2013年1月4日金曜日

独断的音楽ビジネス予測2013<続編> 〜ストリーミングとソーシャルメディアが主戦場になった時にアーティストとマネージャーとITベンチャーがやるべきこと〜

前回の「独断的2013予測」を読み直して、概念先行で抽象的すぎたような気がしたので、自分の実業にも引きつけつつ、もっと具体的な事を書きたいと思う。

僕は、この2年間位、ユーザーから支持される音楽サービスの在り方や、あるべき音楽業界の姿について、考え続けている。実は、正直に言うと、僕の頭の中では、ある程度、結論めいたものが、まとまってきている。
大まかな方向といくつかのあり得るシナリオ、そのためのリスクやタスクは、見えてきているんだ。問題は、その認識を踏まえて、自分が具体的に何をやるのか?抜け駆けしたいとか思わないし、そんな状況では無い。むしろ異なったレイヤーで同時進行することが必要だ。自分一人では何もできないので、こういうブログを書くことで、色んな人と繋がっていきたい。日本で音楽ストリーミングサービスが本格化するのは今秋以降だろうから、これから書くことは、2014年の予測と言うべきかもしれない。でも、準備は、今すぐ始めたい。

●ストリーミングサービスが主流になると、ヒット曲でポルシェが買えなくなる?

 前回も書いたように、僕は本気でストリーミングサービスを関連サービス含めて3000億円以上にするべきと思っている。レコード業界は、最優先で取り組むべき事はそれだろうと。
 2011年のパッケージ(CD+DVD)売上が3600億円で、2012年は微増という状況なので、ストリーミングサービスを育てれば、長期的に6000億円以上の売上が確保できる可能性がある。そうすれば、レコード業界の仕組みは、概ね維持できる。もちろん、改革して貰わないと困る部分はあるけれど、良い部分もたくさんある。産業規模として維持できる事は重要だ。

 ただ、事務所やアーティストの立場になると、微妙に違う。音源(原盤)からの売上が6000億円超というのはマクロの話で、内訳は変わってくる。Spotifyの分配などから考えると、原盤と著作権側に入ってくるお金が、ざっくり55~65%位だけど、その売上は、楽曲の再生回数で等分されるのが原則だ。これまでは、一度買ったCDやダウンロードした楽曲は、何度もユーザーに聞かれても売上にはならなかった。ストリーミングでは違う。再生回数に応じて、印税が入ってくる。この際の母数は、これまで発表されている全ての楽曲でだ。総売上が聞かれた回数で分割される。何が言いたいかと言うと、新曲でヒットを出しても、突出した印税額にはなりにくいということ。ストリーミングで聞かれることが一般化すればするほど、そうなっていく。

では何をやるべきか?

●ストリーミングサービスに付随して売れる商品開発をやろう。

新曲を発表してユーザーが気に入られた=ヒット曲とできた時に、その曲を何度も聞いてもらうだけでは、これまでほどの印税額は期待できない。もちろんCDなどのパッケージの売り上げが伸びるというのはあるだろう。もちろんやるべきだ。アーティストの姿を認識させて、パッケージ購入に結びつける努力は重要だ。

でも、それはこれまでもあったこと。僕は新たな収益をつくりたいと思う。ソーシャルゲームにおけるアイテム課金の様なイメージだ。ストリーミングサービスのプラットフォームで好きな楽曲ができたら、何度も聞いていると欲しくなる、デジタルコンテンツの「新商品」を開発したい。できればそのために大きな費用を掛けずに済むコンテンツにしたい。ジャケット用に撮った写真やライブ写真が素材になり得るだろう。UGM的なスキームも活用できるかもしれない。LINEのスタンプも参考になる。動画もありだけれど、通信環境への負荷が少なくて済む容量にしたい。さて、何がいいだろうか?

ヒントになるのは、CDの購入特典だと思う。これまで僕たちは、CD店でのイニシャル(発売日の仕入れ分)の購入促進のために、おまけを付けてきた。タワーレコード用にはこれ、TSUTAYA向けにはこちら、と、店別のユーザー特性に合わせて分けることもある。レコード会社の宣伝担当と事務所のマネージャーが知恵を絞って、購入意欲が高まるものを考えてきた。工夫の方向が似ていると思う。
●ストリーミング周辺の関連アプリ開発が重要になる

ストリーミングサービスが音楽体験のベースになると、そのプラットフォームを使ったアプリが重要になってくる。ストリーミングの代表的サービスSpotifyもアプリ戦略を積極的にやっている。
 詳しくは、この記事をどうぞ。

 最近のソーシャルメディアは、オープンID戦略をとるのは普通になったよね。初めて訪れたサイトにフェイスブックやツイッターIDでログインできることが多い。音楽ニュースをサイトで見たら、Spotifyやレコチョクなどのボタンが付いていて、自分が登録している音楽サービスを選んで、クリックすると紹介している曲がフルサイズで聴けるという状況になるのはもうすぐだ。
 様々な種類のアプリがたくさん出てくるだろう。この状況もビジネスチャンスに結びつけたい。Spotifyもツールと考えて、自分たちのアーティストの人気を高め、コンサートのチケットやアーティストグッズを売るのだ。

 ただ、できれば独自アプリをつくりたい、アーティスト主導だけでなく、ユーザーに支持されるサービスとセットで新しいアプリを提供できれば、収益が期待できる。
 アプリ開発者と音楽プロデューサーのノウハウを融合させて、ヒットアプリを出したい。
 実は音楽やアーティストに関する情報は、断絶されていて、信頼できる情報の紐付きができていない事が多い。ユーザーの嗜好性と音楽やアーティストのまつわる多様な情報を掛け合わせることで、新たな需要を喚起できるチャンスは無数に眠っているのだ。

●ソーシャルメディア上での企業とアーティストのコラボの可能性

 ネット上で音楽を自由に聴くことができるようになり、ソーシャルメディアでのコミュニケーションの比重が上がってくると、企業とユーザーの関係に、アーティストや音楽を絡めるコラボレーションの可能性が高まるはずだ。企業はユーザーと「ロング・エンゲージメント」(=長期的な信頼関係)をつくっていくのがテーマになっている。マスメディアを使って「上から目線」で商品を売るのでは無く、ユーザーから信頼されてブランド価値を上げることが重要だと広告業界でも言われるようになっている。この「ユーザーと長期的な関係をつくり、ブランド価値を上げる」は、まさにアーティストマネージメントがやってきた事だ。商品やブランドとアーティストや楽曲を組み合わせて、ユーザーと美しい三角形をつくっていくと、新たなビジネスチャンスが産まれると僕は信じている。
アメリカでは、既に始まっている。例えば、「ミュージックディラーズ」というサイトでは、12000以上のアーティストと550以上の企業が登録されていて、様々なマッチングが行われている。サイトはこちら。

 企業とアーティストのマッチングについては、「OKmusic」が、やりたいと言ってくれている。いつの間にか日本最大の音楽専門SNSとなっている「OKmusic」は、最近、フリーペーパーmusicUPSも事業譲渡で加わった。親会社は日本最大のQandAソリューションを持つ「OKWave」だ。面白い事ができそう気がしている。

●「MAKERS」発想で、新たなハード、再生プレイヤーをつくる!?

 アプリやウエブサイトだけではない、ハードにもチャンスは眠っていると思う。ライフスタイルと親和性の高い音楽は、ファション性と結びついて、
 一部で注目された缶バッチ型のプレイヤー「PLAYBUTTON」は、高すぎるパテント料のために広まらなかったけれど、商品開発としてのヒントは隠されていた。
 最近の注目書「MAKERS」によると、製造業にもデジタル技術革新の波が及び、「新産業革命」と呼ぶべき「少量多品種」の製造が可能になっているという。音楽の試聴行動を他の様々な要素と結びつける、全く新しいコンセプトの音楽再生プレイヤーに大きな可能性を感じている。一人一人に合わせて、カスタマイズできるプレイヤーなんていいんじゃない?

●ピンチはチャンス!新市場を創造しよう!

 音楽を取り巻く環境が変わって、従来の業界プレイヤーにはしんどい事も多い。業界人の末席の僕も例外では無い。ただ、ピンチはチャンスだ。新たな市場創造とビジネスのチャンスが眠っているのだ。
 音楽とITについて情報発信を続けてきたお陰で、ブログには書けないような情報も集まってきている。業界内の流れも感じる。既存のプレイヤーとの連携も重要だ。
 同じビジョンを共有できる人たちと力を合わせて早く結果を出したい。世代や既存の業界の壁を越えて、視野とノウハウとネットワークを融合することで、意外に簡単にできることもある。ある業界の非常識が、別の業界では常識というのはよくある話だ。
 このブログを読んで、ピンと来た方は、ご連絡下さい。志を同じくする人たちの連携していきたいです。

 僕は、近況を尋ねられると「ホームラン王を取りたくて野球を始めたのに、最近は、野球場の作り方とか、ストライク3つでアウトで良いと思いますか?とか、そんな事に時間を取られています」と、野球の比喩にして、苦笑しながら答えている。
 今年は、野球場増改築やルール改訂にも積極的に関与しながら、ホームラン王もとりたい!
 そんな年頭の抱負でもあるのでした(^^)/

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1 件のコメント:

原田 さんのコメント...

はじめてコメントさせていただきます。
原田と申します。
今後の音楽業界について何気なくネットサーフィンをしていたら山口さんのBlog にたどりつき、拝読させていただきました。私は10代の後半よりレゲエに惹かれDJなどの経験を経て、現在はイベントプロモーターなどを主に横浜を拠点に行っている31歳です。

音楽シーンの中でもさらにニッチなジャンルであるレゲエをそして横浜の音楽シーンを、盛り上げたいと思い色々な考えを模索している中で非常にためになる記事がたくさんあり、共感できる内容であったので何だか嬉しさもあり、もっと色々なことについてお話しして見たいと率直に思い、コメントさせていただいた次第です。是非、ご縁があればさらにお話を聞いてみたいのでご連絡いただけると幸いです。