2018年5月31日木曜日

「コライトやろうぜ!」と呼びかける理由〜クリエイターが主役の時代に〜タワークリエイティブアカデミーへの期待

 「音楽業界の感覚を持ち込んだ超実践的なプロ作曲家育成」というテーマで山口ゼミを始めたのは、2013年1月だからもう5年半になる。今は第21期生で受講生はのべで378人だ。女性比率は3割強、年齢も職業も住んでいるところも本当に多種多様な人たちが集まり、それが強いコミュニティになっているのに驚いている。受講生が仲良くなるのは、副塾長伊藤涼の厳しい指導に耐える「仲間意識」とともに、コーライティングを提唱し、上級コース「山口ゼミexntended」でコーライティングで良い作品を創るためのマインドセットと方法を伝えているのも理由なのだろう。

 山口ゼミを始めて僕が一番感じだのは、「音楽を作ることが孤独な作業になってしまっ
ている」ことだ。デジタル化が進んで、機材が安く小さくなり、パーソナルな表現ができるようになったのは、基本的には良いことだけれど、弊害もあるのだと知った。
 コーライティングの大きなメリットの一つが、創作現場でコミュニケーションが復活することだ。創作は孤独に耐えて行うという考え方もあるけれど、同時に「楽しくつくる」というのも音楽の基本だ。複数の人が集まって、そのチームならではの「化学反応」を期待しながら創作していくというのは、とても本質的な音楽の創り方だと思う。

 コーライティングのスキルを武器とする山口ゼミ卒業生によるクリエイター集団CoWritingFarmは110人を超え、作品力も非常に向上している。ノウハウが集合知的に高まっていくのがコミュニティパワーなのだろう。コミュニティが自走し始めている実感がある。2年位前から、コンペを待つだけではなく、自分たちからアーティストに作品を持ち込む「提案型」の制作活動を始めている。安室奈美恵✕ワンピースOp曲「Hope」は、その提案型による成果だ。

 様々な分野のクリエイターが良い環境で創造するというテーマで4年目となった「クリエイターズキャンプ真鶴2018では、ソニーミュージックが行っているSonic Academy Salonと全面的に連携して、コーライティングのワークショップと、アーティストと作家によるコーライティングキャンプを行った。新人ないしデビュー準備中の新人アーティストとプロ作曲家2名が組んで3人1組で約28時間で1曲を0からつくる。アーティストにはライブ形式での披露を依頼したので、プレッシャーは大きかったと思う。結果は素晴らしかった。8人のアーティストの新曲は、明確な個性と高いクオリティがあった。これから世の中に出ていくことだろう。
 アメリカではアーティストが参加するコーライティングが音楽制作の主流になっているというけれど、日本にも「アーティストインコーライト」の波は確実に来るなと確信した。

 一般的な視点で見ると、山口ゼミとソニアカはコンペティターに見えるかもしれないけれど、僕はそんな風に捉えたことはない。日本の音楽シーンを活性化して、クオリティを上げていくという目的は同じだと思うので、お互いの良さを生かして連携していきたい。ソニアカの言い出しっぺの灰野(一平)君とは、一緒にバンドもやったことがあるwww、古い知己で、音楽に真摯に向き合う素晴らしいミュージックマンだ。相互の会員の
CC真鶴2018の参加音楽家の記念撮影
割引などもやっている。今回のCC真鶴は初の共同企画だったけれど、成功だったと思う。

 日本の音楽業界は、洗練された仕組みや美風と言える慣習など素晴らしいところもたくさんあるのだけれど、デジタル化による時代の変化に遅れているという致命的な弱点がある。
 パッケージ(CD)とマスメディア(テレビ・ラジオ)での時代から、スマホでストリーミングで音楽を聴く時代に、そしてスマートスピーカーの普及と急速に変わっていることに既存の音楽業界は対応できていない。ユーザー体験としてのIT活用が、アジアの中でも際立って遅れた国になってしまっていることに強い危機感がある。ただ、本稿で語りたいのは、クリエイションにおけるデジタル化の話だ。

 テクノロジーの変化は表現にも大きな影響を与えるはず。PCとDAWで手軽にパーソナルに音楽をつくれる時代だからこそ、音楽家同士がコミュニケーションをとって共作することの重要性は増している。音楽家と映像制作会社のマッチングコマースAudioStockの売上急増で注目されているクレオフーガとは、オンラインでのコーライティングが円滑にいくツールとしてCoWritingStudioを共同開発している。今年中には、グローバルな作曲家SNSとしてバージョンアップする予定なので、期待してほしい。CWSで音楽家同士が出逢っていく場をつくれると思う。

 さて、前置きがめちゃめちゃ長くなったけれど、そんな問題意識と僕らがやってきたことの延長線上で、タワークリエイティブアカデミーへの期待がある。「未来型クリエイター育成」をテーマにタワーレコードが始めた新規事業だ。アドバイザーとして新規事業全体にも関わったけれど、「タワアカ」では講座のオーガナイザーをやらせてもらっている。
 タワーレコードは、CD店として日本で一番のブランドだ。元々はアメリカの会社で、会社が倒れてニューヨークの二店が無くなったときにはショックだったけれど、日本ではNTTドコモの子会社となって、音楽ファンのリアルな接点になっている。

 これまでのコーライティングは、プロの作曲家という目線でやってきたけれど、今回は、タワレコらしく、インディーズを中心としたアーティスト、シンガーソングライター、DJトラックメイカー、バンドマン、DTMerといった人たちを対象に、自分たちの表現の幅を広げ、作品力を高めるために、コーライティングの手法を活用するというテーマにしたいと思っている。同時に、定期的に継続していきながら音楽家同士が出逢っていく場としても育てていきたい。
 タワーレコードは、自社のインディーズレーベルや発信力のあるショップバイヤーのチカラで数多くのアーティストを世に送り出してきた。参加者にとってもコーライティングの優秀作を世に広める時に、タワレコがいることは心強いだろう。同時に始めるTouchDesingerの講座では映像やビジュアルの若いクリエイターが集まるだろうから、ジャンルを超えたクリエイターコラボもやっていきたいとタワレコの人たちと相談している。

 日本のNO.1レーベルであるソニーミュージック。NO,1リテールであるタワーレコード。トップ企業が変わるインパクトは大きい。日本の音楽家のクリエイティブがもっともっと活かされ、チャンスの場が増えていくように活動していきたいと思う。
 コーライティングが初めての人は、『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』(リットーミュージック刊)が参考になるだろう。


 今回のアーティストを対象にしたタワアカのコーライティングワークショップに向けて伊藤涼が寄せてくれたコメントが素晴らしいので、ちょっと長いけれど、最後に引用する。コーライティングがだいぶ広まって、テレビなどでも紹介されることがでてきたけれど、何故、そういう時に伊藤涼を呼ばないのか不思議だ。日本のコーライティグブームのきっかけを作った男だし、実績も経験も図抜けている。コーライトしかしないソングライターであり、ディレクターでもある。このまま日本の「マックス・マーティン」になってほしいなと個人的には思っている。

 今の日本の音楽シーンにおけるコーライティングの意義は強調してもしすぎることは無い。立場、テーマ、目指すことは、それぞれ違うと思うけれど、自分の音楽活動を充実させるために、このムーブメントを活用して欲しい。もちろんプロのソングライター、編曲家を目指す人は「山口ゼミ」で待ってます。


<伊藤涼からのメッセージ>
 作曲家たちが共作するコーライティングはすでに日本でもブームとなっていますが、アメリカのビルボードのトップチャートを賑わすポップミュージックも当然のようにコーライティングによるものが多いです。皆さんもご存じのジャスティン・ビーバー、ケイティ・ペリー、アリアナ・グランデなどの楽曲のほとんどがコーライティングによるものです。そして、そのコーライティングの流れから生まれてきたスターが、ブルーノ・マーズ、メーガン・トレイラーのようにソングライターとして楽曲を提供しながら、自らもアーティストとして大成功を収めた人たち。彼らはコーライティングという環境を上手く使って、自分の作品をアーティストに提供しながら、自身のアーティスト・シンガーソングライターとしてのプロモーションにも成功したと言えます。そして、いまL.Aに行くと世界中からそのチャンスを掴もうとソングライター・トラックメイカー・DJ・プロデューサーが集まってきています。その中でも特に目立つがシンガーソングライターです。彼らはトップライナー、作詞家、デモシンガーとして、その才能をコーライティングに生かし、虎視眈々とアーティストとしての成功を狙っています。もちろん、そこで培った人脈を生かして、フーチャリングシンガーなどで大成功したシンガーたちも多い。もちろんDJやプロデューサーにとっても、才能あるシンガーと出会うことが成功の鍵なのです。今や、音楽は人とのつながりで生まれ、そして広がっていっています。
 では日本のシンガーたちはどうでしょうか?見渡してみても、まだまだ世界の波になっているとは言えません。なぜなら、どうにかひとりで成し遂げようとしているからではないでしょうか?自分で作って、自分でパフォーマンスして、レコード会社が見つけてくれるのを待っている。自分ですべての作業をすること、レコード会社からのデビューがきっかけになること、もちろん悪いことではありません。ただ、今求められるものは2年も3年も育成期間の要するアーティストではありません。既にクオリティが高い楽曲とそのデモ音源をもち、完成されたアーティスト像をもってライブをできていることです。アメリカのクリエイターたちが実践していることからわかるように、それらを作るために必要なのがコーライティングなのです。制作環境、ハイクオリティな音源、ケミストリー、出逢い、客観的な視点、コネクション。そしてコーライティングこそ、それぞれのクリエイティビティを成長させる最高の方法だと、今までの経験から言えます。

 自分の夢のために、ぜひコーライティングを活用する。その一歩を踏み出してください。お待ちしています!

タワークリエイティブアカデミー公式サイト

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◆プロ作曲家育成「山口ゼミ」

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