2016年1月2日土曜日

今、日本でプロの音楽家になるということ。そして、CWFが目指すこと

 長らく音楽事務所社長をやっているので、20年以上、若いミュージジャン志望者と会うことが仕事の一部になっている。最近は、僕の活動エリアが広がって、Tech系やスタートアップに近い人と話す機会が多くなってきたせいもあるだろうけれど、ミュージシャンとしての成功に夢を持つ人が減ったという残念な実感がある。「音楽では食っていけないかもしれないけれど、好きなからやりたい」という音楽家志望者も少なくない。同時に、相反的に感じることは、「音楽の力って強いなあ」ということ。僕が会う起業家やIT関係者は多少、バイアスがかかっているだろうけれど、音楽へのリスペクトや、音楽がユーザーに与える影響力への評価はとても高い人が多い。
 これは日本だけではなくて、Twitterの2007年のブレイク以来、テクノロジーとスタートアップのイベントみたいに思われているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)も、行ってみればわかるけれど、音楽へのリスペクトが街中に溢れている。世界一ヒップなカンファレンスのど真ん中には音楽が存在していると感じられるのは嬉しい。
 
 音楽家に夢が持ちづらくなっているのは、誤解もある。一例を挙げるなら、JASRACの著作権使用料は減っていないというデータ。作詞作曲家に支払われる印税は、2015年も微増だった。これまではレコード会社が音楽ビジネス生態系の中心にいて、そこの仕組みがヘタっているから、音楽は儲からないという印象を呼んでいるのだと思う。
クリエイターズキャンプ真鶴の打上げ

 起業して株式公開すれば、大きなお金が手に入る。社会を変えるイノベーションを提供するのは素晴らしいことだ。そこに夢を持って頑張る日本人ももっと増えてほしいけれど、音楽家には事業家では手に入らない快感がある。自分が作った楽曲を沢山の人が歌ってくれる喜び。スタジアムで数万人の合唱と拍手。音楽で成功することは、お金と名声とカタルシスを同時に手に入れられる稀有な方法なのだ。ついでに言うと異性にもモテるよ。

「野心的で才能のある若者がプロの音楽家を目指して欲しい。」
 僕が、プロ作曲家育成を掲げて、2013年に「山口ゼミ」を始めた理由はそれに尽きる。「山口ゼミを続けている理由」は1年前にこのブログに書いたので、興味のある人は読んで欲しい。ここでは繰り返さない。
 「山口ゼミ」は2ヶ月+6ヶ月の約8ヶ月で修了するシステムになっているのだけれど、修了時に、プロで通用すると判断された作曲家だけが入会できるCoWritingFarm(CWF)という集団がある。入会資格者はその都度、僕と副塾長の伊藤涼さ
んと二人で話し合って決めている。

 2016年1月現在で会員は67人。これだけの人数の作曲家が集まっている集団は世界でも珍しいだろう。しかも、ただ登録されているということではなく、一つのコミュニティとして機能している。DTMの普及で作曲が孤独な作業になったからだろうか、山口ゼミ受講生同士のコミュニケーションは濃密だ。マネージャー体質の僕は、ゲスト講師がいれば必ず打上げ、イベントやれば飲み会付とやるので、そういうことも関係しているのかもしれない。昨年末の「山口ゼミ望年会」は12月23日の祝日という日程にも関わらず、80人以上の受講経験者が集まっていた。

 いわゆる「作家事務所」がコンペ情報とデモテープを右から左に(メールで)やりとりするだけで、バカ高いエージェントフィーを取っていることを知って、業界慣習をしっかり教えた山口ゼミ修了生には「作家事務所に入らなくてもコンペに参加できるようにする」というのも目的の一つだった。もちろん作家事務所の存在を否定しているわけではない、良い出会いがあれば事務所に入って欲しいし、CWFは専属契約的な拘束は一切しないので、メンバーのままで問題ない。実際、何人かのメンバーは僕らが紹介して事務所所属している。
 
 ただ、CWFの本質はコンペ情報を得るかどうかではない。3年前に「山口ゼミ」を始めるときに、伊藤涼と決めたテーマは2つ。
 「コンペに勝つ」と「コーライティングのメッカにする」だ。この2つには因果関係もある。昨今の大型コンペで求められるデモクオリティは高く、歌だけ録り直したらすぐリリースできるようなデモじゃないと選ばれなくなっている。一人で全部をやって、年間数十曲を作り続けるのは困難だ。駆け出しの作曲家は年間100曲作るのはマストだし、これまでの作曲家は必ず通っている道だけれど、これを一人でやると煮詰まるし、物理的にも至難の業だ。コーライティングはコミュニケーションを取りながら創作するので、失敗もあるけれど、自家中毒は避けられる。得意な分野を活かした、高いクオリティのデモ量産も可能だ。CWFメンバーは、コーライティングを行なうときのマインドセットとスキルを持っているのは最低条件なので、外部の作家とも一緒に作れるし、実際、海外の作家を含めて、たくさんのコーライティングをやるように既になっている。

 昨年9月のクリエイターズキャンプ真鶴では、3人×17組=51人という大規模なコーライティングキャンプを行った。30時間で初めて会った人と0からデモを完成させるという場は、クリエイターにとって刺激的だ。僕が嬉しかったのは、20人以上参加した、第一線のゲスト作曲家とCWFメンバーが遜色なかったことだ。まだ実績の乏しいメンバーもいるけれど、コーライティングにおいての経験では引けをとらない。

 去年の4月に『コーライティングの教科書』(リットーミュージック)を出版して、2016年は日本での「コーライティング元年」になるのでは無いかと期待している。「コーライティングって共作でしょ?これまでと何が違うの?」と思う人は拙著を読んでみて欲しい。
 元旦のブログでも触れたけれど、日本の音楽制作の現場が変わるという予感がある。その時にコーライティングというムーブメントとクリエイターのマインドが肝になると思っている。音楽制作における、レコード会社のイニシアティブのあり方が変わって、クリエイターが作品作りに、今まで以上に中心になるようになるからだ。欧米型に近づくと言えるかもしれない。クリエイター側でアイデアを出し合って、アーティストに対して新たな作品を「提案」する。楽曲の完成度はどこまでも高く、A&Rやマネージャーはその「提案」からチョイスするだけでOK。自作自演のバンドやシンガーソングライター以外のプロジェクトでは、そんな制作スタイルが主流になっていく。
 ワンハーフ(イントロ+ABメロ+サビ+エンディング)でプレゼンするという日本の習慣も減って、フルサイズでのデモ制作が増えていくかもしれない。
 コーライティングによる作品提案⇒レーベルA&Rやアーティストマネージメントによるセレクション⇒ボーカル録音⇒プロフェッショナルエンジニアによるミックス⇒作品リリース
 という流れの音楽制作が増えていくだろう。

 もちろんこの「提案」型デモを一人で作れる音楽家もいる。ただ、音楽は本質的なところでコミュニケーションをしながら作るものだ。A&Rなどとのコミュニケーションが希薄になった時に、一人で作り続けていると行き詰まりやすい。クリエタイターが、数曲単位でチームを組んで「創作」する方が、良い作品ができる確率は圧倒的に高いし、時間も効率的だ。

 加えて、アーティスト志望者、シンガーにもコーライティングも呼びかけたい。僕は著作や講座で、「アーティストはB to C、作曲家編曲家はB to Bのビジネス。目指す山は同じでも、登り方は全く違う。そもそもお金をもらう理由が違うのだから、別の職業だと考えるべき」と教えてきた。その考えは変わらい。ただ、アーティストとして成功したいと若い音楽家にとっても、コーライティングによる楽曲提供は目的に近づく有効な方法だと伝えたい。

 アーティストがB to Cな職業ということは、「人気者になればOK」ということだ。「ファンの数×熱量」が高いことが最大の価値で、必ずしも音楽に詳しくなくてもいいし、歌や演奏が上手なら良い訳でもない。ファンからの支持を得られることが最大の価値基準になる。社会常識に疎くてもスタッフがフォローしてくれる。この構造は変わらない。
 但し、楽曲や歌の表現力で勝負したいと思っているアーティスト志望者にとって、コーライティングでプロフェッショナルレベルの創作に加わることは有益だ。創作の過程で勉強になることが必ずあるだろう。採用されれば、アーティストとしての価値も上がる。採用に至らなくても、自分の声や作品を業界関係者に真剣に聴いてもらい、興味を持たれる機会になるのだ。欧米では、ブルーノ・マーズやメイガン・トレイナーなど、コーライティングによる作曲家活動がキッカケで、アーティストデビューした成功例がたくさんある。日本でも増えてくるだろう。

 YouTuberやニコ生主として、人気者になることに適性があるのなら、そこに特化してくのも良いけれど、「本当は音楽の中身で勝負したい。できるはず」と思っているのなら、今、始まりつつある、コーライティング・ムーブメントに身を投じることをオススメしたい。
 シンガーについて補足すると、去年はツイキャスでの活動がキッカケのデビューがあったけれど、今年はnanaとSHOWROOMに注目したい。おそらくメジャーシーンで活躍する人気者が出てくるだろう。ユーザーとのコミュニケーションの中で磨かれたシンガーがコーライティング・ムーブメントにも加わってくれるとよいなと思っている。

ヒロイズム
お正月なので、もうひとつ予言めいたことを言わせて欲しい。今年は日本人作曲家のアメリカでの成功例が出るだろう。ここでもキーワードは「コーライティング」だ。現地の作曲家とのコーライティングを通じて、日本人クリエイターのセンスを活かしたヒット曲がいつ出てもおかしくない状況になっている。日本で数々のヒット実績があるヒロイズムを先頭に、バリバリの第一線の若手作曲家がLAで勝負を始めている。
 僕は数年前から、「ヒロイズムが作曲家界の野茂英雄になる」と予言しているけれど、この喩えは、彼の努力をパイオニアである野茂と比するのと同時に、野茂の出現をきっかけに、イチローも松井秀喜もダルビッシュも田中将大も出てくるという意味も込めている。日本人クリエイターがグラミー賞で見かける日もそんなに遠くないかもしれない。

 ガラパゴス的だと思われていた「野球」が、本場のベースボールでも高評価されたことと、歌謡曲〜ニューニュージック〜Jポップと独自進化した日本のポップミュージックは、似ているように感じる。「上を向いて歩こう」ビルボード1位は、沢村投手のドロップが大リーガーをきりきり舞いさせたという伝説のようだ。日本人作曲家には、世界中で成功するポテンシャルを持っている。
懐かしいトルネード投法
著作権使用料は落ちていないと冒頭に書いたけれど、日本市場だけでは限界はある。これからの作曲家は海外でも稼がないと駄目だ。TTPは知財にとっては功罪両面あると思われるけれど、アメリカや伸張著しいASEAN諸国などでも印税収入で稼ぐ機会としたいものだ。

 本ブログでも何度か書いてきたけれど、日本のクリエイターやエンジニアのレベルは世界的にトップ水準だ。2020年以降、日本が先進国でいるための貴重な資産だ。環境の変化に合わせて、個性を活かして、グローバルにアジャストすれば、日本人に夢を届ける役割を担ってくれるはずだ。スポーツ選手だけに任せてはいられない。

 山口ゼミとCWFから、そんな人材を輩出したい。音楽プロデューサーとして彼らと一緒に世界を席巻することを、僕の今年の初夢とさせて欲しい。
 山口ゼミも続けていくので、プロ作曲家になりたい人は門を叩いてみてはいかが?

●「山口ゼミ〜プロ作曲家になる方法」公式サイト
●作曲家育成セミナー「山口ゼミ」を続けている理由
●CoWritingFarmOfficial
●『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』(リットーミュージック)

2016年1月1日金曜日

独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜

 新年あけましておめでとうございます。去年は14本しか書けなかった本ブログですが、引き続きお付き合い下さい。

 2012年元旦から続けている同タイトルシリーズ、昨年は、前年の予測が外れすぎて落ち込んだけれど、2014年の音楽サービスは概ね予想通りの展開だった。

 2016年の独断予測は、今年を占いつつ、近未来への希望をまとめようと思う。

●サブスクリプション型ストリーミングサービスの有料会員は200万人超へ


 昨年は、4月にAWA、5月にLINE MUSIC、6月にAPPLE MUSIC、9月にGoogle Play Musicとオンデマンド型ストリーミングサービスが日本で始まった「ストリーミング元年」となった。
 各サービスの有料会員数は正式発表されていないけれど、控え目に見て、昨年中に全サービス合計で50万人は超えていたと思う。僕が主宰するデジタル時代のビジネスパーソンを育成するセミナー「ミューミドルマン養成講座」にも、AWAの小野さん、Google Play Musicの鬼頭さんというサービス開発のど真ん中に居る人をゲスト講師にお招きして話を伺った。懇親会で裏話も含めて、お二人共、自社のサービスがユーザーに届いてることについては自信を持っていた。
 音楽を聴くというは個人的なことなので、普段は客観的な人も音楽体験については自分基準で可能性を判断してしまいがちだ。ストリーミングサービスに否定的な人も、過剰に期待を持つ人も、無意識のうちに「だって、自分なら」という感覚で判断しているように見受けられることが多い。
 コンテンツがクラウド上の管理になり、スマートフォンがデジタル流通の主流になり、ネットへの常時接続が普及するという、社会の変化に基づく必然的な変化が、音楽ストリーミングサービスを伸張させているという客観的な視点を、音楽が好きな人ほどしっかりと持つべきだと思う。水道水より井戸水が好きな人が居ても良いし、個人としてそれを貫くことはできるけれど、ビジネスとして考えたら、環境要因から変化することは避けられないのだ。


●Spotify いよいよ日本サービス開始


 そして、今春には、いよいよ大本命のSpotifyが日本開始をしてくれそうだ。
日本法人設立から3年余り、満を持してというべきか、紆余曲折を経てというべきかわからないけれど、さすがに始まると思う。
 論拠はいくつかあるけれど、一番大きいのは、Spotify本社の経営陣が妥協してでも日本サービスを始める必要があることだ。去年のApple Musicがあっさり日本でもサービスを行ったのはSpotifyにとってネガティブ要因だ。これから株式公開を準備しているSpotify経営陣にとって、最大のコンペティターであるアップルがサービスしている世界第二位の市場が手付かずというのは、投資家視点でマイナスになる。サービス内容について日本向けカスタマイズを行ってでも、レコード会社との許諾契約をまとめようとするだろう。一日も早いサービス開始を期待したい。
 実は、日本で始まっているオンデマンド型ストリーミングサービスは、有料のみとなっている。海外ではフリーミアムモデルのGoogle Play Musicも日本では有料サービスしか行っていない。Spotifyのサービスの肝は無料と有料を組み合わせたフリーミアムと、有料サービスへのコンバージョン率の高さだから、日本でのストリーミングサービスの普及に貢献してくれるはずだ。
 既にサービスを始めていたKDDI系で台湾発のKKBOX JAPANも含めた6社合計で有料会員が200万人までは、今年中に伸びていくと予測しておく。

 ただ、レコード産業にとってパッケージと肩を並べる規模になるには、1000万人以上の有料会員が必要だ。LINE MUSICは単独で2000万人という目標を掲げて始めたという話も聞く。数年以内に、その位の数字になるように関係各位の努力を期待したい。レコード産業はパッケージとストリーミングの合計で3年後には5000億円売上を目指そうよと、お屠蘇気分を理由にして言っておきたい。

●インターネットラジオが一般化する


 サブスクリプション(月額課金制)オンデマンド型ストリーミングサービスが広まるとして、日本で普及が待たれるのがインターネットラジオだ。普及が遅れている理由は、日本の著作権法制度とレコード業界の許諾姿勢にある。
 アメリカはDMCA(Digital Millennium Copyright Act / 通称:ミレニアム法)をつくって、「インターネットラジオ」を定義付け、その基準をクリアーすれば、規定の使用料を支払って自由に楽曲を使える仕組みを作っている。ミレニアム法があるお陰でアメリカでは、Pandora RadioやiHeart Radioなどの新しいサービスが普及して音楽業界に巨額の収益をもたらしている。
 日本でもテレビ局やラジオ局の番組では、楽曲を自由に使って、使用データと使用料をまとめて支払う仕組みになっている。インターネット回線を通じているから、「放送」と基準が違うというのは、ユーザーにとっても時代遅れの仕組みだ。

 実際、radikoというサービスは、全国のラジオ局の番組をネットで聞けるようにしただけで、ラジオを復権させた。みんな何となく「ラジオはもうダメだよね」と決めつけていたけれど、ダメだったのは、放送をラジオチューナーを使って聞くことで、ラジオ番組自体にはコンテンツとしての魅力があることをradikoが証明してくれた。放送エリア外でのネット試聴を有料にしたら月額350円の有料会員が20万人になったという。新しい市場も産んだのだ。Radikoは聞き逃し用の期間限定のオンデマンドサービスやオンエアーした楽曲とリンクするような仕組みを提供しようとしているが、大手レコード会社がブレーキを踏んでいるらしい。自分たちに収益が上がることであっても、仕組みが変わることにはネガティブだという風に見えてしまう。レコード業界は、音楽ファンからの支持も大事だし、政府からも見た存在感についても危機感を持つべきだ。コンテンツ産業の活性化は安倍政権にとっても重要課題で、その足を引っ張っているのがレコード業界と見えるのはよろしくないだろう。原盤許諾の根拠になっている「レコード製作者の著作隣接権」は、アメリカの著作権には無い概念だ。音楽業界と音楽家を豊かにするために行使されるべきであって、「ともかくデジタルなことは邪魔をする」というスタンスに見えてしまったらどうだろう?折しもTPP時代だ。レコード会社の著作隣接権行使の社会的意義が疑われ、法律改正が検討されるような事態になったら大変なことだ。
 アメリカでは、ミレニアム法設立時にSoundExchangeというNPO法人が設立され、インターネットラジオに関する権利徴収と分配を行っている。2015年はレコード業界が積極的に日本版SoundExchangeを作って、自らの権利収益を最大化するような動きを見せて欲しい。

 今春には楽天が、インターネットラジオのインフラを無料で提供するプラットフォーム「楽天FM」が本格開始するという。音声広告のネットワークの仕組みで、チャンネルオーナと売上シェアをするらしい。いわば楽天市場のネットラジオ版だ。様々な事業者が、自らのカラーを打ちだして、ネットラジオ局を持つというのは今の時代に合っている。インディーズレーベルや音楽事務所はもちろん、専門学校やファッションブランド、お菓子メーカーなどが、ユーザーとのエンゲージメントを深めて、ビジネスにプラスにするという試みが出てくるだろう。ラジオと音楽の相性は良い。インターネットラジオの普及が音楽シーンと音楽ビジネスの活性化になることを期待したい。

●VR映像とライブエンターテインメントの融合が本格的に始まる

 
 2014年にCD売上を上回ったコンサート入場料収入は2015年も上向いたようだ。デジタルファイルとなった楽曲はインターネット上で無料化圧力との闘いがあるのに対して、SNS普及でコンサート体験の価値は上がっているというのが音楽ビジネスに関する近年のトレンドだ。デジタル配信が可能なった映画館でのコンサート鑑賞、ODSを活用したライブビューインジャパン社は売上を伸ばしている。
 2015年はVR(バーチャルリアリティ)的なライブ体験が、VR×ライブエンターテインメントが本格的に注目される年になるだろう。

<近未来予測扁>

 さて、僕は東京五輪が行われる2020年までの日本市場は、ひとまとまりのトレンドで捉えるべきだと思っている。アベノミクスへの評価は後世に委ねるとして、株価や為替を戻し、活発な東京再開発と不動産価格の上昇などマクロ的にはプラスになっているのは事実だ。ベンチャー支援、コンテンツ輸出、インバウンド拡充など政策の方針は正しい。産業構造や社会福祉システムの構造、少子高齢化など根本的な日本の課題解決について手付かずなのは、大問題だと憂慮するけれど、とりあえずは今の流れが2020年までは続くと思って良いだろう。そんな中で、音楽ビジネスにとっての今年から3〜5年間のトレンドについても触れておきたい。

●テクノロジーとの融合で音楽が拡大する


 前述のVR×ライブエンターテイメントでも新しいテクノロジーの活用は重要だけれど、他にも様々な可能性が眠っている。
 1950年〜60年代の電化(トランジスタ)によって、音楽表現には大きな変化があった。エレキギターのディストーションサウンドもハモンドオルガンもテクノロジーの恩恵だ。そのことに比べると、この20年のデジタル化が音楽表現に与えている影響は軽微だ。
 DTMとサンプリング音源が、レコーディングを安価に誰でもできるものにはしたけれど、表現そのものに革命的な変化を与えたとは言い難い。メディアの変化も含めて、今のポップスの表現や形式そのものに大きな変化がでてきておかしくないはずだ。音楽ファンの洗練度が高い日本では、「ポップミュージックの拡大解釈」的な変化で世界の先頭を走れる潜在力がある。

●  プロデュースの比重がクリエイターサイドに移ってコーライティングを活用した音楽制作システムになっていく


 もう少し目先の具体的な変化としては、楽曲制作の役割分担、仕組みが変わるだろう。欧米型に近づくと言ってもよい。自作自演のアーティスト以外のメジャーアーティストを除けば、日本でも「コンペ」(Competition)による楽曲選択の仕組みが定着している。AKB系列やジャニーズ事務所のアーティストなどは、数百曲から選ぶようなケースも珍しくない。以前は楽曲の原型を選んで、レコード会社のディレクターが形にしていくような制作体制が多かったけれど、今後は、歌詞もアレンジも限りなく完成形に近いデモ楽曲がチョイスされるようなやり方に移っていくだろう。僕が作曲家育成の「山口ゼミ」でコーライティングを掲げ、CoWrtingFarmという若手クリエイター集団を作ったのもこの変化が見えているからだ、このことについては、改めて本ブログでまとめて書くつもりだ。

●レコード会社はカタログ管理活用が主事業となり寡占化する


 最近、「レコード会社は潰れるよね?」みたいなことを訊かれることが増えた。レコード会社が流行を引っ張り、カッコイイ存在だった時代を知っている世代としては凄く残念だけれど、外から見た時にレコード会社の未来に暗いイメージを持たれるのもわかる。
 けれど、僕はちょっと違う認識を持っている。新人アーティストを発掘、育成に大きな資金を投入し、マスメディアを活用してスターを生み出すような機能に関しては、レコード会社の役割は大きく下がっているし、今後も縮小され、アウトソーシング的なシステムになるだろう。ただ、膨大なカタログ(原盤権)と音楽業界、メディア業界への幅広いネットワークを持っている。
 新人を売出すというミッションを諦めて、自社が持っている原盤などの権利を最大化する、カタログ活用するのが主たる事業だと捉えると、レコード会社は収益性効率の高い優良企業だ。
 実は、ストリーミングサービスが普及した時に起きることの一つが旧譜の活性化だ。これまでは、その年にリリースした作品の売上比率が高かった。会社にもよるけれど8割以上は新譜売上というケースが多かっただろう。ところが、収益のメインがストリーミングサービスになるとすると、旧譜からの収益の比率が一気に上る。しかも、旧譜活性化には、莫大な宣伝費を掛ける必要はない。ストリーミングサービス内でプレイリストをつくって、嗜好性の近いユーザーにリコメンドしていくことが主たるPR手法になるのだ。レコード会社の収益率は画期的に向上する。
 ユーザーの視聴履歴などビッグデータ解析や適切な楽曲データベースの確立、運用、ユーザ向けのアプリ開発などが肝になるので、企業体として統合する力も働いてくるだろう。
 現在、日本レコード協会加盟社は約20社だが、グローバル視点だとメジャーレーベルは既に3社だ。外資系のユニバーサルとワーナーは別として、他のレコード会社は数社にまとまっていく流れになるはずだ。
 これも、社会環境や市場の変化から生じる必然的な流れで、できるだけスムーズに、摩擦を少なく、軟着陸する知恵が求められていると思う。これからの日本の音楽業界が目指すべき市場は欧米とアジアを中心とした経済新興国だ。そういう意味でも、原盤はデジタル対応で収益最大化、データ分析などをするためにM&Aで寡占化するというのが国益でもあるし、他業種でも起きている自然な流れだと思う。

 日本の音楽ビジネスは、海外との比較で言うと既に4〜5年遅れてしまっている。いわば周回遅れを走っている状況だ。ただ、欧米でもストリーミングを代替する「次のイノベーション」と呼べるようなサービスの萌芽はまだないし、日本の音楽市場は洗練されてい
僕のMBAに貼られたステッカーは音楽×ITの今?
るので、ショートカットルートで追いつくことは可能だ。追いついた上で、新しい活路を探していきたい。キーポイントは、進化するテクノロジーを上手に活用することだ。

 この予測が当たるかどうか、まずは1年間、僕も微力ながら時代の針を前に進められる様に頑張りたい。
 そんな問題意識で昨年出した『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック)出版記念の無料対談イベントも続けている。1月はHi-STANDARDを輩出した名マネージャーで、これからのアーティストマネージメントに必須だと心理療法のプロにもなってしまったハウリング・ブル小杉茂さんがゲストだ、音制連の理事時代にたくさんの刺激をもらった人だ。一緒に飲む機会は多いけれど、人まで素面で仕事の話をするのは珍しい。貴重な機会だと思う。
 1月13日には、知財ホルダー向けのセミナーもやるので、興味のある人はどうぞ。


 ニューミドルマン・ラボも継続していくつもりなので、音楽×ITを仕事にしたい人は参加して欲しい。新しい人材が日本の音楽ビジネスを進化させてくれることを心から期待している。
 2016年が日本の音楽界にとって良い年でありますように。



<イベント告知>

2015年12月19日土曜日

日本の音楽ビジネスを進化させる、JASRACの対抗軸、NexTone設立の期待

 9/28付のイーライセンスとJRCの経営統合から3ヶ月、早くも合併が発表された。期間の短さに関係者の熱意を感じる。


 著作権関連のニュースは、誤解されていることが多い。この件も報道を見ているだけだと、意義が理解しにくいと思うので、見解をまとめておきたい。僕は、3つの理由で強く支持したい。


1)JASRACへの明確な対抗軸が生まれて、健全な管理手数料競争が起きること


 著作権信託の分野で大切なのは、「確実な徴収とガラス張りの分配が、リーズナブルな手数料で行われること」だ。
  仲介業務法改正(著作権等管理事業法制定)で、著作権管理業務は、JASRACの独占ではなくなったけれど、実態としてはJASRAC取扱の比率が異常に高い状態が続いている。著作権は、支分権と呼ばれる区別に沿って定められている。利用方法ごとに著作権使用料や管理手数料が決められている。録音(CDとか)、インタラクティブ(配信等)は、他社の参入によって手数料競争が起きたけれど、他の分野はJASRACの寡占状態が続いている。

 放送については、NTTデータのフィンガープリント技術を活用して、全曲報告ができる仕組みができあがった。今年になってJRCが放送分野への進出を決めたのは、透明性が担保されたからだ。
左が阿南雅浩CEO、右がJ荒川祐二COO
 一方、演奏(コンサート、カラオケなど)については、まだJASRACの独占状態の改善のメドが経っていない。音楽プロデューサーという立場で問題視したいのは、26%という手数料が高すぎるからだ。
 しかも、某洋楽アーティストが日本でコンサートをした時に著作権料が安すぎると問題提起したことで、コンサートの著作権料はこの10年間で2倍近くにあがっている。当然下がると思っていあ管理手数料率がそのままというのはどう考えても不合理だ。
 JASRAC的な言い分としては、片田舎のカラオケスナックにまでスタッフを派遣して著作権料を徴収しているのですというロジックなのだろうが、だとしたら少なくとも、カラオケとコンサートは分けて管理することを可能にするべきだ。既に 通信カラオケは日本は第一興商とエクシングの二社に集約されている。店舗に関するカラオケ徴収についても、この通信カラオケの二社経由で徴収できる範囲だけで良しとする代わりに手数料が10%となるなら、多くの権利者がそちらを選ぶだろう。シンガーソングライター系の事務所にとっては、コンサートも自分たちがやっているので、自分のアーティストが自分の曲を歌ってコンサートした時の著作権使用料の26%がJASRACにとられるという、めちゃくちゃ不合理な状況になっている。コンサートが重要になっている昨今、著作権を自己管理する大手事務所が出てきてもおかしくない。権利者側に選択肢がない今の状態は間違っている。
 NexToneは、演奏権については当面は管理せず、数年以内の管理を目指すとのこと。 一日も早く取り組んで、JASRACと競争して欲しい。この機会に全支分権での取扱を希望す
る。


2)デジタル・サービスに対してポジティブで対応力が高い著作権管理会社が生まれたこと


 僕にSpotifyの存在を最初に教えてくれたのは、JRC荒川社長だ。デジタル系の音楽関連サービスに対する高い見識の国際的な情報収集力を持っている。Spotify日本法人ができるずっと前に、テストアカウントを使って、僕にサービスを見せてくれた。YouTubeやニコニコ動画、USTREAM ASIAのローンチの時に、先駆的に動いて、IT事業者と音楽家のwin/winの絵を描くことに取り組んでくれている。僕がやっているセミナーにもゲスト講師をお願いしているけれど、「破壊者」的なスタンスではなく、幅広く目配りをして、既得権者と新規参入者の双方のメリットが考えられる人だ。彼が中心に立っていることのプラスはとても大きいと思う。
 海外輸出に関しても追い風だ。コンテンツ輸出とインバウンドが日本の国策になっている昨今、著作権についての改革は必須になっている。現在、海外で日本の楽曲が使用された場合の徴収方法は、JASRACが相互契約を結んでいる海外の管理団体経由で集めるか、日本の音楽出版社が国別に委託した音楽出版社(サブパブリッシャー)を使うかのどちらかになっているが、いずれの方法も既に時代遅れになりつつある。
 Apple、Spotify、Googleといった音楽配信がグローバスサービスになっているのに、著作権徴収方法が内国型(ドメスティック)なのが有効なはずがない。プラットフォーム事業者としっかり向き合うグローバルエージェントが活躍している時代に、日本はどうすべきかを真剣に考えるタイミングなのだ。日本の音楽が世界にどうやってビジネスしていくかを国策として取り組むべき時代にNexToneが、グローバルエージェントと提携するのか、対抗するのか方針はわからないけれど、期待感は持てる。できれば、パワーゲームが始まりつつある海外の著作権管理会社を買収するくらいの攻めの姿勢を持って欲しい。


3)旧イーライセンス経営陣の「正義の味方」路線が明確に修正されること


 見逃せないのが、旧イーライセンスの経営方針が明確に否定、修正されるだろうということ。個人的にはこれも重要と思っている。これまでのイーライセンスは、JASRACを仮想敵に見立てて、メディア的に「正義の味方」を装って、訴訟を含む乱暴な方法で著作権管理の仕組みを変えようとしていた。基本的な認識が違うとは思わないけれど、手法については、全く間違っていたと思うし、日本のメディア業界、音楽業界にとっては、マイナスの方が圧倒的に大きかった。このことは、以前もコラムに書いたので、ここでは繰り返さない。興味のある人は、これを読んで欲しい。


 旧イーライセンスは、正義の味方キャラを打ち出す一方で、ボリュームディスカウントなどで著作権使用料を割引する行為をJASRAC以上に行っていて、音楽家の権利を真摯に守っているようには到底見えなかった。そのためか近年は、明らかに戦略的に行き詰まっていたと思う。今回の合併でこれまでのような無為な訴訟が行われることはなくなるだろうから明らかにプラスだ。
 今だから正直に言うと、イーライセンスの経営が立ちゆかなくなって、信託している音楽家の作品が宙に浮くようなことになるのではないかと密かに心配していた。そういう事態もこの合併で回避できる。ほっとしたというのが正直な気持ちだ。

 現在の著作権徴収額全体でいえば、まだ1割以下の存在だけれど、NexToneに期待される役割はとても大きい。業界内政治みたいな色眼鏡な見方はあまりしたくないけれど、エイベックスと日本音楽制作者連盟加盟の大手音楽事務所が手を組んだ意味は大きい。この20年間のヒット曲を生み出したプロデューサーの多くがそこに集結しているからだ。経営統合のニュースについて、フジテレビのネット番組「ホウドウキョク」で速水健朗さんの電話出演に答えたように、今回のエイベックスの動きは、「音楽業界はこうあるべき」という思想的な行動に見える。普段のエイベクスは、”機を見て敏”に、自社の収益メリットを最大化しようとする、いわば「暴れん坊」な会社だけれど、時折、思想的行動をする。著作権管理業務というのは、とても大切だけれど、縁の下の力持ち的な地味な分野だ。戦略に行き詰まったイーライセンスを救済し、JRCと組んだ今回の判断は、日本の音楽業界にプラスな、ちょっとおおげさに言えば国益に資する英断だと思っている。

 音楽ビジネスは、世界的にみて生態系の再構築が必要になっている。デジタル化という観点では、4〜5年遅れてしまっている日本だけれど、潜在力はある。NexToneの設立が、新しい音楽ビジネスの潮流を後押しする契機になることを期待したい。

 拙著『新時代ミュージックビジネス最終講義』でも明確に指摘したけれど、レコード産業を中心とした従来のノウハウは、既に陳腐化している。
 出版記念イベントとして始めた無料の対談イベント「ニューミドルマンリレートーク」Vol.4のゲストはハウリング・ブルの小杉茂さんだ。彼は、音制連の理事時代の友人だ。Hi-STANDARDなどを輩出した名マネージャーで、多くの人に愛される人柄が知られているけれど、実は鋭い視点をもった論客だ。「デジタルになったら著作権分配はウエブマネーでやらないとダメ」とか「弁護士資格も会計資格も持っていないのに、俺達はマネージャーなんていつまで言ってられるかな?」と発言していて、目からうろこが落ちたし、大きな刺激を受けた。
 実際、彼は心理学トレーナー資格を持って、新しいマネージャー像を作り始めている。音楽ビジネスの近未来に興味のある人は、遊びに来て欲しい。

2015年9月12日土曜日

クリエイターが主役の時代がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!

 初の試みである「クリエイターズキャンプ真鶴」まであと2週間となった。「コーライティングワークショップ」用の資料をまとめるために4月に出版した『コーライティングの教科書』を読み返していたら、自分のコラムが我ながらよく書けているなと思って、ブログに載せたくなった。
ということで、P40のコラムの再掲です。

 孤独からの解法


コーライティングのメリットはたくさんある。得意なスキルを活かせる、効率よくクオリティの高いデモがつくれる、他人と一緒に作ることで化学反応が期待できる、どれも真実だけれど、僕が一番、意義を感じるのは、「孤独からの解放」だ。
 DTMが広まったことには功罪両面あるけれど、最大のマイナスは、音楽の作業が孤独になったことでは無いか?本来、音楽というのは、人と一緒に創るもので、そこに喜びがある。
 コーライティングは、バンドをやるように、楽しく、他人とコミュニケーションしながら、音楽をつくる作業だ。パソコンの世界の中に閉じ込められてしまった、音楽をつくる喜びを大げさに言うと「人間性の復権」だと思っている。

 プロ作曲家育成のセミナー「山口ゼミ」を始める時に、伊藤涼と僕が、テーマとして掲げたのは、「コンペに勝つ」と「コーライティングを日本に広める」の二つだった。
 音楽プロデューサーとしての僕は、大型コンペという方法論はあまり好きでは無い。本気で良い作品をつくろうと思うなら、適したクリエイターと膝詰めをして話し合い、何度も何度もやり直しながら「正解」を探していくというやり方が、クリエイティブとしては正しいと思うし、少なくとも僕の肌にはあっている。ただ、現実には、大きなプロジェクトになればなるほど、膨大な数のデモを集めて、そこから選ぶとやり方になってしまっている。プロの作曲家はこれに勝たなければやっていけない。  
 また、見方を変えれば、大型コンペは、駆け出しの新人が、キャリアのある作曲家と同じ土俵で戦うことができるチャンスだと捉えることもできる。大型コンペで勝つのは宝くじに当たるくらいの確率なのは事実だから、コンスタントの高いクオリティのデモをつくり続ける状態をつくらないとプロの作曲家としてはやっていけない。
 そんなコンペに対抗する方法としてもコーライティングは有効だ。選ぶ側は効率を良くしたいので、そのままアレンジも使えるようなクオリティの高いデモをたくさん集めてふるいにかけようとしている。「敵」がそうくるなら、対策として、こちらも効率的にたくさんのデモを作り続けなければ戦えない。仲間たちと創る喜びを感じながら、高いクオリティのデモを作り続けるというのが、今の時代にプロの作曲家が生き抜く知恵として必須だと思う。
 

 日本の作曲家が秘めているポテンシャル


もう少し俯瞰して見よう。
 これから世界の一流国であり続けるためには、日本に蓄積されたソフト力を活用することが必須だ。日本の未来が明るいかどうかは、クリエイターが活躍できるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
 「クールジャパン」の掛け声のもと、コンテンツ輸出に取り組みたいところだけれど、残念ながら日本の音楽プロデューサーでグローバルなヒット作品をつくるノウハウを持っている人はほとんど居ない。映画やドラマも同じだと思うけれど、ビジネスモデルやメディア構造が、閉じた国内市場向けになっていたから、挑戦する機会も少なかった。音楽プロデューサーとして、これから挑戦しようと僕自身は思っているけれど、簡単では無い。
 それに比べて、日本の作曲家やサウンドプロデューサーのクリエイティビティは、世界で成功するポテンシャルを秘めている。「ヒロイズムは音楽界の野茂英雄になる」と僕が予言しているのは、日本の作曲家の置かれている状況が、20年前のプロ野球選手と似ていると思っているからだ。野茂投手が1995年に渡米するまで、日本の野球選手が大リーグで活躍できると思っている人はごく少数だった。以前に村上雅則という変則型の左腕投手が通用したのは特殊例と思われていたし、他には、沢村投手のドロップが日米野球で大リーガをきりきり舞いさせたという、古い伝承のような話しか無かった。
 野茂英雄が、トルネード投法でアメリカを席巻したことで流れは変わった。イチローが、松井秀喜が大活躍し、日本で一流の選手は、大リークでも第一線で活躍できることがわかった。日本の野球の底辺の広さと歴史の長さ。ガラパゴス的と思われた日本型の野球は、やり方は違っても、レベル的には大リーグに遜色無いことを大リーグ球団も知って、ダルビッシュや田中将大は、若くして高額の契約金を得て太平洋を渡り、チームの主軸として活躍している。
 日本の音楽家もすごく似た状況にある。坂本九『上を向いて歩こう』が「SUKIYAKI」という曲名でビルボード一位になったのは1963年だ。沢村伝説のように遠くて、今のJポップと結びつけては考えづらい。けれど、日本独自の進化を遂げたJポップは、日本人だけに通用するローカルな手法に見えて、実は世界水準を超えている。勇気を持って取り組めば、日本のクリエイターが活躍する可能性は大きい。
 もう工業製品を安く作って世界で勝つことができなくなった日本は、日本人クリエイターの能力を輸出していくことに尽力するべきだ。クリエイターを活用することに日本の未来がかかっていると僕は本気で思っている。

 そんな思いで、2015年から「クリエイターズキャンプ」という企画を始める。音楽を中心にクリエイターが海外からも集まって、日本で出逢い、作品を創るというクリエイター
が主役のフェスティバルにしたい。協力してくれる自治体も出てきた。初年度は、音楽家が必ずチームに加わっているハッカソン「ミュージシャンズハッカソン」と、「コーライティングキャンプ」と、作曲家志望者向けの「作曲セミナー&ワークショップ」の3本立てで始める。将来的にはシンガー、ダンサーはもちろんのこと、映像作家、写真家、デザイナーとオールジャンルのクリエイターが参加できるように広げていきたい。
 プログラマーと音楽家が2日間で新たなサービスやプロダクトをつくる「ミュージシャンズハッカソン」は2014年にやったけれど、素晴らしかった。一定の期間の中で、出会った人たちが新しいアイデアを形にする時に出てくるエネルギーとその時の「場の力」は、魅力的だ。

 コーライティングは、コンピューターに支配されたようにも見える作曲の「人間性の復権」であると同時に、新たなエネルギーを生む魔法のような方法だ。バンドの演奏が化学反応的に上手く行った時に「バンド・マジック」という言葉があるけれど、「コーライティング・マジック」も、間違いなく存在する。
 世界で通用するJポップを作るために、コーライティングを広めていきたい日本人クリエイターの能力をグローバルに向けて最大限活用することが、プロデューサー山口哲一のライフワークになるはずだ。

ということで、9月26日から28日は海外作家も含むプロ作曲家51人による
コーライティングセッションが真鶴町で行われる。27日に一般向けに行なうコーライティングワークショップは間もなく締切だ。28日の最終日にコーライティングの試聴会〜ミュージシャンズハッカソン発表会〜ネットワーキングパーティに参加できるオーディエンス券は絶賛発売中だ。興味のある人は、品川から東海道線で1時間半の神奈川県真鶴町まで来て欲しい。大いなる刺激を受けることは僕が保証するよ。

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