2011年7月6日水曜日

日本の音楽配信事情2011 〜ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!〜

 デジタルの近未来予測や電子書籍の本で、音楽業界事情を引用される事は多い。これまでも何度か指摘したけど、高名な方で、全体の趣旨は正しくても、音楽ビジネスの引用は事実誤認が多い。おそらくちゃんとデータを調べずに、書いているのだろう。やめてほしい。
音楽業界側に説明する姿勢が無かったという反省はあるので、取り急ぎ、ブログでまとめてみた。
 
 読んでない本の事を採り上げて申し訳ないけど(すいません。急いで読んで、本そのものの感想は別途に書きます。)友人の引用&紹介によると、本田雅一著『これからのスマートフォンが起こすこと』(東洋経済社)には、


 「音楽のデジタル配信において日本はあまり良い事例を残すことができなかった。あれほど導入時に抵抗の強かったiチューンズ・ミュージックストアが、日本の音楽デジタル配信の中で圧倒的な存在になっている」


 と書いてあるそうだ。
 前後の文脈がわからないけれど、この文章そのものは、不正確だ。


 アイチューンミュージックストアの日本での売上げシェアは2%程度。音楽配信での割合でも7%程度だ。CDが諸外国に比べて売上の減少が少ないのと、モバイル配信が中心なのが日本のマーケットの特徴だ。日本は、先進国で唯一、アイチューンストアが失敗しているというのが、2011年現在の状況だ。
 また、「着うた」という名称で、モバイルで配信が広がった。こちらは「レコード会社直営サイト(通称レコ直)」を中心に成功している。(スマフォが中心になる市場には対応できていないので、成功していた、というべきかもしれない。)もともとは、着信音向けで始まったが、「着うたフル」という楽曲全部をダウンロードさせるサービスも、それなりに定着した。レコ直は、この10年間で唯一と言ってよい、大手レコード会社の「成功事例」なのだ。


 佐々木俊尚さんの『電子書籍の衝撃』にも同様の間違いがあり、それについては、以前書いたので、繰り返さないが、同じく佐々木さんの『キュレーションの時代』に関して。ネット上に趣味嗜好別に人が集まる事を「ビオトープ」(生息空間)という言葉で説明している。これが、ソーシャル時代特有と捉えている観点が違うと思う。
 音楽では、インターネットができる以前から、「ビオトープ」のような機能はあった、それはジャズ喫茶だったり、同人的な情報誌だったり、ある時期は深夜ラジオだったり、CD店だったこともある。
 「Hi-STANDARD」というパンクバンドがインディーズでCDを30万枚以上売った時には驚いた。まったく無名の沖縄のバンド「MONGOL800」は、タワーレコードがプッシュしたことで200万枚売れた。宇多田ヒカルのデビュー曲『automatic』は、地方FM局のパワープレイで火がついた。自然発生的に、趣味嗜好の同じユーザー同士のクチコミからヒットが生まれた例は、音楽業界にはたくさんあるのだ。
 僕はむしろ、これだけソーシャルメディアが発達してきているのに、それを活用した成功例が「ほとんど無い」ことに音楽業界の問題点を感じている。佐々木さんの『キュレーションの時代』とは、広義の環境認識は同じだけど、音楽ビジネスへの見解は真逆だ。
(その成功例をつくるのは自分の仕事だと思って、頑張っている。以前「Sweet Vacation」というユニットで、デジタル活用PRは全面的に試している。興味のある方は、拙著『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)をご覧ください。)


 評論家やジャーナリストの皆さん!デジタルなり、ソーシャルなりで音楽ビジネスを引用する際は、
 ●日本ではアイチューンミュージックストアが失敗している
 ●ソーシャルメディア活用のビジネス的な成功例が、まだほとんど無い。
 ●音楽配信で成功したのは、大まかに言うと「レコ直」だけ。
という3点を押さえて、諸外国と比較しながら、論証してください。米国とごっちゃにしたり、何となくの気分で書くにはやめて欲しいです!!


 余談だけど、昨日出席した「デジタルコンテンツ白書2011」の編集会議で「神聖かまってちゃん」の動きが面白いという話になった。好きなバンドだけど、僕から見ると、活動のやり方そのものは、ツールが違うだけで70年代の「頭脳警察」や80年代の「有頂天」などのアングラ的な動きと共通するものを感じる。そして、何よりまだビジネス的に大成功している訳じゃない。
 本質を見ていかないと、正しい未来予測はできないんじゃない?


追記:読まずに書いて申し訳無かったので、改めて書評+αを書きました。『気がつけばコンテンツと呼ばれて~』を読んでみてください!


山口

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