、そのことと作品の価値、プロデュース手法は、別のレイヤーで語られるべきと音楽を生業にする者として感じています。

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