ブロガーやまもといちろうさんからは、こんな批判があった。
見識の高い鋭い指摘なのだけれど、切り込み先は、違う方向でお願いしたい。敵がいるのは、そっちじゃないんだよね。「武士の情けで見逃して」って感じ。多少変でも、政府が振興策を出す方向で考えていただきたい。
中村伊知哉さんも、初音ミクとかガンダムとかニコ動とか、サブカルの具体を言い過ぎだなとは思う。「炎上協会」会長らしい、議論を呼ぶための作戦かもしれないけれどね。
「民間主導でやれ」ってという意見は、その通り。微力すぎて申し訳ないけれど、僕だってやっている。タイでシンガー・オーディションをやったのは、2006年だ。16才の美少女を見つけて、日本でメジャーデビューさせて、アジアでもリリースした。もちろん、全部、自分のリスク。やっと形になるかというところで、卑怯な奴が勘違いして内部崩壊、失敗したけれど(Sweet Vacation関係者とファンの皆様、本当にごめんなさい
オーディション後のスナップ |
でも、実際に海外のカンファレンスや市場状況を見ると、政府支援が違いすぎて驚愕する。こっちが個別に竹槍で戦っても、戦車と爆撃機でやられる感じ。ゲームのルールが違うんだよ。
こういう話では、必ず比較になるK-POPだけれど、実際のところは、韓国も模索中だと思う。アップルがソニーとimodeを参考にiPodとiTunesStoreの仕組みを作ったように、韓国のSMエンターテインメントの手法はJ-POPの応用から始まっている。
国を挙げての応援がある中で、K-POPは、日本以外の国では、まだ成功とは言うのは早い状況だろう。それから、何度も言ってるけれど、国際基準で見れば、韓国の政府支援体制は特殊じゃ無い。ヨーロッパの小国だって、自国のポップミュージックを売るために相当の努力をしている。何もしていない日本が特殊だ。
それで、どうするべきか?
この問題の本質的な解決策は、海外の市場で利益を出せるプロデューサーがたくさん出てきて、グローバルなビジネスモデルと稼ぐノウハウを持つことだ。
以上終了、なんだけど、、、
じゃあ、どうするかの答えは簡単じゃ無いし。まして国の政策として、どう落とし込むのかは、全然わからない。頭の良い人達に考えて欲しい。
ただ、実際に現場で頑張ってきた身として、低い視線から、とりあえず、絶対にやっておいた方がよいことは確信がある。
<J-POPの海外輸出活性化のための政府の役割>
●海外フェス出演者には渡航費を出す
日本カルチャーをテーマにしたフェスは世界中に数百とあるらしい。Sync Music Japanが情報収集を始めたら、あっという間に100を超えた。日本の業界関係者が知らないところで、J-フェスが行われている(最近でこそ有名になったパリのJapan Expoもこの前まで、そうだった。)
一定規模のフェスティバルから公式に呼ばれたアーティストの渡航費は全額補助と決めて欲しい。何故なら、海外では政府補助がある方が普通なので、渡航費を要求するとフェスの主催者がびっくりする。エコノミーで出演者以外は1名とかシビアな基準でも良い。航空会社に協力して貰ってもよいかもしれない。
それだけで、あっという間に、日本人アーティストが海外ファンの前でコンサートをする機会が急増する。
●SXSWではパーティをやる
世界を代表するITと音楽(と映像)の祭典SXSWのレポは、先々月に書いたけれど、日本の税金は1円も使われなかった。多くの国が億単位のお金を掛けている中であまりに酷い。SXSWは日本レップがあるのだから、海外のメディア関係者を集めて、日本のIT企業やアーティストと交流する場をつくるべきだ。期間中に会場付近に常設スペースを持つのが良い。数千万円あれば、ずいぶん、いろんな事ができる。
SXSWで模範例をつくって、他のカンファレンスに応用すれば良いと思う。
● テレビ局とレコード会社が協力できる仕組みにする
これまでの業界慣習に則ると映像コンテンツではテレビ局が、楽曲(原盤)については、レコード会社が中心になる。ただ、表向きの見解はともかく、テレビ局やレコード会社の幹部で、本気で海外で稼ごうと思っている人は、ほとんどいない。残念なことだけど、国内に閉じた従来のエコシステムが秀逸で、できるだけ長く、これを守りたいと思うのはやむを得ないし、そのことで僕らに恩恵があるのも事実だ。
けれど、もう守るだけでは無理だ。尊皇攘夷か文明開国かって事では無くて、海外で稼ぐモデルを模索して確立する必要がある。テレビ局やレコード会社を軸にしないで、でも上手くいったら、彼らにもメリットがあるような仕組みで進めたい。
テレビ局やレコード会社に暖かく見守っていただいて、実際にコンテンツをつくっている人たちが、海外に「道場破り」に行くような形をつくるのが良いと思う。
●ドラマの音楽は一律に許諾して、不足分は国が払う
海外に番組販売する際に、レコード会社が音楽の許諾を出さなくて、あるいは許諾に何ヶ月もかかって、流通の阻害要因になっているというのは、意外に知られていないかもしれない。
最終的なルールは、ビジネスモデルができて、お金が回り始めてから考えることにして、とりあえず、期間限定でいいから、海外のテレビ局が買った作品の音楽は自動的に許諾をだすことにして、一定の基準で不足分は政府が補う形にするのが、話が早いと思う。大した金額にはならないはずだし、その金額が問題になるほど、海外番販が進んだら、嬉しい悲鳴だ。
僕も最近知ったのだけれど、1クール(12本)×1時間というセットは、完全に日本だけのルールで、海外で売るには不自由だそうだ。そう言われてみれば、米国や韓国のドラマシリーズは長いよね?こういうところから考えて、変えていかないと、輸出大国にはなれない。
●歌番組も同様にして、アーティストへの不足分を補填する
日本の歌番組が海外で観ることができないというのも大きな問題だ。NHK「J-MELO」が唯一、国際放送として頑張ってくれているけれど、「Mステ」が台湾など一部で流れる位で、J-POPの存在感は薄い。人気がある時にしっかりやってなかったので、今や日本の歌番組を買おうとする局も減っているという。
局が販売に難儀をする一つの理由は、著作権のことがある。放送については許諾がとれていても、ネットに流すのは別途の許諾が必要という話。前述のドラマ音楽にもある構造なのだけれど、「放送と通信の融合」とか言っているのは日本だけで、もう既に海外のほとんどの国のテレビ局では、そもそも区別無くネットサービスもセットで行っている。「放送だけ」の販売と言っても、先方には、そんな枠はそもそも無いのだ。
こういう問題では、「事務所がうるさいから」と悪者にされることがあるけれど、僕の知り限り、ほとんどの事務所は、むしろ積極的に海外番販して欲しいと思っている。海外でコンサートツアーをやるケースは増えてきたし、収益もあがるようになってきたけれど、楽曲を聴かせる方法が無いという、泣きそうなくらいナンセンスな話になっている事例も多い。
●大手広告代理店に予算管理をさせない
国の予算でプロジェクトをやる場合の事務局運営は、実質的に大手広告代理店が行う事が多いが、やめるべきだ。何もコンテンツは創らない彼らの事務局経費で、莫大な金額が消えていく。
役所にとって、確実なレポートを提出して「事故対応」をしてくる「保険」が欲しいのはわかるけれど、いくらなんでもコストパフォーマンスが悪すぎる。事務局運営は、筋肉質かつガラス張りで運営する仕組みがマストだ。
広告代理店には、企業協賛をとりまとめるという本分のところでは、大いに力をお借りしたい。サムソンや現代はK-POPと連動して、イメージアップしている。広告クリエイティブ含めて、重要な役割を求められている。ポジションをきちんとつくって貢献してもらいたい。
安倍政権は金融政策に続いて、外交でも得点を上げていて、成長戦略にも期待が掛かる。音楽は売上金額は小さく見えるけれど、国のイメージ戦略上は非常に重要だ。J-POPの好感度は世界中でびっくりするほど高くて、日本の成長戦略の一翼を担うポテンシャルは十分にある。ただ、お金の使い方が、高度成長時代の土木のゼネコンみたいでは、時代遅れのビジネスモデルを守っている既得権益への補助金と化して、コンテンツ輸出には全く効果が無い。海外でのマネタイズという新しいスキームに本気で取り組んでいる人を支援する仕組みとなることを、心の底から懇願している。
<興味のある人はこちらもどうぞ>
●オースティンで感じたこと。〜SXSW2013レポート〜
●グローバルな音楽活動視点でのスイバケ・ブロデュース記録
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
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クールジャパン関連今年度予算は経産省14.6億円、総務省の映像コンテンツローカライズ補助32億円、官民新会社への政府出資分50億円のようですが、ご指摘のようにこの程度の予算で相応の成果を出すのは元々無理な気がします。むしろ関係者は努力されている印象が強いです。特に経産省の分はコンテンツ関連以外にも使用されるわけで、「竹槍で戦っている」という表現は誇張ではないでしょう。
返信削除こめんとありがとうございます。
削除金額もさることながら、使われ方ですよね。日本の成長戦略の中に、コンテンツ輸出をライブエンタテインメントを含めた音楽産業を位置づけていただきたいです。
現地のことをよく知っている(日本のポップカルチャがどのように受け入れられているかの詳細を知っている)人たちに、詳細に、ヒアリングをしたり、その現場、たとえば、学園祭やさまざまなところで、行われるイベントに行って、実態調査をするなども、必要でしょう。日本に居る人に、海外へ行って、やって来いという、この姿勢が感じられます。持ち場に答えがあるはずです。ジャカルタ在住日本人
返信削除そうですね。
削除海外と言っても国によって事情は違うので、ビジネスをするのなら情報収集は大事ですね。
ただ、もう調査と言うよりは、実行の段階で会って欲しいなと思います。
はじめまして。NY在住の板越ジョージと申します。解決策まったく同感です。このような本を書きました。この中でも同様なことを書いてあります。 日本のコンテンツ産業に関しての分析と提言をしています。
返信削除よろしくお願いします。
http://www.d21.co.jp/index.php/products/isbn9784799313183
ありがとうございます。拝読したいと思います。
削除海外フェスやSXSに出ていく、あるいは歌番組を輸出しやすくするにあたっては、プロの英語使いを起用することも真剣に考えてください。
返信削除「英語(他の言語でも同じですが)になっている」「文法的に正しい」だけでは、物は売れません。人は説得できません。
東京五輪招致の英語サイトが、アメリカの有名マーケティング・ストラテジストDavid Meerman Scottに「世界最低のウェブサイト」と酷評されたのはご存じかと思います。
"World's worst website"("Web Ink Now. Marketing and Leadership Strategies" April 29, 2013)
http://www.webinknow.com/2013/04/worlds-worst-website.html
彼はサイトの英語が下手だと言っているわけではありません。この記事の主旨は以下の通りです。
1)意味のない言葉の羅列。
"innovation" "global inspiration" "unique values"など、あまりにも使われすぎて陳腐になった言葉が使われていて、内容がまったくない。仮にTokyoという言葉をIstanbulやMadridで置き換えても、何も変わらない。
2)買い手(購買権・決定権を持つ人)を考えていない。
日本市場向けのマーケティングをそのまま英訳してもしょうがない。海外で日本アニメが人気だからとドラえもんをマスコットに起用したところで、開催地を決める立場にあるIOCのメンバーには効果がない。むしろ子供扱いされたと思うだけ。
3)同じような失敗は、海外市場への進出を希望するどの企業にも起こり得る。
To really globalize, you need local content creators who understand the local buyer personas and create content especially for them.
(真の海外進出には、その土地の買い手を理解し、その人たちに向けたコンテンツを作れる、その土地のコンテンツクリエイターが必要である)
先の見通しが立たない事業に予算を使いにくいことはわかります。いきなり現地のコンテンツクリエイターを捜し、頼むのも難しいでしょう。それならせめて、国内の、コンテンツ輸出の経験が豊富なプロに依頼して欲しいです。「英語くらいなら自分たちでも書けるし」と思っていらっしゃる方々、申し訳ないけどプロは全然違います。翻訳者といっても色々いて、こういう「商品が売れる文章」を得意としている人たちはたくさんいます。効果は絶大です。
(山口さん個人に申し上げてるわけじゃないです。為念。この記事をお読みになるであろう大勢の、海外進出を目論む方たちに向けて書いています)
ありがとうございます。
削除ターゲットを考えることは大切ですよね。相手の立場に立つことはコミュニケーションの基本だと思います。
現地語向け字幕には、支援策を考えているようですが、それだけではなく、商談や資料作成での対応も大切ですよね。